混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile

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第1章 赤と黒

04: 断頭台の男

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「本人が何らかの形で、その気になっていたらどうする?俺たちが相手をしているビニィ達だって、意識を後から脳にプリントしてるんだぜ。やってやれないことはない。」
 葛星は淫靡な女性の仮面をつけたジュニアが、微笑みながら自ら断頭台に首を差し出す場面を一瞬、想像した。

「その気だって?だれが好きこのんで、断頭台に自分の頭を突っ込むんだ!」
 葛星は喚き散らしたい気持ちを必死に押さえ込んで言った。
「お前は、ビニィに意識がプリント出来ると言ったが、ビニィの心の完全な調整は不可能だ。だから暴発して飼い主に刃向かう。飼い主はビニィを所有物と考えて、奴等に無茶な注文をする。しかしサドマゾ仕様にチューニングされた性的ビニィでさえ、ある上限を超えれば、暴発するんだ。死に対する恐怖心は生き物の根元的なものだ。それを塗り替えられる訳がない。」
 葛星は、今日しとめたビニィの事を思い出した。

「でもビニィが暴発する前の事を考えて見ろよ。それに俺が言いたいのはビニィの事じゃなくて、可能性の事を言っているんだ。ビニィにだって本来の知恵がある。そうだろ?だけど後から人間の都合のいい物に、いくらでもそれを塗り替えられるんだ。」
 ビニィは遺伝子操作の結果による生物だと言われている。
 ビニィといえど、その意識は全くの空白のまま生まれる訳ではない。
 そのまま育てば、ある方向に向かって意識は育つ、その核のようなものは持っている。
 だがビニィ達は、もって生まれた意識の芽を、後から人間の都合のいいものに改竄される。

「判った、可能性はある。可能性だけだが、確かにな。だが全てに辻褄が合わない。相手はキングの息子だ。誰が仕組んだのか知れないが、そこまで頭が良いならキングを敵に回すはずがない。この事件自体がでたらめで病んでいる。想像できる事はただ一つだ。どこかの頭のいかれた変態野郎が、自分が相手をしてる人間が何者かも知らずに、大それた事をしでかした。ただ、それだけだ。きっとそいつは無実の男を犯罪者の女に仕立て上げて殺されるのを見るのが好きだったんだよ。世の中にはそんな手の混んだ事が好きな拗くれた変態だっている。実際、お前が生まれ育った街は、その手の野郎がごまんといたじゃないか。」

 その言葉に、我が意を得たようにアレンが勢い良く頷く。
「だからさ!だから、キングが、金を出して、そこいら中のゴロツキどもにこの件を依頼したのさ。これがシャンシャンと理に落ちる普通の事件なら、キングの権力をもってすれば、全ては一瞬の内に解決するだろ!」
 葛星は最近、クワトロの組織が警察に壊滅させられた事を思い出した。
 長い間、クワトロと警察は癒着していた筈だ。
 それが手のひらを返した様な状態で、有無をも言わさず一気に潰されている。
 『サツの奴らめ、裏切りやがって。』
 そうクワトロの若い衆が、街で吠えていたのを覚えている。
 噂話では、キングがクワトロを締め上げろと、警察に圧力をかけたのだと言うことだ。
 もしかすると、このギロチンディスクに関係があるのかも知れなかった。

「警察は、この件に関して直接動いていないのか?」
「今回の場合、国家は表だっては動けないさ。我々がギロチンにかけたのは無実の人間でしたと言える訳がないからな。表面上、今回の事はなかったことになっている。キングもそうする事を認めた。まさか自分の一人息子が、ギロチンに間違って、しかも女装姿でかけられたとは口が裂けても言えないだろう。」
「だが、俺達は、その秘密を知っている。、、道理でお前が受けた仕事を断れない筈だ。法外な前金は死と背中合わせの口止め料で、同時に野良猫の首につけた鈴がわりってわけだ。、、しかしな、アレン。本当に賢い悪党なら、危険を察知して、前金に手を出さずさっさと辞退してるぜ。」
 アレンの大きな目が、またしょぼつく。
 だがそれは半分演技だ。
 心底、葛星の言葉にこたえているわけではない。

「まあいい、、さっき自分の推理が入っているといったな?今、説明した事が、お前の推理の全部なのか?」
「どういう意味?」
 葛星の指摘にアレンの目が、今度はせわしなく動いた。

「今となっては仕方がないが二つの事を確かめておきたいんだよ。一つはキング自身が今回の事情をどれだけ把握しているかという事。話自体が、破天荒な与太話そのものなんだからな。事件の経過を、今お前が話したとおりにキングも考えているのかという事だよ。つまり、もっと違う他の裏があるんじゃないかって事だ。」
 葛星は一旦、言葉を切って、アレンを睨んだ。

「もう一つは、お前のいい加減さだ!あんまり酷けりゃ、お前とのタッグは解消だ。もうついていけそうにもない。、、それだけ言えば、機械お宅のお前でも判るだろ?ヤバイ事から逃げ出す為には人一倍、知恵の回るお前だ。お前なら、どんなやばい依頼でも何処かで断れるチャンスを作れた筈だ!なぜそうしなかった?」
 アレンは暫く俯いていたが、もうこれ以上叱らないでくれと言わんばかりの表情を見せて喋り始めた。

