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エピローグ
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「ん? なんだ?」
部屋でマッチングアプリの女性を物色していたケイトは、ガガガガとシャッターが開く音に気がついた。
嫌な予感がする。
アリスの監禁に成功したが、何か不具合が起きたのか?
藤城家の悪魔儀式において、ケイトの役割は受肉の運び屋。出会って即拘束する妹のレミと違い、ケイトの運び方は慎重に受肉を選ぶ結婚詐欺が主体であった。
よって、ケイトの受肉の方が知性と品格があり高額で売れていた。
だが今回、アリスを受肉に選んだことは失敗だった。
なぜなら彼女は元、悪役令嬢であったのだから。
「おーほほほほ! 出発ですわー!」
シャッターが開く。
夜の森の静けさに車のライトが照らされる。
アリスがアクセルを踏むと車が、ブンと発進した。ゆるいカーブを描き、藤城家の庭を走り抜ける。
ふぅ、何とか逃げることができた。
とアリスが安心した瞬間、バンッ! と爆発する音が響いた。
タイヤが破裂し、車が制御を失う。
執事が猟銃で撃っていたのだ。
「きゃああ!」
叫ぶアリスの握るハンドルは暴走し、車は桜の木に激突して止まった。
するとエアバックが開き、その衝撃でアリスの意識が薄れていく。
「う……」
逃げなきゃ。
だが、身体が思うように動かない。
迫り来る執事の黒い影。
ガチャ、車のドアが開かれた。
猟銃を桜の木に立て掛けた執事は、アリスを車から引っ張り出して背負い、
「お転婆なお嬢様だ……」
と吐き捨て、家へと運ぶ。
だんだん意識を取り戻してきたアリスは、執事の頭を調べた。
やはり頭皮とのズレがある。カツラだ。
アリスは思いきって執事のカツラを取り、額のチップも外した。
「貴様ぁぁああ!!」
執事は大きな声を出す。
身体のコントロールを失ったようだ。執事はぎこちない動きで、ドサッとアリスを落とした。
「いててて、ですわ……」
尻餅をついたアリスは立ち上がる。
そして手の中にあるチップを、ポイっと捨て、まるで氷のような瞳で執事を、いや、執事であったスキンヘッドの化け物を睨んだ。
「無礼者! お姫様抱っこをしないあなたは、執事ではありませんわ!」
「!?」
「あなたは藤城武志ですわ! さあ、本体に戻りなさい!」
「うわぁぁぁああああ!」
まるで狼のように吠える執事。
目を丸くさせて夜空を見上げた。
執事は、本当の自分を取り戻すことができたのだろうか。
彼の力は抜け、大粒の涙を流している。
アリスは近づき、耳元で囁いた。
「お願いがありますわ。藤城家のメイドも意識を取り戻しているはずですわ。助けてあげてもらえるかしら?」
「……」
ぼーとしていた執事は、ふいに動き出しカツラを拾うとかぶり、桜の木に立て掛けてある猟銃を手にした。
アリスに銃口を向けるかと思えば、そうはせず、桜の木の影に向かい、闇の中に溶けていく。
正気に戻ったのだろうか?
それとも……。
とアリスが思っていると、こちらに歩いてくる人物がいた。
ケイトだ。
桜の木に激突している車を見て、「マジか……」と愕然としていた。
「アリス……君がこれをやったのか?」
「ええ、私が事故を起こしました……それよりケイト、あなたは今までどこにいらしたのですか?」
「俺は部屋で寝ていた。アリスこそどこにいたんだ? 洗濯した服を取りにいって戻ってきたら、アリスはひとりで帰ったと家族が言っていたぞ」
「それは嘘ですわ! ケイト、あなたの家族は……人身売買をする犯罪家族なのですわ!」
ケイトは、ニヤッと笑った。
もうアリスは真実を知っている。ケイトの視線が、殺意となって彼女を捉えていた。
「アリス、どうやって地下室から抜け出した? 母の催眠術は完璧だったのに」
「それは……イヤフォンをして耳を塞いだのですわ。ノイズキャンセリング搭載ですの」
「ふふふ……ははははは!」
狂ったように笑うケイト。
ぞくっとしたアリスは、今にも襲いかかってこないか不安で、心臓が破裂しそうだ。
「アリス、俺の受肉となれ……」
「……」
「愛している。俺とひとつになろう、アリス……」
「い、嫌ですわ……」
「来るんだ、アリス!」
ケイトの手がアリスの腕を掴む。
アリスは必死になって抵抗する。
そのとき、暗闇から猟銃を持った執事が現れた。ケイトは執事に微笑んだ。
「おじいちゃん! 受肉を地下室に連れていくのを手伝ってよ!」
「……」
銃の力は絶大だ。
アリスは目の前の死の恐怖に耐えられず、力が抜けてしまう。
