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しおりを挟むリュウ様……。
リュウ様……。
「リュウ様、起きてください。アヤ様が人間界に帰ってしまいます」
はっと飛び起きた俺は、襖を開けて入ってくるイナリをにらんだ。
部屋のなかに射しこむ太陽の光りが、彼の金髪を輝かせている。
「なんでもっと早く起こさなかった!」
「アヤ様に口止めをされていました。別れの挨拶をすると泣いてしまう、と申されまして……」
「ええい、あのバカっ」
驚いた表情を見せるイナリの横を颯爽とすり抜け、俺は部屋を出た。
「リュウ様、お着替えは?」
と背後から聞こえたが、首を振った。
「それどころではないっ」
「あらあら、そんなに慌てなくても、私が召喚術を施さなければ、アヤ様は帰還できませんよ」
「……っぐ」
俺は拳を握った。
コンコン、と笑うイナリの顔を一発ぶん殴ってやりたい衝動に駆られる。
「アヤ様が突然いなくなっては、リュウ様は悲愴に暮れるでしょう? また日本列島に長雨を降らせても困りますからね」
「イナリ、貴様……」
「さあ、アヤ様を待たせてあります。早くいってください」
ありがとう、といって俺は手刀を切ると駆けだしていく。
廊下を走り、ロビーを抜けて広間へと向かう。
たどり着くと、獣人旅館のみんながアヤを中心に、さも楽しそうに談笑している。
アヤは浴衣ではなく、紳士服を着ていた。本当にもう帰ってしまうのだな……。
「アヤ嬢、また来るっすよね?」
「たぶんね、ガルルさんの料理また食べたいし」
嬉しいっす、といって涙ぐむ料理長ガルル。
アヤは手を差し伸べて、ガルルと握手を交わす。
「アヤ嬢、お元気でっ」
「はい、ガルルさんも」
つづいて、猫耳をひくひくさせるミミと、ブーブーと鼻息の荒いブーコがアヤに近づいた。
「アヤ様、見てくださいにゃ、ブーコの髪型」
「え? ボブヘアにしたの?」
ブヒッ、とブーコは頷いた。
三つ編みしていた髪を切って、アヤの髪型を真似しているが、お世辞にも、丸顔のブーコにはぜんぜん似合っていなかった。皮肉なことに余計、太って見える。
「可愛いよ、ブーコ、僕の真似してくれたの?」
「ブヒヒ、だってアヤ様は可愛いから少しでも近づきたくて……」
はにかむブーコは内股でもじもじ。
すると、腕を伸ばしたミミがブーコの背中を、ばちんと叩いた。
「ぜんぜん似合ってないけどにゃ」
ブヒー、と怒鳴ったブーコ。
みんなはその様子を笑いながら見つめていた。
そこへ、ずしんずしんと巨体を揺らしながらビアベアがアヤに歩み寄ってくる。手には一輪の赤い花を持っていた。
「アヤ様、これをお土産にするといいベア」
「それは髪飾りにしていた山茶花……いいのですか?」
ベア、と頷く熊人は毛むくじゃらの腕を伸ばし、山茶花をアヤに渡した。
「ありがとう、ビアベアさん」
ふいにビアベアは、自分の右耳を、ツンツンと指をさしながら口を開く。
「アヤ様の山茶花の髪飾り、綺麗でしたベア」
「ありがとうございます……」
すると、アヤはおもむろに山茶花を右耳の上にかけ、髪飾りにした。
綺麗なアヤの横顔に、一輪の赤い花が咲く。
ああ、美しい……。
ぱちぱち、と一同から拍手が起こり、アヤは満更でもなく笑う。
すると、そのとき背後から、
「おい」
と男の声がかけられた。
振り向くと、虎人のティグが立っている。
彼は俺の肩を叩くと、ぐいっと顎をあげ、
「リュウ、これどうするんだ? 俺に返されても困るんだが」
ティグの手には小さな赤い箱が握られていた。
うーん、と唸り腕を組んだ俺だったが、すぐに首を縦に振って決心する。
今ならば、アヤは貰ってくれるのでは、と期待しつつ、ティグの手から赤い箱を取ると、俺はゆっくりとアヤに向かって歩き出した。
「アヤ」
俺の声に反応したアヤは、顔を上げて振り向いた。
装いは英国紳士のような男の格好をしているが、美しい顔に山茶花の鮮やかな赤が咲いている姿は美しすぎて、とても男には見えない。
「リュウさん、来ちゃいましたか……」
「俺に挨拶もなしに帰るなんて、そんな寂しいことは二度とするなっ!」
すると、アヤの潤んだ瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
「だって、リュウさんの顔を見てると……」
「なんだ?」
「帰りたくなくなるから、ごめんなさい」
「バカか、また召喚して来ればいいではないか」
「……はい」
「いつでもアヤのことを、空から見ている。心配するでない」
「わかりました。でも人間界に帰ったら、どうやって召喚をしてくれますか?」
そうだな、といった俺は顎に手を当てていると、横からイナリが現れた。
コンコン、と笑いながらアヤに近づく。
「召喚については、私から説明しましょう」
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