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王位継承編
24 王か女王か 2
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「召喚に巻き込んどいて、また王国を救え? 勇者に言えよ!」
ここはハイランド城、玉座の間。
衛兵に呼ばれたヤマザキは、ジョニとともに城に来ていた。
ぺこぺこ、と頭をさげるダニエル王の隣には、息を飲むほど美しい女性が佇んでいる。
ハニィだ。
羽兜を装備から外していた。女性として、この場に立っているのだろう。
ヤマザキのことを、チラッと見るが、まともに見てくれない。
ジョニは、「あちゃあ、バレたか……」と頭を抱えている。
ダニエル王は、「おまえらも頭をさげんか!」と命令した。
城内にいるすべての者が、ヤマザキに頭を下げ出す。これではどっちが王様か分からない。
「ヤマザキさん、どうか王国を救ってください! 頼めるのは、あなたしかいないんです!」
「だ~か~ら、勇者に言えよ! まだ行方不明なのか?」
「はい……モーレンジの森で魔力の痕跡が消えているのです。他国でスローライフしている情報もありません」
「はぁ……で、今度は何が起きたんだよ? まぁ、ハニィくんを見れば予想はできるが……」
「はい、実はハニィが女性だということが公になってしまい、王位継承が難しい状態になっているのです」
なんで? とヤマザキは質問する。
「なぜ難しい? ハニィが女性だと何か不都合なことがあるのか?」
「あ、いや、我は別に……」
「おいおまえ王様だろ? しっかりしろよ」
「はい、すいません」
「なんで女性だとダメなんだ?」
えっと、と王は答えに詰まってしまい、チラッと軍師ブラックを見て助けを求める。
(王様にタメ口か……このおじさんに権威は効かないのか!?)
当のブラックは驚愕していた。
王様と対等に話せる人物と出会ったのは、ヤマザキが初めてなのである。
誰もがふつう、王様の前では頭を下げ、何でも言うことを聞く。
だが、このおじさんは何なんだ!?
間違った行動をしているのに、間違ってない。
説明できないパラドックスが、ブラックの頭の中をぐるぐると駆け巡る。
「おい、ブラック! 我の代わりに話せ!」
ダニエル王に命令され、びくっとなる。
ヤマザキは、「あんたか……」とうんざりした顔をした。不思議なことに、嫌われたくない、と思っている自分に驚く。
「あの……女性が王位継承した前例がないのです」
「前例がないからダメ?」
「は、はい……」
「前例なんて壊せよ」
「え? そんな簡単に……逆にどうやって壊すのですか?」
ヤマザキが口を開く、と同時だった。
妖艶な女性が、つかつかと歩いてくる。
「おーほほほ、壊す必要はありませんわ!」
ボウモアだ。
ヤマザキに近づき、これでもかと色気を放出する。化粧と甘ったるい香水の匂いが鼻につく。
「バランタイン王子がいるのですから、前例どおり男子が王になればいいのですわ」
「まだ五歳だろ? それにバランタインは王になりたいのか? 本人の意思は大丈夫か?」
「そ、それは……」
口ごもってしまうボウモア。
やれやれ、とヤマザキは肩をすくめた。城中の者が、彼のことを見つめている。特に熱い視線を送るハニィは、ヤマザキさん……と祈るように心の中で名前を呼んでいた。
「じゃあ、選挙しよう!」
ヤマザキの言葉が、エコーのように城中に響く。
ダニエル王は、唖然としていた。
「センキョ? 何ですかそれは? 魔法の呪文?」
ハニィは、クスっと笑う。
やっぱりヤマザキさんは最高だ! これは面白くなるぞ……と心の底から思っていた。
「魔法ではない! ハニィかバランタインか、どちらが王位を継承するべきか全国民に投票させるのさ」
「え? 国民に? なぜ?」
わかってないな、とヤマザキは首を横に振る。
「ダニエル王よ、お昼は何を食べた?」
「えっと……何だっけ?」
「ボケ老人かっ!」
鶏肉を揚げたもの、パン、サラダ、魚介スープです、と側近である魔術師が代わりに答える。
ありがとう、とヤマザキは話を続けた。
「これらの食材はすべて国民から提供されたものであり、コックの給料も国民からの税金だ」
「はぁ……だから何でしょう?」
「つまりおまえは国民がいなければ飯も食えないってことだ! したがって王を決める権利は国民にある。わかったか?」
「はい……王は国民が決めます」
しょぼん、とするダニエル王。
衛兵や魔術師が、「ざまぁ」と笑った。それをヤマザキは見逃さない。
「おまえらも選挙で決めるか? 国民の税金が給料になるんだぞ!」
彼らは、ビシッと姿勢を正す。
あの、と少し前に出たブラックが手をあげる。まるで生徒のようだ。
「でもヤマザキさん、どうやってそのセンキョをするのですか? そしてその結果、どうなるのですか?」
「選挙は俺が仕切るよ。結果は、国民から多く投票された者が王になればいい……」
ヤマザキは鞄から棒を取り出す。
新しい魔導具・金属粘土スティックだ。
「おいダニエル王、ここの壁、使っていい?」
「え? あ、はい……」
ザクッ!
