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26 サイドクエスト 砂の告白 2
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[ シムクル砂漠 ]
カルドスと俺は砂漠に残る足跡を追っていた。
愛する女性を助けるため、覚悟を決めた男はダガーを握り締めている。だが、気になることがあるんだよな。
「シュリル……必ず助ける!」
「あの~カルドス?」
「なんだ?」
「シュリルは君の彼女? 婚約者とか?」
「いや、僕は宿屋で働いているだけで、シュリルとはそのような関係では……」
「ふーん、じゃあ片思いか?」
「ぼ、ぼ、僕のような容姿でシュリルに恋をするなんて……できない」
「じゃあ、なんで助けようとする? ダガーまで装備して」
「僕は、僕は……」
カルドスは下を向いた。
太った体、背も低い、顔はジャガイモ、はっきり言ってカルドスの見た目は悪い。
ああ、すごく気持ちがわかる。
好きな女性はいるけど、自分とは絶対に付き合えない。好きになる資格なんてない。俺のことを好きになるわけがない。そうやって容姿が悪いからと言って、自分から諦めてしまうよな。うんうん。
「カルドス……君の気持ちすごくわかるーっ!」
「え?」
「シュリルを救おう! そして男は見た目じゃなくて中身だって証明しよう!」
「は、はい……」
俺、ゲームの世界だと行動力あるかも。
カルドスの背中を押して、砂漠に残された足跡を追う。お! だんだん足跡がしっかり見えてきたぞ。
「ん? あれか……」
可哀想に。
シュリルは歩けなくなったのだろう。三人の男たちが緊縛した彼女を担いで運んでいる。カルドスは怒った。
「ぶっころす!」
急に駆け出そうとするので止めた。
「待て!」
「邪魔をするな! あんたも刺すぞ!」
「シュリルを助けるもっといい方法がある」
「なんだそれは?」
「生贄としてシュリルが独りになってから助けるんだ」
「でもそうしたら蛇神様に食べられてしまうぞ?」
「大丈夫だ」
「え?」
「ヘビは俺がぶっ倒す!」
は? とカルドスは愕然とした。
俺の言った言葉が信じられないようだが、なんとかサボテンの裏に隠れてくれた。
「あなたは何者だ?」
「俺は土魔法使いのツッチー」
「ツッチー……」
「それにしても、シュリルをどこに連れて行くのだろう……まさかエッチなことされるんじゃ?」
「ぶっころす!」
「まぁ、まて……カルドス」
俺たちは見つからないように追跡する。
そして生贄の場所が判明した。遺跡だった。男たちは迷わず王の墓に向かう。シュリルを棺の上に寝かせ、何やら言っている。
「伝承ではここで蛇神様が食事をするらしい……」
「許してくれシュリル」
「砂漠の民のため犠牲となるのだ……」
シュリルは黙って涙を流す。
すぐに助けたい気持ちを抑え、俺とカルドスは半壊している壁に隠れた。しばらくして男たちは遺跡から出ていく。よし、今だ! カルドスは駆け出した。
「シュリル!」
「カルドス! どうしてここに?」
「助けに来ました」
カルドスは縄を切った。
シュリルは緊縛から解放されたが、座ったまま立ち上がらない。
「カルドス……いいの、わたしは生贄になるわ……そうしないとみんなが死んでしまう……」
カルドスはシュリルの手を握る。
二人は見つめ合った。
「それなら僕もいっしょに生贄になります!」
「だめよ! カルドスは生きて……」
首を横に振るシュリル。
振られたか……。いや、まだだ! カルドスはさらに強く彼女の手を握った。
「シュリルがいなきゃ、生きていても意味がない!」
「……!?」
「シュリルのことが好きなんです!」
二人は抱きしめ合う。
よし、告白は成功したようだ。しかし問題はこれからだ。
ゴゴゴゴゴ……
大地が揺れている。
半壊したピラミッドがさらに崩れ、急に空が暗くなる。巨大なヘビが太陽を隠し、ギロッとこちらを睨んでいた。死の恐怖が迫り、戦闘状態になる。
[ ボスディザネーク ]
こいつは蛇ではない。
砂の龍だ。鋭い牙、長いヒゲ、砂漠の遠くまで尻尾が伸びている。
ドゴッ!
