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空腹を満たす空
しおりを挟む「君の話しをしているんだよ。ボクは」
「私…の…」
少女に笑いかけた魔女はそっと、少女の髪をすくった。
「ボクの手を掴むのも。ボクの手をなぎ払うのも。君の自由だから。」
「……じゆう…」
塔から一歩踏み出した少女は
そのまま落下していく。
新たな世界を見る…好奇心と欲求に
無意識に深く…身を委ねて。
ーーーーーー
ーーー
ー
「…おはようございます。」
誰もいない部屋で。
何もない部屋で。
真っ暗で汚れている部屋で。
少女は独り言のように呟く。
誰にも届かない、誰も返さない。
それでも、朝の挨拶はする。
これは少女の日常のひとつになっていたから。
だから、少女は…今日も挨拶をした
可哀想な自分と、その一輪の花に。
「知っていますか。この世界には…別の世界に行ける扉があるそうです。」
「今日はずっと、いい天気でしたね。」
「水が飲みたいですね。普通の水が。」
少女はずっと語りかける。
白色のその花に。
「貴方は不思議ですね。太陽の下にかざすと七色にきらきら輝く。」
その、花の花弁にそっと触れる。
いつも、少女はこの花の花弁に触れる時指を握り返してくれるような感覚に陥る
「…ありがとうございます。貴方がいるから、私は1人ではない。」
その花と一緒にいる時の少女は
いつも幸せだった。
ふわりと窓の間から風が吹く。
暖かくて柔らかい。
優しく少女の頭を撫でるように。
髪の毛が数本、風の向く動きに合わせて
ぱたぱたとなびいた。
少女が空を見上げていると
こんこんと下の方から音が聞こえてくる
きしむ階段を上がってくる音。
そのうち、無気質な部屋の一角の
気の壁にあるぽつんとひとつある扉から
鍵を開ける音が聞こえて。
部屋に誰かが入ってきた。
「…マリア!時間よ!降りてきなさい!!」
「……はい、今行きます。」
優しい顔をしていた少女は
少女の名前を呼ぶ、厳しい顔をしている年老いたおばさんを見た瞬間変わった
何の感情も持っていないような顔で階段を降りて、下に向かった。
「いいねっ!マリア!あんたは、ラナに関わるんじゃないよ!!」
「分かりました。」
いつも通り。
いつも通り。
少女は誰にも愛されず。
愛などとは、教えてもらえず。
埃や汚れと一緒に生きてきた。
だからこそ、この日常に不満はない。
いつも通りだったから。
光を知らないから。
暗闇でも…ずっと彷徨っていられた。
いつも通りの向こう側を。
見たことがなかったから。
だから少女は、今日も幸せだった。
気持ち悪いほどの空腹を忘れるほど。
今日の空は澄んでいたから。
少女は一日…微笑んでいた。
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