HAMA

わらびもち

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第十三章 生残競争

第96話 破魔

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「……? お前……まだ動けたのか?」

「あの程度の傷で動けない訳がないだろ……ッ!」

「ッ!!」

 おれは重力を無視してルシフェルに突っ込んだ。みんなが弾かれていた壁も越えた。

 おれの拳は簡単に受け止められたが………確かに

「偉そうなことばっか言ってたけどよ……届いたな。そりゃそうだよな」

 おれの昇華した能力スキルは制限を無視するものだ。たとえ制限が作られたとして、それでおれを縛ることは出来ない。相性はいいのかも知れない。

「……私の能力スキルが効かないからと……調子に乗るなよ……!!」

「ッ……!」

 ルシフェルの圧縮した魔力の塊がおれを襲った。おれも魔素を固めて相殺しようとするも、速さも威力も段違いだ。

 魔力はおれの周りをぐるぐると回り、身体を削り、貫いた。弾丸が空中を自由に飛んでいるようなものだった。

 大きな技で全て消し飛ばすしかない。おれは両腕に魔素を集中し、それを大地に振り下ろした。衝撃は跳ね返り立ち昇る。

「『堕天メテオ』!!」

「がッ……!!?」

「!? エスト様……今のは私の………!!?」

 おれは時間を止めてルシフェルの背後に回り込み蹴り落とした。どこかでデモンゲートが泣きながら何かを言っているようだが今は無視だ無視。

 ……効いてはいるようだが足りないか。早く決めないと時間がなくなる……! おれはルシフェルが起き上がる前に畳み掛けようと飛んでいった。

「ぐふッ……!? ……ッ??」

 そしてルシフェルに近づいた瞬間、おれの肺、心臓に激痛が走って血を噴き出した。なぜだ……? まだ時間はあるはずだ。まだもう少し、動けるはずだ。

 なのに急に全身が痺れだして、そのままルシフェルに殴り飛ばされた。

「“大気”は“毒”だ。私に近づいたのが愚策だったな」

「……ッ!!」

 毒か……。浄化しなければ……! ……近づくほどに濃くなる毒だったようだ。浄化するのに時間がかかる。

 魔素を回せ……! 全身を生き返らせろ……! だがそうしている間にルシフェルが近づいてくる。

「エスト様に……!!」

「近づくんじゃねぇ!!」

「ッ!?」

 おれに接近するルシフェルをデモンゲートとグラが止めてくれた。おれと戦っている間、近づけない壁を消していたからだろう。2人の攻撃が入った。

 不意打ちだったから、ルシフェルが想定していなかったから、グラの爪がルシフェルの身体を貫いた。だが2人も限界だ。すぐにやられちまう……。

 みんなが止めようとしてくれている。リンシャが斬りかかり、イリアが大規模な攻撃をしている。セリアが燃やし、バンリューが感電させる。

 ……でも…………みんな貫かれた。ルシフェルの身体の周りから現れた黒く大きな棘に。……みんなが死ぬ……!

 それなのにおれは……何をしているんだ……! おれは身体に魔素を流し、無理やり身体を動かした。操り人形みたいなものだ。

 そして倒れ込んだみんなに魔素を流し、傷を回復させていく。おれを操ったように、みんなの身体を引っ張って少し離れたところにやった。そして魔素の壁を作ってみんなをおれの攻撃から守った。