「済まない。確かにキングの代理人から依頼が持ち込まれた時には断れるチャンスはあった。五千万に目が眩んだんだ。それに契約を結んでから、話の内容を聞く、そういう条件だったんだ。迂闊だった。ヤバイとは思ったが、まさか天下のキングが、金と引き替えに一介のハンター風情の命を取るような内容を持ち込む訳がないと思いこんでいた。引き受けてもその程度で済むと踏んでた。」

「、、懲りない野郎だ。あの時も、そうだったんだろうが、、?」
 葛星の言うあの時とは、アレンと記憶をなくしたばかりの彼が一緒に仕事をし始めた頃の話だ。
 当時、アレンは自らのハッカーとしての腕を利用して、暴力団の麻薬取引に絡んで、甘い汁を吸おうとしていた。
 しかし彼の身から出た錆で、その事が発覚し、アレンは監禁され暴力団に手ひどいリンチにあっていた。
 そんな彼を単身救出したのが葛星だった。
 アレンには最後の詰めが弱くなる部分がある、欲望にながされて、危ないと気がついている事でもやってしまうのだ。

「それで、もう一つの方はどうなんだ?キング自身は、本当の所、今回の事件についてどれぐらい把握しているんだ?」
「今まで話した事は、ほとんどキングの代理人が喋った事が基盤になってる。俺の当て推量じゃない。だから言い方を変えると、この話を詳しく知った以上、俺達は断れないし、ジュニアが女装趣味者だった事も、誰かに填められてギロチンにかけられた事も、一生秘密にしなければならない。一言でも漏らしたら俺達は、キングか警察・司法かに抹殺される。でも、、、。」
「でも?何だ。」
「ここからが、俺のかき集めた情報なんだ、、、。俺だって、責任は取ろうとしているんだよ。」
 アレンが泣きそうな顔で言った。

「それはいいから、続けるんだ。今更、どうしょうもないんだ。世の中には、キングがお前に仕掛けた様な前金の使い道があると思い知らされただけでも勉強になっただろ。先を続けろよ。」
 葛星は諦めたように言った。
 普通の男ならこんな窮地に立たされたら、グズグズとずっと怯えるか、アレンを恨み続けるだろう。
 なぜなら彼らが関わった男は、絶対に刃向かえない、この世界の「キング」だからだ。
 だが葛星は普通の男ではなかった。

「ギロチンディスクがばらまかれているだろう?確かに高価なものだが、数枚しかないという訳じゃない。それにあんなものでも何百回と繰り返して見るイカレた人間もいるんだ。その中には、俺達みたいにあの女の正体に気づく人間も出てくる筈だ。だからいずれこのゴシップは、みんなの暗黙の了解のものになっていく可能性がある。キングは必死になってディスクを回収したらしいが、それでも半分しか回収できていない。しつこい水虫みたなもんだ。相手が王様だからって、かからないって保証はない。、、知ってるだろ?販売元のクワトロの所はそれで潰された。それでも、人の口には戸は立てられない。噂話は流れぱなしだ。これをやった犯人は、どうやらそういった事も計算に入れている可能性がある。」

「お前、これをやった犯人は、変態じゃなくて、キングに個人的な恨みがある人間だといいたいのか?確かにこれはキングにとっては猟奇的なゴシップにはなるだろうがな、だがキングは強力すぎる。それが目的なら、自分の身に降りかかる巨大な報復を考えると、あまりにも割に合わない手法だろ。あのクワトロさえ、簡単に潰されるんだぞ。手間と結果が釣り合わない。」

「そのあたりが俺にもわからないんだ。犯人は、女装したジュニアを陥れることで、致命的なゴッシプをまき散らすことと同時に、もう一つの効果を手に入れようとしたのかも知れない。いや、そっちの方が本当の犯人の狙い目なのかも知れないが、、、。キングは高齢だ。いつまでもママス&パパスの会長職をやってはいられない。当初の予定では、近い時期に息子にその座を譲る積もりだったんだ。その予定が狂った。」

「、、今度は怨恨説から権力抗争がらみ説か?それにしては、やり口が異常過ぎる。ちっともスマートじゃない。」
「何もかも闇の中なんだが、これだけは、はっきりしている。キングから依頼をねじ込まれた全ての組織と人間が、キングの王座交代劇の推移を見守りながら動いているという事だよ。特に警察はその傾向が強い。警察のトップの内の数人が、キングと反目しあっているのは知っているだろ。もしキングの影響力のない人間が、ママス&パパスの会長の座を奪ったら、今の俺達の悩みは、一瞬にして笑い話になる。キングは神じゃないんだ。俺の集めた情報では、玉座を巡る交代劇は三ヶ月後に起こる。キングの代理人が俺達に切った期日は二ヶ月以内、それまでに裏の事情を解明し、犯人を特定して殺せという事なんだ。」

 葛星は、シャワー上がりの自分の身体がすっかり冷え切っている事に気づいた。
 胴震いがした。
 問題は事件の奇妙さではない。
 依頼者がキングだという事にあった。

「判った、、、少しは見えてきた。、、同じやるなら一着を目指す。それでキングに一目置かさせる。相手に、こいつらは侮れないなと思わせる事だ。それといざという時の為の手段を打っておく。お前は、キングの政敵を調べて置くんだ。そいつらをどう利用するかは、言わなくても判るだろう。最後の最後になったら、殺られる前に殺るんだ。相手がキングでも関係ない。、、俺達はそういう覚悟で今まで生き延びてきたんだ。心配するな、俺達には、この強力なモンスター君がついている。こんな時ぐらいは役にたってもらわないとな。」
 葛星弾駆は、ケーブの闇の中に突っ立ている赤と黒の鎧を見て言った。

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