圧倒的な破壊力だ。
ボスディザネークは体当たりして遺跡の壁を壊していく。腹を空かせているのだろう。ダラダラと口から胃酸を吐き出しながら、シュリルとカルドスを食おうと襲いかかる。
どうやって戦えばいい?
考えろ、考えろ……。もしもヴェリタスなら、必殺技で先制攻撃するだろう。もしもマクドなら、盾で防御しながら急所を狙うだろう。
「俺なら……土魔法だ!」
ムルスを詠唱した。
回転する茶色の魔法陣。岩の壁を作り、シュリルとカルドスを囲って守る。しかし意味がない。ボスディザネークは体当たりで壁を破壊した。
おびえる二人が露出された。
しかし抱き合ったまま逃げようとしない。くそっ、それならこうだ! 鉄槌のメイスを振り上げて、
「グラウィ!」
を詠唱した。
重力が増加する。手の中にあるメイスがすごい勢いで落下し、ボスディザネークに35,500のダメージを与えた。
かなり効いたようだ。
敵のHPが横帯グラフで表示されているのだが、4分の1ほど減った。大蛇の魔物はぎろりと目を光らせ、獲物を俺に変える。
「よし! こっちだ!」
遺跡から離れた。
二人が食われたらクエスト失敗だ。猛ダッシュして何もない砂漠で立ち止まる。よし、ボスディザネークは俺を食おうと追いかけてきたぞ。ふぅ……意識を集中させてから、いっきに魔力を放出する。
「グラウィヌーラ!」
重力が減少する。
砂漠の砂や石が、ふわふわと宙を舞う。高く、高く、ボスディザネークよりもさらに高く……よし、やつの頭上より高くまで浮かせたぞ。
シャー!
大きく口を開けるボスディザネーク。
俺は肩の力を抜いた。両手を広げて降参のポーズをとる。
「さあ、食えるものなら食ってみろ……」
眼前に大蛇の口が迫る。
ふっ、笑えるくらい油断してるな。魔法レベル64を舐めんなよ。
「ルペス! グラウィ!」
連続で土魔法を詠唱した。
一瞬で砂と石が凝集されて岩となり、加速度的に増える重力によって落下する。
ガツン!
見事、ボスディザネークの頭に命中。
40,000のダメージを与え、バタッと倒れた。あたりいっぱいに砂埃が舞いあがる。
「やった!」
ダウン状態の敵を攻撃すればクリティカルヒットで大ダメージを与えることができる。ヴェリタスの必殺技とまではいかないが、俺の鉄槌のメイスはめちゃ重いぜ!
「くらえぇぇぇ! グラウィー! グラウィー! グラウィぃぃぃぃ!」
ボスディザネークの顔面に、ボッコボッコと追加で重力的な物理攻撃を与えていく。
12,000
8,000
5,000
あれ?
ダメージが減少している。ん? 鉄槌のメイスをよく見ると、バキバキに亀裂が入って……あ! 壊れた。ふとヴェリタスの言葉を思い出す。
『三日月宗近のメンテナンスをしたいので……』
なるほど。
武器には耐久性があって、使いすぎると壊れるのか。実戦で良い学習ができたが、敵はそんなこと関係ない。ボスディザネークは息を吹き返した。ものすごい勢いで体当たりしてくる。
「っぶねー!」
かろうじて避けた。
黒装束ナイトメアを装備しているおかげだろう。すばやさが上がり、回避能力がアップしている。俺のレベルは9だけど、装備品でカバーしているってことだな。だが、それだけじゃあ勝てない。あとは泥臭くやるしかないな……。
「げ……魔力が底をついた……あとは逃げながらハンドガンで攻撃しよう」
ボスディザネークの体当たりを避けながら、バンバンと銃で反撃する。
120
100
80
ダメだ。与えるダメージが少ない。
それに敵の攻撃を避けながら銃を撃つの、むずかしい。接近しないと当たらないし、接近しすぎたら体当たりされてゲームオーバーだ。
「ちっ……強いな」
離れたところから銃を撃つ。
しまった。外しまくった。あ、残りの弾が10しかない。あっという間になくなるぞ。もっと弾を作っておくべきだった。どうしよう……考えろ、考えろ……。
「あ! 毒粉だ!」
急いで弾に毒粉をかけて装填。
よし、作業をやめて、銃を構える。あれ? ボスディザネークがいない! 砂漠のなかに隠れたか……大地が揺れている。
「ふぅ、冷静になれ……そうだ、この隙に魔力を回復しておこう」
遺跡に向かって走りまくる。
たしか遺跡のなかに、魔力のエレメントがあったはず。あった! 緑色に光る結晶に触れる。
[ 魔力が全回復しました ]
よし、勝てる!
