混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile

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第3章 光の壁

39: 情報交換 混沌王

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 巨大に生い茂った羊歯類の根本に、彼らの乗り物があった。
 台数は4台、ゲヘナで独自に発展した乗り物らしく、アレンにはそれがどんな動きをするのかも想像が付かなかった。
 あえて彼の知識にある乗り物の記憶で類推すると、横幅のある巨大なオートバイという事になるが、その二つの車輪の中心部からは、左右に自在手が伸びており、その車輪が回転する様は想像しにくかった。
 この4台のオートバイが取り囲む中心位置に、硬質の大型ドームテントがある。
 それが彼らのベースキャンプだった。

 クン・バイヤーの出迎えを受けて、テントに入ったアレンは、テント内に新鮮で清浄な空気が満ちている事に驚いた。
 見覚えのある二人が座っている後ろ側に、5個ほどのコンパクトな機械類が置かれてある。
 その内の一つが、この清浄な空気をテントに満たしているのだ。
 クルーザー内の清浄装置と比べると、その大きさと能力において格段の差があった。
 ここでも、地上世界とゲヘナの指向の差が見て取れた。
 彼らは確実に、自ら外界へ伸びようとしているのだ。
 だがそれはゲヘナ世界全般の話だ。
 今までの成り行きからすると、クン・バイヤー自体の思考は、どちらかというとアクアリュウム世界のものだった。
 冒険と言うより政治的な部分を大切にすると言った感じだ。

「大丈夫だった?変わりない?」
 彼らを出迎えたレイチェルが嬉しそうに言った。
 もちろん、アレンに対してだ。
 いずれにしてもクン・バイヤー達の様子を見ている限り、彼らは事を荒立てるつもりはないようだった。
 それにここにくるまでは、もっと大きな軍備があるものと予想していたアレンには拍子抜けするような状況だった。

「まあ、座りたまえ。コーヒーを入れてやろう。心配するな。毒など入れるつもりはない。」
 クン・バイヤーが笑いながら言って、アレンとシャーロットが座る位置をしめした。
 今すぐ襲われるような事はないだろうと、彼らは、暫くの間、クン・バイヤーが煎れたコーヒーを楽しんだ。
 十分ほどしてカリニテが遅れてこの会合に参加したが、クン・バイヤーはちらりと、かっての自分のボディガードの顔を観察しただけだった。

「なぜ、俺達を呼んだ?」
 アレンがおもむろに切り出した。
「整理をする為だよ。葛星は我々を混沌王がいた場所に導いてくれた。あの様子だと葛星は混沌王となんらかの関係があるように見える。だが、我々は、葛星の事を深くは知らない。そこで君たちの出番という訳だ。我々は、このままではゲヘナに帰れないんだよ。」
 クン・バイヤーは、自分の空になったマグカップを突き出して、お代わりをするかと問うようにしながら言った。
 コーヒーはもういらない、そして駆け引きも。
 アレンは虫の良い話だと首を振りながらこう答えた。

「その前にどうしても聞いておきたいことがある。あんたらゲヘナに帰って混沌王の秘密をどう使う気でいるんだ?あんたらとの行動の中で、あんたらがどんな立場にあるのか薄々は理解できているつもりだが、今、ここでそれをはっきり聞かせてくれ。葛星の事はその後だ。」
「貴様、それを聞いて、どうする積もりだ?こっちはそんな事に答える義務はないぞ。」
 カーリ・ゲナダがあざ笑うように聞いた。

「まあ待てカーリ君。君の都合はどうか知らんが、私の事情は、どうせこのカリニテがアレン君達に喋るだろうから、今ここで私の口から言っておく事にするよ。、、アレン君、その分だけでも、私に葛星の事を教えてくれるな?」
 クン・バイヤーはカーリをなだめながら言った。
 アレンが頷いた。

「私の家系は代々、アストラル・コアを支えて来た。アストラル・コアは、ゲヘナを直接維持する根幹システムを保全し発展させる組織だ。そして、同時にゲヘナテクノラートの集合体でもあり、国家の政治組織でもある。私の家系は、どちらかと言うと政治の系統だ。だから私の家系は、世襲とは言わないまでも、いつも政治の中心にいた。予定では、混沌王ではなく私がアストラル・コアの次の首席になるはずだった。勿論、それは選挙をへてだがね。」
「何かと思えば自慢話?」
 シャーロットが不機嫌そうに言う。

「彼の言うことを誤解しないで聞いて上げて。変な言い方だけど、私たちゲヘナの大半は、彼が次期アストラルの首席になるものと思いこんでいたし、私も含めて、大方の人間は投票日には彼を選んだ筈だわ。」
 レイチェルが口を挟み、クン・バイヤーは、その説明が当然のように聞いていた。
 己への賛辞に、照れないところがかえって大人物風にクン・バイヤーを見せていた。

「それが、ある日、その階梯をアドルフ・スマートに奪われた。ああ失敬、アドルフとは混沌王の事だ。今は、誰もアドルフの名前を使わないがね、、。」
「早い話が、政権争いという訳?」
 シャーロットがまたも口を挟さむ。
 彼女の膝の上には、ライフルが横たわっている。
 そのライフルは、まだ眠ってはいない。

