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王位継承編
4 服を洗濯する魔導具 2
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「ってことで、服を洗濯する魔導具を作りたいんだが、水の魔石を貸してくれないか?」
ここは古びた道具屋。
ヤマザキの頼みに、老人タリスカーは、「ううむ」と悩みながら答えた。
「ちゃんと返してくれるのかの?」
「うん、またデュワーズと冒険して採取してくるよ」
「ならいいのじゃが……魔石はわしたち家族がこつこつ貯めたものじゃ、使ったら、補充してくれんと困る」
「わかったよ……っていうか家族って言ったら、デュワーズの両親って何してんだ?」
う~ん、とタリスカーは目を細め、窓の外を眺める。
店内にデュワーズはいない。今頃、魔法学校で勉強していることだろう。
おほん、と咳払いしてから老人は語り出した。
「デュワーズの両親は冒険者じゃ、魔石を採取するために旅に出ておって、ある程度採取できたら母親だけは帰ってくる。店の倉庫に魔石があるのは、そういう理由じゃ」
「父親は?」
「あいつは帰ってこん、旅立ってもう十年になるのう……当時デュワーズは四歳じゃった。寂しくて泣いておったのぉ……」
「なんで帰ってこないんだ?」
「闇、光、無、これら宇宙エネルギーの魔石を採取できてないからじゃろう……まったく、冒険バカじゃよ、あいつは」
タリスカーは、やれやれと肩をすくめる。
口にするお茶は、もうすっかり冷めていたのだろう。
「にがい……とにかく、魔石を補充しておくようにな」
「わかった」
ヤマザキは承諾すると、倉庫から水の魔石を取り出した。
湖のように青く澄んだ魔石。
これを予め作っておいた、木製の水槽に接続した。
木製のタンクだが、しっかりミツロウを塗ったので水はじきは抜群だ。
魔石から水を入れてみる。
水漏れはなさそうだ。穴を開けたドレンから放水もできた。
おまけに木の蓋も用意されて、密閉性と安全性もある。
しかし何かが足りない。
タリスカーは後ろから、「ほほう」と見ていた。
「今回は魔物の素材なしでいけそうかの?」
「うん、構造上は問題ない。しかしタンクを回転させたいんだけど、水の魔石はただ水を放出するだけ、とても回転力がなくて洗濯できない」
「回転力か……それなら一番良い魔石があるぞ」
「なんだ?」
「無の魔石じゃ」
無、とヤマザキは言葉を繰り返した。
ふぉふぉ、と笑うタリスカーは説明を続ける。
「宇宙エネルギーの魔石で、万能性に優れ、もっともパワーがある魔石じゃ」
「何ができるんだ?」
「あらゆる万物を動かすことができるのじゃ」
「それは物質でも生き物でも?」
「もちろんじゃ、無機物でも有機物でもじゃ」
すげぇな、とヤマザキの身体は震えた。
だが、無の魔石はどうやって手に入れる?
倉庫にはなかった。
今から探しにいくか、と思っていると、道具屋の扉が開いた。
入って来たのは冒険者の女性。年齢は三十代前半だろうか。肌の汚れを落とし綺麗な服に着替えたら、もっと若く見えそうだが。
すると、タリスカーはその女性を見た瞬間、目の色を変えた。
「リベットさん……」
「ただいま帰りました」
どすん、と布袋をカウンターに置くリベットと呼ばれた女性。
もしかして、とヤマザキが思っていると、リベットは微笑んだ。
「デュワーズは元気にしてる?」
「元気すぎるぐらいじゃわい」
「ならよかった」
なんとリベットはデュワーズの母親であった。
たしかに、くりっとした猫目などそっくりだ。
髪質は父親に似たのだろう。リベットの髪は、くるくるの天然パーマだった。
タリスカーは布袋の中身を確認する。出てきたのは色とりどりの魔石の数々。
(あれは初見だぞ……)
特に目を引いたのは、まっ白な石だ。凄まじい魔力があることに、ヤマザキは気づいた。
「こ、これは……無の魔石じゃないか!」
驚愕するタリスカー。
リベットは、「ふふふ」と笑うと、拳ほどある無の魔石を一個だけ持ち上げた。
「ランス大陸に生息する、ホワイトドラゴンの体内にありました」
「な、なんじゃと! 白竜を倒したこともすごいが……航海したのか!? 海の怪物リヴィアサンは出なんだか?」
「出ましたけど、まぁ、なんとか逃げ切りました」
「ふーむ、で、あいつは?」
「フィディックさんなら、まだ冒険中です」