と思ったが甘かった。信じられない光景が遠くの砂漠で見える。ボスディザネークが空に向かって上昇し、隕石のように落下していく。まさに砂の龍だ。
ドゥン……!!
重低音が波動となって響く。
世界が暗くなる。迫りくるのは砂の大津波。やば……本当にヤバいと声を失う。遺跡だけじゃない。ワステタの街まで飲み込むほどの高さだ。ふふふ、面白い。想像できるぞ。街で恐怖におびえる住民や老婆の滑稽な姿が。ざまぁ。
「きゃぁぁー!」
「ぐおっ」
カルドスはシュリルの前に立つ。
砂埃から彼女を守っているのか。お? シュリルの顔が赤いぞ。うぉー、ラブラブじゃん。もう一生守ってやれよ、コノヤロー!
ゴゴゴゴゴ……
あ、いかん。
砂の大津波が迫っている。でもまぁ、ちょうどいいや。魔力は怒りで増強する。
「うおぉぉぉぉぉおおお! 俺も彼女が欲しいぃぃぃぃぃぃぃ……ルペス!」
俺のなかに眠る魔力が爆ぜる。
世界が明るく光り、砂の大津波は石化していた。まるで巨人から守る壁が砂漠地帯に完成。カルドスとシュリルは唖然としていた。
ぱちん!
俺は指をはじいてルペスを解除。
土魔法は解けて、静かな砂漠に戻る。いつもと変わらない乾いた風が吹くなか、砂の龍が現れた。
「これで終わりだ……」
バン!
銃を撃った。
ボスディザネークの顔面に命中。HPがじわじわと減っていく。毒に犯された魔物の末路は、死あるのみ。倒れ、激しく暴れだす。
「苦しい……苦しい……腹が減って苦しい……」
ん? なんだ?
不気味な低い声が聞こえてきた。カルドスは、「僕じゃない」と首を横に振る。まさかシュリル?
「わたしじゃありません」
だよね。
ということはボスディザネークの声か? しかし毒で削られたHPはすでに底を尽きている。死んでないのか? と疑った瞬間、ボスディザネークは光り輝いた。
「な、なんだ?」
ちっさ!
なんとボスディザネークは小型化していた。砂漠には大きなヘビの抜け殻が、カラカラと風に吹かれている。
[ サイドクエスト 砂の告白 クリア ]
経験値と戦利品をゲット。
俺のレベルは10になり、砂龍の皮を手に入れた。おまけに可愛らしい爬虫類が、俺に懐いたようだ。
「はらへった! はらへった!」
今度は可愛らしい高い声だ。
はっきりと聞こえる。手のひらサイズの小さいヘビが話しているのだ。すると、膝をついたシュリルが声をかける。
「蛇神様ですか?」
「そうだ! 飯をよこせ! 肉が食べたい!」
「それなら街に戻って食事を……」
いや、と俺は言ってシュリルを止めた。
「その必要はない」
「あなたは?」
「俺はカルドスの友達さ」
「友達……」
「さあ、みんなでキャンプをしよう」
「え?」
「カルドス! このテントを作ってくれ、俺は料理をするから」
「わ、わかった……」
アイテムボックスを開く。
薪、ライターを取り出し、ぱちぱちと焚き火を起こす。料理はスピードが命。上質な牛肉を塩こしょうで味付け。にんにくを入れた鉄の鍋に油をひいて肉の表面をこんがり焼き、取り出し、肉を休ませ、また焼く、を繰り返す。
残った肉汁は捨てない。
たまねぎのみじん切り、つぶしたトマトをくわえて煮込む。さあ、ソースをかけて完成だ。
「ああん、なんていい香り」
「うまそ……」
「はやく食わせろ!」
そう、がっつくな。
シュリル、カルドス、ヘビは俺の料理に夢中だ。
「お待たせ、レアステーキのオニオントマトソースだ!」
いただきます!
