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第6章 輪廻転生する神々の星、浄土/ウマーの鎧とバビロン

過去という現在.48: 女の爪

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 Gの目の前にバビルの巨大壁が広がっている。
 もう逃げも隠れも出来ないし、するつもりもない。
 Gは巨大壁に沿って上昇し始めた。

 ここまでバビルに近づき上を見上げると、塔の終わりが見えず、逆に自分が高所から釣り下げられ地面をのぞき込む様な感じに世界が見える。
 Gは巨大壁の周囲をゆっくり飛翔しながら、バビルの塔の地上開口部を見つけ出した。
 その開口部は、宇宙で船を建造する為の資材搬入口だったらしく、大型タンカー船が充分横向きに入れそうな大きさを持っていた。
 試しに開口部に設けられた、物資搬入用の高速エレベーターの運転装置に力を使ってアクセスしてみる。

『駄目だな。ウィースム技術か、、人世代コンピュータは使われていないようだ。中を飛んで昇るか。』
 Gの、革に包まれた華奢な指先からエネルギーが放出され、エレベーターの天井部分がきれいに丸く蒸発する。
 エレベーターの通過するパイプに入り込んだGは、その巨大さに驚いた。
 Gの侵入したエレベーター以外のエレベーターも数基まとめてこのパイプ内径は動かせるらしく、パイプの壁面は極端な遠近法でねじ曲がって見えた。
 頭上を見上げてもパイプの先は完全に消えて見えない。

「よくきたなG。歓迎するぜ。丁度、退屈していた所だ。」
 突然、パイプ空間一杯に雷鳴の様な声が響く。
「その声には聞き覚えがある。蚊龍をそそのかした四つ嘴だな?」
「フン。人間どもに四つ嘴と呼ばれる筋合いはない。仲間内では鷹目鷹脚のイーダと呼ばれている。」
 そう声が言い終わらない内に、パイプ空間の上部からGに向かって灼熱のエネルギーが放射された。
 その攻撃を避ける事なく、Gは両手の平から光球をパイプ空間上部に放った。


 鎧の頭部への拘束の中で、Gは吸収されたエネルギーの再出力の方法を必死に考えていた。
 イーダは巨大パイプ内部を次々と転移しながら攻撃を仕掛けて来る。
 Gが放つ光球は、ウマーの鎧の完全装着状態では、転移ドライブがかけられない為に、四つ嘴への着弾が遅い。
 これではまるで兎と亀の戦いだ。
 それにウマーの鎧に吸収されたイーダの攻撃エネルギーは、どんどんGの下腹部に貯っていく。

 Gは攻撃位置を変え、パイプの内周の壁面の五カ所に光球を送り込む。
 光球は壁面を破壊せずに、壁面に染み込んでいき青い燐光を放ちながらそこに留まった。
 Gがスカルヘッドに対してパシャズで使ったトラップの改良版だ。
 イーダがどうやってエネルギーを放出するのか判らないが、放出した後は必ずしばらくの間、イーダ周辺の磁場が変化する。
 それを丸毎引き寄せてしまう働きを、Gのトラップがする。
 更にそこにGの気配を刷り込んでおくのだ。
 相手がトラップに吸い寄せられ、そこから抜けられない間に肉弾戦に持ち込む。
 それがGが次にとった作戦だった。

「かかった!」
 Gが張り巡らせた五つのトラップは、相互にエネルギー線を交換しあいパイプ内に巨大な光のペンタグラムを描いた。
 ペンタグラムの中央には、こうもりの翼と鷲の頭を持った大蜥蜴がその縛から逃れようともがいていた。
 Gは瞬時に、黒い野獣の爪の生えた黒革手袋を抜き手に構えると、それをイーダの腹部に突き入れる。
 抜き手は何の抵抗もなくイーダの体内に潜り込み、ついでその内部で光球を放つ。
 だがイーダは断末魔の叫びを上げる前に、実にあっけなく溶け崩れた。

