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しおりを挟む緑風が吹く露天風呂で、じっと見つめ合うリュウと僕。
もちろん、彼は裸だ。
とりあえず……。
前を隠して欲しい!
というか、リュウはタオルを持っていない。
早く湯に浸かればいいのにと思うが、リュウは仁王立ちで僕のことを、じっと見つめている。
まるで、美術館の彫刻みたいな裸体。
リュウの妖艶な美しさに、思わず僕は見惚れてしまった。
だが、秒で首を振って自分を否定する。
いやいや、裸体を見せつけないで欲しい。
まったく、ナルシストはこれだから嫌だ。
それでも、まあ、カッコイイことは認めるが……。
いやいや、さっきから僕は、何を動揺している?
ふぅ、落ち着け……僕。
とにかく、ここは素直に謝っておこう。
一応、獣人旅館の僕は、女で通っているわけだがら、僕が男湯にいたらおかしいだろう。
「……すいません」
「いや、美しいアヤなら大歓迎だ。ようこそ男湯へ」
冗談だろ?
と僕は内心で訝しんだが、ありがたく甘えることにする。
「ありがとうございます。女湯は蝙蝠人のお姉さんがいて怖ったので、つい男湯に入ってしまいました」
「そうか。たしかにサキュバスたちは騒がしいからな」
ふと、壁の向こう側に耳を傾けると、あん、あん、と女の喘ぎ声があがっていた。
いったい、女湯でなにをやっているのだろうか?
リュウは肩をすくめると、やっと湯に浸かる。
「ふぅ、やっと身体が温泉に慣れてきた」
惚けた声を漏らすリュウ。
なんだか、僕だけ動揺しててバカみたい。
ほっとして、魔界の夜空を仰いだ。
満点の星空が広がっている。
「景色がいいだろ? ここは宇宙がよく見える」
「……宇宙?」
「ああ、魔界は電気がないからな。夜は真っ暗さ」
「あの、リュウさん」
「なんだ?」
「ここって地球ですよね?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、なんで人間から見えないんですか?」
「くくく」
リュウは僕の質問に苦笑した。
「隠しているのだ」
「なぜですか?」
「人間界と魔界が繋がったら、世の中がまたカオスになってしまう。だから隠しているのさ」
「そうですか……それにしても、リュウさんはなぜ、人間の女性を生贄に?」
「うーん、まあ、ストレス解消のためだな。俺に欲望が溜まると自然災害が発生しやすくなるらしい。まったく、困った俺の身体だ」
「それは困りますね」
「ああ、だから俺を癒してくれ、アヤ」
「……僕にできることなら」
「では、よろしく頼むぞ」
リュウは湯をすくって顔を洗った。
ばしゃん、と湯がはじけ音を立てる。
僕はびくっと反応して、思わずリュウを見つめてしまう。
盛り上がった肩の筋肉に水滴が流れている。
すごい筋肉、さらに色白で美しい。
鍛えているのだろう、見るからに強そうだ。
戦火で武勇をあげた白い竜騎士と呼ばれていたことも納得できる。
「やっと、俺のことを見てくれたな?」
「……え?」
「アヤは俺のことをチラッとも見ないから、まったく興味がないと思っていた」
「……すいません」
「いや、謝ることはない。時代とともに人類は進化する。女も変わるのだろう」
「……そうですね」
「アヤは、今までにないタイプの生贄だ。妖術の魅了も効かないし、裸の俺を見ても……あはは、まったく平常心だな。胸がドキドキしてこないか?」
「まあ、カッコイイとは思いますけど、ドキドキはしないですね」
「なるほどな、アヤは外見よりも内面を好きになるタイプだったか! あっははは」
快活に笑うリュウは、いきなり湯から立ち上がる。
その反動で湯が波のように揺れる。
気がつくと、リュウは僕に背中を向けた。
「アヤ、ゆっくりでいいから俺を見てくれ」
「……!?」
あははは、と笑いながらリュウは洗い場に行き、ゴシゴシと身体を洗う。
立ちながら湯の雫を浴びる彼の姿は、まるでハリウッドスターのシャワーシーンみたいだった。
「リュウさんって悪いやつじゃなさそうだな……ほんとに伝説の竜騎士?」
そう僕はつぶやきながら、そそっと湯船からあがり脱衣所に向かい、扉を引いた。
「あ!」
脱衣所のなかを見て、びっくりした。
蝙蝠人の男たちが真っ裸で、自分たちのボディを見せ合っていた。
幸いなことに、彼らは僕のことに眼中がなく。
「キレてる、キレてる」
とかいって褒め合っている。
ああ、彼らはそういう男たちか、と腑に落ちた。
僕は秒で浴衣に着替え、脱衣所から出た。
「ふう、危なかった~」
たまたま蝙蝠人たちが、ゲイだったからよかった。
やれやれ、と思いながら、ふと休憩所にあったヤカンに手をのばした。
傍らに茶碗があったのでそこに注ぐ。
飲んでみると麦茶だった。
火照った身体にちょうどよく、染み渡っていく。
うーんと、腕をのばしてストレッチ。麦茶を飲み干して茶碗を戻した。
ここで一つ、閃いたことがあり、思わず口にする。
「あとでリュウの部屋にいってみよう。優しい人っぽいから人間界に返してくれそうだ。いや、人じゃなかったか……竜人?」
僕の瞳は輝きを増し、るんるんと跳ねるように駆け出していた。
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