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第2章 追跡
15: 恋するドラキュラ
しおりを挟むジュニアは、自分が被っているシャーロットの顔をした人口皮膚に爪を立てて、それをむしり取った。
その下から現れたのは、再びシャーロットのマスクだった。
ジュニアは又、そのシャーロットのマスクを引きちぎった。
そしてその下から現れたのは、またシャーロットのマスクだ。
その行為は、合わせ鏡の様に永遠に続くように見えたが、強烈な痛みをきっかけに、引きちぎったマスクの下から、別の顔がとうとう出現した。
それは、生皮を引き剥がされた血まみれの髑髏だった。
そしてその髑髏は、自らの行為のあまりの痛みに耐えかねて、喉が張り裂けんばかりの悲鳴を上げた。
「しっかりしろダンク!」
悲鳴を上げる葛星の肩をアレンが揺さぶっていた。
「ここは俺達の家じゃないんだぞ。シャーロットさんの家なんだよ。彼女に変に思われたくないだろ?。」
ベッドから半身だけ起きあがった葛星の裸の身体には、汗が玉のように浮き上がっていた。
「ああ、、すまん。夢のパターンが変わったもんだからな。いつものじゃない、、、、。」
その時、バスタオルや幾つかの衣類を胸に抱えたシャーロットが部屋の中に青い顔をして飛び込んできた。
「どうかしましたか?悲鳴が聞こえました。」
「いやなんでも。こいつが目を覚ましたもんで、嬉しくてついキスを。キスのついで舌を突っ込んでやったら、悲鳴をあげるのってなんの。いや、まったく冗談の判らない奴だ。」
「汗を拭きます。そこをどいてください。」
葛星が知らぬ間に、アレンとシャーロットの間には会話をする時間が多分にあったようだが、その結果築かれた二人の間柄はあまり好ましいものではないようだった。
「すごいわ。あれだけ青あざだらけだったのに、もう痣が消えかけている。」
葛星の汗を甲斐甲斐しくふき取りながらシャーロットは感心したように言った。
シャーロットは葛星の汗を拭き取る際に、彼の右脇腹にある入れ墨にしては奇妙な文字や、背中の蜘蛛の形をした皮膚の隆起を見て取った筈だが、彼女はそれに言及する事はなかった。
「でしょ。こいつの体力は馬並なんだから、だから病院にいく必要はないってことなんですよ。」
シャーロットはアレンを睨み付けた。
シャーロットの経験則から考えて、葛星の負傷は、アレンがいうような冗談程度の軽度のものではなかったからだ。
しかしその当の葛星は、いかにも元気そうにシャーロットから手渡されたシャツを羽織ると、二人の間に割って入ってきた。
「すまん。どちらからでもいいんだが、俺の置かれている状況を説明して貰えないか?」
シャーロットとアレンは暫くお互いの顔を見合わせていたが、アレンがその役割を買ってでたようだ。
「昨日の夜遅く、っても時間的にはもう今日なんだが、トスキャーニアって店から、シャーロットさんに、昨日お連れになった男性が店のトイレで倒れているから引き取りに来てほしいっていう電話があったんだ。シャーロットさんが駆けつけた時、お前はボロボロだったんだが、とにかく病院や警察には連れていかないでくれと譫言で訴えてたんだそうだ。だから店もシャーロットさんもどうしょうもなくて、自分の家にお前を引き取ったってわけさ。それでその後、俺が呼び出された。」
葛星に薄れかけていた記憶がよみがえって来た。
あの時、最後にインストラクターの髪を鷲掴みにして、振り回してから、葛星は奈落の底に落ちた。
しかし比較的早い段階で、パイプに激突したのは覚えている。
その後、何回か、下のパイプへと順番に落ちながらぶつかって行ったのかも知れない。
それが、クッションとなって葛星の命を取り留める結果になったのだろう。
次に目覚めた時はパイプの上を這ってしか動けなかったが、とにかく死んではいなかったという事だ。
それから、葛星は無意識の内に地底を這いずり回り、どこかで例のパイプ世界を巡回するカーゴを呼び出すパネルを探し当てたのだろう。
おそらくその時には例のフラッシュバックの様な現象が立て続けに起こって葛星を助けたのだろう。
少なくとも彼が、トスキャーニァの店のトイレで発見されたという事実は、その可能性を示している。
「そうだ!髪の毛だ!シャーロットさん。貴方、一日中俺の面倒を見てくれた?そうでしょう。」
「ええ。」
「身体に女性の髪の毛がついていなかった?」
「いいえ。気づかなかったけれど。」