おわった……。
そう絶望した瞬間、ズドン! 銃声が響いた。
「お、おじいちゃん……な、なんで!?」
ケイトは腹を撃たれ、ドサッと倒れた。
執事は何も言わず、家の方へと歩いていく。どうやら受肉から解放されたようだ。
「ア、アリス……助けてくれ……」
這いつくばって血を吐き出すケイト。
救急車を呼んであげるべきか。
アリスが判断に迷っていると、ズドンと銃声が響く。
執事だ。
執事が藤城家族に銃口を向けていた。シズカの頭に一発、続いて地下でダイゴの顔面、さらにレミの眉間を撃ち抜き射殺していく。
そして猟銃を持ったまま家政婦を抱き上げ、闇深い森の中へと消えていった。
「ケイト……」
もう息をしていない。
アリスはケイトの死を見つめた。目を開けたまま死んでいる。瞼を閉じてやろうと手を伸ばした。
すると、遠くから車のライトが近づていくる。
じわじわと光りが眩しくなり、車は停止した。降りてきたのは大柄な男、ヒロだ。死体を見て愕然としている。
「お嬢……こいつが彼氏か?」
「そうですわ」
「お嬢が殺ったのか?」
「いいえ、違いますわ……正気に戻った執事が復讐を遂げたようです。それよりも警察に連絡しないと……」
アリスは家へと歩き出す。
ふーん、とだいたいの状況を把握したヒロは、「ほら言っただろ」と彼女の後を追った。
「だからイケメンを彼氏にするなって、彼氏にするなら俺みたいなブサイクにしろ」
アリスは、ふっと笑った。
非現実で散々な目にあったが、ヒロの間抜けな顔を見て、温もりのある現実が戻ってきたようだ。
「はい、そうですわね。ですが、私を助けに来てくれるヒロさんは、ブサイクではありませんわ」
「ほう……じゃあ、俺といっしょにペットサロン開業してくれるか?」
うーん、と考えてからアリスは答えた。
「はい、ですわ」
部屋でマッチングアプリの女性を物色していたケイトは、ガガガガとシャッターが開く音に気がついた。
嫌な予感がする。
アリスの監禁に成功したが、何か不具合が起きたのか?
藤城家の悪魔儀式において、ケイトの役割は受肉の運び屋。出会って即拘束する妹のレミと違い、ケイトの運び方は慎重に受肉を選ぶ結婚詐欺が主体であった。
よって、ケイトの受肉の方が知性と品格があり高額で売れていた。
だが今回、アリスを受肉に選んだことは失敗だった。
なぜなら彼女は元、悪役令嬢であったのだから。
「おーほほほほ! 出発ですわー!」
シャッターが開く。
夜の森の静けさに車のライトが照らされる。
アリスがアクセルを踏むと車が、ブンと発進した。ゆるいカーブを描き、藤城家の庭を走り抜ける。
ふぅ、何とか逃げることができた。
とアリスが安心した瞬間、バンッ! と爆発する音が響いた。
タイヤが破裂し、車が制御を失う。
執事が猟銃で撃っていたのだ。
「きゃああ!」
叫ぶアリスの握るハンドルは暴走し、車は桜の木に激突して止まった。
するとエアバックが開き、その衝撃でアリスの意識が薄れていく。
「う……」
逃げなきゃ。
だが、身体が思うように動かない。
迫り来る執事の黒い影。
ガチャ、車のドアが開かれた。
猟銃を桜の木に立て掛けた執事は、アリスを車から引っ張り出して背負い、
「お転婆なお嬢様だ……」
と吐き捨て、家へと運ぶ。
だんだん意識を取り戻してきたアリスは、執事の頭を調べた。
やはり頭皮とのズレがある。カツラだ。
アリスは思いきって執事のカツラを取り、額のチップも外した。
「貴様ぁぁああ!!」
執事は大きな声を出す。
身体のコントロールを失ったようだ。執事はぎこちない動きで、ドサッとアリスを落とした。
「いててて、ですわ……」
尻餅をついたアリスは立ち上がる。
そして手の中にあるチップを、ポイっと捨て、まるで氷のような瞳で執事を、いや、執事であったスキンヘッドの化け物を睨んだ。
「無礼者! お姫様抱っこをしないあなたは、執事ではありませんわ!」
「!?」
「あなたは藤城武志ですわ! さあ、本体に戻りなさい!」
「うわぁぁぁああああ!」
まるで狼のように吠える執事。
目を丸くさせて夜空を見上げた。
執事は、本当の自分を取り戻すことができたのだろうか。
彼の力は抜け、大粒の涙を流している。
アリスは近づき、耳元で囁いた。
「お願いがありますわ。藤城家のメイドも意識を取り戻しているはずですわ。助けてあげてもらえるかしら?」
「……」
ぼーとしていた執事は、ふいに動き出しカツラを拾うとかぶり、桜の木に立て掛けてある猟銃を手にした。
アリスに銃口を向けるかと思えば、そうはせず、桜の木の影に向かい、闇の中に溶けていく。
正気に戻ったのだろうか?
