転生したら悪役令嬢……の取り巻きだったけど、自由気ままに生きてます

こびとのまち

文字の大きさ
28 / 28

自由気ままに生きてます

しおりを挟む
 医務室に運ばれた親友は、未だ意識を取り戻さない。保険医曰く、頭を強打したショックで一時的に気絶しているだけだということだが……正直、不安で不安で仕方がない。

 皆で医務室に詰めかけるわけにもいかないので、ひとりずつ入れ替わりで付き添うことになった。
 混乱する場を仕切ったのはキャメリアだ。こういうとき、あたしみたいなのとは違って頼りになる。それに比べ、シランの親友であるあたしの、なんと無力なことか。

 眠ったように意識を失っているシランの側で、あたしはぼそぼそと声を漏らす。

「なあ、皆シランが目覚めるのを待っているんだ」

「シラン、知っているか? たぶん気づいてないんだろうけど、お前ってけっこうな人気者なんだぞ。言ってもどうせ信じないだろうから、黙っていたけどさ……」

「いや、違うな。あたしはシランを皆に取られるのが怖くて黙っていたんだ。だってさ、中等部入学まではあたしたち、互いだけが友達だっただろ?」

「なのにさ、気がついたらシランひとり、輪の中心にいるんだもんな。そりゃあ、あたしが焦るのも多少は仕方がないと思うんだ」

「いや、変わったのはシランだけじゃないか。あたしだって、いつまでも子どものままじゃねえよ」

 誰も聞いていないと分かっているからか、漏れ出す想いが止まらない。

「だからさ……あたしはいつの間にかシランのことが、心の底から大好きになっちまったんだ」

「起きているときにこんなこと言ったところで、笑われるだけだと思うけどさ……あたしの好きは、ラブの意味での好きなんだぜ」

 こんな恥ずかしいこと、絶対シランには伝えられないよな。だからきっと、この想いは墓場まで持っていくことになるのだろう。

「……えへへ、そう、なんだ。ふーん」

 シランの声が聞こえる。そうそう、シランが起きていたら、こんな感じでからかってくる気がする。
 ……ちょっと待った、!?

「ふふ。嬉しい、な」
「シ、シラン……おはようっ」
「うん、おはよ」

 意識を失っていたはずのシランが、目を開いて笑っていた。その表情は、どことなく照れているようにも見える。

 本来このような状況では、真っ先にシランの体調を確認した後、保険医を呼びに行くべきなのだろう。だが、今回ばかりは自分本位になってしまうことをお許し願いたい。そんなことよりもまず、確かめずにはいられないことがある。

「なあシラン……意識、戻ってたんだ?」
「えっと……『いや、違うな』の辺りから?」

 だいぶ初めからじゃねえか!
 ということは、さっきの告白も……。

「ぐあぁあああああ、いっそ殺してくれぇええええええっ!!」

 この世に絶望し切ったあたしの叫び声を聞いて、キャメリアを先頭に皆が雪崩れ込んできた。こいつら、揃いも揃って医務室の前で待機してたのかよ!
 さすがに呟き声までは聞こえていなかっただろうけど、油断も隙もあったもんじゃない。

 シランに異常がないか確認する者、安堵の声をあげる者、シランのベッドに潜り込む者、おろおろと狼狽える者……一応補足しておくと、ベッドに潜り込んだのはアネモネだ。まあ、すぐさまキャメリアに引っ張り出されていたので問題はない。

 そして、皆の後ろからそっと顔を出したのはリリー。普段なら真っ先にシランに抱き着いていそうなものだが。まあ、リリーと過ごしているはずだったシランが放課後に単独行動をしていたことから、何となく事情は察することができる。

「その……シランちゃん。今朝は悪ふざけが過ぎてしまったわ。本当にごめんなさい」
「いいよ。気にしてない、から」

 何があったのかは知らないが、リリーが頭を下げるほどだ。相当ヤバいことをやったんだろう。そして、シランの懐の広さは相変わらずだな。
 しかしまあ、今回の事故に関しては誰が悪いというわけでもないので、リリーも変に罪悪感を感じる必要はないはずだ。これが良い薬になって、日常的な変態行為も多少は緩和すれば良い。

「リリーが今朝みたいなことした気持ち、ボクにもなんとなく、理解できるし」
「えっ? それってつまり、わたしの愛が遂にシランちゃんへ届いて……」

 シランの言葉を聞いたリリーが、顔を赤らめて期待の眼差しを向けている。だが、シランの言葉はまだ続く。

「ボクも、アイリスのこと……大好きだから。誰かを独占したくなる気持ち、わかる」
「「「「……はいぃ!?」」」」

 あたしとリリー、いや、それだけじゃないな……医務室にいる全員の間の抜けた声が、見事なまでにハモった。
 そんな状況を理解しているのかしてないのか、シランがマイペースに起き上がる。そしてそのまま、すぐ横にいるあたしに抱き着いてきた。
 まさに天国から地獄へと突き落されたリリーは、医務室の床に突っ伏している。だが、そんなリリーを気遣う余裕はない。

「シランのす……好きは、あれだよな? 親友として好きってことだよな?」

 そう、あたしは何度も同じ過ちは繰り返さない。舞踏会の夜に撃沈したあたしに隙はないぜ。オチはちゃんと読めてるんだ。

「ううん、違う。これは……この気持ちは、ボクの初恋なんだから」
「ほらな、想像した通……り!?」

 あれ? 想像していた答えとだいぶ違うぞ。
 変な冗談言うなよとシランにツッコミを入れようとしたところで、シランの顔が息の届く距離まで急接近してくる。顔にかかるシランの吐息が、熱い。

