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第4章 異世界で相まみえる二人の王子
49: 果たし合いの申し込み
しおりを挟む弾駆は魂が抜けたように、アジトのリビングにあるカウチに座り込んでいた。
生きている事が不思議だった。
アレンが、地面に投げ飛ばされた弾駆の元に駆けつけた時には、彼の身体は糸の切れた操り人形のように奇妙に拗くれていたからだ。
どう見ても、鎧の中の人体は、ぐちゃぐちゃに砕け散っているいるように見えた。
またしても鎧の再生能力が弾駆を再生蘇生させたのだ。
アレンは三度復活した弾駆が、又、人格を変貌させているのではないかと思ったが、弾駆は帰ってきた時のままの弾駆であり、光の壁での記憶も失わずに保っていた。
『鎧じゃないんだ。やはり、あの大蜘蛛だ。あいつがいない時はダンクは元のままだ。』
アレンはそう結論づけていた。
しかしあの大蜘蛛は一体何処に行ってしまったのだろう、、。
「、、またお前に迷惑かけちまったな。あの時、格好を付けてた俺が恥ずかしい、、。」
今回の蘇生は、今までのように葛星の性格に大きな変化を及ぼさなかったが、その代わりなのか、身体の回復率は低いようで、葛星の声には気力が感じられなかった。
「何言ってるんだ。俺はお前がここにいてくれるだけで嬉しいよ」
「、、だな。しかし、あれだけやっても壁の向こうに行けないって事は、帰って来るなということか、あるいは、あそこは俺となんの関係もない場所なのかも知れないな。」
なにも関係がない等という事は、あり得ないとアレンは思った。
葛星と混沌王は、間違いなく光の壁の向こう側から来たのだ。
そして二人共、何故か、元の世界に戻れないでいる。
でなければゲヘナのトップ近くまで上り詰めた混沌王が、あの地下道や光の壁側の監視装置を、あのままの状態で放置しておくわけがない。
だが混沌王はその事に、葛星程には苛立ちを感じていない。
混沌王には、過去の記憶があるからだ。
そして混沌王の記憶は、彼が強く望郷の念に駆られるというようなものではないのかも知れない。
前にアレンが混沌王に会ったとき、彼は「過去は重要ではない」と、はっきり言っていた。
「光の壁については、なんとも言えないな、、、、。」
様々な事が頭に渦巻くアレンは、葛星の言葉に上手く反応できない。
いつもならアレンが何か気の利いた冗談めいた事をいい、それが不発に終わって、葛星が突っ込み返すという場面なのだが。
弱り切った葛星を見ているとアレンの気持ちは又、内証的になってしまう。
以前、混沌王が倒れていた場所に行った際、弾駆は葛星ではない何者かとして目覚めかけていた。
今はその記憶が曖昧らしい。
それならそれで良いとアレンは考えていた。
『ダンクと一緒につるんでられるんなら、混沌王の語り部なんてなる必要がない』と。
『だがレイチェル・奥田はどうする。あの時、混沌王は言下に彼女を人質にとるような言い回しをしていなかったか?』
自分とレイチェル・奥田はお互いに好意のようなものを感じあっていたが、実際には二人の関係は何も始まっていない。
気に病む必要はないと、アレンは無理矢理その気持ちを否定した。
「俺が人型棺桶の中で養生している間、世の中は随分、変わったんだろう?」
「ああ、まだママス&パパスは嘘の情報を流し続けているけど、今、それを信用してる人間は一人もいないよ。あのキングが行方をくらましたっていう噂話まで出てる。兎に角、今日明日にでもアクアリュウムはゲヘナに完全開城するって感じだ。みんな怯えまくってるんだ。でも俺は、そんな事より、パニックが起こることの方が怖いよ。こんな閉ざされた世界でパニックが起こったらゲヘナとか関係なくアクアリュウムは終わりだ。」
「だがゲヘナはそこまで望んじゃいない、、、だろ?」
「クン・バイヤーの言葉を信用するなら、そうだったな。」
アレンは敢えて混沌王の事は伏せておいた。
「あいつは、どう言ってたんだ?」
「あいつって?」
「俺がお前を救い出した時にいた3D野郎だよ。自分を混沌王だと名乗ってた。」
やはり葛星は混沌王の事を気にとめていた。
そして自分との関係もある程度の想像はしていたに違いない。
それが、葛星が今まで混沌王の名前をアレンの前で持ち出さなかった理由なのだと思った。
自分が光の壁の向こうに帰ると決めた時点で、後に残るアレンに自分との余計なしがらみを残さないで置こうと考えたのだろう。
葛星と幾多の修羅場を潜り抜けてきたアレンには、その考えかたがいやという程判った。
その葛星が混沌王の話を持ち出したのは、この世界で再び生きることを決心したからなのか?
