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第4章 侵犯
32: 胡 泰然
しおりを挟むキョウが出来上がったタコ焼きをもってきて、サービスで神無月のグラスにビールをついだ時、親父が間髪を入れずに言った。
「キョウ、お前、もうタコ焼きは焼かなくっていいし、店の手伝いもしなくていい。そのお客さんの相手をしろ。」
「へっ?」
キョウが面食らったような顔をして親父を見た。
「別にカムイっちは、嫌いじゃないけど、一体どうしたん?」
「いいからそこに座れ、それで俺のいう通りにしろ。」
珍しく親父が高圧的に言ってのけたあと、店にグループ客がどやどやと入ってきた。
それで文句をいうタイミングを外されたのか、キョウが渋々、神無月の隣の席に座った。
神無月は、キョウの雰囲気の変化の元が、髪の毛の長さにあることに気付いた。
「男の長髪」の意味合いを、すこし越えつつある。
男のミュージシャンなどで、髪を長く伸ばしている人間もいるが、あの雰囲気とも何かが違う。
手入れが隅々まで行き届いて、思わず撫でたくなるような艶やかな髪だった。
それに気のせいか、こうやって側で見ると、キョウの肌つやがいつも以上に艶やかだった。
妙な比較だったが、新任教師の桜田のそれに勝るとも劣っていない。
「あっキョウ君、このタコ焼き食べる?」
神無月は思わず頓珍漢な事を言う。
親父からいきなり頼まれた内容が、自分自身でまだ整理できていないのだ。
「良いですよー、味見は済んでますから、小麦粉ばっか食べてたら、太っちゃう。」
キョウもやや斜めの受け答えをしているのだが、本人はそれに気付かない。
そんなキョウが、すっとんきょうな声を上げた。
「あっ、そうだ、俺。大事な事、カムイっちに言うんだった!」
神無月は訳もなくドキドキした。
もし思いがけずに、キョウから恋の告白をされたらどうしょう?
実は男同士の愛なんてリアルに考えた事はなかった。
だが今は、先ほどの王の話が影響して、神無月が普段キョウに対して何となく感じいてる感情が先鋭化していた。
自分では進歩的な人間でいたつもりだったが、男同士の愛というモノが本当になったら、自分はそれを受け入れられるのか?
しかし、よくよく考えてみれば、キョウの事を一方的に気に入っているのは、神無月の方なのだった。
「前に、夜中に逃げてた中学生ぽい子の話をしましたよね。その後、何か、判りました?」
キョウが切り出した内容は意外なものだった。
「判るもなにも、キョウ君が見たのは、ほぼ百パーセント、ウチの生徒だよ。あっ、そういや、まだその事で礼を言ってなかったよね。」
「礼なんかいいすよ。で俺、今度は、そいつを追いかけてた方の人間の正体が判っちゃった。」
神無月の頭の中が一瞬にして冷えた。
「えっ、誰それ?」
「フー・タイランって言う子で、例の商店街でカラオケ居酒屋やってる中国人の女の人の弟。」
「、、、フー・タイラン。」
神無月の中で、バラバラになっていたピースが繋がっていく。
あの時、ジンリーが小遣いを渡していたのは、彼女の弟だと亀谷は言っていた。
「もしかしてフー・タイランって、背が高くて金髪?」
「あっ良く知ってますね。俺、中坊が逃げてる話をした時、そこまで詳しく説明したっけ?」
「いや言ってないし、あの時は、それそんなに意味はなかった。でも今は違う。」
「ですよね。俺も今はそう思う。事態は、考えてたより深刻だ。でもこの情報は、カムイっちの役に立つかどうかは、わかんないな、、。だってこれはもう、先生の仕事じゃないのかも知れないし。」
「って事は、フー・タイランって子は、王とか言う人物とも関係があるの?」
「驚いたな、、カムイっち、そこまで知ってるんだ。」
キョウは思いがけず、神無月の口から、王の名前が出た事について、何かを考えている様子だった。
黙考をしている。
その沈黙を破るために、神無月は言葉を繋いだ。
「キョウ君のいない間に、色々な事を、ちょっとずつ調べたんだよ。でも肝心の生徒は、見つかってないんだけどね、、。」
「早く見つけてあげて、親に保護させた方がいい。、、いや親じゃ、無理か。その子が不利になるだろうけど、事件性があるって事で、警察で保護した方が良い。 そんな感じ。」
保護されて、その子が不利という言い方は妙だったが、キョウには、そういう体験があるのだろう。
「だろうね。それに、親が保護するにしても、肝心のその親の姿が見えないしな。そいつんちは、父子家庭で、今んとこ父親は蒸発したままだ。」
キョウは又、しばらく考える様子を示した。
今度は前と違って間に、ささやかなため息が漏れた。
ため息というより、美しい音と言っても良かった。
もしかしたらキョウは、岩田に自分の姿を重ねていたのかも知れない。
「、、、、カムイっち。差し支えなければ、その子の名前を教えてくれる?」
「岩田 舜だ。俺が副担任してる学級の生徒。仲間内ではガンとかガンちゃんで通ってる。」
教師には守秘義務というものがあったが、時と場合によると神無月は思っていた。
現場では、すべてそうだとは言わないが、この守秘義務を盾にとって、学校の都合の悪い現実を隠蔽するような部分があった。
「ああ、ガンかぁ、、、改めてそう聞くとやっぱりって感じがしないでもない、、。」
「岩田の事知ってるの?」
「やだなぁ、こう見えても俺、高校生っすよ、そんなヤンチャ話なんてとっくに卒業してますよ。それでも時々、伝わってくるくらいの飛び抜けた話もあって、ガンってのはその中の一つ。中学生のくせしてヤクザとタメの喧嘩したとか、、それで何々組の値打ちがどうのこうのという、どっちかというと大人がする噂話の方で聞いた名前ですよ。確かに、あの晩に見た光景は、なんか凄い鬼気迫る感があったけど、それで納得っすよ。」
キョウは元の自分を取り戻しつつあるようだ。
「、、、フー・タイランと岩田と王はどう繋がるんだろう?教えてくれる?」
神無月は話を元に戻した。
キョウは明らかに王についての言及をさけているが、岩田を事件がらみで警察に保護させるなら、もう少し詳しい情報が欲しかった。
それにその話は、期せずして、親父が神無月に頼み込んだ内容と繋がっていくかも知れない。
「カムイっちは、難しい事を聞くなぁ、、。フー・タイランは、どうやら王さんの部下というか、使いパシリというか、でもないか、そう、信奉者!そんな感じ。他にもそういう子が何人かいるみたいだけど、彼がそのリーダー格みたい。俺には、そこまでしか言えない。でも一つだけはっきりしてるのは、ガンと王さんは関係がないって事。王さんはいくら派手な悪ガキでも、中学生なんかと関わりを持つような、そんなちっぽけな男じゃ、絶対ないよ。」
キョウは最後の言葉をきっぱりと言い切った。
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