ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる

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女神召喚編

10 盗賊たちのレクイエム 2

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「ニッカが誘拐されただと!?」

 ここは軍師ブラックの屋敷。
 メイドに呼び出されて来てみれば、玄関に制服のスカーフと置き手紙があったのだ。


『娘の命が欲しければ、深夜に金貨一万枚を橋に置け、そうすれば娘は解放してやる。衛兵には言うな。言ったら娘の命はない』

 汚い字で、そう書かれてある。
 盗賊の仕業だ、と直感した。金貨一万枚……ブラック家の全財産だ、と思った。
 ちなみに、この異世界には銀行はない。金貨一万枚は日本円で一億円の価値がある。

「ニッカ……」

 十四才になる可愛い娘ニッカ。
 絶対に奪われたくない!
 ブラックは急いで金庫を開けた。その中には黄金に輝く金貨が、どっさり入っているのだった。
 

 ◉


「これっす」

 ここはモーレンジの森の中。
 鬱蒼とした木々で隠れるように建物がある。倉庫なのだろう。馬車ごと入れるように扉が大きい。
 ラフロイグの案内で、ヤマザキ、ヒビキ、チタ、ニッカは盗賊のアジトにたどり着いていた。

「君たちはここにいろ」
「嫌よ」
「デュワーズちゃんを助けたぃです……」

 女子学生に拒否られるヤマザキ。
 ちょっとショックだった。
 安心して、という顔でチタとニッカは魔力を放出する。
 ヒビキが、「すごい……」と言うので強いのだろう。だが、ヤマザキには魔力が見えないので分からない。

「私たちを舐めないでよね、おじさん」
「戦ぇます……」

 二人はやる気まんまんだ。
 まぁ、ヒビキの回復魔法があるから大丈夫だろう。とヤマザキは判断した。
 
「裏手から入るっすよ」

 みなでラフロイグの後を追う。
 昔、用意したのだろう。彼はハシゴを森の中から取り出して、二階の窓にかける。それに登り、木材粘土の杖で窓枠を壊し、アジトへの侵入に成功した。
 中は寝室のようだ。
 薄暗く、湿っぽい空気が漂っている。人の出入りがなかった証拠だ。
 ヤマザキたちは、腰を落として、物音を立てないように移動していく。
 その部屋を出ると、吹き抜けの廊下だった。眼下の一階は広い倉庫になっていて、中央に縄で緊縛された人たちがいる。
 デュワーズとラフロイグの仲間たちだ。
 一方、盗賊たちは食事中だった。
 大きな扉の前にある椅子に座り、テーブルにある焼いた肉や野菜を摘んでは、もぐもぐと食べている。そんな荒くれ者ものが、合計で五人いる。

「あの大きな男がボスっす」

 わかった、とヤマザキはラフロイグの説明に頷く。
 そして作戦をみんなに話した。

「ヒビキちゃんはここで戦況を見守って、いざとなったら回復してくれ」
「はい」
「デュワーズの友達の二人は、背の低い盗賊たちを倒してくれ。大きな男はラフロイグが倒す」
「わかったわ」
「はぃ」
「よし、じゃあ俺はここで見てるから、よろしく」

 こくり、とみんな頷いたが、心の中で思った。

(おじさん、何もしないんだ……)

 ヒビキは、「くすくす」と笑った。
 一方、盗賊たちは腹一杯になったようだ。あくびしたり、足を伸ばしてリラックスしている。 
 するとそこへ、ぷかぷかと浮かぶ水球が盗賊の一人に近づく。
 そして頭上から、ぼちゃんと一気に落下した。

「あっぶぶぶ!」

 水球が顔をずっぽりと覆ってしまい、息ができない。苦しい。そのまま気絶した。

「なんだ!?」
 
 と異変に気づいたが、もう遅い。
 また一人の盗賊も水球で溺れて、「あっぶぶぶ」と気絶して倒れた。
 物陰で、ニヤッとチタが笑っている。
 得意の水魔法で敵を倒したのだ。
 慌てる盗賊たち。ボスが椅子から立ち上がって、

「武器を持て!」

 と叫んだ瞬間、盗賊の一人が吹っ飛んで壁に埋まった。
 ボスは驚愕して身体を震わせている。なぜなら、ぽつんと少女が立っていたからだ。

「なっ……!?」

 チタは拳を握り、残りの盗賊をぶん殴った。完璧なストレートパンチである。無の魔力の効果で、彼女の筋肉は強化されてあるのだ。
 
「ごめんなさぃ……」

 ぺこり、と謝るチタ。
 誰に対して? とボスが思っていると、トントンと肩を叩かれる。
 おそるおそる振り返ると、そこにいたのはラフロイグだった。

 ドガッ!

