混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile

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第5章 混沌王の創世

59: 悔恨

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 周への復讐を果たしてから、何日経ったのだろう。
 アレンは病院のベッドで目が覚めた。
 アレンは自分の身体が驚くべきスピードで回復していくのを感じながら、それを忌々しく思った。
 あの時、自分の右前腕に溜めたエネルギーを一気に放出させた。
 自爆だった。

 アレンの右腕は当然、周とともに吹き飛んだろう。
 それは堅牢なマシンマンのボディを破壊するエネルギーなのだから、もしかしてアレンの上半身右側も、いや場合によれば、もっと広範囲にアレンは傷ついていた筈だ。

 今は、その右腕がある。
 だが心は傷を負ったままだ。
 アレンは自分のせいで、別府イルマを失った。
 そちらはまったく回復しない。
 アレンは、葛星もこんな気分を毎回味わっていたのかも知れないと思った。

「良かった。目が覚められたようですな。」
 自分の側から男の声がした。
 最初ぼんやりしていた頭では、その声の主は混沌王ではないかと思ったが、そんな筈はなかった。
 男はフィリポ・ベトサイダだった。

 アレンは上半身を起こした。
 これも嫌な事に、簡単に出来た。
 全ては混沌王がアレンに与えた「驚異の回復力」のお陰だった。
 念を入れるように、爆発で吹き飛んだはずの自分の右腕を軽く回してみたが、やはりそれは復元していた。
 アレンは軽い吐き気を憶えた。

「あなたが回復したお陰で、死者が一名で済んだ。混沌王の命令は守れなかったが、あなたが命を取り留めたのだから、まだ救いはある。いやそれは、イルマの事を考えればと、いう話ですがね。」
 そういったフィリポ・ベトサイダの声は固かった。
 何かを思い定めた人間の声だった。
 アレンはベトサイダが言った「イルマの事を考えれば」の意味を考えたが、判らなかった。
 だが他の事は判った。

「、、、ひょっとしてあなたは、この件で責任をとろうと考えているのではないでしょうね。それは駄目だ!」
 フィリポ・ベトサイダは一瞬、後悔したような表情を見せた。
 自分では、そんな事を相手に気遣ってもらう為に声を掛けたつもりはないのに、という所だろうか。

「やれやれ、私は自分のポーカーフェィスさえ満足に維持できなくなったようだ。本当に潮時ですな。」
「そんな事は、どうでもいい。今回の件は、全て俺が招き寄せた事だ。イルマを死なせてしまったのも俺だ。復讐だのなんだのというのであれば、貴方たちと関係のない所で、勝手にやるべきだった。昔の俺は、何でも屋もやってたんだ。少しは鼻が利くし、悪知恵だって働く。本気でやろうと思えば一人で出来た筈だ、、なのに混沌王の側にいるからって、調子に乗っていた。」

「それも含めて私の判断ミスが招いた事だ。混沌王は、あなたという人間がこの件に関わって来ると思う、その事を頭の隅に置いておいてくれと仰っただけだ。その際に私は、ならば我々の動きに組み入れますと思わず言ってしまった。私はそんな男ではなかった筈なのだが、どうしても混沌王の前に出ると認められたいという気持ちが抑えられなくなるのだ。それに今となっては、愚者の判断にしかすぎないが、その方向で確実にやれるという読みがあった。なにせ、当たらせたチームリーダーがイルマだったからね。」
 アレンもフィリポ・ベトサイダのイルマに対するその評価は正しいと思った。
 別府イルマはやり遂げられる筈だった。

「彼女は、この地上で地下工作を7年間、新しい組織で2年何一つとしてミスを犯さずやって来たんだ。我々の仕事は、きれい事では済まない、それを彼女は10年近く機械のような精密さで成功させて来た、、。旧公安は彼女の非情さに随分、煮え湯を飲まされたものなんですよ。」
 本当は「そんな彼女が、何故、お前のような男を助ける為に、自分の身を呈した?」と言いたかったのだろうが、フィリポ・ベトサイダは彼女への賛辞で、それを言い換えたのだ。

「それでは私はこれで失礼しますよ。あなたが回復して本当に良かった。ああそれと、これは言わずもがなの事だが、『回天』は完全に壊滅させましたよ。残った実行部隊や本体にかかわらず、綺麗に、、跡形もなくね。」
 それだけを言い残してフィリポ・ベトサイダは病室を去った。

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