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第二章 悪者をぶっ倒す私は、そんなに悪役令嬢でしょうか?
1−7
しおりを挟む「どこに行くのですか? メルル」
「この近くに攻略対象者がいます」
「それって例の乙女ゲームですか?」
「はい、イケメンがいます!」
と、答えた私の身体は、きらきらの光りに包まれていました。
──光魔法 光速移動
あっという間に私は、目的地につきました。
まさに、秒、です。
そこには、一台の馬車があり、見るからに何かヤバいものを乗せているような、嫌な雰囲気がただよっていますね。
前にまわると、バカでかい大男があくびをしています。
こいつが馬車を動かす、御者なのでしょう。
とんでもなく巨体ですね、馬が可愛そう。
「ふわぁー、ったく、早く赤ん坊を連れて戻ってこいよな」
男のその一言で、先ほどやっつけた悪者の仲間だとわかり、私は笑顔になりました。
うふふ、これでまた強いやつをいじめられる!
おや? 光の神ポースが消えました。
自分の姿を、他の人間に見られたくないのでしょうか?
「まぁ、いっか……それよりも、この馬車のなかに攻略対象者がいるような気がします」
クンカクンカ
と、私は鼻を鳴らして、探します。
うーん、このあたりからイケメンの香りがしますね。
「やはり、馬車からです!」
私は、いっきに馬車のなかに乗り込みます。
するとなかには、一匹の黒猫ちゃんがいるではないですか!
「きゃあん、かわいいー!」
私に警戒しているのか、シャー、と威嚇してきます。
驚いたイヴは、まだ赤ちゃんなので泣いてしまいました。
オギャア、オギャァァァ
「あ、泣かないで、よしよーし」
背中をトントンと叩いてあやしますが、なかなか泣き止みません。
いきなり暗いところに入るのも、よくないのでしょう。
私はいったん、外に出ました。
すると、また日陰になります、え? なぜ?
見上げると、巨体の男が私を睨んでいました。
ちょっと、怖いんですけど……。
「こ、こんにちは~」
「おい女、おまえはなんだ?」
「……あ、通りすがりのものです」
「その赤ん坊は? まさか俺の仲間から奪ったんじゃないよな?」
「この子は私の赤ちゃんです」
「そうか、それならいいけど……」
「では、ごきげんよう」
「おい、ちょっとまて! なんで馬車のなかに入ってた? このなかにいるのは希少価値の高い黒猫の獣人がいるんだぞ」
「へー、そうなんですね」
「おう、俺様はパイザック様に一目置かれる奴隷商人だからな、このくらいの獣人を捕まえるのなんて、朝飯前よ」
ふぅん、と私は鼻を鳴らしました。
本当に男性って悪いことを自慢げに話しますね、そんなもの武勇伝でもなんでもなく、ただのウザい話ですよ?
「おい、よかったらお茶しないか、赤ん坊つきでも俺様は気にしないぞ! がはは」
「……えっ?」
「おじさんとデートしよう、美味いもの、なんでも食べさせてやるぞ」
「無理です」
「そんなこと言わずに、さあ、飯食ったらホテルに行こう、金ならいくらでもやる」
それ、パパ活か?
「お断りします」
そう言って私は、手で拳銃をつくりました。
「なんのまねだ?」
「悪者をぶっ倒すまねですっ! ライトビーム」
バキュン!
と、凄まじい勢いで飛ぶ光りの弾丸。
「エンブラァァァ」
という、意味不明な断末魔を残し、悪漢はぶっ倒れました。
狙ったところはもちろん、ヘッドショットです。
楽しかったのかイヴも泣き止んで、もうごきげんな笑い声をあげていますね。
「ざまぁでちゅね~」
「バブバブー」
さてと……。
私はすぐに馬車の荷台に乗り込むと、黒猫ちゃんの救出を急ぎました。
にゃーん
と鳴いている黒猫ちゃん、ああん、きゃわいい。
ん? 鎖に繋がれているようですね、すぐ外してあげます。
バキュン、バキュン、バキュン
光の弾丸で鎖を破壊し、見事に黒猫ちゃんの救出に成功しました。
私の足にすり寄ってくる黒猫ちゃん。
ああん、名前をつけてあげたいですよぉぉ、好き。
すると、ここで光の神ポースのお出ましです
「メルルってすごいね! 前世で何をやっていたんですか? 探偵? 警察? それとも軍人だったりして」
「そんな強そうな職業じゃありません、どこにでもいる平凡なOLでした」
「オーエルって何?」
「うーん、パソコンをカタカタする人って感じかな」
「よくわかんないんですけど、ようはゲームオタクですか?」
「そうね、家に帰ればゲームばかりしてました。彼氏もいないし友達もオンラインにしかいませんし、家族と離れてひとり暮らしでしたし……ああ、前世を思い出すと泣けてくる」
「何歳だったの?」
「えっと、たしか24歳? だったような……ってあれ? 前世ってことはそんな若さで死んでるの? 私の前世……ぴえん」
「いや、これを見てください」
ピコッ
もうひとつウィンドウが現れました。
そこにいるのは、ベッドで寝ている……前世の私?
「これって私の前世?」
「そうです。どうやら寝ているだけのようですね、死亡は確認できませんでした」
「え? どういうこと?」
「寝ているとき、人間の脳は思考を停止しているので、まあ、死んでいるのと同じですね」
「はい?」
「こんな夢を見たことないですか? どこかの国のお姫様になっていたり、勇者になっていたり」
「あ、子どもの頃はよくありましたね、夢のなかで大活躍するんですが、起きるとなぜか忘れているんです」
「今、まさにその現象が起きているのです」
あ、そういうことね、と私はポースの説明に納得しました。
あまり深く考えてはダメですよね? ごめんなさい。
ここは剣と魔法のファンタジーの世界、さらに乙女ゲームっぽいのですから。
私は、大いに楽しみまくりますよぉ、イケメンたちとっ!
うふふ、うまくいけば、商人ルートで飯テロしてやりますから、お楽しみにねっ!
「メルル、さっきから何をぶつぶつ言っているのですか?」
「うふふ、なんでもない」
「本当に変な女の子ですね、メルルって」
「えへへ、ほら、黒猫ちゃん、森へおかえり~」
私はそう言って、黒猫に手を振りますが、なかなか行こうとしません。
なぜ? と私が首を傾けていると、誰かが近づいてくる気配を感じました。
ヴゥン
光の神ポースは消え、前世の私を映していたウィンドウも消えました。
近づいてくる人物は、
「こ、これって、メルルちゃんがやったの?」
と声をかけてきます。
その、おどおどした声で、もう誰かわかりますね。
「アルト先輩……まだ帰ってなかったんですか?」
「うん、なんか男の悲鳴が聞こえてきたからさ、気になって」
「……うふふ、それ私がやりました」
「ってか、その赤ちゃん可愛いねぇ」
バブー
と、笑うイヴは、ジタバタと手を振ります。
「ねぇ、羽、生えてんじゃん、その赤ちゃん」
「……あ、これは、その」
ヤバい、この状況、どう説明したらいいのでしょう?
私は、心のなかで叫びました。
──どうしよー!
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