「なッ……! お前……待て……!!」

「復活して早々悪いけどよ……!!」
「『煌魔天ステラ』……!!」

「ッ……!!!」

 おれは再び魔素の球体を作って爆発させた。みんなが隙を作ってくれていたんだ。ルシフェルも、まさか解毒も済んでいない状態で自爆技を使うとは思うまい。

 無防備な状態のままおれの技を喰らった。おれもいよいよ限界だ。そろそろ呼吸も出来なくなる。

「がッ……! はッ……はッ……!! 私は神だぞ……!! この程度……死ぬ訳ないだろう……!!」

 爆炎の中から、ルシフェルはボロボロになりながらも出てきた。

 おれはもう前も見えなくなっていた。痛みも感じない。音もかすかにしか聞こえない。だけどルシフェルコイツが死なないことは分かっていた。この程度の爆破では死なないと。

 これは弱らせるための技だったから。トドメの技は既に準備していたから、だからおれは防御する暇も与えず、最期の一撃を撃ち込むことが出来たのだ。

「アンタも……おれも……この時代に生きているべきじゃないんだよ……! だからおれも……お前と一緒に死んでやる……!!!」

「貴様ッ……!!」

「『破魔デバイク』ッ!!!」

「あッ……がッ…ぐわぁああ!!!!」

 おれは『煌魔天ステラ』と同じように魔素の球体を作り、そのままルシフェルの頭を掴んで流し込んだ。そしてそれを体内で爆発させた。

 人体という狭い範囲で爆発した魔素は、魔力も分解して、なにもかもを消滅させた。神であろうとも生きることは不可能だ。

 全身の力が抜けて『融合身体強化バースト』が解けた。おれは重力に引っ張られ、抉れた大地に墜落した。

 そして何人かが駆け寄ってくる。おれの身体も、少しずつ消滅していく。もうあまり時間がないな……。

 おれはなんとか振り絞って声を出した。

「誰が……いる…………?」

「……私とグラがいるわ。あとデモンゲート」

 セリアがそう言ったのが微かに聞こえた。ふるふると震えた声だった。よくは見えないけれど、確かにそこには3人いた。

「そうか……。デモンゲート…………お前はこれからセリア達を手伝ってやれ……。変なことはするなよ……」

「はいッ……!!」

「グラは……別に言うことも無ぇな……。…………フリナとユリハにおれの活躍をしっかり伝えとけよ……」

「当たり前じゃ……。世界中に伝えといてやる」

「セリア……悪かったな……せっかく再会できたばっかだってのに……。まだまだこれからやることがあるってのに…………」

「本当に……残される身にもなってよ……!」

 おれは手をセリアの頬に当てながら言った。涙が手を伝う感覚がある。

 本当に申し訳ないな……。気づくとおれの霞む目からも涙が溢れていた。

「じいちゃんに飛ばされてさ……最初に会ったのが……セリアで良かったよ……。あのとき……セリアに会えて本当に良かった……」

「私も……エストに会えて良かったよ……」

「…………死ぬのは怖くないけど……最期に君の顔を見れないのが……残念だな……」

「……ちゃんと見てよ……。…………いつまでも……私の顔を忘れないでね……」

 セリアはおれに顔を寄せ、おでこをコツンと合わせてからそう言った。

 見えないけれど、そこには確かにセリアの笑った顔があった。悲しみを抑えながらも、笑顔でおれを送ってくれた。

「…………死んでも……忘れないよ……」

 そう言って、おれの身体は消滅した。おれが答えた後、みんなが何を言っていたのかは聞き取れなかった。

 泣き叫んでいたのかも知れないし、静かに、声を殺しながら泣いていたのかも知れない。でも確かなのは、みんなおれの死を悲しんでくれていた。

 大昔の存在であるおれを、邪神の子であるおれを愛してくれていた。それだけで、自分勝手かも知れないけれど、おれは幸せだった。

 朝日が昇った。戦いは終わり、世界に人類の勝利と報じられた。

 この戦いでの戦死した英雄として、ユーリア=ミーラン、バラシド=ドーラン、ガルヴァン、グランデュース=ギルバート、そしてネフィル=エストの5人の名前が挙げられた。

 そして重傷を負ったバンリューとリンシャは戦士としての活動は困難になった。11人で攻め込んで事実上の戦士7人の犠牲というのは、全世界に衝撃を走らせた。

 彼らが三界と戦っていたとき、人間界には大量の魔族が攻め込んでいた。世界中で一般市民を含んだ1000万以上もの人々が殺された。

 しかし、人間界にも戦力を残しておいたために、これでも被害は最小限であった。少なくとも、長い魔族との争いの終止符となる戦いと見れば少ない犠牲であった。人類が滅びなかっただけでも大勝利と言えたのだ。

 そのため、各国では戦死した者の葬儀が行われつつも、それからしばらくの間は宴会が行われていた。多くの犠牲の上に平和が訪れたのだ。それはつまり、戦死した者達の願いが叶ったということだ。

 生き残った戦士達は、各々の活動する国、街、組織に戻った。死んだ者の意志を受け継ぎながら。
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