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25 サイドクエスト 砂の告白 1
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[ フルゴル商店街 メインストリート ]
ぶらぶらと仮想世界を独り歩く。
現実世界の時間は木曜の午後8時。ミルクはバイト、モツナベは塾、マクドは筋トレをやるらしい。ん? この感情はなんだ? これは寂しいというやつじゃないか?
「……あれ?」
いつの間にか俺は、友達を求めている。
この仮想現実というVRMMOの世界で、顔や名前といった素性も知らない人のことを考えるようになっている。思い返せば、絵を描くことをやめた俺の趣味は、酒と料理くらい。仕事やって風呂入って、飯食って寝る。そんな毎日。日常に人間関係がなかった。家族、友達、彼女、そういったものが無いのだ。いや、正確に言うと家族や友達は遠くに住んでいて会えなくて、彼女は勇気がなくてできないだけだ。
「そう、勇気が無いだけ……」
ふと考える。
ヴェリタスは強い。踊るように剣を振り、凄まじい必殺技で魔物を倒していた。逆に俺はどうだ? 土魔法で罠にかけて魔物を倒している。まるで暗殺者だ。笑ってしまうくらい卑怯すぎる。
「きっと俺は足手まといになっちゃうな……」
道具屋の前で立ち止まる。
キャンプでもするか。俺は店主に話しかけ、テント、ライター、焚き火用の薪、柔らかい豚ロース、上質な牛肉、鶏のもも肉、ニンニク、玉ねぎ、レタス、トマト、美味しい水、コーヒー粉末、鉄の鍋、鉄のカップ、塩、胡椒、油などの調味料を注文する。合計で12,000ポイント支払い。残りの資産は8,000ポイントになった。
「強敵がいるところがいいな……シムクル砂漠でキャンプしよう」
噴水広場のマーキングから、ワステタの街に移動する。
ああ、太陽が眩しい。フルゴルの爽やかな気候から一変、カラッとした乾燥地帯になる。さて、遺跡にでも行こう。と歩き出したが、何やら町の様子がおかしい。わー! きゃー! と住民たちが悲鳴をあげている。奇妙だな。他の冒険者たちがいない。これは何かのイベントが発生したのか? ん?
ゴゴゴゴゴ……
大地が揺れている。
この揺れは、遺跡で起きた地震と同じ!?
「蛇神様の祟りじゃー!!」
杖を持った老婆が叫んでいる。
広場に人が集まり、血だらけの商人が手当てを受けていた。
「仲間がヘビに食われた……恐ろしい巨大なヘビに……」
商人は、ガクブルに震えている。
広場の中心にはヘビの石像があり、それを見つめる住民はおびえだした。
「言い伝え通りになったな……」
「蛇神様が眠りから目覚めたんだ!」
「どうなるの? ぼくたち?」
小さな子どもの質問に、大人たちは黙る。
恐ろしい沈黙を破ったのは、ガンガンと大地をうがつ杖の音。老婆だ。
「砂の津波がくるぞぉぉおお! 蛇神様の祟りじゃー!!」
びえーん、と子どもは泣き出した。
大人たちも泣きそうだ。さらに老婆はデカい声で脅してくる。
「こーのままでは砂漠の街は終わるぅーっ! こ、の、ま、ま、ではーっ!!」
な、何なんだよ?
すると震えながら住民たちが声をあげだした。
「生贄だ……」
「そうだ! 伝承の通り生贄を捧げて蛇神様の怒りを封じなければ!」
「でも、生贄は誰にする? 俺は嫌だぜ」
きょろきょろ、そわそわ、と住民たちは首を振って顔を見合わせる。この街はとても小さい。みんな知り合いだろう。そのなかで生贄を出さなければならない。残酷すぎる。老婆は狂ったように踊りだした。
「生贄は美しい娘じゃー! 砂漠の街、絶世の美女でないと蛇神様の怒りはおさまらんのじゃー!」
うるせぇな、ばばぁ……。
この流れだと宿屋のあの子になるだろーが! くそ、やっぱり……住民たちが宿屋に突入していく。
ボコッ!
カルドスが殴られて倒れた。
あれは宿屋の店主、シュリルの親父か?
