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しおりを挟むゆらめく照明が灯る、薄暗い地下室。
恐怖の監禁室から脱出したアリスは、物音を立てないよう忍び足しで廊下を歩いていた。
自分の代わりに拘束したレミの声は、廊下に響いてはいない。和室は完全に防音されているようだ。
「大声でケイトを読んでも無駄なわけですわ……」
さて、これからどうする?
ケイトを探しにいくべきか……。
だがその前に、この場所がどこなのか調べた方がいい。
そう考えつつ前を向く。
まっすぐな廊下だ。階段はない。車椅子が移動するためだろう。滑らかなスロープが地上へと伸びていた。
手前に扉のない部屋がある。
立ち止まり中を覗いた。
誰かいる。
藤城ダイゴだ。
廊下からダイゴの丸くなった背中が見える。
彼は白衣を着て、手術の準備をしていた。
机の上にメスなどの手術器具などを並べている。
「……!?」
アリスは、わっと叫びそうになったが声を殺した。
手術台にいる晴子を見つけて驚愕したのだ。
彼女はゴーグルをしている。
ダイゴはそのゴーグルを調整し、モニターで接続できているか確認をしていた。
和室で見た映像の通りだ。
リンカネーション・プロジェクト、人智を超えた転生が、ここで起きている。
「問題なし……」
ダイゴの独り言だ。
すべてが順調、いつも通り。
あとはレミが受肉となるアリスを連れてきたら、頭部に受信装置となるチップを埋め込む手術するだけ。
そうすればまた新しいマリオネットが完成する。
ダイゴは恍惚とした表情を浮かべていた。
そんな彼の背後を通り過ぎる白い影。
アリスだ。
サッと廊下を駆け抜け、スロープをあがっていく。
突き当たりの壁に取っ手がある。地上へと繋がる隠し扉のようだ。引いて開けてみる。
おそるおそるアリスは、そっと顔を出した。
「よかった……藤城家ですわ……」
息を吸って、大声でケイトを呼ぼうとしたが、やめた。
彼のことを信じていた。
愛してる、と告白もしてくれた。
だが、あれは嘘だったかもしれない。
すべては、私を藤城家に連れてくるための嘘……。
ふぅ、ため息を吐くアリス。
信じていたが、やっぱり無理だ。
彼の本性を知る必要がある。
アリスは、さらに忍び足で歩き、階段を上った。
ケイトの部屋を覗いてみよう。
いや、ケイトだけじゃない。家政婦と執事の正体も知りたくなった。
扉を開けるため手を伸ばす。
ゆっくりと開け、中を覗く。
照明は消えていた。窓から射し込む月明かりを頼りに部屋を移動する。
家政婦がベッドで寝ていた。
起こさないようアリスは近づき、家政婦の頭を注目する。
やはりカツラのようだ。微妙に頭皮がズレていた。
家政婦は熟睡している。
じわじわとカツラを取ってみた。
「!?」
チップがあった。
チップが頭に埋め込まれている。
外したらどうなるのだろうか?
家政婦が元の人間に戻ることを期待して、アリスは頭からチップを取った。
「……」
しかし家政婦はぴくりとも動かない。
熟睡したまま、すこやかな寝息をたてている。
わざわざ起こすこともないだろう。アリスは部屋を出た。
次はケイトの部屋だ。
思い出すのは昨夜のレミの話、ケイトの部屋は容易く覗けるらしい。
たしかにケイトの部屋は、ラブホテルの部屋のように扉を開けても中が見えず奥まっている。
アリスは、静かに扉を開けた。
部屋の電気がついている。ケイトがいるようだ。忍足で部屋の中を進む。右に折れ曲がった先が、ケイトの主寝室……。
いた。
ケイトだ。
とてもリラックスしてソファに座っている。彼の姿勢は、ちょうどアリスから背を向けた形となり、いじくっているスマホの画面が見えた。
その画面を覗いたアリスは、わなわなと震えるほど驚愕してしまう。
この画像には見覚えがある。
ケイトは、手慣れたように女性たちのプロフィールを閲覧していた。
そう、それはケイトと恋人になったきっかけのマッチングアプリだ!
ケイトの頭の中が透けて見える。
次のターゲットとなる女性を探しているのだ。アリスのように騙されて、藤城家にほいほいついて来るマヌケな女性を。
そんな彼は無警戒に、テーブルに置かれた洋菓子に手を伸ばし、口の中に放り込む。
もうアリスは終わったのだ。
アリスは完璧な受肉となった、と彼は思い込んでいる。
思わず、アリスは涙をこぼす。
残念ながらケイトは黒だ。
これで彼氏とはお別れ。
初めてできた彼氏だった。
イケメンで、笑顔が素敵で、ちょっと上から目線だけど憎めない……。
彼の良いところをいっぱい知っている。だけど、このような犯罪は容認できない。
組織的に誘拐を繰り返し、倫理を超越した人体操作という悪魔的な儀式をしているのだから。
逃げよう……。
息を殺してアリスは、踵を返し部屋を出る。扉は開けたままだ。
頭の中で、藤城家を脱出するにはどうしたらいいか考える。
その結果、ガレージに進んだ。
車を盗もうと考えた。運よく棚に鍵が置いてあるままだといいのだが……しかし、その前に自分の荷物を回収したい。
どこにあるのだろう。
そっとリビングに顔を出す。
「不幸中の幸いですわ……」
ダイニングテーブルにアリスの荷物があった。スマホもある。
まるでゲームのような展開だ。アリスは荷物を手に入れ、ガレージに向かう。
だが次の瞬間! 目の前にシズカが現れた。
すぐに彼女は懐中時計の蓋を開けて、アリスに突きつける。
カチカチカチ……
しかし、アリスはケロッとしている。
なぜだ? と驚愕したシズカは、アリスに迫る。
「催眠術を克服したの? そんなのありない!!」
ん! ん! とシズカは狂ったように懐中時計をアリスに見せつける。
だが、まったく無効だった。アリスは、ぎゅっと拳を握りしめ、
「お母様と仲直りができたこと、そのお礼をいたしますわ……」
重いボディブローがシズカの腹に入る。
元悪役令嬢だったアリスは、幼少期に格闘技の経験があるのだ。
「ぐへっ……」
ドタッと倒れるシズカ。
優雅に髪をかきあげるアリスは、耳からイヤホンを取って、ケースにしまう。
催眠術を克服したわけではない。
ノイズキャンセリグで耳に入ってくる雑音を遮断していたのだ。
その結果、アリスの耳に懐中時計の音は入らず、催眠術にかからない。
「ざまぁ、ですわね……」
土下座みたいな姿勢のシズカを見下すアリスは、颯爽とガレージへと向かう。
すると、ガチャ、ガチャ、と鈍い金属音が聞こえてきた。
キッチンの奥からだ。
執事が筋トレをしているのだろう。
ガレージに入ったアリスは、カチっと電気をつける。
棚に鍵があるはすだ。アリスは速攻で調べた。
「ありましたわ!」
鍵を奪い。
ガレージのシャッターを開けるボタンを押す。昼間、ケイトが洗車しているときに操作を見て覚えておいたのだ。
ガタガタガタッ!!
大きな音を響かせてシャッターが上がっていく。
まずい、とアリスは直感した。
すぐに解錠した車に乗り込み、エンジンを起動させる。
しかしシャッターが完璧に上がっていない。
今、発進したら車を削ってしまうだろう。
「はやく、はやく開くのですわ~!!」
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