土魔法で無双するVRMMO 〜おっさんの遅れてきた青春物語〜

ぬこまる

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27 アクセサリ 1

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 蛇神様が俺になついた。
 丸い瞳、つるっとした青色の肌、にょろにょろとした動きが可愛らしい。

「まるでチンアナゴみたいなヘビだな」

 テントを片付けて出発しようとすると、ぴょんとヘビは俺の肩に乗る。一方、カルドスとシュリルは今後について話していた。

「わたし、街には戻れないわ……生贄だったから」
「シュリル、大丈夫ですよ! このように蛇神様は小さくなりました。もう怖くありません!」
「そ、そうだけど……」
「きっと上手くいきますよ。僕の友達もいますし!」
                     
 カルドスはシュリルの手を繋いだ。
 朝っぱらから、お熱いこと。やれやれ、サイドクエストは終了したが、最後まで面倒見てやるか。

「カルドス、シュリル、君たちがワステタで暮らせるよう砂漠の民を説得してみよう。蛇神様もいることだし、な?」
 
 ヘビは俺の肩で、にょろにょろ。
 触ってみるとツルツルしている。冷たくて気持ちがいい。犬や猫のようなモフモフとは違った癒しが、ここにはある。

「肉をくレ! 肉をくれたラ、暴れないでやル」
「だ、そうだ……こいつを飼ってくれないか?」

 シュリルにヘビを渡した。

「でも、どこで飼ったらいいのかしら?」
「蛇神のほこらがいいのでは」
「それ、いいわ!」

 カルドスの提案に、シュリルは喜んだ。
 でも、結界によって魔物は街に入れないはず。大丈夫かな? 心配だが、俺たちはワステタの街に移動した。蛇神様はシュリルの胸に抱かれて幸せそうだ。

「……お!」

 問題なく街に入れた。
 蛇神様は魔物ではないようだ。砂漠の民はシュリルの登場に驚いていたが、杖を持つ老婆が現れると、しーんと静かになる。

「蛇神様じゃー!」

 ははー、と土下座する老婆。
 砂漠の民も膝をついた。みんなの目線はシュリルが抱いているヘビ。つまり蛇神様に集中している。説得するなら今だぞ、シュリル!

「み、みなさん……蛇神様は祠で住みますので、よろしくおねがいします」

 ははー、と土下座をする砂漠の民。
 シュリルは蛇とともに神格化され、見事、民をひとつにまとめた。
 
「よかった……」

 しばらくして、カルドスが俺に話かけてきた。

「ありがとう、土魔法使いツッチー」
「いいってことだ、俺たちは友達だろ?」
「ああ」

 俺とカルドスは握手を交わした。
 
「そういえば、長老がツッチーに渡したいものがあるって言ってたぞ」
「長老? 杖を持ったクソばばぁのことか?」
「あ、ああ、そうだ……」

 何だろう? 
 まぁ、いいや。とりあえず今日はここまでにしてログアウトしよう。あー、目が疲れた。22時すぎると眠くなるんだよな。本当におっさんになったわ、俺。




 次の日の夜。現実世界のツッチー。


「っぷはー! 金曜のハイボールはバリうまっ!」

 明日から休みだ。
 土曜は家の掃除、スーパーで買い物、一週間分の弁当の仕込みをするからゲームできないけど、日曜はヴェリタスと冒険だ。

「わ~い!」

 楽しみだけど、なんか緊張してきたぞ。ミルクがデートとか言うからいけないんだ! あのショタボ少女エルフめ。

「あれ?」

 VRMMOを始めてから、俺って充実してないか? 
 ミルク、モツナベ、マクド、そしてヴェリタス。ああ、友達がいるって素晴らしいことだ。ネット上の仮想世界だとしても、俺にとっては友達だ。

「さて、ゴーグルかぶってログインっと」

 お、2件メールが届いている。
 タイトル画面から受信箱を開いた。

[ ミルク:もうすぐヴェリたそとデートっすね! アクセサリは装備したっすか? ]

 アクセサリ? 何それしてない!?
 デートじゃないんだけどな……まぁ、いいや、丁寧にメールを返そう。

[ まだアクセサリを装備してないです。教えてください、ミルク様 ]

 これでよしと。
 さて、次のメールは?

