異世界で魔族が全滅してるらしいが、俺は普通にゴルフしてるだけ ~無能扱いされた男が 、距離だけで世界を変える話~

ぬこまる

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森の奥で、また嫌な匂いが広がっていた。

夜明け前。
空はまだ青みがかっていて、木々の影が長く伸びている。
本来なら、鳥の気配が戻り始める時間だ。

だが、その森には、静かすぎる場所があった。

荷車が並び、車輪が土を削る音がする。
人間たちが、眠ったままの魔族を運んでいる。

魔族の口元には、薬の痕。
呼吸は浅く、目は閉じたままだ。

「急げ」
「森に放て」

指示を出しているのは、人間だ。

魔族は地面に転がされ、
やがて、ゆっくりと目を覚ます。

考えることはない。
命令も理解しない。

ただ、本能に従って動き出す。

掘る。
掘る。
掘る。

鉱物の匂いを辿り、地面を壊し、森を削る。

その上空で、シルフィは歯を食いしばるように羽を震わせていた。

「だめ」
「こわれる」
「いや」

自然が、壊されていく。

シルフィは、風を切って飛び去った。



ガルドの家。

テーブルの上に紙が広げられ、
ガルドが炭で線を引いている。

「……ここだ」
「廊下の、曲がり角」

描かれているのは、悪徳貴族グラウスの邸宅の間取りだ。
壁の位置、通路の向き、見張りの配置。

シルフィが、紙の上を行ったり来たりする。

「OB」
「まげる」
「ロック」

「つまり」
俺は顎に手を当てた。
「真っ直ぐじゃ無理で、固定されてる、と」

ガルドが頷く。

「……近づけば死ぬ」
「監視が厚い」

「ですよね」

直接戦う気は、最初からない。
狙うのは魔族じゃない。

狙うのは――仕組みだ。



邸宅から、かなり離れた高台。

風がよく通り、地面も安定している。
ここなら、余計な揺れはない。

俺は金属玉を一つ取り出し、
指で軽く弾いて感触を確かめた。

冷たい。
重い。

「……距離は?」
俺が聞くと、

ガルドは、目を細めて言う。

「……普通なら、届かない」

「ですよね」

素振り。

肩、腰、足。
力は入れない。
流れだけを確認する。

そのとき。

「……ここで、何をしているんですか?」

背後から聞こえた声に、全員が固まった。

振り返ると、
フードを被ったリリアーナ姫が立っている。

「……殿下!?」
ガルドが本気で青ざめた。
「なぜ、ここに……!」

「距離の問題です」
姫は真顔で答えた。

「距離ではありません!!」
ガルドが即座に返す。

「大丈夫です」
姫は俺を見る。
「静かに、見ているだけなので」

俺は一度だけ頷いた。

「動かないでください」
「今、集中したいので」

姫の頬が、見る見る赤くなる。

「……は、はい」

ガルドが頭を抱える。

「……後で説教だ」



構える。

スタンスをわずかに開き、
フェースをほんの少し被せる。

力はいらない。
狙うのは、廊下の向こう。

「フックショット!」
シルフィが楽しそうに叫ぶ。

「静かに」
ガルドが低く言う。

俺は、スイングした。

乾いた音。

金属玉は、
まっすぐ窓を突き破り、
邸宅の中へ吸い込まれる。

次の瞬間、
見えない廊下の中で、

大きく、
気持ちよく、

弧を描いた。

カン。

鈍い音。

檻の鍵が、砕ける。



邸宅の中が、一気に騒がしくなった。

鉄の軋む音。
魔法陣が崩れる音。
悲鳴。

眠っていた魔族たちが目を覚まし、
本能のまま動き出す。

家来たちは、武器を捨てて逃げ出した。

床に転がり、
必死に這いずる男が一人。

グラウス・エディン。

宝石を飾っていた指は泥にまみれ、
威厳はどこにもない。

「ま、待て……!」
「金だ……!」

声が裏返る。

「全財産を渡す!」
「お前たち全員に分ける!」
「だから、助けてくれ!!」



そこへ、冒険者たちが入ってきた。

ブロックを先頭に、
エルネス、カイ、仲間たち。

檻。
薬瓶。
放流の痕跡。

誰も説明しなくても、理解できた。

「……だからか」
ブロックが低く言う。
「俺たちは、ずっと……」

グラウスが縋る。

「金はある!」
「全部だ!」

ブロックは、しばらく黙ってから言った。

「金はもらう」
「だが、助けはしない」

「俺たちは、仕事をする」
「それだけだ」

冒険者たちは散開し、
魔族を処理する。

今回は、苦戦しない。
配置も、数も、把握できている。

魔族は、
一体、また一体と倒れていった。



夜。

ガルドの家。

ローナの料理が、所狭しと並ぶ。
肉、野菜、酒。

「うまっ」
誰かが素直に言った。

「世界が変わった感じだな」
ブロックが笑う。

「別格だ」
エルネスが頷く。

「……異常」
ガルドが短くまとめる。

姫は、スプーンを止めて俺を見る。

「……とても」
「すてきでした」

俺は照れくさくなって、笑った。

「普通にゴルフしてただけなんですけど」
「あはは」

「それが普通じゃねえんだよ!」
ブロックが即ツッコむ。

そのとき。

ガルドが、深く息を吸った。

「……殿下」
「そろそろ、お帰りください」

「え!?」
姫が悲鳴を上げて逃げる。
「やだーー!」

全員、腹を抱えて笑った。

「はははは!!」

俺はその様子を見ながら、酒を一口飲んだ。

(あー、腹いっぱいだ)

シルフィが、満足そうに言った。

「ナイスショット」

ラウンドは、確かに終わった。
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