「わしが生贄になる!」
と叫んでいるが蹴飛ばされた。
住民たちによってシュリルが縄に緊縛された。助けたいが、例によって俺の体が動かない。
「くそっ! 強制イベントか……」
涙を流すシュリル。
カルドスは必死で止めようとするが、また殴られて倒れた。
「カルドス……」
正義が悪になる。
住民は下を向き、老婆は祈祷を唱えていた。ついにカルドスは気絶し、シュリルは砂漠へと連行されていく。おっ……やっと俺の体が動いた。住民たちは元の生活に戻っていく。
「シュリル……」
砂漠のどこに連れていかれた?
街の出口まで走って、あたりを調べる。これは!? 足跡を発見した。
「追跡しよう……ん? カルドスか」
血だらけのカルドスに、宿屋の親父がポーションをわたしている。怪我を治したカルドスは、親父に言った。
「シュリルを助けます!」
「頼む……と言いたいところだが、シュリルを連れて街に帰ってきても居場所はないぞ……」
「わかってます。二人で別の街で暮らします」
「だが、どうやって助けだす? 街の男どもが黙ってないぞ?」
「こいつで何とかします」
きらりとダガーを隠し持つカルドス。
彼の目は覚悟を決めていた。
「まて! カルドス!」
親父は叫んだ。
カルドスは砂漠へと歩き出す。心配だ。思わず「あの~」と話しかけた。親父は俺にすがりよってくる。
「おお、冒険者よ! カルドスを止めてくれ! 殺人者になってシュリルを助けるつもりだ……」
「えっと……止めてもいいですが、このままではシュリルさんだって殺されるようなものですよ?」
「じゃあ、どうすればいい!」
ガンと大地に拳を叩きつける宿屋の親父。
乾いた風が吹く。青い空に文字が浮かんだ。
【⠀サイドクエスト 砂の告白 推奨レベル38 受注しますか? 】
はい! 自信を持って選択する。
俺のレベルは9だが、魔法レベルは64ある。必ず勝機はあるはずだ。巨大ヘビをぶっとばす! しかしカルドスは俺を鋭い目で睨んでいた。
「邪魔をすればあなたも殺す……シュリルのためなら僕は悪魔になる」
おお、怖い。
殺気を放つカルドスは、蜃気楼ただよう砂漠へと消えていった。
ぶらぶらと仮想世界を独り歩く。
現実世界の時間は木曜の午後8時。ミルクはバイト、モツナベは塾、マクドは筋トレをやるらしい。ん? この感情はなんだ? これは寂しいというやつじゃないか?
「……あれ?」
いつの間にか俺は、友達を求めている。
この仮想現実というVRMMOの世界で、顔や名前といった素性も知らない人のことを考えるようになっている。思い返せば、絵を描くことをやめた俺の趣味は、酒と料理くらい。仕事やって風呂入って、飯食って寝る。そんな毎日。日常に人間関係がなかった。家族、友達、彼女、そういったものが無いのだ。いや、正確に言うと家族や友達は遠くに住んでいて会えなくて、彼女は勇気がなくてできないだけだ。
「そう、勇気が無いだけ……」
ふと考える。
ヴェリタスは強い。踊るように剣を振り、凄まじい必殺技で魔物を倒していた。逆に俺はどうだ? 土魔法で罠にかけて魔物を倒している。まるで暗殺者だ。笑ってしまうくらい卑怯すぎる。
「きっと俺は足手まといになっちゃうな……」
道具屋の前で立ち止まる。
キャンプでもするか。俺は店主に話しかけ、テント、ライター、焚き火用の薪、柔らかい豚ロース、上質な牛肉、鶏のもも肉、ニンニク、玉ねぎ、レタス、トマト、美味しい水、コーヒー粉末、鉄の鍋、鉄のカップ、塩、胡椒、油などの調味料を注文する。合計で12,000ポイント支払い。残りの資産は8,000ポイントになった。
「強敵がいるところがいいな……シムクル砂漠でキャンプしよう」
噴水広場のマーキングから、ワステタの街に移動する。
ああ、太陽が眩しい。フルゴルの爽やかな気候から一変、カラッとした乾燥地帯になる。さて、遺跡にでも行こう。と歩き出したが、何やら町の様子がおかしい。わー! きゃー! と住民たちが悲鳴をあげている。奇妙だな。他の冒険者たちがいない。これは何かのイベントが発生したのか? ん?