「あのバカ息子がっ!」
火山のように怒るタリスカー。
まぁまぁ、とリベットはたしなめる。
ヤマザキは無の魔石に触ってみたくて、そっと近づいた。
リヴェットは見知らぬおじさんが居たので、ぺこり、と頭をさげる。
「いらっしゃいませ~」
「あ、おれは客じゃない」
え? とリベットが首を傾げる。
タリスカーは、親しげにヤマザキの肩へ手を乗せた。
「紹介しよう、彼はヤマザキさん。わしの友人じゃ! ここで魔導具を作ってくれとる。石鹸やポーションもな」
「ああ、薬草を摘みによく行かされてる。ヤマザキだ」
どうも、とリベットとヤマザキは握手を交わした。
一目だ。たった人目でリベットは、ヤマザキのことを気に入った。うふふ、と微笑んでいる。
「あらやだ、若い頃のフィディックさんそっくりだわ」
「じゃろ?」
タリスカーも同意する。
それよりもヤマザキは、無の魔石に興味津々であった。
「リベットさん、無の魔石を貸してくれないか? いつかおれも旅をして採取してくるから」
「あらいいのよ、あげるわ」
「いいのか?」
「ええ、もともと道具屋に納めるつもりだし、それを使って良い魔導具を作ってくれたら、こっちも嬉しいわ」
「ありがとう、でも、いつか返します」
わかったわ、とリベットは微笑んだ。
タリスカーは思わぬ宝をゲットして、「ふぉふぉふぉ!」と上機嫌だ。
「リベットさん、今夜は飲もう!」
「はい」
「ヤマザキさんも飲もう!」
うん、とヤマザキは返事をするが、もう意識は魔導具製作に向かっている。
タンクの底の形状を、木材粘土の杖を使って加工していた。
少し突起をつけて、タンクが回転すると、渦巻きが発生するようにしたのだ。
「無の魔石をどうやって接続させよう……」
タンクを二重構造にして、内側だけ回転させたい。
なので内側タンクだけ、まんべんなく魔石を取り付けたいが、どうしたものか。
困り果てたので、タリスカーに質問した。
「なぁ、タリスカー」
「どしたんじゃ?」
「無の魔石のパワーがなくなったら、どうやってチャージするんだ?」
「宇宙系の魔石は最強じゃ! ほっとけば復活するぞ」
「すごっ!」
「じゃから、砥石で研磨する必要もない」
きっぱりタリスカーは言い切った。
だが、何を考えたのか。ヤマザキは砥石を持ち出して、無の魔石を、がりがりと削り出す。
「おいおいおい! わしの話を聞いとらんのか!?」
タリスカーの慌てっぷりが面白い。
リベットは、「ははっ」と爆笑した。
「ヤマザキさんって、もしかして外国の方?」
「そうじゃが……ぎゃぁぁあ! 宇宙系の魔石をあんな使い方をして、バチが当たるぞ!」
「うふふ、私には天才に見えますけど」
なんじゃと? とタリスカーは片方の眉を吊り上げた。
ヤマザキは細かく削った無の魔石を、さらさらとタンクの底に振りかけた。
底はまだ、ねっとりと粘土化されており、粉になった無の魔石は吸着され、しばらくするとガチガチに固まった。
「よし、できた!」
あとは試運転だ。
魔石は衝撃を加えると魔力を放出する。
ポチッとスイッチを押して、タンクが回転するか確認した。
「やった!」
見事、タンクは回転を始めた。
本当の洗濯機なら自動的に左右に回転できるのだが、ここは異世界だ。電気はない。
回転方向は自分で、ぽちぽちスイッチを押すしかなかった。
だが、それでも洗濯は楽になるだろう。
水も入れてみた。
魔石から水が放出され、水位が安定したところで回転を与える。
これも成功だ。
タンクの中で渦巻きが発生している。
ここでヤマザキは閃いた。タリスカーと土産話をしているリベットさんに近づき、
「服を脱いでくれ」
と言った。
思わず、「あらまぁ」とリベットの顔が赤くなる。
タリスカーはまた噴火した。
「何を言っとるんじゃー! うちの嫁に!」
「いや、汚れた服を洗濯してやろうと……」
「なんじゃ、紛らわしいやつじゃ」
ありがとう、とリベットは感謝し、その場で服を脱ぎ出すので、
「ちょっとちょっと!」
と、そこは流石にタリスカーが止める。
「すいません……」
てへぺろっと謝りながらリベットは、奥の部屋へと移動する。
(デュワーズそっくりだ……)
超天然なリベットに、そう思うヤマザキとタリスカー。
やがて着替えてきたので、泥だらけの衣類をタンクに入れてもらう。
「お願いします、ヤマザキさん」
「まかせろ」
ヤマザキは、石鹸もハンマーや砥石で細かく砕き、粉にしたものを入れる。
スイッチ、ぽん!