「予定されていた権力の座を失って心の痛手を感じない者はいまい?正直に言って、私もそうだ。だがアストラル・コアの首席とは、ゲヘナを動かす者の事だ。個人の権力欲とは無縁であるべきだ。それなりの人物なら、仕方の無いことだと思っている。」
 クン・バイヤーの瞼がぎゅっと固められる。

「、、しかしあんたの相手は得体の知れない生き物だった。もしかするとビニィと同様の存在であるかも知れない。なんとか相手の正体を暴き立てて、首席の座を奪い返したい。そう言う事なのか?」
 アレンは自分のその誘い水で、クン・バイヤーの口から、自らが受けた屈辱への呪詛が飛び出すものと思っていた。
 アレンにして見ればクン・バイヤーが感情的になってあれこれ喋ってくれる方が望ましいのだ。

「君は二つの点で間違っているな。一つめの間違いは、君が地上世界での価値観で物事を見ている事から起こる。君はビニィと言ったが、我々の世界ではビニィという言葉も概念もない。バイオロイドは、我々の良きパートナーなんだよ。」
 アレンは呆けたようにクン・バイヤーの顔を見た。
 彼は皮肉を言っているのではない。
 彼の信念を語っているのだ。

「もし君が老いさらばえて、その時もなお生きながらえたいとする。君は自分の細胞からクローンを培養し若き日の自分を作り直し、その脳髄に君のものを詰め込んだ。さあ、その時の君は一体何者だ?我々の世界では、それを君と認める。同時に、脳髄を移植されない状態で、学習能力のあるクローン体、つまり、果てしなく人間に近い存在にも我々は、人権を認める。考えて見たまえ、この星の中に、自意識を持つ生命体の種がいくつある?ごく少数なのだよ。知性あるものの多少の差に、目くじらをたててなんの意味がある。」
 アクアリュウムに近い価値観を持つはずのクン・バイヤーが、こういった事を自然に言う。
 それがアクアリュウムの人間とゲヘナの人間の決定的な差だった。

「それは嘘だ。だったら、俺の器を作るために育て上げたクローンの脳髄にあった筈の意識はどうするんだ。それをゴミ箱に捨ててなんの心の痛みも感じないのか?果てしなく、人間に近いビニィと人間の間の結婚は認めるのか?だから俺達はビニィと人間の境目をはっきりさせようとしてきたんだ。根っからの差別者ではない。」
 アレンはこの点については激しく抵抗した。
 これは全ての地上人の倫理基準でもある。
 そしてそれは、アレン達、ビニィハンターの立脚基盤だ。

「それは我々の世界の事を良く知らない事から起こる誤解だ。延命手術の為のボディづくりの時には、クローンの意識成長過程を抑制する。従って脳は空っぽの状態だ。二つめ、バイオロイドと人間同志の婚姻も恋愛も成立しない。両者の間には完全な意識上の棲み分けが行われているし、もっというなら両者の間には子どもは生まれようがないんだ。バイオロイドを誕生させるにはクローンも含めて色々なアプローチがあるが、どのバイオロイドも人間との間に子孫をもうける事は不可能だ。そして彼らの種自身からも、子どもは生まれない。」
「嘘だ。俺達は、2年ほど前にゲヘナに行った事がある。子どもを連れたビニィが沢山いた。」

「それは彼らが、子どもを望んだから、彼らの子どもとしてのバイオロイドを改めて、生成したのよ。私たちの世界では当たり前の事だし、それで彼らは幸せなのよ。あなたが、バイオロイドに子どもが生まれると勘違いするのは無理はないわ。」
 レイチェルがクン・バイヤーの言葉を補った。

「そんなのどうでもいい。クン・バイヤー。まだ、二つ目の理由を聞いていないわ。」
 シャーロットがレイチェルを睨み付けながら言った。

「二つ目の理由はこうだ。君達は混沌王が我々の社会に参入するときの紹介のされかたを勘違いしている。バイオロイドじゃない。彼は、最初、冷凍保存された前世紀人として紹介されたのだ。つまりロストワールドの人間。それは許されざる嘘だ。逆に我々は、彼が新種のバイオロイドだと紹介されいていたら彼をそれ故に疎外する事はなかった筈だがね。」
 アレンは絶句した。
 彼らは、ビニィを王として頂いてもそれに従うというのだ。
 しかし、いくらお人好しの彼らでも、混沌王出生の虚偽の可能性には不信を抱いているという事だった。
 ビニィであっても構わないが「嘘つき」では、王にはなれないという事だろう。

「ネロとチャリオットは混沌王を、冷凍保存された旧世紀人だと言っていたのか、、、、。」
「何を驚いていやがる。事実としても半分嘘じゃない。混沌王がずいぶん長い間眠っていたのは確かだからな。それだけなら混沌王の失点にはならんよ。」
 カーリ・ゲナダは面白そうに言った。

「地下人は、そろいも揃って物わかりの良い進歩的な人間ばかりというわけね。だったらどうして混沌王のルーツに固執するの?あなた達の言い分なら、相手が立派なら豚人間がリーダーでもいい訳なんじゃないの。」
 シャーロットが冷ややかに言い放った。

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