[ マクド:探して欲しい金属があるんやけど、よかったら招待してや~ ]

 これは土魔法メタリクムの出番だな。
 あ! マクドに金塊をあげてない。よし、簡単なメールと招待を送ろう。

[ いいよ! あとプレゼントがあるからお楽しみに! ]

[ パーティ 招待 ]

 送信できた。
 よし、ゲームの続きをしよう。VRMMOプロジェクト・テルースの世界へと意識が飛ぶ。

「まぶしい……」

 俺は砂漠の街ワステタにいた。
 照りつける太陽、白い服を着た住民たち、立ち並ぶ黄色の建物の間から乾いた風が吹いている。

「そういえば、長老が呼んでいたな」

 メニューを開き、マップを見る。
 蛇神の祠は街の東か。よし、行ってみよう。広場を通り抜け、細い道を歩く。すると、

「師匠ぉぉ!」

 と声をかけられた。
 小さな身体にムキムキの筋肉。髭面の男臭いドワーフがこちらに走ってくる。戦士マクドだ。

「どこに行くん?」
「ちょっと祠まで、そのあとで金属を探していい?」
「ええよ、ってか探すの手伝ってくれておおきに」

 ぺこり、と頭を下げるマクド。
 俺たちは歩いて祠までいく。祠は小さなピラミッドのような神殿で、入り口に老婆が立っていた。

「冒険者よ、事情は宿屋の親父からすべて聞いておる。シュリル……いや、砂漠の民を助けてくれてありがとうじゃ」
「どういたしまして」
「そこでワシから褒美がある。祠のなかにある魔導書を一冊もっていくといい」

 お、ありがたい。
 祠に入る。なかには本棚がずらりと並べられいていた。調べると魔導書が、風、火、水、土、光、闇の種類別で置いてある。どうやら、ここは図書館っぽいな。

「俺は土の魔導書が欲しいから……ん?」

 なんだこれ?
 【土魔法の基礎】って本があるぞ、ちょっと読んでみるか」

[ 土魔法:大地神ガイアの力を借りて作り出す魔法。自然に存在する物質を、重力、引力、斥力を使って自由自在に操ることができる。初級のうちは戦闘に向かない補助的な生活魔法に過ぎないが、上級になると他の魔法を圧倒するレベルに変貌する。よって土魔法使いは忍耐強く魔法の鍛錬をしなくてはならない。  ー賢者ラティウスー ]

 ふーん、やべぇな。
 つまり俺は泥の仮面を装備しているおかげで、魔法の鍛錬を省略してしまったのか。

「だが、待てよ……」

 魔法の鍛錬をして、泥の仮面をかぶればどうなる?
 ふと日本昔話“うさぎとカメ”を思い出す。足の速いうさぎはのろいカメを見て油断して眠ってしまい、カメに負けた。だがしかし! うさぎが眠らなかったらどうなる!? ちゃんとゴールだけを見て前進できる! そう、俺のゴールは……!!
 
「ふふふ……俺はバカだ……」

 秒で泥の仮面を装備からはずした。
 マクドが驚いている。 

「師匠、どうしたん? そないイケメンになって」
「魔法レベルをあげようと思ってさ」
「え? 師匠の魔法レベルは64やから、もう充分やで」
「違う、違う、そうじゃない、そうじゃないんだ」
「だれや? 鈴木まさゆき?」
「うさぎとカメさ」
「え?」
「俺のゴールは、ゲームクリア後のイベントを見ること! だから油断しないで徹底的に無双する!」
「なんや意味わからんけど、がんばってや~師匠ぉ!」

 グッと親指を立てるマクド。
 さて、長老が言ったとおり、一冊、魔導書をもらっていくか。これだな……。

[ 物質を引き寄せる魔法 ヴィエラ ]

 よし、新しい土魔法を覚えたぞ。
 泥の仮面をはずしたら、俺の魔法レベルは14だった。ちなみに、黒装束ナイトメアをはずしたら魔法レベル7だった。

「弱っ! ピンチのときは泥の仮面をかぶろう……」

 アイテムボックスを開いていると、金塊に気づいた。
 
「マクド、これをプレゼントしよう。金塊だ」
「ふぉえ!! どこで拾ったん?」
「崩壊したピラミッドの遺跡だよ、王の棺の奥にあった。ミルクと俺とマクドで分けよう」
「師匠ぉぉ! ホンマありがとう!」

