竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる

文字の大きさ
41 / 43

40

しおりを挟む
 
 狐目をさらに細め、微笑みを浮かべるイナリは、淡々とした口調でアヤに語り始めた。

「アヤ様、よかったですね」
「あ、イナリ! やっぱりあんたがリュウさんを起しにいったんだな?」
「まあまあ、アヤ様は素直じゃないですから、私がサポートしてあげなくては、と思いまして」
「はあ? んもう、ほんっとお節介なんだから、お母さんかよっ」

 コンコン、と笑うイナリ。

「アヤ様のツッコミはよきです。人間界でも、ぜひその調子でいてください」
「ん? どういうこと?」
「もっと自分らしく生きてください、ということです」

 え? とアヤは大きな瞳をさらに見開いた。
 微笑んでいたイナリだったが、いつになく真剣な眼差しに変貌すると、また語り始める。 

「古来から竜人への生贄は、魅力的な人間でないといけません」
「僕は魅力なんてないと思うけど……」
「いいえ、そんなことはありません。召喚したあの日、アヤ様は猫を助けましたよね?」
「うん、おばあちゃんに飼ってもらったけどね、それがどした?」
「良いことをすると、人間は魅力的になるのです。ですから、すぐにアヤ様を見つけられました」

 照れているアヤは、頬を掻いた。

「アヤ様、いいですか?」

 とイナリは語りつづけた。

「これからは、前を向いて歩いてください。魅力あふれる人間になれますから」
「……やってみるよ」
「ありがとうございます。そして、ここからが重要です、いいですか? アヤ様」
「なんだよ?」
「神聖な場所でお参りをすること」
「それって、おばあちゃんちの仏間とか?」
「はい、あとは神社やお寺、山の頂上や、大きな木の下などのパワースポットにて精神統一をしてください。そうすれば、召喚できます」

 わかった、といったアヤはにっこり笑うと、祭壇に描かれた魔法陣のなかに歩いていく。
 
「待ってくれ」

 そう叫んだ俺は、アヤのもとに駆け寄った。
 俺を見つめるアヤは、もう泣いていない。ただ、立ち尽くし、
 
「リュウさん……」

 と俺の名前を呼んでいる。
 俺は赤い箱から指輪を取りだした。
 
「受け取ってくれないか、アヤ」
「これは? たしか……」
「永遠の愛、ダイヤモンドだ」

 アヤは小さく首を振った。
 
「僕は男なので、こういうのはいらないです」
「何を言う。俺はアヤが好きなのだぞ」
「……ごめん、リュウさん。僕、まだ本当のことを言っていないことがあるんです」
「なんだ?」
「僕は……」

 と言葉を切ったアヤは、大きく息を吸い込んでからつづけた。
 
「アヤトなんだ。アヤだけじゃない。僕の名前には、がつくんだ」

 脳天に衝撃が走った。
 俺は口のなかで、アヤト、アヤト、と連呼する。
 なんて素晴らしい名前だ。
 
「アヤトか、いい名前ではないかっ」
「え? そうかな……」
「ああ、どう書くのだ?」
「色取りの彩に、人間の人で、彩人です」
「彩人、よし、これからアヤトと呼ぼう」
「うーん、リュウさんからそう呼ばれると、ちょっと嫌かも……」
「なぜ?」
「知らないっ」

 アヤは、ぷいっと視線を逸らし横を向いた。
 その仕草がなんとも可愛らしくて、俺だけじゃなく、獣人旅館のみんなが微笑みを浮かべた。
 
「じゃあ、抱くときは、アヤト、と呼んでやろう」
「やめてー」

 あはは、と俺が笑うとアヤは、腕を組んでほっぺたを膨らませた。
 
「んもう、まったく……いじわるなリュウさんは嫌いです」
「まあそう言うな、あはは」
「笑っていられるのも今のうちですよ。次、召喚するときは僕はお勉強してきますからね」
「ほう、それは楽しみだ」
「リュウさんを、ひぃひぃ言わせますから覚悟しといてください」

 あはは、と俺は笑ってから、アヤの左手の薬指に指輪をはめた。
 
「とにかく、これはアヤのものだ。捨てるなり売るなり好きにしろ」
「ふぅん、では僕に考えがあります。箱もください」

 アヤに赤い箱を渡し、

「どうするつもりだ?」

 と訊いた。

「和香さんにあげておきます」

 アヤの答えに、俺は首をかしげた。
 和香はこの世にいないはずだが……。
 
「それでは、またね、リュウさん」

 アヤはイナリのほうを向いて、左手を軽く掲げた。
 その薬指にはダイヤモンドが、きらりと輝いている。
 指輪をどうするつもりだろうか?
 また、アヤが召喚してきたときにでも、訊くとしよう。
 