 ボスは殴られて、大きく吹っ飛んだ。
 ラフロイグの筋肉が膨れ上がっている。無の魔力を全開に放出していた。
 
「待ってくれ、ラフロイグ! 国を支配したら半分やろう! な? いい条件だろ?」
「バカ野郎!」

 ぶべらァァ!

 殴られたボスは、さらに吹っ飛んだ。
 すると本気になったらしい。ぐわぁぁ、と雄叫びをあげて立ち上がる。
 シャキン、と腰から剣を抜いた。ラフロイグも剣を抜き、一騎打ちになる。
 じりじりと両者の間合いが詰められていく。

 ザンッ!

 勝負は、一瞬だった。
 交差したラフロイグとボスは、互いに剣を振り切っている。
 グフッと倒れたのはボスの方だ。腹が切られている。出血がひどい。
 
「……強くなったなラフロイグ」
「守りたい仲間ができたからっす」

 剣の血を払ったラフロイグは、そのまま鞘に納める。
 それを見たデュワーズは、「かっこいい」と思っていた。
 いつも冗談ばかり言っているラフロイグは、ここにはいない。
 悪を許さない正義の味方が、ここに立っているのだ。

「大丈夫? 怪我はない?」
「うん……」

 ラフロイグはデュワーズの縄を解いた。
 そして仲間たちも解放する。泣きながら彼に抱きついた。
 
「ラフロイグ~! ありがと~!」
「さすが俺たちのリーダーだ!」

 泣くなよ、とラフロイグは苦笑いする。
 一方、ヤマザキはヒビキに、「回復してくれ」と頼んでいる。
 え? みんな無事だけど、と思って首を傾げるが、どうやら回復して欲しいのは盗賊たちの方らしい。

「どうするつもりですか? こんな悪党たち、死んでもいいのでは?」
「クールだね、ヒビキちゃん」
「だって、デュワーズちゃんを誘拐したんですよ! また悪いことをするに決まってます」
「まぁまぁ、いいから頼むよ。あとは俺が何とかするからさ」
「本当に……おじさんはゆったりしすぎです」

 しぶしぶ、ヒビキは盗賊たちを回復してあげた。
 あれ? なんで俺、生きてんだ? 
 という不思議な顔をする盗賊たち。ヤマザキは、ニコッと笑うと鞄を開けた。

「さあ、行こうか」
「え? あんただれ?」

 ボスの手を掴むヤマザキ。
 そして鞄の中にその手を入れた。アイテムボックスが発動。底なしの鞄の中にボスは収納されていく。

「うわぁぁぁ!」

 他の盗賊たちも同様だった。
 次々にアイテムボックスの中に収納されていく。
 みんなドン引きしていた。ヒビキは質問する。

「その人たちをどうするんですか? その中に入れたら、死ぬのでは?」
「たぶん死なないと思う。まぁ、こいつらには掃除でもさせとくよ」

 どこの? と思ったが、それよりもデュワーズの髪型が気になってしょうがない。
 当のデュワーズは友達と抱き合っている。

「大丈夫か?」
「……怪我はしてなぃ?」

 平気だよ、とデュワーズは笑った。

「助けに来てくれてありがとう」
「当然よ」

 ニッカは両手を腰に当て、「友達でしょ」とつけ足した。
 ちょっと偉そうだが、デュワーズが好きなことが伝わる。
 するとそのとき、少女の金髪がプルプルと動き出した。
 
 ポンッ!

 と髪は弾けて、元の縦巻きドリルに戻ってしまう。みんな爆笑した。
 ニッカは、ちょっと恥ずかしそうに髪を触る。

「何よ……」

 ヤマザキは満足そうな顔をしている。
 デュワーズに友達ができて、とても嬉しいのだ。
 そして、仲間たちに言った。

「よし! 今夜はバーベキューにしよう!」

 やったー! とみんな盛り上がるのだった。


 ◉

 
 わいわい、と河原でバーベキューをするヤマザキたち。
 かんぱーい! とそれぞれ飲み物を持ちあげた。
 ぱちぱちと燃え盛る焚き火。タレをつけた串肉を焼くのは、ヤマザキとラフロイグたち、それとジョニだ。

