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  第二章 悪者をぶっ倒す私は、そんなに悪役令嬢でしょうか?

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「どこに行くのですか? メルル」
「この近くに攻略対象者がいます」
「それって例の乙女ゲームですか?」
「はい、イケメンがいます!」

 と、答えた私の身体は、きらきらの光りに包まれていました。
 
 ──光魔法 光速移動 スピードオブライト
 
 あっという間に私は、目的地につきました。
 まさに、秒、です。
 そこには、一台の馬車があり、見るからに何かヤバいものを乗せているような、嫌な雰囲気がただよっていますね。
 前にまわると、バカでかい大男があくびをしています。
 こいつが馬車を動かす、御者なのでしょう。
 とんでもなく巨体ですね、馬が可愛そう。
 
「ふわぁー、ったく、早く赤ん坊を連れて戻ってこいよな」

 男のその一言で、先ほどやっつけた悪者の仲間だとわかり、私は笑顔になりました。
 うふふ、これでまた強いやつをいじめられる!
 おや? 光の神ポースが消えました。
 自分の姿を、他の人間に見られたくないのでしょうか?

「まぁ、いっか……それよりも、この馬車のなかに攻略対象者がいるような気がします」

 クンカクンカ
 
 と、私は鼻を鳴らして、探します。
 うーん、このあたりからイケメンの香りがしますね。
 
「やはり、馬車からです!」

 私は、いっきに馬車のなかに乗り込みます。
 するとなかには、一匹の黒猫ちゃんがいるではないですか!
 
「きゃあん、かわいいー!」

 私に警戒しているのか、シャー、と威嚇してきます。
 驚いたイヴは、まだ赤ちゃんなので泣いてしまいました。
 
 オギャア、オギャァァァ
 
「あ、泣かないで、よしよーし」

 背中をトントンと叩いてあやしますが、なかなか泣き止みません。
 いきなり暗いところに入るのも、よくないのでしょう。
 私はいったん、外に出ました。
 すると、また日陰になります、え? なぜ?
 見上げると、巨体の男が私を睨んでいました。
 ちょっと、怖いんですけど……。 

「こ、こんにちは~」
「おい女、おまえはなんだ?」
「……あ、通りすがりのものです」
「その赤ん坊は? まさか俺の仲間から奪ったんじゃないよな?」
「この子は私の赤ちゃんです」
「そうか、それならいいけど……」
「では、ごきげんよう」
「おい、ちょっとまて! なんで馬車のなかに入ってた? このなかにいるのは希少価値の高い黒猫の獣人がいるんだぞ」
「へー、そうなんですね」
「おう、俺様はパイザック様に一目置かれる奴隷商人だからな、このくらいの獣人を捕まえるのなんて、朝飯前よ」

 ふぅん、と私は鼻を鳴らしました。
 本当に男性って悪いことを自慢げに話しますね、そんなもの武勇伝でもなんでもなく、ただのウザい話ですよ?

「おい、よかったらお茶しないか、赤ん坊つきでも俺様は気にしないぞ! がはは」
「……えっ?」
「おじさんとデートしよう、美味いもの、なんでも食べさせてやるぞ」
「無理です」
「そんなこと言わずに、さあ、飯食ったらホテルに行こう、金ならいくらでもやる」

 それ、パパ活か?
 
「お断りします」

 そう言って私は、手で拳銃をつくりました。
 
「なんのまねだ?」
「悪者をぶっ倒すまねですっ! ライトビーム」

 バキュン!
 
 と、凄まじい勢いで飛ぶ光りの弾丸。

「エンブラァァァ」

 という、意味不明な断末魔を残し、悪漢はぶっ倒れました。
 狙ったところはもちろん、ヘッドショットです。
 楽しかったのかイヴも泣き止んで、もうごきげんな笑い声をあげていますね。

「ざまぁでちゅね~」
「バブバブー」

 さてと……。
 私はすぐに馬車の荷台に乗り込むと、黒猫ちゃんの救出を急ぎました。
 
 にゃーん
 
 と鳴いている黒猫ちゃん、ああん、きゃわいい。
 ん? 鎖に繋がれているようですね、すぐ外してあげます。
 
 バキュン、バキュン、バキュン
 
 光の弾丸で鎖を破壊し、見事に黒猫ちゃんの救出に成功しました。
 私の足にすり寄ってくる黒猫ちゃん。
 ああん、名前をつけてあげたいですよぉぉ、好き。
 すると、ここで光の神ポースのお出ましです
 
「メルルってすごいね! 前世で何をやっていたんですか? 探偵? 警察? それとも軍人だったりして」
「そんな強そうな職業じゃありません、どこにでもいる平凡なOLでした」
「オーエルって何?」
「うーん、パソコンをカタカタする人って感じかな」
「よくわかんないんですけど、ようはゲームオタクですか?」
「そうね、家に帰ればゲームばかりしてました。彼氏もいないし友達もオンラインにしかいませんし、家族と離れてひとり暮らしでしたし……ああ、前世を思い出すと泣けてくる」
「何歳だったの?」
「えっと、たしか24歳? だったような……ってあれ? 前世ってことはそんな若さで死んでるの? 私の前世……ぴえん」
「いや、これを見てください」

 ピコッ
 
 もうひとつウィンドウが現れました。
 そこにいるのは、ベッドで寝ている……前世の私?
 
「これって私の前世?」
「そうです。どうやら寝ているだけのようですね、死亡は確認できませんでした」
「え? どういうこと?」
「寝ているとき、人間の脳は思考を停止しているので、まあ、死んでいるのと同じですね」
「はい?」
「こんな夢を見たことないですか? どこかの国のお姫様になっていたり、勇者になっていたり」
「あ、子どもの頃はよくありましたね、夢のなかで大活躍するんですが、起きるとなぜか忘れているんです」
「今、まさにその現象が起きているのです」
 
 あ、そういうことね、と私はポースの説明に納得しました。
 あまり深く考えてはダメですよね? ごめんなさい。
 ここは剣と魔法のファンタジーの世界、さらに乙女ゲームっぽいのですから。
 私は、大いに楽しみまくりますよぉ、イケメンたちとっ!
 うふふ、うまくいけば、商人ルートで飯テロしてやりますから、お楽しみにねっ!
 
「メルル、さっきから何をぶつぶつ言っているのですか?」
「うふふ、なんでもない」
「本当に変な女の子ですね、メルルって」
「えへへ、ほら、黒猫ちゃん、森へおかえり~」

 私はそう言って、黒猫に手を振りますが、なかなか行こうとしません。
 なぜ? と私が首を傾けていると、誰かが近づいてくる気配を感じました。
 
 ヴゥン
 
 光の神ポースは消え、前世の私を映していたウィンドウも消えました。
 近づいてくる人物は、
 
「こ、これって、メルルちゃんがやったの?」

 と声をかけてきます。
 その、おどおどした声で、もう誰かわかりますね。
 
「アルト先輩……まだ帰ってなかったんですか?」
「うん、なんか男の悲鳴が聞こえてきたからさ、気になって」
「……うふふ、それ私がやりました」
「ってか、その赤ちゃん可愛いねぇ」

 バブー
 
 と、笑うイヴは、ジタバタと手を振ります。
 
「ねぇ、羽、生えてんじゃん、その赤ちゃん」
「……あ、これは、その」

 ヤバい、この状況、どう説明したらいいのでしょう?
 私は、心のなかで叫びました。
 
 ──どうしよー!
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