何とも不思議な棒だ。
壁に触れた瞬間、スプーンですくったように壁をえぐり取る。
そして、ぐにゃりと粘土化し、こねこねと空中で練り始めた。出来上がったのは、大きな箱だ。
「おーい! 王国の人口がわかるやついるか?」
約千人です、手をあげたジョニが答える。
少なっ、とヤマザキは思いながら、今度は木材粘土の杖を使って丸と四角の札を制作していく。原料は壁にかかる絵画を拝借した。
(とりあえず五百ずつ作っとくか……)
薄い手のひらサイズの札には、ハニィとバランタインの名前が、それぞれ刻印されていた。
そして大きな箱を空中から降ろしたら、ドスンと玉座の間が揺れた。
みなその光景に驚愕し、わなわなと震え出す。ヤマザキのことを、「神様みたいだ」と例える者もいた。
「よし! 衛兵たちこれを城の門前に運んでくれ」
はっ、と掛け声をあげて箱ぼうとする衛兵たち。
しかし重すぎて無理だった。
しゃーないな、とヤマザキはもう一度、箱と札を宙に浮かせ、そのままバルコニーから飛んだ。
え!?
みんな、空いた口が塞がらない。
ヤマザキの身体能力は異世界に来て、格段に上昇していたのだ。
それは闇の魔力によるものだが、本人の自覚は薄い。
「よっと……」
門前に移動したヤマザキは、ドスンと箱をおく。
さらに木材粘土の杖に装備を切り替え、「これでいいや」と近くに植栽されてある木の枝を、ぐにゃりと粘土化させた。
続いて制作したのは、
『投票箱』
と記された大きな看板だ。
投票期間は、一週間とも書かれてある。
札の管理を門番にいる衛兵たちにお願いした。
「ここに一人一枚だけ入れるよう見張ってるんだぞ」
「はい、でも、夜は?」
「まぁ、夜になったら俺が箱を閉めておくから安心しろ」
「ありがとうございます……しくしく」
ん? 衛兵たちは泣いていた。
どした? と聞くと、みな口をそろえて、
「ハニィ様が王になるよう動いてくれて感謝してます!」
と、さらに泣く。
みんなハニィが好きなんだな、とヤマザキは思った。
するとそこへ、甘ったるい香水の匂いが漂う。
ボウモアの登場だ。
「ヤマザキさん! バランタインが王に相応しいとおっしゃったのに、なんですかこれは?」
「まてまて、俺はバランタインに投票するぞ」
「え? あ、それはどうもありがとうございますわ」
「じゃっ、そういうことで」
お待ちなさい! ボウモアは大きな声で呼び止める。
何なんだよ、とヤマザキが振り返ると、「えんえん」とボウモアも泣いた。
こいつら、本当によく泣くな、とヤマザキは思った。
「そういうことではありませんわ! 投票なんてしたらハニィが王になるに決まってますわ!」
「それでいいじゃないか」
「嫌ですわ! バランタインじゃないと……うわ~ん」
「ボウモアくん……」
めちゃ泣きまくるボウモア。
衛兵たちも、ドン引きしていた。一国の王妃をこんなにも泣かせる男・ヤマザキ。この異世界から来たおじさん、マジでヤバい! と思っているのだ。
するとそこへ、究極のアーマー美闘士がやって来た。衛兵たちの顔が、ぽっと赤くなる。
ハニィは髪を下ろしていた。
ただそれだけなのに、今まで男性と見ていた分だけ、禁断な姿を見ているような気がして、また卒倒する衛兵たちが続出。本日、道具屋のポーションの売り上げは、過去最高だったらしい。
そんなハニィは、泣き崩れるボウモアのことを、優しい瞳で見つめていた。
「ボウモア……なぜそこまで権威にすがるのだ?」
「あなたには分からないですわ! どこにも嫁いでない、あなたには!」
「……!?」
「あなたたちが死ねばよかったのですわ!」
「ボウモア?」
「あなたたちが! お姉様ではなくあなたたちが……あぁぁぁあああ!」
ボウモアは泣き叫ぶ。
そして詠唱を始めた。突風が吹き荒れ、大地を穿つ。土と風の混合魔法・クラッシュトルネードをぶっ放した。
完全に殺す気だ。
岩石の混じった竜巻がハニィに迫る。
「きゃぁああ!」
危ない!