「お見事、新しい手を思い付いたな。だが、おまえが倒したのは浄土の下等生命体だ。次はこいつの相手をしてやってくれ。」
 イーダの声が何処からか聞こえた。
 そしてGの背後二十メートルの空間に、黒い肌をした八本腕を持つ夜叉が現れる。
 夜叉の八本の手には、それぞれ半月刀が握られ、夜叉は優美な舞をまうようにそれを振り回している。
 Gは初め、その半月刀の数本を光球で弾き飛ばす事が出来たが、先のトラップの打ち出しで体力が落ちているのか、数分後には夜叉に両腕をしっかり握り止められてしまった。
 夜叉はまだ残っている半月刀を、Gの首に当て、それをゆっくり力を込めて引き切った。

 だが半月刀は何の抵抗もなく、Gのウマーの鎧の上を滑っていくだけだった。
 同様にGが夜叉の手に握られた自分の腕を振り回すと、するりとその縛から逃れる事が出来た。
 それもウマーの鎧の能力だった。
 Gは自由になった手で、夜叉の顔面を横殴りに張り飛ばす。
 その一撃で、頭部を失った夜叉は、暫くもがき苦しんでいたが、先ほどのイーダの偽物の様にやがて溶けてなくなった。

「なかなかのものだな。これは、いよいよ楽しみになってきた。俺は上で待っているよ。どうやらおまえはその革を纏っている時には転移が出来ないようだ。おまえの飛翔能力なら頂上まで一時間ほどだろう。歓迎パーティの用意をしておいてやるよ。」
 そう言い残してイーダは気配を絶った。
 二十分後、何時果てる事ないパイプ内の上昇に疲れたGは、パイプ内壁のむき出しの建材の一本に座り込んで休息を取った。

『イーダは僕の鎧の能力を試していたんだ。僕にもいい体験になったが、、。どうやらエネルギーの吸収はこの皮の表面で行われるらしいな。夜叉の刃が滑っていった。継続する衝撃エネルギーの被弾なんかも、こいつの接面でその度、吸収されるらしい。』
 Gは手袋に生えた爪で、黒光りする手の甲をなぞりながら、夜叉との戦いを思いだしながら考えた。
 下腹部は先の戦いで相当熱い。

『吸収されたエネルギーを外に出してみよう。意識を集中するんだ、渦紋さんに教えて貰った光球の出し方で出来る筈だ。』
 そこまで考えた時に、戦いの最中に消えていた大蜘蛛が、Gの下腹部に舞い戻って来た。
 大蜘蛛のそこだけが白い、小さな女性の顔がGを見上げて威嚇音を発した。
 その後、大蜘蛛はジィーッという声を上げると、Gの下腹部にとけ込むように埋没した。
 Gが小さな悲鳴を上げた時、大蜘蛛はまた下腹部から浮き上がって来た。
 気のせいか、下腹部の痛みが和らいでいる。
 大蜘蛛は、これで許してくれという風情だ。

『どうしてもエネルギーを取り出すのは駄目なのかい?君には僕が女性に見えるのか知れないが、僕は男なんだ、エネルギーの固まりのような子供は身ごもれないよ。』
 Gは大蜘蛛に言い聞かせる様に、独り言を言いながら、なんとなく自分の爪の生えた手を見た。
 Gの手にぴったりと黒い革手袋は張り付き、爪の部分には豹の黒い鈎爪が植え込んである。
 その爪だけが、ウマーの鎧の中で光沢の質が違う。

『ホンシドゥはどうしてこんな獣の爪なんかをデザインしたんだろう?女性にひっかかれた事があるのかな?ホンシドゥの性的イメージか、、まったくやっかいな、、、。』
 Gの顔が輝いた。

『そうか!この鎧にはルールがあるんだ。この鎧に貯ったエネルギーは、この鎧のものだ。だからこの鎧のルールでないと、エネルギーは出せない。僕の力で操作しても反抗してくるだけなんだ。女性は、ホンシドゥを爪で引っかく。、、爪が攻撃のシンボルなんだ。』
 その思いに答えるようにウマーの鎧の爪は光を帯びた。


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