土魔法で無双するVRMMO 〜おっさんの遅れてきた青春物語〜

ぬこまる

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23 クラフト⑨

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「カイト、ちょっとちょっと……あっちにピンクダイヤモンドがありますよ」

 カップル冒険者の彼氏だけ呼んで、こそこそっと耳元に話す。
 彼女のエミリアは、んしょ、んしょ、とスコップを使って穴掘りに夢中だ。その隙に、カイトは俺が指定した場所を掘って掘って掘りまくった。

「あった! エミリアちゃん見てくれ!」
「カイトくん、すごいわ! やっぱりあなたは強運の持ち主よ!」
「ああ、エミリアちゃんと出会えるなんて、俺は運のいい男だ」
「カイトくん……」
「エミリアちゃん、これで指輪を作ろう!」

 ぎゅっと抱き合うカップル冒険者。
 ピンクダイヤモンドを手に入れ、幸せの絶頂に達していた。俺の近くにきたミルクが、ぼそっと言う。

「土魔法のおかげっすよ……カイトってやつムカつくっす」
「いいんだ、秘密にしておこう」
「えぇ!? ツッチー、良い人すぎっすよ! そんなんだから彼女できないんすよ?」
「なんで彼女いないの分かるんだ?」
「やっぱいないんだ……」
「おい! ひっかけたな!?」
「あははは! ばぁ~か」

 くそっ、可愛くて怒れない。
 かたやモツナベは、ガツガツ採掘をしていた。強い陽射し、額には大量の汗。ツルハシを振るうたびに揺れる大きな胸が、ぷるんぷるん。うーん、目の保養になるなぁ。

「……で、素材は手に入った?」
「うん、だいたいね、でも硫黄だけがないっす」
「硫黄か……たしかにメタリクムで金属探知をしても……やっぱりないな」
「どうするっすか?」
「うーん、硫黄なら心当たりがあるから、いったん街に戻ろう」
「オッケー! じゃあワスレタの街に帰るっすか~おーいモツ~帰るっすよ~!」

 ワステタの街な。
 ミルクに呼ばれたモツナベは、宝石を箱いっぱい詰め込んでいた。サファイア、エメラルド、ルビー、かなり取れたようだ。そして、カップル冒険者たちと別れの時がきた。

「ツッチーくん、どうもありがとう!」
「ありがとうございました!」

 ぺこり、と頭を下げるエミリアとカイト。
 ここはゲームの世界だけど、人から感謝されるのは嬉しいな。しかし、ちょっと気になることがあった。ミルクが言っていたように、このカップルは現実の世界で会ったことがあるのか? という問題だ。聞いてみようかな。

「……あの、カイトさん」
「なんだい?」
「いや、何でもないです……お幸せに!」

 にっこりと笑うカップル冒険者。
 現実なんて知らん。ネット上のカップルだろうと、幸せならOKだ。俺たちは手を振って別れ、ミルクとモツナベは手を繋いで歩き出した。2人とも砂や石で汚れている。

「そう言えば、街に温泉があったっすね」
「お! 入ろうぜミルク!」
「うん、ツッチーもいきましょう!」

 ああ、と俺は答えた。
 鉱山を出て、街に戻る。俺は再びメタリクムで金属を探知した。よかった、予想は的中したようだ。温泉に硫黄の反応がある。ミルクとモツナベは温泉のある宿屋に入っていく。カウンターに、とても綺麗な若い女性が立っていた。看板娘なのだろう。

「いらっしゃいませ!」

 笑顔が素敵だ。
 娘の名前はシュリルと頭の上に書いてある。重要なモブキャラなのだろうか。モツナベはかなり娘のことが気に入ったようで、

「泊まろう! 俺が金を出すから」

 と言い出した。
 うん、とミルクと俺は了承した。夕飯の料理つきで一泊することにする。部屋はいっしょだった。ミルクとモツナベの見た目は女性だが中身は男だ。別に気にすることないだろう。

「さて、温泉に行って目当ての硫黄を探すか」

 ガラガラ、と脱衣所の扉を開ける。
 ミルクとモツナベは当たり前にように女湯へといった。あいつら、それが目的で女キャラにしているのかもしれんな。すごく羨ましい。

「お、ハウスと違って脱衣所は自由に動けるようだ」

 よし、硫黄はどこだ?
 しばらく探してみるが、どこにも見当たらない。再び土魔法メタリクムで探知する。なんと女湯の方に反応があった。幸い、ボイスチャットでミルクたちと繋がっているので指示を出してみよう。

「おーい、ミルク~モツナベ~」
「何すか?」
「どした?」
「女湯に硫黄があるはずだ、探してくれるか?」
「おけっす」
「了解」

 よしよし、俺は風呂でも入るか。
 さすがに風呂は自動で動くらしい。女湯をのぞいたらダメだからな。うーん、ますますミルクたちが羨ましいぞ。どうなってんだ、あっちで……? ん? 