と、声をあげる俺たちはキャンプを楽しんだ。西の空に夕日が沈み、遺跡も砂漠の街も赤く染まって見えた。
カルドスと俺は砂漠に残る足跡を追っていた。
愛する女性を助けるため、覚悟を決めた男はダガーを握り締めている。だが、気になることがあるんだよな。
「シュリル……必ず助ける!」
「あの~カルドス?」
「なんだ?」
「シュリルは君の彼女? 婚約者とか?」
「いや、僕は宿屋で働いているだけで、シュリルとはそのような関係では……」
「ふーん、じゃあ片思いか?」
「ぼ、ぼ、僕のような容姿でシュリルに恋をするなんて……できない」
「じゃあ、なんで助けようとする? ダガーまで装備して」
「僕は、僕は……」
カルドスは下を向いた。
太った体、背も低い、顔はジャガイモ、はっきり言ってカルドスの見た目は悪い。
ああ、すごく気持ちがわかる。
好きな女性はいるけど、自分とは絶対に付き合えない。好きになる資格なんてない。俺のことを好きになるわけがない。そうやって容姿が悪いからと言って、自分から諦めてしまうよな。うんうん。
「カルドス……君の気持ちすごくわかるーっ!」
「え?」
「シュリルを救おう! そして男は見た目じゃなくて中身だって証明しよう!」
「は、はい……」
俺、ゲームの世界だと行動力あるかも。
カルドスの背中を押して、砂漠に残された足跡を追う。お! だんだん足跡がしっかり見えてきたぞ。
「ん? あれか……」
可哀想に。
シュリルは歩けなくなったのだろう。三人の男たちが緊縛した彼女を担いで運んでいる。カルドスは怒った。
「ぶっころす!」
急に駆け出そうとするので止めた。
「待て!」
「邪魔をするな! あんたも刺すぞ!」
「シュリルを助けるもっといい方法がある」
「なんだそれは?」
「生贄としてシュリルが独りになってから助けるんだ」
「でもそうしたら蛇神様に食べられてしまうぞ?」
「大丈夫だ」
「え?」
「ヘビは俺がぶっ倒す!」
は? とカルドスは愕然とした。
俺の言った言葉が信じられないようだが、なんとかサボテンの裏に隠れてくれた。
「あなたは何者だ?」
「俺は土魔法使いのツッチー」
「ツッチー……」
「それにしても、シュリルをどこに連れて行くのだろう……まさかエッチなことされるんじゃ?」
「ぶっころす!」
「まぁ、まて……カルドス」
俺たちは見つからないように追跡する。
そして生贄の場所が判明した。遺跡だった。男たちは迷わず王の墓に向かう。シュリルを棺の上に寝かせ、何やら言っている。
「伝承ではここで蛇神様が食事をするらしい……」
「許してくれシュリル」
「砂漠の民のため犠牲となるのだ……」
シュリルは黙って涙を流す。
すぐに助けたい気持ちを抑え、俺とカルドスは半壊している壁に隠れた。しばらくして男たちは遺跡から出ていく。よし、今だ! カルドスは駆け出した。
「シュリル!」
「カルドス! どうしてここに?」
「助けに来ました」
カルドスは縄を切った。
シュリルは緊縛から解放されたが、座ったまま立ち上がらない。
「カルドス……いいの、わたしは生贄になるわ……そうしないとみんなが死んでしまう……」
カルドスはシュリルの手を握る。
二人は見つめ合った。
「それなら僕もいっしょに生贄になります!」
「だめよ! カルドスは生きて……」
首を横に振るシュリル。
振られたか……。いや、まだだ! カルドスはさらに強く彼女の手を握った。
「シュリルがいなきゃ、生きていても意味がない!」
「……!?」
「シュリルのことが好きなんです!」
二人は抱きしめ合う。
よし、告白は成功したようだ。しかし問題はこれからだ。
ゴゴゴゴゴ……
大地が揺れている。
半壊したピラミッドがさらに崩れ、急に空が暗くなる。巨大なヘビが太陽を隠し、ギロッとこちらを睨んでいた。死の恐怖が迫り、戦闘状態になる。
[ ボスディザネーク ]
こいつは蛇ではない。
砂の龍だ。鋭い牙、長いヒゲ、砂漠の遠くまで尻尾が伸びている。
ドゴッ!
