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第二章 ヤマネコ商会、爆誕!:行列のできる露店
第107話 決戦の地は中央広場! 場所代は高くても『広告費』です
商業ギルドでの登録から、二日が過ぎた。
この間、私は宿の厨房を借りて商品の製造に没頭し、昨日は孤児院へ行ってリックとの最終打ち合わせも済ませてきた。
もちろん、ただ手ぶらで「明日から働け」なんて言いに行ったわけじゃない。
商品の試作を兼ねて大量に焼いた『森の恵みクッキー』を、お土産として持参したのだ。
「市場調査の一環です!」なんて言い訳したけど、久しぶりにエミリーたちの「おいしい!」という満面の笑みが見たかった……というのは、ここだけの秘密だ。
マーサ院長も「……ふん、またハイカラなもん作って」と悪態をつきつつ、しっかり完食していたしね。
そんなみんなの笑顔を貰って、エネルギー充填は完了だ。
ちなみに、その時から私のリックへの言葉遣いは「ビジネスモード(丁寧語)」に切り替えてある。
これからは雇用主と従業員という関係になるのだ。馴れ合いではなく、けじめをつけるのも組織運営の基本だ。リックも、そんな私の真剣な態度を感じ取り、少し気を引き締めたようだった。
そして、「準備は万端だ。いつでも来い」という頼もしい言葉をくれたリックと共に、私は今、決戦の場――ハルモニア中央広場に来ている。
その運命の朝一番の仕事が、これだ。
「はい、確かに。場所代として、銀貨1枚いただきますね。これには本日の商業税と清掃費も含まれておりますので」
チャリン。
広場の管理事務所のカウンターで、無慈悲な音が響いた。
私とコロの、虎の子の、汗と涙の結晶である銀貨様が、係のおじさんの手によって回収されていく。
「……はい。お願いします」
私は、精一杯の強がりで、涼しい顔を作ってみせた。
だが、心の中では血の涙を流している。
(さようなら、私の諭吉……じゃなかった、今は栄一だっけ? まあどっちでもいいわ。私の大切なお金であることに変わりはないもの!)
日本円にして一万円! わずか一日の、しかも地面を借りるだけの代金に一万円! 原宿の竹下通りでも、もうちょっと安い場所あるんじゃないの!? 知らんけど!
「おい、コトリ……。お前、マジかよ」
私の後ろで、荷物持ちとしてついてきてくれたリックが、青ざめた顔で言ってくる。
「たかが露店だぞ? あっちの一般区画なら、大銅貨3枚(300リント)だぞ? 半額以下だぞ!? 正気か!?」
リックが指差したのは、広場の端の方にある、少し人通りが落ち着いたエリアだ。
確かに、あっちならお小遣いで借りられる。
でもね、リックお兄ちゃん。
ビジネスには、「必要な投資」と「無駄な節約」というものがあるんだよ。
「もう、リックお兄ちゃんは心配性ですねぇ」
私はわざとらしく呆れてみせる。
「いいですか? お兄ちゃん。これは場所代じゃないんです。『広告費』なんですよ」
「はあ? 広告?」
「そうです。一番高い場所に店を出す。それだけで、『あそこは自信があるんだな』『いいものを売ってるんだな』って、お客さんは勝手に思ってくれるんです。これをアンカリング効果……じゃなくて、えっと、『ハッタリ』って言うんです」
「……お前、たまにすげえ悪い顔するよな」
呆れるリックをよそに、私は確保した区画へと向かう。
場所は、中央広場の噴水の目の前。
朝日が差し込み、水面がキラキラと輝く、文句なしの特等席だ。
(ふふふ、最高のロケーション! ここなら、お散歩中の貴族の奥様方の目にも、絶対に止まるはず!)