 マクドは泣きながら喜んだ。
 するとそのとき、にょろろと何かが動く気配がする。

「誰や?」

 マクドは振り返る。
 本棚の間に蛇神様がいて、にょろにょろしていた。話しかけると「やあ」と挨拶をする。マクドはびっくり仰天した。

「な、なんやこいつ!? 魔物? いや、しゃべっとるから魔族? いやいや、ここは結界のある街んなかや……ありえへん」
「そいつは砂漠にいた巨大ヘビだよ。脱皮したら小さくなった」
「え? ま、まさか師匠、倒したん?」

 うん、と俺は答えた。
 マクドは、「なんやとー!」と驚く。ヘビは相変わらずにょろにょろしている。

「師匠……天才やであんた……」
「そうか?」
「せや……武器、防具、魔法のチョイスでVRMMOを無双しとる!」

 すごく褒めてくるじゃん、マクド。
 照れる。だけど、気になることを言っていたな。質問してみよう。

「なぁマクド、しゃべれると魔物じゃなくて魔族なのか?」
「え? 師匠、プロテルのオープニング見てないん?」
「うん、長いから飛ばした。たぶんチュートリアルも」
「あほい!」

 ははは、笑うしかない。
 マクドは、「ほな教えるわ」と説明してくれた。

「プロテルの世界は人類がテラフォーミングした惑星で……」
「まってマクド、テラフォーミングって何?」
「地球化するってことや」
「へ~、すごい」
「せやけど、天変地異が起きて生態系が変化したんや!」
「どんなふうに?」
「人間から魔族が生まれ、動物から魔物が生まれ、テクノロジーから魔法が生まれたんや……」
「ほう」
「んで、冒険者のワイたちが暴れる魔物や魔族を退治して人類を救っとるちゅうわけ。せやけど、わからんのはコイツの存在や、蛇! おまえは何もんやー?」

 ビシッと指をさすマクド。
 蛇は、にょろ? としてから声を出す。

「オレは蛇神様。魔物でも魔族でもない……魔導機械ダ」

 魔導機械!?
 
 ってなんだ? マクドは静かに納得していた。

「なるほどやな、やっぱり世界中におる大型の魔物は、もともと魔導機械ちゅうことか」
「どういうこと?」
「魔導機械はテラフォーミングしてくれるAIロボットなんや、きっとこの蛇神様は土壌改良ロボットやな」
「ふーん、もともと良いやつだったんだな」
「うん、せやけど例の天変地異によってバグって暴れ出したんや……砂漠化したのもコイツが原因とちゃうかな」

 かもしれないな、と俺は言いながら祠を出た。
 よし、次はマクドが欲しがっている金属を探しにいくか。と思ったらミルクから、

[ ミルクのパーティに参加しますか? ]

 とメールが届いた。開いてみるとチャット状態になる。
 
[ マクドも参加していいか? ]
[ いいっすよ ]

 俺とマクドはミルクのパーティに参加した。
 一瞬でワステタの街から景色が変わり、砂漠地帯の最北端にある採石場に移動している。ミルクが出迎えてくれた。

「おーい!」

 可愛い少女エルフが手を振っている。
 しかし俺を見た瞬間、目を丸くして驚いた。

「きゃぁぁああ! 仮面を取ったんすねー! ツッチー、かっこよすぎっすよ~」
「そ、そうか?」
「声もイケボだから、これはますますヴェリたそが惚れちゃうすね~」
「ないない、中身はおっさんだよ?」
「あ、そうだった」

 ちーん、と静かになるミルク。
 一方、マクドは「うぃーす!」と言ってミルクとハイタッチした。もうすっかり仲良しだ。

「採石場にもマーキングがあったんやな~」
「ぼくが見つけたっす!」

 ミルクは腰に手を当てる。
 偉そうにするが、可愛いから憎めない。

「ツッチー、ここでアクセサリの素材を集めるっすよ」
「ああ、ちょうどよかった。マクドも欲しい金属があるんだよな?」

 こくり、とマクドはうなずいた。

「ブラックパールが欲しいんよ。盾の強化に必要やから」
「わかった。土魔法で探知してみるよ」

 俺はメタリクムを唱えた。
 マクドとミルクは、まるで子どもみたいにワクワクしている。しかし、俺は首を横に振った。予想外の反応を示したからだ。

「ツッチー、どうしたっすか?」
「ここにブラックパールはない」

 マクドは「えええ!?」とうろたえた。

「ほな、どこにあるん?」

 俺は採石場を超えた先へ指さした。

「海の向こうに反応があるようだ……」
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