魔導具の洗濯機は、ぐるぐる回転を繰り返し、見事、衣類を洗うことに成功した。
脱水は強めの衝撃を与えて、高速で回転させればいい。
ぎゅっと絞られたリベットさんの衣類を取り出して、干すために広げてみる。
すると、はらり、と小さくてスケスケした布が落ちた。
ハンカチか? と思いヤマザキは拾う。
何気なく広げてみると、それはピンクのショーツ。つまり、えっちな下着であった。
何とも気まづい空気が流れ、しんと道具屋が凍りつく。
「ごめん……」
「あらやだ~わたしったら、もうほんっと、すいません」
ぺこ、ぺこ、と頭をさげるリベット。
タリスカーは、笑いを堪えるに必死だ。
そんなとき。
「ただいま~」
ちょうどデュワーズが帰ってきた。
母親との感動の再会。
だったはずが、ヤマザキが女性用下着を持っているせいで台無しだ。
「きゃぁぁああ! おじさんのえっちぃぃーー!!」
デュワーズの叫び声が、商店街じゅうに響き渡るのであった。
「ごめんって……」
◉
次の日の朝。
畑仕事を終えたヤマザキの服は、どろどろに汚泥がついていた。
今日も洗濯しようと思い、河川に例の魔導具を荷車に乗せて運ぶ。
ひとりじゃ重いので、ラフロイグに手伝ってもらっていた。
んっしょ、とふたりで持ち上げて、どすんと地面に置く。
「やるか……」
このままでは殺風景なので、ヤマザキは木材粘土の杖を使い、いっしょに運んできた木材で簡易な建屋を作った。
屋内に洗濯物を干せば、急に雨が振っても大丈夫。衣類の痛みを防ぐため、直射日光が当たらない陰干しもできる。
ついでに、物干し台とハンガーもたくさん作っておく。
ヤマザキはみんなが楽になれば、という一心で杖を振った。
ラフロイグは、木材を運ぶのを手伝っている。
「なにかしら?」
「やだ、あれいいわね」
洗濯している主婦たちが、ヤマザキたちに気づいた。
ラフロイグは若い好青年だから、すぐに主婦たちに取り囲まれる。
「えっと……ヤマザキさん、これ何すか?」
「これはね、服を洗濯する魔導具だよ」
「え? すごい! おれの服も洗っていいっすか?」
うん、いいよ、とヤマザキは答える。
するとラフロイグは、ぬぎっと上着を脱いで上半身裸になった。
鍛え抜かれた美しい筋肉のお出ましだ。
瞳をハートにして卒倒する主婦たち。
かなり目の保養になっているようだ。
面白くてヤマザキは、「ははっ」と半笑いすると、ぱっと右手をあげた。
「はいはい、みなさ~ん、まだ洗濯していない衣類があったらいっしょに洗いませんか? これは服を綺麗にする魔導具で~す!」
あらぁ~♡
主婦たちは列を作って、服をタンクに入れていく。
ヤマザキは順番に洗濯、脱水して次々と作業をこなした。まるでクリーニング屋さんだ。
しかしながら、ぽちぽち、と左右に回転を変えないといけない。
それだけが改良点だが。まぁ、それでも何とか、すべての服が洗えた。
半裸のラフロイグは、うーんと背伸びしする。
「ふぅ、気持ち良いっすね~ヤマザキさん」
「ああ、ダンスしてるみたいだ」
「え?」
空は夏の色に染まっていく。
青空の下に干される洗濯物を眺めていると、風にゆれる服たちが、まるで踊っているように見えるのだった。
ここは古びた道具屋。
ヤマザキの頼みに、老人タリスカーは、「ううむ」と悩みながら答えた。
「ちゃんと返してくれるのかの?」
「うん、またデュワーズと冒険して採取してくるよ」
「ならいいのじゃが……魔石はわしたち家族がこつこつ貯めたものじゃ、使ったら、補充してくれんと困る」
「わかったよ……っていうか家族って言ったら、デュワーズの両親って何してんだ?」
う~ん、とタリスカーは目を細め、窓の外を眺める。
店内にデュワーズはいない。今頃、魔法学校で勉強していることだろう。
おほん、と咳払いしてから老人は語り出した。