圧倒的な破壊力だ。
ボスディザネークは体当たりして遺跡の壁を壊していく。腹を空かせているのだろう。ダラダラと口から胃酸を吐き出しながら、シュリルとカルドスを食おうと襲いかかる。
どうやって戦えばいい?
考えろ、考えろ……。もしもヴェリタスなら、必殺技で先制攻撃するだろう。もしもマクドなら、盾で防御しながら急所を狙うだろう。
「俺なら……土魔法だ!」
ムルスを詠唱した。
回転する茶色の魔法陣。岩の壁を作り、シュリルとカルドスを囲って守る。しかし意味がない。ボスディザネークは体当たりで壁を破壊した。
おびえる二人が露出された。
しかし抱き合ったまま逃げようとしない。くそっ、それならこうだ! 鉄槌のメイスを振り上げて、
「グラウィ!」
を詠唱した。
重力が増加する。手の中にあるメイスがすごい勢いで落下し、ボスディザネークに35,500のダメージを与えた。
かなり効いたようだ。
敵のHPが横帯グラフで表示されているのだが、4分の1ほど減った。大蛇の魔物はぎろりと目を光らせ、獲物を俺に変える。
「よし! こっちだ!」
遺跡から離れた。
二人が食われたらクエスト失敗だ。猛ダッシュして何もない砂漠で立ち止まる。よし、ボスディザネークは俺を食おうと追いかけてきたぞ。ふぅ……意識を集中させてから、いっきに魔力を放出する。
「グラウィヌーラ!」
重力が減少する。
砂漠の砂や石が、ふわふわと宙を舞う。高く、高く、ボスディザネークよりもさらに高く……よし、やつの頭上より高くまで浮かせたぞ。
シャー!
大きく口を開けるボスディザネーク。
俺は肩の力を抜いた。両手を広げて降参のポーズをとる。
「さあ、食えるものなら食ってみろ……」
眼前に大蛇の口が迫る。
ふっ、笑えるくらい油断してるな。魔法レベル64を舐めんなよ。
「ルペス! グラウィ!」
連続で土魔法を詠唱した。
一瞬で砂と石が凝集されて岩となり、加速度的に増える重力によって落下する。
ガツン!
見事、ボスディザネークの頭に命中。
40,000のダメージを与え、バタッと倒れた。あたりいっぱいに砂埃が舞いあがる。
「やった!」
ダウン状態の敵を攻撃すればクリティカルヒットで大ダメージを与えることができる。ヴェリタスの必殺技とまではいかないが、俺の鉄槌のメイスはめちゃ重いぜ!
「くらえぇぇぇ! グラウィー! グラウィー! グラウィぃぃぃぃ!」
ボスディザネークの顔面に、ボッコボッコと追加で重力的な物理攻撃を与えていく。
12,000
8,000
5,000
あれ?
ダメージが減少している。ん? 鉄槌のメイスをよく見ると、バキバキに亀裂が入って……あ! 壊れた。ふとヴェリタスの言葉を思い出す。
『三日月宗近のメンテナンスをしたいので……』
なるほど。
武器には耐久性があって、使いすぎると壊れるのか。実戦で良い学習ができたが、敵はそんなこと関係ない。ボスディザネークは息を吹き返した。ものすごい勢いで体当たりしてくる。
「っぶねー!」
かろうじて避けた。
黒装束ナイトメアを装備しているおかげだろう。すばやさが上がり、回避能力がアップしている。俺のレベルは9だけど、装備品でカバーしているってことだな。だが、それだけじゃあ勝てない。あとは泥臭くやるしかないな……。
「げ……魔力が底をついた……あとは逃げながらハンドガンで攻撃しよう」
ボスディザネークの体当たりを避けながら、バンバンと銃で反撃する。
120
100
80
ダメだ。与えるダメージが少ない。
それに敵の攻撃を避けながら銃を撃つの、むずかしい。接近しないと当たらないし、接近しすぎたら体当たりされてゲームオーバーだ。
「ちっ……強いな」
離れたところから銃を撃つ。
しまった。外しまくった。あ、残りの弾が10しかない。あっという間になくなるぞ。もっと弾を作っておくべきだった。どうしよう……考えろ、考えろ……。
「あ! 毒粉だ!」
急いで弾に毒粉をかけて装填。
よし、作業をやめて、銃を構える。あれ? ボスディザネークがいない! 砂漠のなかに隠れたか……大地が揺れている。
「ふぅ、冷静になれ……そうだ、この隙に魔力を回復しておこう」
遺跡に向かって走りまくる。
たしか遺跡のなかに、魔力のエレメントがあったはず。あった! 緑色に光る結晶に触れる。
[ 魔力が全回復しました ]
よし、勝てる!