「これが、

 シランの唇が、あたしの唇にくっついた。シランはそのまま離れようとしない。あぁ、全身から力が抜けていく……。
 歓喜と混乱で身動きが取れなくなるあたしと、ひたすら床に突っ伏しているリリー。そして、他面々の阿鼻叫喚が医務室に響き渡る中、シランの気絶騒動は幕を閉じた。





 目を覚ましたボクは、皆に連れられて中庭までやってきた。ついさっき、幸いなことに身体には異常がないと確認できたものの、まだ皆心配そうな表情を浮かべている。それはそうだろう。ボクが鈍臭い所為で、たくさん迷惑をかけてしまったのだから。しっかり反省しないとね。

 ……ん? なんだか良い匂いが。

「わあ……!」

 案内された中庭に並んでいたのは、巨大なホールケーキと、様々なご馳走。そして、そのホールケーキには13本の蝋燭が刺さっていた。

「お食事は冷めてしまいましたけど……それはまあ、シランさんの自業自得ということですわ」
「あらあらキャメリアさん、そんなことが言いたいわけではないでしょう? では、生徒会長であるわたくしが、代表して言わせていただきますね。シランさん、お誕生日おめでとうございます!」

 ああそうか、今日はボクがこの世界に生まれてから13回目も誕生日だったんだ。ついさっきまで記憶を失っていたから、誕生日のことなんてすっかり忘れてしまっていたよ。
 だけど、うん、たしかにボクはシランとして13年間生きてきたんだよね。それを祝ってもらえることが、認めてもらえることが、とても嬉しい。

「心配かけて、ごめん。それと……ありがと!」

 優しく微笑んだ大切な友人たちに囲まれ、ボクのバースデーパーティーは幕を開けた。





「……ねぇ、シランちゃん。さすがにそろそろアイリスから離れない?」
「やだ」
「や……やだって、そんな駄々っ子みたいな」
「やだったら、やだ」

 中庭の隅でアイリスの膝に乗っかり、ボクはケーキを頬張っていた。ちなみに、苺は最後まで取っておく派。
 そんなボクに対してリリーがいろいろと言ってくるけど、今日はこのまま過ごしたいんだ。だって、ようやく自分の気持ちに正直になれたんだよ?

「そ、そういうわけだからさ。悪いな、リリー」

 苦笑しながら口を開くアイリス。いや、なんで苦笑しているのさ。むぅ……。

「うぅう……そんな風に余裕でいられるのは今だけよ。人の気持ちなんて、ちょっとしたきっかけで変化するものなんだから。今は二人がラ……ラブラブなのかもしれないけど、そのうち必ず、わたしがシランちゃんのハートを奪ってみせるわ!」
「……似たようなこと、他の奴らにも言われたなぁ。どいつもこいつも前向きすぎるだろ」

 あくまで強気に、そして諦めた様子など欠片ほどもない前向きな表情で、リリーが宣戦布告する。
 だけど、本人が目の前にいる状況でそういうこと言っちゃうのか。いや、いるからこそ、なのかな?



「シランさん、またそんな隅っこにいて……。貴女はこのパーティーの主役なんですのよ? さあ、早くこっちにいらっしゃいな」

 そんなボクたちのもとにキャメリアがやってきた。そして、会場の中心へ来るよう促す。
 うん、まあ、キャメリアの言う通りだね。せっかく皆が用意してくれたパーティーなんだから。
 ボクはゆっくりと立ち上がり、キャメリアに手を引かれて歩き出した。その後ろには、相変わらず苦笑いを浮かべるアイリスと、何やら闘志に燃えているリリーがついてくる。

 そのとき、裏庭に一陣の風が吹いた。
 そして、目の前にいたキャメリアのスカートが、ふわりと舞い上がる。

「きゃあっ……ってシランさん、しれっと覗かないでくださいな!?」

 キャメリアは真面目そうな振る舞いの割に、今日もセクシーなのを履いているんだね。
 うん、これからも充実した日々を送れそうだ。



ーーーーーーーーーーー



 これにて『転生したら悪役令嬢……の取り巻きだったけど、自由気ままに生きてます』は完結です。最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。

 まだまだ書き切れていない部分も多々ありますが、その辺りは気が向いた際に番外編のような形で更新するかもしれません。

 他サイトにて『言葉を知らないTS幼女、エルフで過保護なお姉さんに拾われる』という作品を連載しておりますので、もしよろしければそちらにもお付き合いくださいませ。
 
 最後に一言。感想や評価などいただけますと、作者が大変喜びます。何卒!!
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

いまだき かんき

気が付いて読みに来てみたら、完結していた……惜しい事をした。

ぶっちゃけ、面白い。もうちょっとRあった方が良い感じかと思うところ。

物語もいいのですが、作者様の枠外文章も最高でした。
個人的に、魔法少女が魔女の玉子なら、悪役令嬢は悪の女幹部の雛型と思っています?
ヒロインの隙をついて警察を呼ぶとか、笑いました。ママ分入るなら、ヒロイン悪堕ち系幹部ですね。
取り巻きに落とされる悪役令嬢も見てみたいかなぁと。

解除
silika
2021.01.22 silika

アイリスとシランがいちゃつく話は見たいです。
具体的には他の人達に悪戯を仕掛けて回るような話……ですかね?

解除

あなたにおすすめの小説

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

義姉をいびり倒してましたが、前世の記憶が戻ったので全力で推します

一路(いちろ)
ファンタジー
アリシアは父の再婚により義姉ができる。義姉・セリーヌは気品と美貌を兼ね備え、家族や使用人たちに愛される存在。嫉妬心と劣等感から、アリシアは義姉に冷たい態度を取り、陰口や嫌がらせを繰り返す。しかし、アリシアが前世の記憶を思い出し……推し活開始します!

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。