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第2章 出会い
11: プール裏
しおりを挟む鉄馬は身構えていた。
教師が何かの指導ではなく、ちょっと顔を貸してくれるかと自分をプール裏に「呼び出し」て来たのだからそうなるのは当たり前だった。
校舎からは完全な死角になっているプール裏は、金網のフェンスを超えればいつでも校外に出れるから鉄馬らのたまり場になっていた。
当然、そこでタバコを吸うし、時々は酒も飲む。
リンチなどの場所には使わない、事が発覚すれば完全封鎖されるからだ。
だがそれも暫くの事だった。
教師側も黙って見ている訳ではないからパトロールをかける。
観客のいない場所で、教師達とぶつかっても仕方がないから鉄馬らはプール裏から姿を隠す。
教師が監視の目を緩めれば、又、そこにたむろする。
そのいたちごっこを最初は楽しんでいた鉄馬たちがったが、途中でそれも邪魔臭くなって、放棄した場所が今のプール裏だった。
だからプール裏は、時々しか使わない。
そのプール裏に5限の始まる10分前に一人で来いと、カムイが仲間のカジローを使って伝えて来たのだ。
カジローは人が良いところがあって、教師と鉄馬たちの間を取り持つような場面でよく利用される。
鉄馬達も、そういう面でカジローを使う事があったから、彼は裏切り者と呼ばれて不良仲間から阻害されることはなかった。
不良のくせに、誰からも愛されるという得な役回りだった。
だが、お喋りだった。
鉄馬は、それに苛立っていた。
カジローは、今のこの状況を誰よりも知っている。
カムイの呼び出しを受けて、鉄馬が逃げ出したとなったら、それは一気に不良仲間達に広がるだろう。
鉄馬は、ヘタレと言われるのが1番怖かった。
背は低く、中一並だったが、鉄馬はこの中学校のナンバースリーと言われている。
ナンバーワンが岩田、ツーが蒲田、しかし二人ともあまり学校に顔を出さないし群れる事をしない。
実質、自分が一番だと鉄馬は思っていた。
そんな自分が転任したてのフクタン風情に臆病風は吹かせられない。
「なんや?なんの用事や。俺、今んとこ何にもしてへんで。それにもうすぐ授業がはじまるやろ。そんな時間に教師が生徒呼び出してええんか?」
「ほお、おもろいこと言うな。お前、いつから授業好きになったんや。このまえ、お前のやったカツアゲのこと調べた時に、お前、俺になんて言うた。授業でんでええわー、ずっと調べてくれやって言うたんと違うんかい?」
神無月はこういう喋り方も出来る。
家の事情で島から出てから、高校・大学は大阪だ。
「けっショウムナイこと覚えとんの。この事、セイシの柏崎は知っとんかい。お前みたいなカガミのフクタンが、俺に一人で何んか出来るとオモテンノか?」
神無月が、鉄馬に向かって一歩前に踏み出した。
鉄馬は、ビクッと後ろに下がる。
これが他の生徒がいる校内のサシなら怖くはない。
教師は生徒に手出しが出来ない。
それでもキレる教師がいない事はないが、カムイはそう言うタイプではない。
結構、正面から向かってくるタイプだが、自分の自尊心を傷つけられたという理由で発狂したりはしない。
だがここは、プール裏だった。
カムイがどうでるか判らない。
それなりに腹を括っている可能性があった。
素でやり合えば大の大人と、中学生だ。
確かに喧嘩の場数だけは鉄馬の方が数が多いはずだが、カムイにしたって生徒にやられる訳にはいかないだろうから、必死になるだろう。
加えて鉄馬は背が低く、神無月は結構、骨太で身長がある方だった。
「オイ、鉄馬、お前ガンの事知ってるやろ?」
「はあ?なんやねん!人のこと呼び出しといてガンの事やとぉ?そんなん知るけぇ!」
「ガンは今、誰と揉めてるんや?教えろゃ。お前、蒲田がそれとなしに加賀美先生にガンのこと頼むって言うたん知らんのか?」
「ちっ、蒲田のアホが。」
「アホとちゃうやろが!お前らの中では、喧嘩で言うたら蒲田はガンの次なんとちゃうんか!その蒲田が加賀美先生に言うたんやぞ。」
「俺が、お前みたいなヘタレ教師にガンの事、言うて何とかなるんかい。いうんやったら生指の柏崎に言う。」
その言葉通り、このままほっておいても、鉄馬が事の次第を柏崎先生に言うわけがないと神無月は思った。
「俺は加賀美学級の副担や。加賀美先生はガンの担任や。お前も加賀美先生がヤクザからガンを守った事知ってんやろ。そやから、聞いてるんや。それとも何か?お前は我が身可愛さに、ガンを誰かにウリたいんか?」
「なんやと!」
神無月が当て推量で言った言葉だったが、鉄馬は思い当たる節があるのか、それに引っかかった。
頭の良い鉄馬が本気で不良の戦闘モードになった。
『本気でやるか、、、ああ、これで俺もクビだな。』と神無月が覚悟した。
前任校での「暴力教師騒ぎ」は、半分、冤罪のようなものだったが、今度のは違うと。
「なにしてるんです!二人とも!」
そのとき、鋭い声がかかった。
神無月が振り返った方向に、上履きを履いたままの加賀美が息を切らせて立っていた。
「鉄馬、お前さっき、俺みたいなヘタレにはガンの事喋らんって言うとったな。ならそれでもええわい。ここにいる加賀美先生に言うたれ。このガッコの教師の中で一番ガンの事心配してんの加賀美先生や、それくらい判るやろ。そやから、蒲田も加賀美先生に言うたんや。」
そう言って神無月は鉄馬に背を向けて歩き出した。
『これがドラマやったらエエ場面やけど、気を付けないと、こいつ、後ろから跳び蹴りしてくる可能性がある』
神無月は頭の中でそんな警戒をしたが、実際にはなにも起こらなかった。
多分、次にトラブルが起こるとしたら、職員室の中でだろう。
神無月はそう思った。
そしてその相手は、生徒指導主事の柏崎先生の筈だった。
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