と思ったが甘かった。信じられない光景が遠くの砂漠で見える。ボスディザネークが空に向かって上昇し、隕石のように落下していく。まさに砂の龍だ。
ドゥン……!!
重低音が波動となって響く。
世界が暗くなる。迫りくるのは砂の大津波。やば……本当にヤバいと声を失う。遺跡だけじゃない。ワステタの街まで飲み込むほどの高さだ。ふふふ、面白い。想像できるぞ。街で恐怖におびえる住民や老婆の滑稽な姿が。ざまぁ。
「きゃぁぁー!」
「ぐおっ」
カルドスはシュリルの前に立つ。
砂埃から彼女を守っているのか。お? シュリルの顔が赤いぞ。うぉー、ラブラブじゃん。もう一生守ってやれよ、コノヤロー!
ゴゴゴゴゴ……
あ、いかん。
砂の大津波が迫っている。でもまぁ、ちょうどいいや。魔力は怒りで増強する。
「うおぉぉぉぉぉおおお! 俺も彼女が欲しいぃぃぃぃぃぃぃ……ルペス!」
俺のなかに眠る魔力が爆ぜる。
世界が明るく光り、砂の大津波は石化していた。まるで巨人から守る壁が砂漠地帯に完成。カルドスとシュリルは唖然としていた。
ぱちん!
俺は指をはじいてルペスを解除。
土魔法は解けて、静かな砂漠に戻る。いつもと変わらない乾いた風が吹くなか、砂の龍が現れた。
「これで終わりだ……」
バン!
銃を撃った。
ボスディザネークの顔面に命中。HPがじわじわと減っていく。毒に犯された魔物の末路は、死あるのみ。倒れ、激しく暴れだす。
「苦しい……苦しい……腹が減って苦しい……」
ん? なんだ?
不気味な低い声が聞こえてきた。カルドスは、「僕じゃない」と首を横に振る。まさかシュリル?
「わたしじゃありません」
だよね。
ということはボスディザネークの声か? しかし毒で削られたHPはすでに底を尽きている。死んでないのか? と疑った瞬間、ボスディザネークは光り輝いた。
「な、なんだ?」
ちっさ!
なんとボスディザネークは小型化していた。砂漠には大きなヘビの抜け殻が、カラカラと風に吹かれている。
[ サイドクエスト 砂の告白 クリア ]
経験値と戦利品をゲット。
俺のレベルは10になり、砂龍の皮を手に入れた。おまけに可愛らしい爬虫類が、俺に懐いたようだ。
「はらへった! はらへった!」
今度は可愛らしい高い声だ。
はっきりと聞こえる。手のひらサイズの小さいヘビが話しているのだ。すると、膝をついたシュリルが声をかける。
「蛇神様ですか?」
「そうだ! 飯をよこせ! 肉が食べたい!」
「それなら街に戻って食事を……」
いや、と俺は言ってシュリルを止めた。
「その必要はない」
「あなたは?」
「俺はカルドスの友達さ」
「友達……」
「さあ、みんなでキャンプをしよう」
「え?」
「カルドス! このテントを作ってくれ、俺は料理をするから」
「わ、わかった……」
アイテムボックスを開く。
薪、ライターを取り出し、ぱちぱちと焚き火を起こす。料理はスピードが命。上質な牛肉を塩こしょうで味付け。にんにくを入れた鉄の鍋に油をひいて肉の表面をこんがり焼き、取り出し、肉を休ませ、また焼く、を繰り返す。
残った肉汁は捨てない。
たまねぎのみじん切り、つぶしたトマトをくわえて煮込む。さあ、ソースをかけて完成だ。
「ああん、なんていい香り」
「うまそ……」
「はやく食わせろ!」
そう、がっつくな。
シュリル、カルドス、ヘビは俺の料理に夢中だ。
「お待たせ、レアステーキのオニオントマトソースだ!」
いただきます!
と、声をあげる俺たちはキャンプを楽しんだ。西の空に夕日が沈み、遺跡も砂漠の街も赤く染まって見えた。
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