ヤマザキは、さっとハニィの前に立って両手を広げた。きらり、と腕輪が輝きを放つ。
グニュン……!!
無敵のバリアバンクルが発動。
竜巻は高速に逆回転し、ボウモアに向かって跳ね返る。
ニヤッ……
ボウモアは苦笑している。
ガガガガ、と轟音をあげて竜巻が衝突するが、次の瞬間には風が止み、彼女の身体に吸い込まれていく。
「おーほほほほ! 無駄ですわ! わたくしにはアブソルネックレスがありますから!」
ボウモアの首には、漆黒に輝く首飾りが装備されてある。
特級魔導具・アブソルネックレスには、魔力を吸収する効果があるのだ。
おーほほほほ、と高飛車に笑うボウモア。
ハニィや衛兵たちは、「そんな……」「ボウモア王妃……」と度肝を抜かれている。
一方、ヤマザキはそんなの関係ないね、という顔で、ゆったりと彼女に近づく。
そして鞄から取り出したのは、縄だ。
「あんっ……」
ぽっと顔を赤くするボウモアは、縄で緊縛された。
魔力が効かないなら、物理攻撃で勝負。
農作業で鍛えられた、おじさんの腕っぷしは強い。
「よっこいしょういち!」
ヤマザキは、ひょいとボウモアをお姫様抱っこする。
「ハニィくん、バランタインの子守りを頼む」
「え? あ、はい……わかりました」
ニコッと笑うとヤマザキは、ゆったりと城から去っていく。
衛兵たちは、「……」と沈黙せざる得ない。
頬を赤く染めるハニィは、ぼーっとおじさんの背中を見つめ、
「ああ~ん、かわって欲しい~羨ましすぎるぅ」
と、つい乙女心がダダ漏れになってしまうのだった。
「え?」
「ハニィ様?」
衛兵たちが不思議に思うのは、言うまでもない。
ここはハイランド城、玉座の間。
衛兵に呼ばれたヤマザキは、ジョニとともに城に来ていた。
ぺこぺこ、と頭をさげるダニエル王の隣には、息を飲むほど美しい女性が佇んでいる。
ハニィだ。
羽兜を装備から外していた。女性として、この場に立っているのだろう。
ヤマザキのことを、チラッと見るが、まともに見てくれない。
ジョニは、「あちゃあ、バレたか……」と頭を抱えている。
ダニエル王は、「おまえらも頭をさげんか!」と命令した。
城内にいるすべての者が、ヤマザキに頭を下げ出す。これではどっちが王様か分からない。
「ヤマザキさん、どうか王国を救ってください! 頼めるのは、あなたしかいないんです!」
「だ~か~ら、勇者に言えよ! まだ行方不明なのか?」
「はい……モーレンジの森で魔力の痕跡が消えているのです。他国でスローライフしている情報もありません」
「はぁ……で、今度は何が起きたんだよ? まぁ、ハニィくんを見れば予想はできるが……」
「はい、実はハニィが女性だということが公になってしまい、王位継承が難しい状態になっているのです」
なんで? とヤマザキは質問する。
「なぜ難しい? ハニィが女性だと何か不都合なことがあるのか?」
「あ、いや、我は別に……」
「おいおまえ王様だろ? しっかりしろよ」
「はい、すいません」
「なんで女性だとダメなんだ?」
えっと、と王は答えに詰まってしまい、チラッと軍師ブラックを見て助けを求める。
(王様にタメ口か……このおじさんに権威は効かないのか!?)
当のブラックは驚愕していた。
王様と対等に話せる人物と出会ったのは、ヤマザキが初めてなのである。
誰もがふつう、王様の前では頭を下げ、何でも言うことを聞く。
だが、このおじさんは何なんだ!?