「デュワーズの両親は冒険者じゃ、魔石を採取するために旅に出ておって、ある程度採取できたら母親だけは帰ってくる。店の倉庫に魔石があるのは、そういう理由じゃ」
「父親は?」
「あいつは帰ってこん、旅立ってもう十年になるのう……当時デュワーズは四歳じゃった。寂しくて泣いておったのぉ……」
「なんで帰ってこないんだ?」
「闇、光、無、これら宇宙エネルギーの魔石を採取できてないからじゃろう……まったく、冒険バカじゃよ、あいつは」
タリスカーは、やれやれと肩をすくめる。
口にするお茶は、もうすっかり冷めていたのだろう。
「にがい……とにかく、魔石を補充しておくようにな」
「わかった」
ヤマザキは承諾すると、倉庫から水の魔石を取り出した。
湖のように青く澄んだ魔石。
これを予め作っておいた、木製の水槽に接続した。
木製のタンクだが、しっかりミツロウを塗ったので水はじきは抜群だ。
魔石から水を入れてみる。
水漏れはなさそうだ。穴を開けたドレンから放水もできた。
おまけに木の蓋も用意されて、密閉性と安全性もある。
しかし何かが足りない。
タリスカーは後ろから、「ほほう」と見ていた。
「今回は魔物の素材なしでいけそうかの?」
「うん、構造上は問題ない。しかしタンクを回転させたいんだけど、水の魔石はただ水を放出するだけ、とても回転力がなくて洗濯できない」
「回転力か……それなら一番良い魔石があるぞ」
「なんだ?」
「無の魔石じゃ」
無、とヤマザキは言葉を繰り返した。
ふぉふぉ、と笑うタリスカーは説明を続ける。
「宇宙エネルギーの魔石で、万能性に優れ、もっともパワーがある魔石じゃ」
「何ができるんだ?」
「あらゆる万物を動かすことができるのじゃ」
「それは物質でも生き物でも?」
「もちろんじゃ、無機物でも有機物でもじゃ」
すげぇな、とヤマザキの身体は震えた。
だが、無の魔石はどうやって手に入れる?
倉庫にはなかった。
今から探しにいくか、と思っていると、道具屋の扉が開いた。
入って来たのは冒険者の女性。年齢は三十代前半だろうか。肌の汚れを落とし綺麗な服に着替えたら、もっと若く見えそうだが。
すると、タリスカーはその女性を見た瞬間、目の色を変えた。
「リベットさん……」
「ただいま帰りました」
どすん、と布袋をカウンターに置くリベットと呼ばれた女性。
もしかして、とヤマザキが思っていると、リベットは微笑んだ。
「デュワーズは元気にしてる?」
「元気すぎるぐらいじゃわい」
「ならよかった」
なんとリベットはデュワーズの母親であった。
たしかに、くりっとした猫目などそっくりだ。
髪質は父親に似たのだろう。リベットの髪は、くるくるの天然パーマだった。
タリスカーは布袋の中身を確認する。出てきたのは色とりどりの魔石の数々。
(あれは初見だぞ……)
特に目を引いたのは、まっ白な石だ。凄まじい魔力があることに、ヤマザキは気づいた。
「こ、これは……無の魔石じゃないか!」
驚愕するタリスカー。
リベットは、「ふふふ」と笑うと、拳ほどある無の魔石を一個だけ持ち上げた。
「ランス大陸に生息する、ホワイトドラゴンの体内にありました」
「な、なんじゃと! 白竜を倒したこともすごいが……航海したのか!? 海の怪物リヴィアサンは出なんだか?」
「出ましたけど、まぁ、なんとか逃げ切りました」
「ふーむ、で、あいつは?」
「フィディックさんなら、まだ冒険中です」
「あのバカ息子がっ!」
火山のように怒るタリスカー。
まぁまぁ、とリベットはたしなめる。
ヤマザキは無の魔石に触ってみたくて、そっと近づいた。
リヴェットは見知らぬおじさんが居たので、ぺこり、と頭をさげる。
「いらっしゃいませ~」
「あ、おれは客じゃない」
え? とリベットが首を傾げる。
タリスカーは、親しげにヤマザキの肩へ手を乗せた。
「紹介しよう、彼はヤマザキさん。わしの友人じゃ! ここで魔導具を作ってくれとる。石鹸やポーションもな」