「ミルク、もっとおっぱいを大きくしろよ」
「ヤダっすよ、少女エルフの貧乳こそ正義なんすから」
「はー、俺のおっぱいを見ろよ、ほらほら~」
「デカいっすね……」
「だろ~お湯に浮かんでるわ……やばっ!」

 キミたちエロすぎっ!?
 まったく、最近のガキはゲームでいろいろな経験をするのだろうか? まぁ、いいや、俺は風呂場から声を出した。

「おーい、硫黄は見つかった?」
「あったっすよ~脱衣所に」
「よかった、ありがとう」

 よし、これでハンドガンの素材がそろった。
 女キャラの仲間がいてよかったな。俺だけだったら、硫黄は手に入らなかった。あとはボビーの工房に持っていって銃を製作してもらうだけだ。おっと、その前に金塊を盗品商のところへいって換金しないとな。いくらになるだろう? 黒装束ナイトメアも買えるといいけど。

「はぁー、それにしても……お風呂きもちいぃ~」

 ちゃぽん、と湯に浸かって最高の気分を味わった。
 温泉から出て、部屋に戻る。ミルクとモツナベが後から入ってきた。

「はぁー、いい湯だった~現実世界のストレスがふっ飛んだぜー!」
「本当っすね~あ! ツッチーに金属をあげなきゃ」
「そうだな」

 ミルクとモツナベから金属を受け取る。
 これでハンドガンの素材がすべて集まったぞ。俺たちは、イェーイ! とハイタッチした。すると部屋に料理が運ばれてくる。夕飯は肉料理だった。俺たちは食べながら話すことにした。

「これでツッチーもメインクエストをやれるっすね!」
「チャプター3になったら絶対に言えよ! 俺とミルクだけじゃあ勝てない敵がいるんだ」

 そのことなんだけど、と俺は言った。
 ちょっと引っかかることがある。ヴェリタスとメインクエストをやる予定なのだ。思い返せば、マッチングクエストで出会った4人が再開することになる。これは奇跡だろう。ミルクが俺の顔をのぞき込んでいる。

「ツッチー、どうしたっすか?」
「ヴェリタスもいいかな? いっしょにメインクエストをやる予定なんだ」

 ええぇぇ!?
 
 ミルクとモツナベはびっくり。
 俺の顔に迫ってくる。ち、近いってば。

「ヴェリたそとメインクエストできるなんて最高っす!」
「どういうことだ! 詳しく教えろ!」

 モツナベにヴェリタスのことを話した。 

「クソが、日曜はデートだな……羨ましいぜ、この野郎」
「きゃぁぁああ! ヴェリたそは絶対にツッチーに気があるっすよ~このこの~」
 
 ないな、と俺は言う。
 俺はおっさんだぞ。女子高生が俺のことを好きになるなんて絶対にない。しかし、ミルクは引き下がらない。

「黒装束ナイトメアを装備していくっす! 裸でデートするなんて絶対にダメっ!」
「まぁ、ポイントが足りたら……」
「じゃあ、金塊を売りにいくっすよ!」
「待て待て、一泊してからにしよう」
「そうだぞ~ミルク~すやすや……」

 もう寝てるー!!
 モツナベは雲の布団を敷いて寝ていた。本当にマイペースなやつだな。俺とミルクも雲の布団を敷いて寝た。そして、すぐに翌朝になる。宿屋から出るところで看板娘のシュリルに会った。彼女はニコッと笑って、

「昨夜はお楽しみでしたね、いってらっしゃいませ!」

 と言った。
 あはは、と俺とミルクが笑っていると、モツナベはシュリルに近づいて口説きだした。

「今度は俺と楽しいことしようぜ」
「えっ?」
「1人で泊まりにくるからさ、な、いいだろ?」
「で、でも……」

 モブキャラ口説いてる、この人……。
 するとそのとき、ぽっちゃりした男性がモツナベに近づき、

「いってらっしゃいませ、お客様」

 と圧をかけてきた。
 男性の頭にはカルドスとある。彼も主要なモブキャラのようだ。手にはほうきを持っている。ササッと掃除される形で、モツナベは店から追いやられた。シュリルはカルドスに微笑んで、

「ありがとう」

 と言う。
 頬を赤く染めるカルドスは、すぐに下を向いて掃除を再開させた。ミルクは悟ったような顔をする。

「ははーん、ぽっちゃりくんは看板娘ちゃんのことが好きっすね」
「なんで分かる?」
「何となくっすよ」

 ふふん、と鼻を鳴らして店を出るミルク。
 モツナベは空を見上げていた。ちょっと泣きそうになっている。

「モブキャラにも振られたっすね」
「ほっとけ……」

 手を繋いで歩き出すミルクとモツナベであった。
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