間違った行動をしているのに、間違ってない。
説明できないパラドックスが、ブラックの頭の中をぐるぐると駆け巡る。
「おい、ブラック! 我の代わりに話せ!」
ダニエル王に命令され、びくっとなる。
ヤマザキは、「あんたか……」とうんざりした顔をした。不思議なことに、嫌われたくない、と思っている自分に驚く。
「あの……女性が王位継承した前例がないのです」
「前例がないからダメ?」
「は、はい……」
「前例なんて壊せよ」
「え? そんな簡単に……逆にどうやって壊すのですか?」
ヤマザキが口を開く、と同時だった。
妖艶な女性が、つかつかと歩いてくる。
「おーほほほ、壊す必要はありませんわ!」
ボウモアだ。
ヤマザキに近づき、これでもかと色気を放出する。化粧と甘ったるい香水の匂いが鼻につく。
「バランタイン王子がいるのですから、前例どおり男子が王になればいいのですわ」
「まだ五歳だろ? それにバランタインは王になりたいのか? 本人の意思は大丈夫か?」
「そ、それは……」
口ごもってしまうボウモア。
やれやれ、とヤマザキは肩をすくめた。城中の者が、彼のことを見つめている。特に熱い視線を送るハニィは、ヤマザキさん……と祈るように心の中で名前を呼んでいた。
「じゃあ、選挙しよう!」
ヤマザキの言葉が、エコーのように城中に響く。
ダニエル王は、唖然としていた。
「センキョ? 何ですかそれは? 魔法の呪文?」
ハニィは、クスっと笑う。
やっぱりヤマザキさんは最高だ! これは面白くなるぞ……と心の底から思っていた。
「魔法ではない! ハニィかバランタインか、どちらが王位を継承するべきか全国民に投票させるのさ」
「え? 国民に? なぜ?」
わかってないな、とヤマザキは首を横に振る。
「ダニエル王よ、お昼は何を食べた?」
「えっと……何だっけ?」
「ボケ老人かっ!」
鶏肉を揚げたもの、パン、サラダ、魚介スープです、と側近である魔術師が代わりに答える。
ありがとう、とヤマザキは話を続けた。
「これらの食材はすべて国民から提供されたものであり、コックの給料も国民からの税金だ」
「はぁ……だから何でしょう?」
「つまりおまえは国民がいなければ飯も食えないってことだ! したがって王を決める権利は国民にある。わかったか?」
「はい……王は国民が決めます」
しょぼん、とするダニエル王。
衛兵や魔術師が、「ざまぁ」と笑った。それをヤマザキは見逃さない。
「おまえらも選挙で決めるか? 国民の税金が給料になるんだぞ!」
彼らは、ビシッと姿勢を正す。
あの、と少し前に出たブラックが手をあげる。まるで生徒のようだ。
「でもヤマザキさん、どうやってそのセンキョをするのですか? そしてその結果、どうなるのですか?」
「選挙は俺が仕切るよ。結果は、国民から多く投票された者が王になればいい……」
ヤマザキは鞄から棒を取り出す。
新しい魔導具・金属粘土スティックだ。
「おいダニエル王、ここの壁、使っていい?」
「え? あ、はい……」
ザクッ!
何とも不思議な棒だ。
壁に触れた瞬間、スプーンですくったように壁をえぐり取る。
そして、ぐにゃりと粘土化し、こねこねと空中で練り始めた。出来上がったのは、大きな箱だ。
「おーい! 王国の人口がわかるやついるか?」
約千人です、手をあげたジョニが答える。
少なっ、とヤマザキは思いながら、今度は木材粘土の杖を使って丸と四角の札を制作していく。原料は壁にかかる絵画を拝借した。
(とりあえず五百ずつ作っとくか……)
薄い手のひらサイズの札には、ハニィとバランタインの名前が、それぞれ刻印されていた。
そして大きな箱を空中から降ろしたら、ドスンと玉座の間が揺れた。
みなその光景に驚愕し、わなわなと震え出す。ヤマザキのことを、「神様みたいだ」と例える者もいた。
「よし! 衛兵たちこれを城の門前に運んでくれ」
はっ、と掛け声をあげて箱ぼうとする衛兵たち。
しかし重すぎて無理だった。
しゃーないな、とヤマザキはもう一度、箱と札を宙に浮かせ、そのままバルコニーから飛んだ。
え!?
