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ユメカマコトカ 最終話
しおりを挟む※こちらは『ウソカマコトカ1』の続編『ユメカマコトカ』の続きとなります。
※BL作品のため、BLが苦手な方はご遠慮下さい。
※今回は性描写無し。
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強く抱き寄せられたと思ったら、身体の向きを変えられ、キスをしたまま、畳の上に押し倒された。
加速する息づかい。
絡まる指。絡まる舌。
脇腹から、もぐりこむ手。
唇を繋げたまま、覆いかぶさってきた明るい髪に指を通し、優しく撫でる。
俺の口の中から這い出た神代の熱い舌が、そのまま俺の顎を伝い、触手のようにぬちぬちと首元で遊び回る。
時折ちくりと刺すように薄い皮膚を吸われると、呼吸が乱れる。
声にならずに漏れ出た吐息が神代の何かを狂わせるようで、ひんやりとした部屋の中で、ここだけが急速に熱を帯びていった。
ぬるぬると耳元を弄り始め、早急な息を繰り返していた口元が、くぐもった声で耳に直接囁く。
「ね……今日はさ。手じゃなくて……。口で、抜いて欲しい……。だめ?」
明らかに欲情しているものが、布越しに、俺の太ももに当たっている。ずっと気がついていた。
神代が言っていた、際どい関係。
たまらなく含みを帯びた、その艶っぽい響きに、思わず笑みがこぼれる。
また欲しくなって神代の頭を引き寄せる。
舌を伸ばせば、すぐにもう一つの舌が絡まりついてくる。
また性交渉のようなキスに溺れる。
ぐいぐいと押し付けられていた、神代の固く膨張したものが、俺の下半身の中心を擦り上げた。
あまりの気持ち良さに、背中がびくんと弓なりに跳ねる。
こんなにも、自分が張り詰めていたなんて。
早く。もっと先の快楽が、知りたい。
俺の反応を見た神代は、やや余裕のない息づかいで、思い切ったように、小さく耳元で呟いた。
「それか……、もう、最後まで……ヤッちゃう?」
どう答えたのかは知らない。
ただ、迷わず笑って返したところをみると、恐らく、いいよとでも軽く言ったのだろう。
ところが、俺の返事を聞いた神代は、息をつまらせ怯んだように動きを止めた。
急に一時停止し、その後ゆっくりと時間が逆巻きに再生されていくようだった。
荒かった息づかいが消えていく。
え? と俺は困惑した。
ついさっきまでの熱い空気が冷めていく。
濃密な湿気を含んだ二人分の吐息が蒸発していく。
しばらくして、神代はゆっくりと身体を起こした。
覆いかぶさっていた温もりが遠ざかる瞬間、こちらを見つめる視線に射抜かれる。
ぞっとした瞳。
恐ろしい者を目の当たりにしたように、綺麗な顔が恐怖に満ちていた。
神代は仰向けになった俺の横に、ゆっくりと腰を下ろし、俯いた。
俺は言葉を失って起き上がる。
俯むいて動かない神代を、じっと見つめた。
またか――。
そう夢の中の俺は溜息をつく。
可愛くイチャついてたかと思えば、別れ話のように重たい空気の会話を始める。そうかと思えば、理性を忘れて激しく求めてくる。そうかと思えば――これだ。
なんなんだよ。俺はどうすればいい。
そう夢の中の俺が混乱するほど、ここ最近の神代は情緒不安定であるらしかった。
多少病んでいるのかもしれないと俺なりに心配もした。
その理由に特に興味は無いが。
「どうして……、どうして、そんな簡単に……本気で好きでもない奴と、ヤれちゃうんですか? …………断らなきゃ」
途切れ途切れの苦しそうな声。
そっちから誘っておいて、なぜ俺が責められなければいけないのか。
俺は何か短い言葉を返したらしい。
「いい訳ないですよね!? 数時間前まで、好きな女の話ばっかりして、告白するかずっと本気で悩んでた人間が、こんな事して、いい訳ないですよね? どうしてそんな事……」
顔を上げてこちらを向いた後輩の顔が、見たことのない真剣な鋭い表情だったので、俺は思わず視線をそらせた。
そんな事、酔ってる俺に言われてもな――。
それが俺の率直な意見だった。
溜め込んでいた大きな息を吐き出して、神代はまた俯いた。
開いた膝に肘をつき、ぐったりと両手で頭を抱える。
息が出来ないほど重苦しい時間が流れた。