「ヤマザキさん」
「ん?」
「さっそくバーベキューを開いてくれて、ありがとうございます」
「ああ、楽しもうぜ」
「はい! あ、ハニィ様、今日は特別ですよ~」

 うるさい! 女王に命令するな!
 と、ハニィはぷんぷん怒る。そしてデュワーズたちと、ガールズトークに花を咲かせた。

「デュワーズの髪はさらさらだな」
「えへへ、お父さん譲りだよ」

 今まで男として生活していたから、このように女性として暮らせることが、無性に楽しいのだ。

「うまい! なんだこの白い飲み物は?」
「それはカウカウのミルクだよ」

 デュワーズは、なみなみとミルクをコップについだ。
 それをハニィは飲んで、「ぷは~」と感動していたのだ。
 チタとニッカは聖女様であるヒビキに夢中だった。

「光魔法、すごぃです……」
「ヒビキさんなら魔法学校の先生になれそう」

 ニッカの提案に、「いや、私なんて……」と謙遜する。
 そこへ、ヤマザキたちが料理を持ってきた。ドン! と脂ののったジュシーな串焼き、それにサラダやパンなどがテーブルに置かれ、とても豪華である。
 さあ、パーティの始まりだ。
 いただきまーす!
 みんなで騒いで、食べて、飲んで、すごく楽しい夜を過ごした。星空も綺麗だ、
 
(まるで天国だなぁ……)

 ラフロイグは泣きそうだ。
 いや、もう泣いている。
 今まで、散々悪いことをしてきた。この手で……。
 だが今、目にしている光景はどうだ。仲間に囲まれ、食事を楽しんでいる。特に女性陣たちが目の保養すぎて、素晴らしい。
 
(ヒビキちゃん、デュワーズ、その友達のニッカ、チタ、それにハニィ様、みんな可愛すぎだろ!)

 天国には女神様がいるらしい。
 だが、もうここが天国と言ってもいいくらい幸せな光景が目の前にある。
 当然、ラフロイグの仲間もデレデレしていた。というか、ほぼ召使いみたいに動いている。
 串焼きが少なくなったら焼く。
 飲み物を追加し、焚き火の管理をする。
 元盗賊の彼らにとって、仲良く女性と関われること自体が奇跡なのだ。
 するとラフロイグのそばに、デュワーズが寄ってきた。少し顔が赤いのは、気のせいだろうか。

「ラフロイグ……」
「ん?」
「あの、その……助けてくれて、ありがとう」
「お、おう」
「カッコよかったよ……」

 そう言って、デュワーズは女性陣の中に戻っていく。
 そしてチタとニッカと抱き合って、キャーキャーと騒いでいた。さらに、チラッとこちらを見られる。

(え? なに?)

 ラフロイグの心は、甘酸っぱい気持ちで溢れてしまう。学校に通っていない彼にとって、これが初めての青春であった。

「デュ、デュワーズ……か、可愛いすぎる……」

 一方ヤマザキは、ジョニにパスタ料理を教えていた。トマトの甘味がたっぷりのナポリタンだ。
 完成したので、みんなに食べてもらう。

「おぃしぃ……」

 娘のチタに褒められ、ジョニはガッツポーズをした。みんな微笑ましい空気に包まれる。
 楽しい時間はすぐに過ぎていく。
 焚き火の炎が小さくなり、そろそろお開きだ。
 バイバーイ、またやろう、と手を振って別れ、みんなそれぞれの帰路につく。
 ヒビキとデュワーズはともに帰り。ヤマザキとラフロイグたちは、せっせっと片付けをしていた。
 ハニィとジョニはチタとニッカを連れて、ゆっくりと橋の上を歩く。まだバーベキューの楽しかった余韻が残り、肌をかすめる初夏の風が心地よい。
 橋から眺める街の夜景はとても綺麗で、紫娼館やハイランド城の明かりが輝いていた。
 夜行は初めての経験なのだろう。
 チタとニッカは手を取りあって、楽しそうにはしゃぐ。
 と、そのとき。ニッカは橋の上で、「おや?」と見憶えのある男性を発見した。大きな鞄を抱えているのが気になる。
 よく見ると、父親のブラックだった。
 ニッカは走って父親に近づく。
 ハニィとジョニとチタは、ちょっと離れて父と娘を見守ることにした。