みんな、空いた口が塞がらない。
ヤマザキの身体能力は異世界に来て、格段に上昇していたのだ。
それは闇の魔力によるものだが、本人の自覚は薄い。
「よっと……」
門前に移動したヤマザキは、ドスンと箱をおく。
さらに木材粘土の杖に装備を切り替え、「これでいいや」と近くに植栽されてある木の枝を、ぐにゃりと粘土化させた。
続いて制作したのは、
『投票箱』
と記された大きな看板だ。
投票期間は、一週間とも書かれてある。
札の管理を門番にいる衛兵たちにお願いした。
「ここに一人一枚だけ入れるよう見張ってるんだぞ」
「はい、でも、夜は?」
「まぁ、夜になったら俺が箱を閉めておくから安心しろ」
「ありがとうございます……しくしく」
ん? 衛兵たちは泣いていた。
どした? と聞くと、みな口をそろえて、
「ハニィ様が王になるよう動いてくれて感謝してます!」
と、さらに泣く。
みんなハニィが好きなんだな、とヤマザキは思った。
するとそこへ、甘ったるい香水の匂いが漂う。
ボウモアの登場だ。
「ヤマザキさん! バランタインが王に相応しいとおっしゃったのに、なんですかこれは?」
「まてまて、俺はバランタインに投票するぞ」
「え? あ、それはどうもありがとうございますわ」
「じゃっ、そういうことで」
お待ちなさい! ボウモアは大きな声で呼び止める。
何なんだよ、とヤマザキが振り返ると、「えんえん」とボウモアも泣いた。
こいつら、本当によく泣くな、とヤマザキは思った。
「そういうことではありませんわ! 投票なんてしたらハニィが王になるに決まってますわ!」
「それでいいじゃないか」
「嫌ですわ! バランタインじゃないと……うわ~ん」
「ボウモアくん……」
めちゃ泣きまくるボウモア。
衛兵たちも、ドン引きしていた。一国の王妃をこんなにも泣かせる男・ヤマザキ。この異世界から来たおじさん、マジでヤバい! と思っているのだ。
するとそこへ、究極のアーマー美闘士がやって来た。衛兵たちの顔が、ぽっと赤くなる。
ハニィは髪を下ろしていた。
ただそれだけなのに、今まで男性と見ていた分だけ、禁断な姿を見ているような気がして、また卒倒する衛兵たちが続出。本日、道具屋のポーションの売り上げは、過去最高だったらしい。
そんなハニィは、泣き崩れるボウモアのことを、優しい瞳で見つめていた。
「ボウモア……なぜそこまで権威にすがるのだ?」
「あなたには分からないですわ! どこにも嫁いでない、あなたには!」
「……!?」
「あなたたちが死ねばよかったのですわ!」
「ボウモア?」
「あなたたちが! お姉様ではなくあなたたちが……あぁぁぁあああ!」
ボウモアは泣き叫ぶ。
そして詠唱を始めた。突風が吹き荒れ、大地を穿つ。土と風の混合魔法・クラッシュトルネードをぶっ放した。
完全に殺す気だ。
岩石の混じった竜巻がハニィに迫る。
「きゃぁああ!」
危ない!
ヤマザキは、さっとハニィの前に立って両手を広げた。きらり、と腕輪が輝きを放つ。
グニュン……!!
無敵のバリアバンクルが発動。
竜巻は高速に逆回転し、ボウモアに向かって跳ね返る。
ニヤッ……
ボウモアは苦笑している。
ガガガガ、と轟音をあげて竜巻が衝突するが、次の瞬間には風が止み、彼女の身体に吸い込まれていく。
「おーほほほほ! 無駄ですわ! わたくしにはアブソルネックレスがありますから!」
ボウモアの首には、漆黒に輝く首飾りが装備されてある。
特級魔導具・アブソルネックレスには、魔力を吸収する効果があるのだ。
おーほほほほ、と高飛車に笑うボウモア。
ハニィや衛兵たちは、「そんな……」「ボウモア王妃……」と度肝を抜かれている。
一方、ヤマザキはそんなの関係ないね、という顔で、ゆったりと彼女に近づく。
そして鞄から取り出したのは、縄だ。
「あんっ……」
ぽっと顔を赤くするボウモアは、縄で緊縛された。
魔力が効かないなら、物理攻撃で勝負。
農作業で鍛えられた、おじさんの腕っぷしは強い。
「よっこいしょういち!」
ヤマザキは、ひょいとボウモアをお姫様抱っこする。
「ハニィくん、バランタインの子守りを頼む」
「え? あ、はい……わかりました」
ニコッと笑うとヤマザキは、ゆったりと城から去っていく。
衛兵たちは、「……」と沈黙せざる得ない。
頬を赤く染めるハニィは、ぼーっとおじさんの背中を見つめ、
「ああ~ん、かわって欲しい~羨ましすぎるぅ」
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