唯我独尊

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愛の死

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愛を確かめ合う人生の何処が楽しいのか分からないまま生きてきた。今日も僕は愛を求められて、窮屈に生きるのだろうと思っていたが、その予想は外れて、あの女は突然死んだ。一瞬、足枷が取れたように思えたが、女を断ち切れない自分の弱さと、それに漬け込み迫る女の貪欲さが作りあげた足枷は重く、女が死んだだけでは消えなかった。

足枷は僕と女を繋いでいる。誰かと出会っても、ある境界線で女は鎖を引いて僕を転ばせ、その先に行かせない。親友も、真に愛してくれる人も欲しいのに、相手から見た僕は所詮表面上の友人のままで、その立ち位置は変わらない。僕は延々と女に苦しめられ続けている。僕は、あの女に出会ってから浅い交友関係しか築けなくなってしまった。女が死んでから僕はますます苦しくなって、そうして僕は空っぽになった。
空っぽな毎日は、僕を二人ぼっちにした。僕の心には、虚像の僕と女が棲みついて離れない。心の中の二人は溶けあって、運命共同体と化している。そうして囁くのだ、虚像も女も同じことを。

貴方はもう、何も愛せないのよ。

五月蝿い、黙れ。さっさと僕から剥がれ落ちてくれ。そう願っても繰り返される日々に目眩がする。日が経つに連れて、僕は無になっていく。何をする気にもなれなくなっていく。自分が駄目になっていくのを、ベッドの上で、ただただ感じていた。
彼女がとても温かい人間だったことも、彼女を化け物にしたのは僕だということも、本当は分かっていた。僕に死を受け入れるだけの力は無かった、それだけのことである。虚像は僕だ。
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