葛星は、面食らっているシャーロットを無視して自分の両手、特に爪の先を見た。
そして自分のベッドのシーツの上を丹念に調べた。
「あった、赤毛だ!シャーロットさん。僕のスーツはそのまま?」
「ええ、慌てていたから、クリーニングに出す暇もなくて。」
「行くぞ。アレン。」
「行くぞって、何処にいくんだ?」
「ケーブに決まってるだろうが。お前、又、今夜から眠れなくなるぞ。」
葛星がベッドから抜け出すと、シャーロットの強烈な平手打ちが葛星の頬を見舞った。
「馬鹿にしないで!」
帰りのトランスポーターの中で、珍しくアレンがしみじみと諭すように言った。
「なぁ、ダンク。」
「なんだ、アレン」
「今日ので判ったよ。お前が俺と同じ人種だってことがさ。お前も俺も、他人の心の動きが旨く読めないんだ。それにしても、あれは酷すぎるんじゃないか?初めて会った者でもシャーロットさんが、お前に好意を寄せているのは判るんだぜ。その彼女がお前を一晩中看病してくれたんだ。そのお前が、目が覚めた途端に、直ぐに仕事の話だ。」
アレンは完全に葛星を非難しているようだった。
日頃の二人の関係を考えると珍しいことだった。
「あれぐらいで丁度良いんだ。彼女を巻き込みたくないし、ジュニアの事も彼女には知らせたくない。俺は愛想を尽かされて丁度さ。それに実際あの時は興奮していた。今もだがな。いいか、よく聞け。いま俺のポケットの中には今度の事件の中核に迫る物証が山ほどあるんだ。お前のプラグイン説が実証されるかも知れんのだぞ。」
葛星は勢い込んで喋る。
少なくとのこの時点での二人の会話は、普段の役割が逆転しているようだった。
「ダンク。お前、なんだかおかしいよ。」
「おかしくて当たり前だ。旨く説明できないが、今度の事件を追っていく中で、俺の本当の姿が判るような気がしてならないんだ。お前、俺の記憶力の事も、時々起こるフラッシュバックの事も知っているよな。」
「ああ。不思議な力だ。記憶を無くした後遺症では片づけられない。」
「そいつが何度も起こった。それもいかにも都合よくな。いいかよく聞いてくれ、詳しい話はケーブで話してやるが、俺は昨日、意識が朦朧としている中で、しかも初めて見たパイプの群を彷徨って、外に脱出出来る、たった一つのパネルを引き当てたんだぞ。こいつは偶然じゃない。もとから無意識の内にそいつがある場所が判っていたんだよ。あるいは姿を見せない誰かが電波か何かを使って教えてくれたって可能性もある。」
「今、それが判ったって、なんの意味があるんだ?自分の過去が、配管工だって判っても何も面白くないぜ。俺だったら、美人の秘書さんとのおつきあいを大切にするね。」
拗ねたような様なアレンの言いぐさで葛星はようやく気づいた。
アレンは昨日出会ったシャーロットに心を惹かれて初めているのだ。
しかし、この様なパターンは今までに何度かあった事だった。
アレンは女性に持てるタイプではなかったし、葛星はその気になれば、いくらでも女性の気を引くことが出来た。
そして彼らは仕事がら常にペアで動くことになる。
葛星が引き寄せた女性にアレンが恋をする。
しかし難しい事に、葛星は性的な欲求が欠落した男だったし、アレンは被愛妄想が強いのに女性に対しては魅力のない男だった。
だから、アレンの恋は成就したことがない。
「いいかアレン。今日の俺のシャーロットさんに対する態度は常識がなさ過ぎた、それは謝る。お前の忠告に対する俺の態度にも、もちろんシャーロットさんにもだ。だが、これだけはハッキリさせておこう。俺は好意を持てても、女性を愛せない人間だ。それは知っているだろう。それに俺は、何よりも先に記憶を取り戻したい。」
葛星はここで一旦、言葉をきった。
「だがお前は違う。お前には、俺と違ってチャンスがある。記憶だって、ろくでもないものだろうが、それでもチャントしたのがある。なんでも自分に正直にやってみるんだ。いいな。その内に、きっと良いことがある。」
葛星は「なんでもに」の部分に熱を込めて言った。
「ああ、、、。」
ようやくアレンが、はにかんだように笑った。
牙が見えたが、とてもドラキュラの偽物とは思えない笑顔だ。
「そして、その前に仕事だ。色恋沙汰より、今度の仕事には俺達の命が掛かっているのを忘れるな。今度の相手はビニィ達より質がわるいぞ。」
葛星は、パイプ世界で戦った赤毛のレザースーツの女を思い出しながら、ゆっくりと自分にも言い聞かせるように言った。
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