「ああ、薬草を摘みによく行かされてる。ヤマザキだ」
どうも、とリベットとヤマザキは握手を交わした。
一目だ。たった人目でリベットは、ヤマザキのことを気に入った。うふふ、と微笑んでいる。
「あらやだ、若い頃のフィディックさんそっくりだわ」
「じゃろ?」
タリスカーも同意する。
それよりもヤマザキは、無の魔石に興味津々であった。
「リベットさん、無の魔石を貸してくれないか? いつかおれも旅をして採取してくるから」
「あらいいのよ、あげるわ」
「いいのか?」
「ええ、もともと道具屋に納めるつもりだし、それを使って良い魔導具を作ってくれたら、こっちも嬉しいわ」
「ありがとう、でも、いつか返します」
わかったわ、とリベットは微笑んだ。
タリスカーは思わぬ宝をゲットして、「ふぉふぉふぉ!」と上機嫌だ。
「リベットさん、今夜は飲もう!」
「はい」
「ヤマザキさんも飲もう!」
うん、とヤマザキは返事をするが、もう意識は魔導具製作に向かっている。
タンクの底の形状を、木材粘土の杖を使って加工していた。
少し突起をつけて、タンクが回転すると、渦巻きが発生するようにしたのだ。
「無の魔石をどうやって接続させよう……」
タンクを二重構造にして、内側だけ回転させたい。
なので内側タンクだけ、まんべんなく魔石を取り付けたいが、どうしたものか。
困り果てたので、タリスカーに質問した。
「なぁ、タリスカー」
「どしたんじゃ?」
「無の魔石のパワーがなくなったら、どうやってチャージするんだ?」
「宇宙系の魔石は最強じゃ! ほっとけば復活するぞ」
「すごっ!」
「じゃから、砥石で研磨する必要もない」
きっぱりタリスカーは言い切った。
だが、何を考えたのか。ヤマザキは砥石を持ち出して、無の魔石を、がりがりと削り出す。
「おいおいおい! わしの話を聞いとらんのか!?」
タリスカーの慌てっぷりが面白い。
リベットは、「ははっ」と爆笑した。
「ヤマザキさんって、もしかして外国の方?」
「そうじゃが……ぎゃぁぁあ! 宇宙系の魔石をあんな使い方をして、バチが当たるぞ!」
「うふふ、私には天才に見えますけど」
なんじゃと? とタリスカーは片方の眉を吊り上げた。
ヤマザキは細かく削った無の魔石を、さらさらとタンクの底に振りかけた。
底はまだ、ねっとりと粘土化されており、粉になった無の魔石は吸着され、しばらくするとガチガチに固まった。
「よし、できた!」
あとは試運転だ。
魔石は衝撃を加えると魔力を放出する。
ポチッとスイッチを押して、タンクが回転するか確認した。
「やった!」
見事、タンクは回転を始めた。
本当の洗濯機なら自動的に左右に回転できるのだが、ここは異世界だ。電気はない。
回転方向は自分で、ぽちぽちスイッチを押すしかなかった。
だが、それでも洗濯は楽になるだろう。
水も入れてみた。
魔石から水が放出され、水位が安定したところで回転を与える。
これも成功だ。
タンクの中で渦巻きが発生している。
ここでヤマザキは閃いた。タリスカーと土産話をしているリベットさんに近づき、
「服を脱いでくれ」
と言った。
思わず、「あらまぁ」とリベットの顔が赤くなる。
タリスカーはまた噴火した。
「何を言っとるんじゃー! うちの嫁に!」
「いや、汚れた服を洗濯してやろうと……」
「なんじゃ、紛らわしいやつじゃ」
ありがとう、とリベットは感謝し、その場で服を脱ぎ出すので、
「ちょっとちょっと!」
と、そこは流石にタリスカーが止める。
「すいません……」
てへぺろっと謝りながらリベットは、奥の部屋へと移動する。
(デュワーズそっくりだ……)
超天然なリベットに、そう思うヤマザキとタリスカー。
やがて着替えてきたので、泥だらけの衣類をタンクに入れてもらう。
「お願いします、ヤマザキさん」
「まかせろ」
ヤマザキは、石鹸もハンマーや砥石で細かく砕き、粉にしたものを入れる。
スイッチ、ぽん!