それとも……。
とアリスが思っていると、こちらに歩いてくる人物がいた。
ケイトだ。
桜の木に激突している車を見て、「マジか……」と愕然としていた。
「アリス……君がこれをやったのか?」
「ええ、私が事故を起こしました……それよりケイト、あなたは今までどこにいらしたのですか?」
「俺は部屋で寝ていた。アリスこそどこにいたんだ? 洗濯した服を取りにいって戻ってきたら、アリスはひとりで帰ったと家族が言っていたぞ」
「それは嘘ですわ! ケイト、あなたの家族は……人身売買をする犯罪家族なのですわ!」
ケイトは、ニヤッと笑った。
もうアリスは真実を知っている。ケイトの視線が、殺意となって彼女を捉えていた。
「アリス、どうやって地下室から抜け出した? 母の催眠術は完璧だったのに」
「それは……イヤフォンをして耳を塞いだのですわ。ノイズキャンセリング搭載ですの」
「ふふふ……ははははは!」
狂ったように笑うケイト。
ぞくっとしたアリスは、今にも襲いかかってこないか不安で、心臓が破裂しそうだ。
「アリス、俺の受肉となれ……」
「……」
「愛している。俺とひとつになろう、アリス……」
「い、嫌ですわ……」
「来るんだ、アリス!」
ケイトの手がアリスの腕を掴む。
アリスは必死になって抵抗する。
そのとき、暗闇から猟銃を持った執事が現れた。ケイトは執事に微笑んだ。
「おじいちゃん! 受肉を地下室に連れていくのを手伝ってよ!」
「……」
銃の力は絶大だ。
アリスは目の前の死の恐怖に耐えられず、力が抜けてしまう。
おわった……。
そう絶望した瞬間、ズドン! 銃声が響いた。
「お、おじいちゃん……な、なんで!?」
ケイトは腹を撃たれ、ドサッと倒れた。
執事は何も言わず、家の方へと歩いていく。どうやら受肉から解放されたようだ。
「ア、アリス……助けてくれ……」
這いつくばって血を吐き出すケイト。
救急車を呼んであげるべきか。
アリスが判断に迷っていると、ズドンと銃声が響く。
執事だ。
執事が藤城家族に銃口を向けていた。シズカの頭に一発、続いて地下でダイゴの顔面、さらにレミの眉間を撃ち抜き射殺していく。
そして猟銃を持ったまま家政婦を抱き上げ、闇深い森の中へと消えていった。
「ケイト……」
もう息をしていない。
アリスはケイトの死を見つめた。目を開けたまま死んでいる。瞼を閉じてやろうと手を伸ばした。
すると、遠くから車のライトが近づていくる。
じわじわと光りが眩しくなり、車は停止した。降りてきたのは大柄な男、ヒロだ。死体を見て愕然としている。
「お嬢……こいつが彼氏か?」
「そうですわ」
「お嬢が殺ったのか?」
「いいえ、違いますわ……正気に戻った執事が復讐を遂げたようです。それよりも警察に連絡しないと……」
アリスは家へと歩き出す。
ふーん、とだいたいの状況を把握したヒロは、「ほら言っただろ」と彼女の後を追った。
「だからイケメンを彼氏にするなって、彼氏にするなら俺みたいなブサイクにしろ」
アリスは、ふっと笑った。
非現実で散々な目にあったが、ヒロの間抜けな顔を見て、温もりのある現実が戻ってきたようだ。
「はい、そうですわね。ですが、私を助けに来てくれるヒロさんは、ブサイクではありませんわ」
「ほう……じゃあ、俺といっしょにペットサロン開業してくれるか?」
うーん、と考えてからアリスは答えた。
「はい、ですわ」
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あっという間に読了しました。読みやすくコメディタッチなのが良いですね。
もっと長編で書いたら良かったかなという印象と、お嬢様バズのオマージュなんですかね? 素手で戦うお嬢様という(笑)。楽しめました。
ありがとうございます!
はい、主人公は初め男だったんですけど、壱百満天原サロメが好きなので、お嬢様にしてみました。やっぱり最後は拳でっ!笑
まだ序盤ですが、なかなかヤバい奴らが出てきそうでワクワクしますな(笑)。
読んでいくとホラー感ましましになって超ヤバいことになりますよ笑
いちゃいちゃしてたバカップルだと思ったらなんだかとんでもねぇ臭いがします笑
お楽しみくださいませ笑