「混沌王はアクアリュウムを開放した後、外に出て行く人間がそれを望むなら、外界での耐性が付くような身体改造を施すと言っていた。どうやら話しぶりでは、それはとても簡易で即効性があるようだね。それに俺はあのネロ・サンダースとも話したが、奴もゲヘナの目的は、アクアリュウムの殲滅じゃないと言っていた、、。」
「、、、そうか。でもそれはゲヘナ側の理屈だろ?アクアリュウムの人間は今、全員恐怖に駆られている、、。」
弾駆は話しているだけで疲れるのか、再び、カウチの背もたれに目を瞑りながらもたれた。
「ダンク、どっちにしても俺達に出来る事はないよ。」
「、、、、だな。だがキングに最初に戦端を開くきっかけを与えたのは俺達だ、、。」
弾駆が目を瞑りながら言った。
その時、事務用に使っている部屋からコミューターの着信音が聞こえた。
「、、、アレン、、。」
葛星は目を閉じたまま言った。
「なんだ?」
「しばらく依頼は受けるなよ、、、俺が回復するまでな」
「ああ判ってるさ。今度は誓うよ。お前が回復するまで、どんな依頼でも絶対に受けないから。」
・・・・・・・・・
「うん?どうだった?」
アレンは戻って来るなり、真っ青な顔をしてソファに座り込んだ。
「、、依頼じゃなかった。」
アレンの様子が、おかしいことに気づいた弾駆はカウチの中で座り直した。
「言えよ。どうした?」
「混沌王から連絡があった。レイチェル・奥田とシャーロット・ホワイトを人質にとったと。二人を帰して欲しいのなら、今夜9時にビッグマウンテンの屋上に来いと言って来た。お前との果たし合いだそうだ。」
「果たし合い?一体、何のことだ?」
「俺も聞いたが、答えなかった。いずれお前も俺もその果たし合いの意味が判る時が来るかも知れないが、それを今、説明する気は彼にはないそうだ。ケリさえつけれらればいいと。ただし、条件を付けられた。ダンク、お前は鎧を着て来いと。それと俺も必ずその場にいろと。」
「ケリ?ケリをつけるとそう言ったのか?」
「、、そうだ。」
「、、じゃ行こう、小細工なしでな。9時ならあと2時間しかない。彼女たちを助け出す策を弄する暇もない。俺は今から鎧に入って出来る限りの回復を目指す。そして時間が来たら直ぐにここを出る。」
「ダンク、お前、混沌王の事、何か思い出したのか?やっぱり奴はお前の過去と関係があるのか?」
「いいや、ただあの時、チラッと見た3D野郎の頭にあった刺青を見たとき、なぜか胸が痛んだ、、それだけだ。やつがケリと言ったのなら、それと関係があるのかも知れない。」
「、、そうか判った。で、俺は?」
「出来る事はないな、、でもそれじゃ待つのが辛いだろう。果たし合いとやらの場所で、お前に危険が及ぶとは思えんが、何が起こるか分からない。身辺整理でもやってろ。臨月ストリートのおじきや叔母さんへの挨拶とかな。こんな時じゃないとな。どうせお前、普段、ろくに連絡もとってないんだろ?」
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