土魔法で無双するVRMMO 〜おっさんの遅れてきた青春物語〜

ぬこまる

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4 マッチングクエスト④

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「よくぞ魔物を討伐してくれた! さあ、褒美を受け取るがよい」
 
 王様は嬉しそうに言う。
 周囲にいる騎士たちも拍手しているので、やってやったぞ感が城じゅうにあふれて、このまま祭りでも始まるんじゃないかってほどだ。
 ボスゴブリンを撃破した、俺、ヴェリタス、ミルク、モツナベは、強制的に城へ転移していた。すぐにみんなとは解散になると思ったが、褒美を受け取るところまで一緒にするなんて、なかなかこのゲームは親近感がわいてくるな。

【10,000P】

【雲の布団】

 褒美はこれだった。
 ポイントはわかるけど、雲の布団ってなんだ?
 ミルク、モツナベは嬉しそうに受け取っている。ヴェリタスは無表情だった。気になったので聞いてみる。

「ヴェリタスさん、雲の布団って何ですか?」
「……」

 沈黙のあと、テキストチャットが開かれる。

『きっと、ハウスで使用できるアイテムかと』
「ハウス?」
『家です。このゲームの世界では、自分の家が持てますから』
「へ~アパート暮らしの俺にとっては夢みたいだ」
『笑』

 ヴェリタスは、なぜかよく笑うようになった。
 あははは、なんて俺も笑っていると、ミルクが近づいてきた。

「ツッチーさん、もっとプロテルのことを勉強したほうがいいっすよ! マジであんた地雷っすから」
「プロテル?」
「プロジェクト・テルース! このゲームのことっす! んもう、あんたに教えっぱなしで疲れるっすよ~」
「あ、そっか、すいません」
『笑』

 俺とミルクのやり取りに、ヴェリタスは笑っている。
 その間にも王様は何か言っているようだが、まったく気にしないでいると暗転し、俺たちは街の噴水広場まで転移していた。

「ヴェリタスさん、もう少し魔物狩りしませんか?」

 モツナベが二次会みたいなノリで言う。
 続いてミルクが両手を広げ、

「ヴェリたそ~、いっしょにあそぼ~!」

 と、キュートなエルフを全面に出してきた。
 ヴェリタスは、そっと刀に触れて返事をする。

『三日月宗近のメンテナンスをしたいので、今日はやめておきます』
「そうですか、残念です」
「またね~」
『それでは、ありがとうございました』
 
 別れを告げたヴェリタスは、爽やかな風とともに姿を消していく。しかしその去り際に足を止めて、

『ツッチーさんもありがとうございました。助かりました』

 とコメントした。
 え! 照れる。
 ヴェリタスだけは俺の土魔法に気づいてたらしい。
 かたや、ガックリと肩を落としたままのモツナベのお尻を、ぱんぱんっとミルクが叩いた。

「振られたっすね」
「ああ」

 こいつら、VRMMOで仲間を求めてるのか?
 ふーん、何だかリアルも仮想世界も変わらないな、と思う。友達はかけがえのないものだ。会えなくなってから気づくこともある。

「今日は寝るわ、ミルクまた明日学校で」

 モツナベは、そう言って手を振った。

「あいよー」

 ミルクは笑顔で手を振ってから、チラッと俺の方を見てから、

「ふんっ」

 と、そっぽを向くと歩き出した。あーあ、完全に嫌われたな、俺。
 まぁ、気にしても仕方ない。ポイントも入ったし買い物でもして、俺もログアウトして寝るか。
 
「……」

 しかしながら、右も左もわからん。
 ここは商店街のメインストリート。
 あらゆる冒険者たちが歩き、会話をし、屋台で買い物をしている。久しぶりにゲームをしたせいだろう。何だか疲れた。頭が朦朧とし、目が霞んでくる。改めて俺はおじさんになったな、と痛感する。若い時は何時間ゲームしてようと、ぜんぜん平気だったのに。

「はー、もうログアウトして寝るか……」

 と、思ったが、ちょっと待て。
 セーブしないとまずいか? どこかの教会に入るとか? 宿屋で泊まるとか?
 うわぁ、考えるだけで疲れてきた。よいしょ、とりあえず、ここで寝てみよう。
 
「空が綺麗だな……」

 白い雲が、青い空のなかを流れていく。
 太陽の光にあたる建物の影が、刻々と時間とともに動き、白と黒のコントラストを美しく表現している。これがホログラムだと言われようと、今の俺にとっては美しい自然だと思う。周りにいる人間たちから、

「げっ、裸で寝てる!?」
「地雷だ、気をつけよう」
「キモっ」

 なんて言われているけど、もはやどうでもいい。
 ふと思う。ホームレスってこんな感じなんだろうか。この広い世界で身体を休める家もない、信頼できる仲間もいない、無条件で心配してくる親も、愚痴を言う会社の上司も、俺をバカにする同僚も、何もかもがいない。

「仮想世界って楽園だな……」

 あははは、と笑ってると、ぬっと誰かが俺の顔をのぞく。

「なにやってんすか? マジであんた地雷っすね」

 この声は、ミルク!
 ハッとして飛び起きた。

「ミルクさん! セーブってどうやるんですか?」
「はぁ? セーブ?」
「ああ、セーブできないからとりあえず寝てみたんだが……」
「ったく、よくもそんなイケボで間抜けなことが言えますね」
「え?」
「セーブは常に自動で保存されているから、自分でセーブしなくて大丈夫っす!」
「そっか、ありがとう、ミルクさん」
「どういたしまして、さよなら!」
「ちょちょちょ、ちょっと待って!」