ゴゴゴゴゴ……
大地が揺れている。
この揺れは、遺跡で起きた地震と同じ!?
「蛇神様の祟りじゃー!!」
杖を持った老婆が叫んでいる。
広場に人が集まり、血だらけの商人が手当てを受けていた。
「仲間がヘビに食われた……恐ろしい巨大なヘビに……」
商人は、ガクブルに震えている。
広場の中心にはヘビの石像があり、それを見つめる住民はおびえだした。
「言い伝え通りになったな……」
「蛇神様が眠りから目覚めたんだ!」
「どうなるの? ぼくたち?」
小さな子どもの質問に、大人たちは黙る。
恐ろしい沈黙を破ったのは、ガンガンと大地をうがつ杖の音。老婆だ。
「砂の津波がくるぞぉぉおお! 蛇神様の祟りじゃー!!」
びえーん、と子どもは泣き出した。
大人たちも泣きそうだ。さらに老婆はデカい声で脅してくる。
「こーのままでは砂漠の街は終わるぅーっ! こ、の、ま、ま、ではーっ!!」
な、何なんだよ?
すると震えながら住民たちが声をあげだした。
「生贄だ……」
「そうだ! 伝承の通り生贄を捧げて蛇神様の怒りを封じなければ!」
「でも、生贄は誰にする? 俺は嫌だぜ」
きょろきょろ、そわそわ、と住民たちは首を振って顔を見合わせる。この街はとても小さい。みんな知り合いだろう。そのなかで生贄を出さなければならない。残酷すぎる。老婆は狂ったように踊りだした。
「生贄は美しい娘じゃー! 砂漠の街、絶世の美女でないと蛇神様の怒りはおさまらんのじゃー!」
うるせぇな、ばばぁ……。
この流れだと宿屋のあの子になるだろーが! くそ、やっぱり……住民たちが宿屋に突入していく。
ボコッ!
カルドスが殴られて倒れた。
あれは宿屋の店主、シュリルの親父か?
「わしが生贄になる!」
と叫んでいるが蹴飛ばされた。
住民たちによってシュリルが縄に緊縛された。助けたいが、例によって俺の体が動かない。
「くそっ! 強制イベントか……」
涙を流すシュリル。
カルドスは必死で止めようとするが、また殴られて倒れた。
「カルドス……」
正義が悪になる。
住民は下を向き、老婆は祈祷を唱えていた。ついにカルドスは気絶し、シュリルは砂漠へと連行されていく。おっ……やっと俺の体が動いた。住民たちは元の生活に戻っていく。
「シュリル……」
砂漠のどこに連れていかれた?
街の出口まで走って、あたりを調べる。これは!? 足跡を発見した。
「追跡しよう……ん? カルドスか」
血だらけのカルドスに、宿屋の親父がポーションをわたしている。怪我を治したカルドスは、親父に言った。
「シュリルを助けます!」
「頼む……と言いたいところだが、シュリルを連れて街に帰ってきても居場所はないぞ……」
「わかってます。二人で別の街で暮らします」
「だが、どうやって助けだす? 街の男どもが黙ってないぞ?」
「こいつで何とかします」
きらりとダガーを隠し持つカルドス。
彼の目は覚悟を決めていた。
「まて! カルドス!」
親父は叫んだ。
カルドスは砂漠へと歩き出す。心配だ。思わず「あの~」と話しかけた。親父は俺にすがりよってくる。
「おお、冒険者よ! カルドスを止めてくれ! 殺人者になってシュリルを助けるつもりだ……」
「えっと……止めてもいいですが、このままではシュリルさんだって殺されるようなものですよ?」
「じゃあ、どうすればいい!」
ガンと大地に拳を叩きつける宿屋の親父。
乾いた風が吹く。青い空に文字が浮かんだ。
【⠀サイドクエスト 砂の告白 推奨レベル38 受注しますか? 】
はい! 自信を持って選択する。
俺のレベルは9だが、魔法レベルは64ある。必ず勝機はあるはずだ。巨大ヘビをぶっとばす! しかしカルドスは俺を鋭い目で睨んでいた。
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