魔導具の洗濯機は、ぐるぐる回転を繰り返し、見事、衣類を洗うことに成功した。
脱水は強めの衝撃を与えて、高速で回転させればいい。
ぎゅっと絞られたリベットさんの衣類を取り出して、干すために広げてみる。
すると、はらり、と小さくてスケスケした布が落ちた。
ハンカチか? と思いヤマザキは拾う。
何気なく広げてみると、それはピンクのショーツ。つまり、えっちな下着であった。
何とも気まづい空気が流れ、しんと道具屋が凍りつく。
「ごめん……」
「あらやだ~わたしったら、もうほんっと、すいません」
ぺこ、ぺこ、と頭をさげるリベット。
タリスカーは、笑いを堪えるに必死だ。
そんなとき。
「ただいま~」
ちょうどデュワーズが帰ってきた。
母親との感動の再会。
だったはずが、ヤマザキが女性用下着を持っているせいで台無しだ。
「きゃぁぁああ! おじさんのえっちぃぃーー!!」
デュワーズの叫び声が、商店街じゅうに響き渡るのであった。
「ごめんって……」
◉
次の日の朝。
畑仕事を終えたヤマザキの服は、どろどろに汚泥がついていた。
今日も洗濯しようと思い、河川に例の魔導具を荷車に乗せて運ぶ。
ひとりじゃ重いので、ラフロイグに手伝ってもらっていた。
んっしょ、とふたりで持ち上げて、どすんと地面に置く。
「やるか……」
このままでは殺風景なので、ヤマザキは木材粘土の杖を使い、いっしょに運んできた木材で簡易な建屋を作った。
屋内に洗濯物を干せば、急に雨が振っても大丈夫。衣類の痛みを防ぐため、直射日光が当たらない陰干しもできる。
ついでに、物干し台とハンガーもたくさん作っておく。
ヤマザキはみんなが楽になれば、という一心で杖を振った。
ラフロイグは、木材を運ぶのを手伝っている。
「なにかしら?」
「やだ、あれいいわね」
洗濯している主婦たちが、ヤマザキたちに気づいた。
ラフロイグは若い好青年だから、すぐに主婦たちに取り囲まれる。
「えっと……ヤマザキさん、これ何すか?」
「これはね、服を洗濯する魔導具だよ」
「え? すごい! おれの服も洗っていいっすか?」
うん、いいよ、とヤマザキは答える。
するとラフロイグは、ぬぎっと上着を脱いで上半身裸になった。
鍛え抜かれた美しい筋肉のお出ましだ。
瞳をハートにして卒倒する主婦たち。
かなり目の保養になっているようだ。
面白くてヤマザキは、「ははっ」と半笑いすると、ぱっと右手をあげた。
「はいはい、みなさ~ん、まだ洗濯していない衣類があったらいっしょに洗いませんか? これは服を綺麗にする魔導具で~す!」
あらぁ~♡
主婦たちは列を作って、服をタンクに入れていく。
ヤマザキは順番に洗濯、脱水して次々と作業をこなした。まるでクリーニング屋さんだ。
しかしながら、ぽちぽち、と左右に回転を変えないといけない。
それだけが改良点だが。まぁ、それでも何とか、すべての服が洗えた。
半裸のラフロイグは、うーんと背伸びしする。
「ふぅ、気持ち良いっすね~ヤマザキさん」
「ああ、ダンスしてるみたいだ」
「え?」
空は夏の色に染まっていく。
青空の下に干される洗濯物を眺めていると、風にゆれる服たちが、まるで踊っているように見えるのだった。
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そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
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