 ミルクのスカートを引っ張ってしまう。やっちまった! でもパンチラのないゲームなんて欠陥だよな。うむ、いい眺めだ。

「きゃぁぁぁ! なにするんすかーっ!?」
「まだ質問が!」
「わかったからスカートをめくるなっ! パンツが見えるっす」
「すいません、すいません、ゲームを終了させたいときはどうするんですか?」
「メインコマンドを開いてログアウトすればいいっす、間違ってもマイクをオンしたログイン状態でゴーグルを外しちゃダメっすよ! 生活音がダダ漏れになるっすから」

 わかった、と言って納得した。
 やれやれ、と首を振るミルクは、スタスタと歩き出す。何気にこの人って親切だよな。ちょっと甘えちゃおう。

「ミルクさ~ん、10,000Pのいい使い道ない?」
「きゃぁぁ! なについて来てるんすか?」
「いやぁ、物知りのミルクさんなら、いい答えがあると思って」
「物知り……」
「はい、知識が豊富ですよね~すごい!」
「ま、まぁね~はっはっは~」
「なにを買ったらいいですか?」
「うん、ツッチーさんの場合は、服の装備っすね」
「ああ、やっぱりか~」
「こっちに来てください、初心者のための武器・防具・道具・魔導書がまとめて売ってる店があるっすから」

 ありがとう、と感謝しつつ、ミルクの後を追う。
 可愛い少女エルフ。
 笑顔で歩くその姿は、大勢の冒険者から注目の的になっている。周辺を見渡しても、大人のエルフはいても、少女のエルフはミルクしかいない。なぜだろう?

「ミルクさん、少女のエルフはきみしかいないようだけど、なぜですか?」
「ああ、亜種族は課金が必要っすからね! 幼女エルフたそ、をゲットするために、めっちゃバイト頑張ったっすから」
「そうなんですね、ところで、ってなに?」
「ちゃんって意味っす、なぜそうなったのか不明っすけど」
「じゃあ、ヴェリタスさんのことヴェリちゃんって呼んでたんですね」
「うん、可愛いっしょ」
「でも、ヴェリタスさんは男だから怒られますよ?」
「は? なに言ってんすか? ヴェリたそは、きっと女性です。しかもかなり綺麗なお姉さんだと思うっす」
「まじ?」
「まじっす! 僕の長年ネトゲをやってきた頭脳が、そう言ってます」
「すごい根拠ですね」

 そういうことか、だからモツナベは積極的にヴェリタスを誘っていたのか。
 ふむふむ、と納得しているとミルクは目的の店を指さした。

「ここっす」
「デカいな、まるでイオンモールだ」
「ツッチーさん、そういうこと言わないほうがいいっすよ、地元感、丸出しっすから」
「すいません」
「とりあえず服を……ってあんた! どこにいくっすかぁぁぁ!?」

 やべぇ、魔導書を売ってる店がある。
 なぜか魔法に惹かれるのだ。走り出した足が止まらない。

「店主! 土魔法の魔導書はありますか?」

 ひっ! と店主のおっさんはびっくりしていた。それもそうか、俺は裸の仮面男だから。

「土の魔導書は不人気でね、ほとんど仕入れてないんだ……」
「奥に一冊くらいないですか?」
「うーん、ちょっと待ってろ」

 店主が重たい腰をあげて、部屋の奥に消えた。
 腕を組むミルクは、ふーんと感心していた。

「こんなことあるんっすね、AIに交渉しても無視されると思っていたっす」
「言ってみるもんだ、本当によくできたゲーム……」
「まったくっす」

 しばらくすると、店主が埃まみれになって出てきた。

「ほれ、これしかなかった、ゲホゲホ」

 店のテーブルに、一冊の魔導書が置かれる。赤黒い古書からは、黒いオーラが放たれていた。簡単に言うと、カビ臭い。

【 金属を発見する魔法 メタリクム 10,000P 】

「何この魔導書、エグっ! 高いっすね~」
 
 と、ミルクが言うが、俺は買う気まんまんだ!

「これください!」
「まいどあり」

 店主から魔導書を受け取った。
 初めての買い物だ。とても満足してきたぞ。どうしたって顔がニヤける。今日はもういいや。ログオフして寝よう。頑張ったぞ、俺!

「気持ち悪っ……仮面の下で笑うと本当にヤバいっすよ?」

 ミルクは、ガッツリひいていた。
 もうログオフしようと、メインコマンドを開きつつ謝っておく。

「あ、すいません」
「それよりも王様からの褒美、ぜ~んぶ使うなんて、バカっすか?」
「あははは、俺はバカですよ、ミルクさん」
「?」
「なぜなら俺はおじさんだから泥臭く生きていくしか、もう道はないんです。装備を綺麗にしてオシャレをしたり、カッコつけて生きることに疲れちゃったんです」
「……おじさんってツッチーさん、あんたいったい何歳っすか?」

 ミルクの質問に答えると当時に、俺はメインコマンドからログオフボタンを押していた。

「33歳です」
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