「ニッカ!」
「お父様? どうしたのですか?」
「脅迫状が届いていたんだ。ニッカが誘拐されたと……ああ、無事でよかった」
「……助けてもらったのよ」
「誰に?」
「道具屋のおじさん」

 道具屋? とブラックは聞き返す。
 ニッカは笑顔で答えた。

「ヤマザキさんよ」
「そうか……やはり彼は人格者だ。是非ともニッカをお嫁さんにしてもらいたいな~」
「はぁ? 嫌よ、あんなおじさんと結婚するなんて!」
「そう言うな。父はヤマザキさんが気にいってしまったのだ……よし、まずは婚約者がいるか聞いてみよう」
「もう、やめてよ~」

 今夜は家族会議だろうな。 
 と、その光景を見ているジョニは思った。
 チタは、「おじさんと結婚……」と妄想してニヤニヤしている。
 その一方で、ハニィは複雑な心境であった。
 なぜならニッカは十四歳。この異世界では二十歳のハニィよりも遥かに若いニッカの方が、とても結婚しやすい年頃の娘なのだ。ふつうに負けた気がしてしまう。

(また恋のライバルが……) 


 ◉

 
 次の日の朝。
 ヤマザキは農業用の倉庫で一人、魔導具を作っていた。
 麦を収穫する魔導具・コンバインだ。
 刈り取り部の回転ヘッダ、刃、チェーン、脱穀部のロータ、落ちた実をためるタンク、排出部の筒、足回りのホイール、外装は金属粘土スティックで制作。タイヤはゴムゴムスライムの素材を使用。動力には無と風の魔石を装着した。
 だが、まだ完成はしていない。
 操作をどうするか困っていた。なぜなら異世界の人は車を運転したことがないからである。

(異世界の人が運転できなきゃ意味ないよな。いつか俺は日本に帰るし……)

 と、思っているのだ。
 そうは言っても、やはり丸ハンドルと足元のアクセルとブレーキで操作する方法しか考えられなかった。
 ふと頭をよぎるのは、ヒビキの光魔法だ。彼女は見たものを保存できた。もしかしたら、光の魔石があれば自動運転も可能ではないだろうか。
 いやいや、と首を振る。
 今、手元に光の魔石がない。
 現実的にも、ここはやはり車のような操作性にしよう。とヤマザキは判断した。

「もう朝か……」

 徹夜してしまった。
 つい、作業に没頭してしまい寝るのを忘れていたのだ。
 するとそのとき、倉庫の扉が開く。
 ヒビキだ。朝食を持って来てくれた。メイド服を着ている。可愛い。

「おじさん、いっしょに食べましょう」
「お! ヒビキちゃんありがとう」

 厨房から選んで持って来たのだろう。
 ヤマザキの好きなトマトサンドイッチと温かいスープだ。二人は美味しく食べた。
 子どもが苦手だったヤマザキだが、顔を合わせれば、ニコッと笑ってくれるヒビキを見て思う。
 
(あれ? 俺ってふつうに子どもと話せてる……異世界に来てよかった~)

 で、泣いてしまう。
 ヒビキは、ふつうに引いていた。
 
「……え? なぜ泣いてるんですか?」
「いや、女子高生と話してると思ったら、急に泣けてきた……」
「キモっ……あ、そう言えば盗賊たちはどうなったんですか?」
「ああ、もうアイテムボックスから出したよ」
「まるでゴミみたいに言いますね。どこに出したのですか?」
「アイラ神殿だ。今頃、バスカーにこき使われているだろうよ」
「……修行僧にしたんですね」
「ああ」

 一方その頃、アイラ神殿では……。
 清々しい青空に向かって、歌声が響いている。聖職者たちが女神を讃える歌をうたっていたのだ。
 神殿の中央にある女神の石像は、優しく微笑んでいる。
 そんな中に怒声が反響した。バスカー教皇だ。

「悪いことをしたおまえたちは、生まれ変わるのだ! まずは掃除をして反省しろ!」

 はい! と神殿の汚れた床を雑巾がけする盗賊たち。いや、今はもう聖職者の見習いか。
 いつか彼らの罪が許され、まっとうな人間になれるようにと、ヤマザキがバスカーに頼んでいたのだ。

「ううう……もう一生悪いことはしねぇよ……」

 ボスは泣きながら掃除をする。
 もうここに盗賊はいない。聖職者たちの歌声はレクイエムとなって、空高く響き渡るのであった。
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