事故から始まる物語

maruta

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閑話 先輩の気持ち1

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 後輩カップルとWデートをする事になり、ラウワンに来ていた。一通り遊んでカラオケで休憩していたが、トイレに行きたくなった為席を外しトイレを終えて扉を開けようとしたら、後輩2人と飛鳥の話し声が聞こえた。飛鳥が後輩にキスやそれ以上の事をしたいけど私が出来ないと言ったからキスまでしか出来ていないと話していて中に入れなくなった。
 いつまでも扉の前にいる訳には行かないと思い外の空気も吸いたかったので上の階にある広場のベンチに座ってバッティングマシーンでバッティングしている知らない人が出入りしているのをぼーっと眺めていた。どれくらい経ったか分からないが隣に誰かが座った。見なくても誰が座ったのか見当がついていたが話しかけて来たので確定した。

「・・・聞いていたの?」

 そう言ってきたのは飛鳥だった。扉前で聞いていたのかと言っているんだろうなと思ったが私は返事はしなかった。

「・・・」

「・・・手、痛むの?」

 返事をしなかったからなのか手が痛いのかと思われ、飛鳥は自分の膝に私の右手を乗せた。別に手は痛くないし何ともないけど、何故かずっとモヤモヤしていて返事をするのでさえ、面倒だと感じて私は黙っていた。

「・・・」

「・・・私は今の照が好きだよ。キス以上の事をしたいと思っているけど照の気持ちがないのにしたいなんて思わないし、それで照の事を嫌いになんてならないよ」

「・・・」

「・・・それにね、照が我慢してそれ以上の事をしてくれても私は嬉しくない。だから、照は私に応えたいけど応えれなくて照が我慢してそういう事をすると次は私が照に対して申し訳ない気持ちになると分かっているから、照が色々と考えてくれてでも答えが出なくて苦しい思いをしてると思っているんだけど」

「・・・」

「私は応えてくれなくていいと思ってるよ。照が私の隣に居てくれるのが何よりも嬉しいから!」

 飛鳥が言っているのを聞いて自分ではモヤモヤするだけでなんでか分からなかったが苦しかったのだと分かった。私より私の事を分かっている飛鳥はエスパーなのかと思う時がある、私が1人になりたい時は必要な時以外近寄って来ないし、学校などでも気分で誰も居ない場所や、人が多い場所に居ても連絡していないのに必ず見つけてくる。
 飛鳥は私が隣に居てくれるだけで嬉しいと言ってくれた、そう言われて気持ちが楽になった。飛鳥は後輩たちの所へ戻ろうと言い、私の左手を握ってエレベーターの方へ歩いていく。私は階段がいいなと思い声を出した。

「・・・飛鳥、階段で降りよ」

 そう言うと飛鳥は頷いてエレベーターの前を通り過ぎ階段の方へと向かってくれた。飛鳥は私の意思を聞いてくれて自分は大丈夫だと言って恋愛感情を持てない私にとって嬉しい言葉をくれる。あの日、飛鳥に告白された日も嬉しかったが私の事をこれだけ見て大事にしてくれる飛鳥に有難いと言う思いと思考が読まれて悔しいと言う謎の思いがあった。そして、今ならという思いもあり階と階の間の踊り場で飛鳥の名前を呼んだ。

「・・・飛鳥」

「ん?な」

 飛鳥が『なに?』と言おうとしたタイミングで私は飛鳥にキスをした。そして、そのまま飛鳥の口の中に自分の舌を入れ、飛鳥の舌に絡めた。目は開けていて飛鳥の表情を見ていたら最初は驚いて目を見開いていたが、状況が分かったからか離れようと私の肩に手を置き押してくるので飛鳥の後ろ頭に右手を持っていき頭が離れないようにする。
 骨折して指を動かすことは出来ないが頭が離れないように押さえることは余裕でできた。すると、飛鳥は諦めて目を細め睨むように見てきた。それに満足して私は飛鳥から頭を離し階段を降りた。後ろから飛鳥が叫んだ。

「きゅ、急に何するの!?ねぇ!?しかも、し、舌まで!!」

 焦っている飛鳥が面白かった。私は止まって飛鳥の方へ振り向くと顔を真っ赤にした飛鳥が見えてまた面白くてニヤッと笑い、舌を出し「べーっ!」と言い飛鳥を置いて階段を降りた。そしたら、後ろから飛鳥がまた叫んでいた。

「っ!?な、なに!?分かんないよ!照の考えてる事全然わかんない!」

 そう叫んでいた為、さっきの考えている事とか当てられた仕返しにしたが流石に分かんないか!と思った。後輩たちの居るカラオケボックスへ入る前に立ち止まり、『やっぱダメかぁ』そう呟いて中へと入った。
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