「よし、リックお兄ちゃん。設営を始めましょう!」
「おう。木材はどこだ? ギルドから借りてくるか?」
リックが袖をまくってやる気を見せるが、私は首を横に振る。
そんな前時代的な重労働(肉体労働)、私がするわけないじゃない。
この間、私は宿の厨房を借りて商品の製造に没頭し、昨日は孤児院へ行ってリックとの最終打ち合わせも済ませてきた。
もちろん、ただ手ぶらで「明日から働け」なんて言いに行ったわけじゃない。
商品の試作を兼ねて大量に焼いた『森の恵みクッキー』を、お土産として持参したのだ。
「市場調査の一環です!」なんて言い訳したけど、久しぶりにエミリーたちの「おいしい!」という満面の笑みが見たかった……というのは、ここだけの秘密だ。
マーサ院長も「……ふん、またハイカラなもん作って」と悪態をつきつつ、しっかり完食していたしね。
そんなみんなの笑顔を貰って、エネルギー充填は完了だ。
ちなみに、その時から私のリックへの言葉遣いは「ビジネスモード(丁寧語)」に切り替えてある。
これからは雇用主と従業員という関係になるのだ。馴れ合いではなく、けじめをつけるのも組織運営の基本だ。リックも、そんな私の真剣な態度を感じ取り、少し気を引き締めたようだった。
そして、「準備は万端だ。いつでも来い」という頼もしい言葉をくれたリックと共に、私は今、決戦の場――ハルモニア中央広場に来ている。
その運命の朝一番の仕事が、これだ。
「はい、確かに。場所代として、銀貨1枚いただきますね。これには本日の商業税と清掃費も含まれておりますので」
チャリン。
広場の管理事務所のカウンターで、無慈悲な音が響いた。
私とコロの、虎の子の、汗と涙の結晶である銀貨様が、係のおじさんの手によって回収されていく。
「……はい。お願いします」
私は、精一杯の強がりで、涼しい顔を作ってみせた。
だが、心の中では血の涙を流している。
(さようなら、私の諭吉……じゃなかった、今は栄一だっけ? まあどっちでもいいわ。私の大切なお金であることに変わりはないもの!)
日本円にして一万円! わずか一日の、しかも地面を借りるだけの代金に一万円! 原宿の竹下通りでも、もうちょっと安い場所あるんじゃないの!? 知らんけど!
「おい、コトリ……。お前、マジかよ」
私の後ろで、荷物持ちとしてついてきてくれたリックが、青ざめた顔で言ってくる。
「たかが露店だぞ? あっちの一般区画なら、大銅貨3枚(300リント)だぞ? 半額以下だぞ!? 正気か!?」
リックが指差したのは、広場の端の方にある、少し人通りが落ち着いたエリアだ。
確かに、あっちならお小遣いで借りられる。
でもね、リックお兄ちゃん。
ビジネスには、「必要な投資」と「無駄な節約」というものがあるんだよ。
「もう、リックお兄ちゃんは心配性ですねぇ」
私はわざとらしく呆れてみせる。
「いいですか? お兄ちゃん。これは場所代じゃないんです。『広告費』なんですよ」
「はあ? 広告?」
「そうです。一番高い場所に店を出す。それだけで、『あそこは自信があるんだな』『いいものを売ってるんだな』って、お客さんは勝手に思ってくれるんです。これをアンカリング効果……じゃなくて、えっと、『ハッタリ』って言うんです」
「……お前、たまにすげえ悪い顔するよな」
呆れるリックをよそに、私は確保した区画へと向かう。
場所は、中央広場の噴水の目の前。
朝日が差し込み、水面がキラキラと輝く、文句なしの特等席だ。
(ふふふ、最高のロケーション! ここなら、お散歩中の貴族の奥様方の目にも、絶対に止まるはず!)
「よし、リックお兄ちゃん。設営を始めましょう!」
「おう。木材はどこだ? ギルドから借りてくるか?」
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そんな前時代的な重労働(肉体労働)、私がするわけないじゃない。
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