私を捨てないで!

橘五月

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By seeds

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 私は生まれた時から目が見えなかった。辺りを見渡しても一面は闇。優しく甘いオトリさんの声だけが聴こえる世界。そんなところで生きてきた。

「僕は囮なんだ。僕が敵を引き付けるから、君はどうにかして地面まで逃げるんだよ。」

 毎日毎日、オトリさんは私にそう言い聞かせてきた。そして私はその度にこう言った。

「オトリさんは?私1人じゃ嫌だよ無理だよ」

 そして彼もまた、テンプレで返答する。

「君はお母様からたくさんお弁当を貰ってるだろ?1人になっても大丈夫だよ」

 いつか1人になるのが怖かった。だから違う答えが返ってくるという期待を込め、来る日も来る日も同じ事を訊き続けた。しかし、答えが変わることはなかった。

 そんなある日、一つの疑問が生まれた。私には当たり前すぎて、今まで気にした事も無かったものだった。

「ねえオトリさん。なんで私は目が見えないの?もしかしてオトリさんも見えてないの?」

 オトリさんは少し戸惑ったが、いつものように優しく丁寧に教えてくれた。

「君が目が見えないのはね、僕のせいなんだ。ごめんよ……」

「え、オトリさんのいじわるー!私にも“見える“を体験させてよー」

 私は冗談めかして言った。こういう言い方をすると、彼はいつも面白おかしな返答をしてくれたが、今日は違った。

「本当に、すまないね……」

「どうしたの?元気ないね。私は目が見えなくたって平気だよ?」

「そろそろ話しておかなきゃ行けなかったんだ」

 言葉に詰まりながらもハッキリとした口調でオトリさんは続ける。

「僕はね、君のお母さんに頼まれたんだ、君を守るように。できるだけ遠くへ連れて行くように。」

「へえー、守ってくれるんだー。あ、私が目見えないのはオトリさんに隠されてるからってことか。でも遠くへって、どこまで?全然移動してる感じないけど……」

「僕はね、自分では動けないんだ。移動するには他の誰かの力が必要なんだ。勿論誰もタダでは運んでくれないからね、対価を渡すんだ」

「対価って……?」

「いつも言ってるよね、僕は囮だって」

「え、うん。オトリさんはオトリさんだよ??」

 私にはオトリさんが何を話したいのか分からなかった。私の目が見えないことを色々と説明してくれるのかと思ったが、どうもそんな感じではなかった。なんとなく、この先を聞いてはいけないような気がしたが、オトリさんはさらに続ける。

「それは僕の名前じゃないよ。僕は囮。他の動物に君ごと身を食らわせてやるんだ。君は食われても死なないから平気、奴らの中に入った君は数日後には外に出れる。その時にはきっと目が見えるよ。そして君はなんとか地面にたどり着くんだ」

「オトリさんは?」

「僕は食べられたらそこでお役御免。そしてその時がもうすぐ来るんだ。僕もキレイなオレンジ色になったからね」

「待ってよお役御免って、もうすぐって……えっ、どういうこと……」

 オトリさんが、もうすぐいなくなる……?目が見えるようになる?情報のインパクトが大きすぎて頭がパンクした。
 私の頭がおかしくなっているところに、さらに追い討ちがかけられた。強い衝撃と振動が私たちを襲ったのだ。まるでさっきの話が実現したかのようだった。

「何!?オトリさんどうなってるの!?」

「もう来たのか…………。大丈夫!僕が君を守るから!!!」

 それから暫く揺れが続き、話し声が聞こえた。その声は、『美味しそう』だとか、『まだ渋いかも』だとか言っていた。

『いいや、切っちゃえ』

 次の瞬間、今まで私を覆っていた闇が消えた。

 これが外の世界か。鋭い物を持ってる奴は誰だ?オトリさんは……

「ちょっとオトリさん!?血が出てるよ!しっかりしてよねえ!」

 私を包んでいたはずのオトリさんは透明の液体を流し、キレイに四等分されていた。

「ごめんね、相手が悪かった……。終わりだ。奴らは君を食べない。地面にも運んでくれない。僕だけを食べて、君を……ゴミのように捨てるんだ。役割を果たせなかった僕を、許して欲しい」

 オトリさんは泣いていた。情けない表情で泣いていた。

「一体……あいつは一体何なの!」

 オトリさんにこんな顔をさせるあいつは一体!

「あいつは、人間。僕たちの天敵だ」

 私の体が宙に浮く。すごい勢いで吹っ飛ばされる。

「オトリさん!嫌だあああ!」

 別れを言うことも出来ず、最期を見届けることもできず、私とオトリさんは引き離された。臭いものが入っている袋に落とされ、オトリさんの声が完全に聞こえなくなった。

 出会いがあるから別れがある。オトリさんは言っていた。だから話を聞いた時は寂しかったけど、別れを超えて進まなきゃ。そう思っていた。

「でも、これじゃあ……!」

 命がなきゃ……オトリさんの覚悟が無駄になる。犬死だ。私が地面に着かなきゃいけないって言うのに……!

「人間……!!!私を、捨てないで!!!」

『お、一発で入ったラッキー!』

 そう言って人間は、私の入った袋の口を固く結んだ。
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