自分の部屋じゃなければ、今すぐ出て行くのに。
「もう、しんどいです……。先輩……」
神代は、そう呟いた。
それから、聞き取れないくらい、か細い声で「苦しい……」と漏らした。
俺は途方に暮れた。
食べかけのエクレアが転がり、クリームが畳に飛び散っていた。
頭を抱えて俯いたままの神代は、深呼吸のように大きく息を吸い込むと、震える声で絞り出すように言った。
「怖いんです……どんどん、自分が……おかしくなって……、狂っていく、のが……」
うめき声にも似た辛そうな声。
さすがの俺も少し慌てた。
とにかく、慰めなければ……そう思い、神代の肩に手を伸ばす。
しかしその自分の手が視界に入って、俺は、はっと動きを止めた。
息を詰めて見つめる、生気の無い、青白い手の甲が――まるで悪魔のそれに見えた。
きらきらと明るく光る髪の天使にしがみつき、引きずり降ろそうとする、悪魔か化け物の、飢えた手に見えた。
愕然と言葉を失い、小刻みに震える指先を見つめる。
俺がずっと、浮世離れする綺麗で整った存在に抱いていた、化け物じみた感覚の正体は、ここにあった。
夜な夜な生き血をすするかのごとく飢えた、欲深い化け物は、可愛い後輩では無く、俺の中にいた。
自分が恐ろしくなった。
震える愚かな指先は、天使の肩までは届かず、静かに畳の上に落ちた。
ふと違和感を覚え、何かを追って顔を上げる。
窓を見上げると、外の暗闇に青白い光が滲んでいた。
夜明け。
それで、か――。
全てを見透かし、正体を暴き立てようとする小さな光。
神聖さを湛える弱くも鋭い光は、俺の醜い本性を容赦なくあぶり出した。
もう寝なければ。
そうしないと――忘れられない。
俺は怯えた。
まるで光から逃げる滑稽な吸血鬼のように。
「はやく……」
小さな声にはっとして、神代を見やる。
両手で抱えた頭から漏れ出るそれは、ほとんど泣き声だった。
「はやく……、らくに、なりたい――」
強張ったままの肩が微かに震えていた。
追い詰められ、最後に残る理性で吐いたかのような言葉。
ぽつ、ぽつと、雨の降り始めのような灰色の丸い染みが、神代の足首の生地に二つ三つ浮かび上がった。
俺は、どうすればいい――。
心がざわつく。
呼吸が早まる。
なんとか、しなければ。
『……ら……、い……』
苦しまぎれに吐き出した自分の声が、音としての最後の記憶だ。
意味は、不明。
また窓を見上げる。
凄いスピードで領域を広げていく、白い光。
世界を正常に戻していく。
汚れたものを漂白していく。
だめだ、醒めるな――。
次の瞬間、スポットライトに射されたように、目の前が一瞬真っ白になった。
すぐに戻った視界には、変わらず頭を抱えて蹲る後輩と、その傍らで何も出来ずに座り込む俺がいた。
そうか。
俺は、こんなにも。
こんなにも、最低な奴だったんだな――。
容赦なく広がる朝陽に照らされる。
ただ、ただ、二人で絶望する。
こうやっていつも、悪夢は終わる。
完
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【後書き】
こんばんは。
まずは、こんな最果ての地のBLの続編の最終話にまでたどり着いて下さった皆さま、本当にありがとうございました。
短編のつもりで軽く書き始めた今作ですが、ありがたい事に沢山の方にお読み頂き、続編を書く流れとなりました。
私の中では割と王道オブ王道なストーリーだったので、こんかに多くの方にお読み頂くなら、もっとストーリーや設定を練れば良かったなとか、今更になっていろいろと思うところもございます^^;
1作目『ウソカマコトカ1』では2人の関係の始まり、今回続編の『ユメカマコトカ』では、全編主人公の夢の中という形で、1作目に書かなかった2人の関係を振り返りました。
次回からは『ウソカマコトカ2』として、やっと1作目のその後の2人の関係が動き始めます。
こんな話、長く書いて誰が読むんだよ……という思いは尽きないのですが、一応書き始めた以上は、書き切りたいと思います。
まだ次作は書き上がっていないので、投稿まで時間がかかりますが……でも8月中旬までには上げたいなぁ。
いいねやポチして頂けると頑張れます♪♪
ではまたね。
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