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しおりを挟むピシャリ、と襖を強く閉め、ずしりと赤い座布団に腰をおろした。
「くそっ! なぜ俺の魅了がかからないんだ!?」
本気の妖力だった。
アヤを籠絡させるつもりで、全力で魅了をかけた。
それなのに、アヤには効果なし。
いや、それだけではない。
アヤは俺が手を握っても振り払うし、山茶花を髪飾りにしたときも身体を引いて、避けようとしていた。
まるで、俺のことを嫌っているような、そんな感覚さえも……。
「ありえない、こんなことはありえない……」
過去を振り返ると、俺に見つめられた女たちは、恍惚の顔をしながら、チラチラと俺のことを見つめた。
古来から生贄とは、そういう生き物だと、俺は思っていたが……。
アヤは違った。
「むぅぅ、俺のことなど、まったく興味がないではないか!」
でもまあ、たしかに獣人旅館の庭園は、熊人ビアベアの植栽が施されているおかげで美しく、山茶花の眺めなどはこれまた格別で、景色に気を取られてしまうことも百歩譲って納得できるが、くそっ! アヤはぜんぜん俺のことを見ない、チラッともだ!
「くそぉぉ、何がいけなかった? お散歩デートを失敗するなんて、俺としたことがっ!」
どん、と座卓の上を拳で殴り、びりっと空間に衝撃が走る。
屈辱的な経験だった。
この俺が生贄に振り回されている、だと?
こんなことは、ありえない!
しかしながら、今回の生贄は俺好みのタイプ。
「ああ、尊い……」
ときは西暦二〇二〇年。
もうかれこれ、人間界から生贄がくるようになって二十回ほどになると思うが、狐人のイナリのやつ、だんだん俺の女の趣味がわかってきている。
「おいおい、なんなんだ? 今回の生贄は? イナリのやつめ、けしからん、ここへきて最強のツンデレ美少女を召喚してきやがった!」
生贄の名前は、アヤ。
彼女の瞳は美しい。
猫人でもないのに、猫のような大きな瞳をしている。
俺好みの日本人らしい漆黒の双眸。
ありえないくらい長いまつ毛は、まるで芸術家が描いた水墨画の線だ。
「ふはは! それだけではない……アヤの魅力は止まらないっ!」
あの髪がいい。
ゆるふわっとした艶のある髪が、首のうなじを霞むように流れる。
「ああ、美しい」
アヤの髪に触れたとき、俺は一瞬で幸せな気持ちになった。
山茶花のさわやかな香りもよかったが、アヤの髪の香りは山茶花の比ではない。
極めつけは、やはりあの華奢な身体だ。
「なんだあれは?」
胸の膨らみがない。
まだ成熟していない処女のような身体、初々しい可憐な少女。
おいおいイナリ、今回はかなり攻めてきたな。
いったいアヤは何歳なのだろう。
「くそ、なぜ俺は年齢を訊かなかった?」
だが、まてまて……。
女性の年齢を訊くことは失礼だ。
と、人間界の本に書いてあった気がする。
なので自分で訊き出すことはマズイな……。
よし、ここはイナリを使ってアヤの情報を集めよう。
俺はまだアヤのことをまったく知らないのだ。
そうだ、慌てるなよ俺、まだワンチャンあるはず。
今日のデートは失敗に終わったが、アヤ、次は見ておれ。
強引に魅了をかけて落とす方法が通じないのであれば、俺にだって考えはある。
「妖術がダメなら、物欲で攻める。題して、プレゼント作戦だっ!」
ぱんぱん、と手を叩いた。
すると、扉の向こうから、
「はい」
と、イナリの声があがる。
「入れ」
と命じるとゆっくり襖が開き、跪座する美しい狐目がこちらを見つめた。
「お呼びですか? リュウ様」
「ああ、イナリ。ふたつ頼みがある」
「なんでしょうか、リュウ様」
「今日召喚されてきた生贄の年齢など、あらゆる情報を調べてくれ。それと、運送屋のティグに例のプレゼントを持ってくるよう伝えておけ」
「承知しました。アヤ様のことは私がそれとなく訊いておきましょう」
「ああ、頼む」
「それと、リュウ様。例のプレゼントはいつ頃に届けさせましょうか?」
「すぐだ! すぐに持ってこい」
「承知っ」
閉じられた襖の向こうから、
「コンコン」
と、イナリの鼻息が聞こえてきた。
いつになく興奮しているようだ。
心なしか、俺の熱が伝染しているのかもしれない。
獣人旅館のみんな、是非とも応援してくれ、俺とアヤの恋の行方を。
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