「アヤ様、では召喚しますよ」

 イナリはそう言うと両手を広げた。
 すると、魔法陣が青く光り輝き、除祖的な漆黒の呪文がイナリの手から、ふわりふわりと浮かびあがり、ぐるぐると回転する。
 やがて、アヤは白い光りに包まれていく。
 そして、次の瞬間には、跡形もなく消えていた。
 獣人旅館のなかに一陣の風が吹き、みなの身体を清々しくなでた。
 料理長ガルルは厨房に戻り、ビアベアは庭の掃除、ミミとブーコは明日来る団体客が泊まる部屋の準備、ティグは風の吹くままに去っていった。
 ふぅ、と吐息を漏らすイナリは、ほっと胸をなでおろしている。
 俺はイナリに近づくと、肩をぽんと叩いて労った。

「ご苦労だったな。イナリ」
「リュウ様……」
「また、召喚のほうを頼むぞ」
「はい。あのリュウ様……」
「なんだ?」
「今回の生贄はどうでしたか? 女ではなくて男だというアクシデントはありましたが、結果、リュウ様が完璧に癒されており、私は感動いたしました」

 俺は首を振った。
 
「違うぞ、イナリ」
「……申し訳ありません、やはり女でないといけませんよね?」

 イナリは、ばつが悪そうに下を向く。
 俺に怒られると思って身震いしているのだろう。
 ふん、と俺は鼻で笑ってから答えた。
 
「アヤは生贄ではない。アヤは、俺の恋人だ」
「では、合格でしょうか?」

 ああ、と俺が頷くと、イナリは一転して笑顔になった。
 
「よかったです」
「合格どころではないぞ。アヤは和香の子孫、しかも男だ」
「はい、すごい偶然です。この年月日に和香さんの遺伝子を手繰り寄せてみたら、十代でなおかつ美少女顔負けの男がいるなんて、奇想天外です」
「ああ、男なら、もしかしたら化けるかもな」

 え? と驚いたイナリが教えてください、と言わんばかりに、ぐいぐいと肉薄してくる。
 
「もしもアヤが俺と和香の子孫であるならば、隔世遺伝して竜になれるかもしれん」
「……つまり、獣人旅館の跡取り主人としてアヤ様を迎えると?」
「ああ……まあ、アヤの場合は女将かもしれんがな」
「それは、ありえますねぇ」

 コンコン、と笑うイナリは、すっと気合を入れて姿勢を正した。

「ようし、アヤ様が立派な竜になれるようにこのイナリ、誠心誠意、真心を込めてこれからも召喚させていただきます!」
「ああ、よろしく頼む」
 
 俺とイナリは笑いあった。
 祭壇に祀られた山茶花が、吹く風にゆれている。
 さわやかな風がみずみずしい花の香りを運び、獣人旅館の玄関から入り、ロビーをぬけて廊下を走り、広間の祭壇へと駆けていく。
 俺は未来を思い描いた。
 いつかアヤが、可愛らしい小花を散りばめた萌黄色の着物姿で、こんな言葉を響かせることを。

 ようこそ、獣人旅館へ!
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生黒狐は我が子の愛を拒否できません!

黄金 
BL
幼馴染と一緒にトラックに撥ねられた主人公。転生した場所は神獣八体が治める神浄外という世界だった。 主人公は前世此処で生きていた事を思い出す。そして死ぬ前に温めていた卵、神獣麒麟の子供に一目会いたいと願う。 ※獣人書きたいなぁ〜で書いてる話です。   お気に入り、しおり、エールを入れてくれた皆様、有難う御座います。

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

気絶したと思ったら闇落ち神様にお持ち帰りされていた

ミクリ21 (新)
BL
闇落ち神様に攫われた主人公の話。

ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話

NANiMO
BL
人生に疲れた有宮ハイネは、日本に滞在中のアメリカ人、トーマスに助けられる。しかもなんたる偶然か、トーマスはハイネと交流を続けてきたネット友達で……? 「きみさえよければ、ここに住まない?」 トーマスの提案で、奇妙な同居生活がスタートするが……… 距離が近い! 甘やかしが過ぎる! 自己肯定感低すぎ男、ハイネは、この溺愛を耐え抜くことができるのか!?

BLゲームの世界に転生したらモブだった

ミクリ21 (新)
BL
BLゲームの世界にモブ転生したら、受けのはずの主人公ががっつり雄の攻めになっていて、何故か恋人になることになった話。

悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!

ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。 らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。 なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。

先生と合体しながらテスト勉強してたら翌朝にベッドに卵がありまして!?

ミクリ21 (新)
BL
家庭教師獅子獣人×鳥獣人の話。

婚約破棄されて森に捨てられたら、フェンリルの長に一目惚れされたよ

ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されて森に捨てられてしまったバジル・ハラルド。 バジルはフェンリルの長ルディガー・シュヴァに一目惚れされて、フェンリルの村で暮らすことになった。

処理中です...