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しおりを挟む獣人旅館の庭園にはカフェテラスがあった。
広がる緑の芝生に浮かぶ飛び石、丁寧に手入れされた松、優雅に泳ぐ池の鯉、石の灯籠、手水鉢……。
そのような美しい景色を眺めながら、僕は昼食をとろうとテーブルの椅子を引いて座った。なにを食べようかな、とメニュー表を眺めていると、横に立つ巫女のミミが、
「何にしますかにゃ?」
と注文を促してくる。
「じゃあ、この獣人旅館特製・キツネうどんをください」
「かしこまりましたにゃ」
踵を返し、くるんと尻尾を踊らせるミミは館に戻っていく。
楽しみだな、と胸を膨らませていると、背後に気配を感じた。
さっと振り向くと、イナリが立っていた。
「アヤ様、私、を食べるつもりですか?」
「はあ? キツネうどんって油揚げのことだろ、何を言ってる」
コンコン、と笑うイナリは向かいの席に座った。
「リュウ様を救ってくれてありがとうございました。改めて感謝を申し上げます」
「いや……リュウさんは蛇から僕を助けてくれた。感謝するのは僕のほうだ」
「なるほど、戦火では冷酷無比だった竜騎士のリュウ様も、好きな女には甘かったわけですねぇ」
「……おいイナリ、僕は女じゃないけどな」
「コンコン、このまま女でいきましょう」
いや、と否定した僕は首を振った。
「僕は男だと明かすよ」
「えっ! アヤ様、殺されますよ」
「イナリ、もう嘘はいい。リュウさんはそんなことをする男じゃない。僕にはわかる」
「……バレましたか」
うん、といった僕は腕を組んで頷いた。
「なあ、なんで僕を女装させたんだ? 初めから正直に男だと……」
アヤ様、と言ってイナリは口を挟んできた。
「あなたは無自覚でしょうが、人間界を救っているのですよ」
「ん? リュウさんのストレスが溜まると自然災害が起こるってやつだろ?」
「そうです。したがって、騙してでもリュウ様に癒しを与えたかったのです」
「なるほど、で、もう癒せた?」
「もう一息です。デートもできました。添い寝もできました。キスもできて、あとは……」
言葉を切ったイナリは、顔を赤く染めた。
「私の口からは、ちょっといえません……」
「はあ? 何なんだよそれ?」
僕が訝しんでいると、
「おまたせしましたにゃ~」
といってミミがやってきた。
手に持つお盆の上には、どんぶりが乗っている。それを、テーブルに置いたミミは腰を曲げ、
「ごゆっくりにゃ~」
と微笑み去っていった。
「ごゆっくりにゃ~」
と、イナリもいって席を立つ。すると風のように去っていった。
「なんだ? あの妖術使いの狐め……食ってやる」
僕はうどんにのっている大きな油揚げにかぶりつく。じゅわっと甘い出し汁が口のなかに広がる。美味しくて、満面の笑みがこぼれた。
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