混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile

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第5章 混沌王の創世

63: 曙の策略

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「どうする?このままじゃジリ貧だぜ。」
 カーリ・ゲナダがレイチェル・奥田に言った。
 ここは『曙の荊冠』が、旧アクアリュウム世界に散らばらせ埋伏しておいた隠れ家の一つだ。
 表面は場末のバーにしか見えない。

 そして自称革命戦士のカーリ・ゲナダは、『曙の荊冠』の組織にちゃっかりと潜り込んでいる。
 レイチェル・奥田は、それを不服に思いリーダーである是出聖に直訴したが、それは退けられている。
 是出聖は夢見るような理想主義者ではなかった。
 強靱な思想家でもあるが戦略をよくする軍人のような側面を持つリアリストでもあったから、カーリ・ゲナダは戦力になると判断していたのだ。
 カーリ・ゲナダの不誠実など端から見通していたが、その有用性は捨てなかったということだ。

「それにしても混沌王のやり口は上手いよな。今じゃ、旧アクアリュウム人の半数以上は混沌王を支持してる。実際、世の中を見てると、この俺でさえ、アクアリュウムの方はキングが支配してた頃よりずっと良くなってるように見える。、、混沌王の正体なんて関係ないな。それを言ってるこっちの方がデマゴーグ扱いだ。」

「、、、今のうちだけよ。その内、混沌王は本質を現し始める。それに決定的なのは混沌王の発想が現代人のものじゃないって事。今までの支配者は良かれ悪しかれ現代人のものだっわ。民主主義を蹂躙してても、それは民主主義を理解しての上の事なんだから。」

「だからさ、殆どの人間は、混沌王のその本質とやらを、迎え入れるだろうって俺は言ってるの。」

「あなた、何のためにこの『曙の荊冠』にいるの?」

「知ってるだろ?ここにいた方が面白いからさ。」

「相変わらず、ゲスね。でこの現状を変える為の考えがあるの?このままじゃあなたが追い求めている面白ささえも、この社会からなくなって行くわ。残るのは王への盲従と野蛮な開拓精神だけ。」

「なんだ、ちゃんと現状分析出来てるじゃねえか、、、そうだな、一つ面白い方法があるぞ。俺は近々、それを是出に提案するつもりだが、その時にはあんたにも支持に回って欲しいな。あんたは是出に気に入られてる。」

「気にいられてる?そういうのじゃないわ。あなたに説明しても理解できないでしょうけど、、で何なの、その方法って?」

「暗殺だよ、、混沌王のな。てっとり早いだろ。革命なんて辛気くさいことをしなくて済む。アクアゲヘナは一種の王政だ。しかも生まれたばかりの王政で跡継ぎやらもいない。キングも似たような存在だったが、あいつの時代の本当の王はアクアリュウムの歪な経済構造そのものだった。だが今は違う。真の王は、混沌王の頭の中に、いや混沌王が見ている世界の中にいる。だからさ、混沌王一人をやっちまえば、一気に方が付く。それから世界がどう再編されるかは、次に出てくる人間の腕次第って事だ。j

「暗殺って、、混沌王は人間じゃない。人間以外のものよ。尋常では倒せないわ。あの葛星でさえ倒せなかったんだから。それに昔とは違う、護衛も大勢いる、私達は誰も彼に近づけない。」

「面白い情報を掴んだんだよ。混沌王は近々、この世界を離れて外界に出る。連れて行く人数はそう多くない。王なんだぜ、部下が五万といる、そんな事、普通なら自らはやらんが混沌王はそれをやる。そこがねらい目だ。」

「それ本当?!!どうやってそんな事を掴んだの?」

「おいおい、俺はカーリ・ゲナダだぜ。俺のネットワークはあちこちにある。あんただって、そんな俺に惚れたんだろう?」

 悔しげにレイチェルの顔が歪んだ。
 惚れた、、、過去の事ではあるが、ゲナダの言った事は本当だった。
 惚れたのは、ゲナダの実力も含めてだ。
 というよりもレイチェルが初めて出会った頃のカーリ・ゲナダは、大きな反政府組織のリーダーであり輝いていたからだ。

「それが本当なら暗殺の可能性は高くはなるわね。でもその場面にあなたが乗り込んで行くの?ちょっと考えられないわね。あなたも私も完全に、マークされてるわ。」

「暗殺をやれそうな人間に心辺りがある。それとな、外界でなら暗殺といわずに直接勝負をしかけるって方法もあるんだ。俺は二段構えとして、そっちも考えてる。なんならあんたもそれに加わってくれていいんだぜ。」

「馬鹿な事を考えるのね。私達は外界で混沌王の秘密を探る事さえ上手く出来ていないのよ。外界は、そういう場所だわ。」

「外界の地表の戦いならな、そういう事になる。けど、今度は違う。ただしその戦いを展開するには金と人がいる。いや、ここでいう人ってのは組織のメンバーって事じゃない。技術者って事だ。その二つの計画を実施する事を、俺と一緒に是出に頼んで欲しいんだ。要は結局金なんだよ。是出は思想家のくせに実務面でしっかりし過ぎて、そう所が渋いからな。」

「、、、詳しいことを教えて、話はそれからよ。」

「ほう、あのレイチェル・奥田が、俺の暗殺話に乗るのか?」

「、、いいから!」

「この情報は、アストラル・コアの一員から掴んだ。そいつとは、ずっと昔から接触していた。あんたに言わせると俺がまだ、まともだった頃からだよ。最近、そいつが妙に浮かれてやがったから探りを入れてみたんだ。どうやら混沌王とお目通りかが叶ったらしい。でその辺りの情報を流すように言ってやった。所が、それを否定しやがる。私は混沌王に忠誠を誓うことにするだとさ。」

「混沌王の魔法にかかったのね。」

「魔法かどうかは判らない。俺は、コイツのは魔法じゃなくて、自分からの本気だって気がしたから、むかついて脅してやったのさ。お前がずっと昔からの内通者だって事をばらしてやるとね。」

「、、、想像に絶するゲス野郎ね。あなたは。」

「よしてくれ、ゲス野郎はそいつだろ。昔は俺達の主張に共感してアストラル・コアの情報を流していたんだ。そいつが今になって混沌王に忠誠を誓うだと、虫が良すぎるって話なんだよ。第一、筋が通ってる男なら、俺のそんな脅しに屈して情報を流してきたりはしない。」

「、、、。」
 レイチェルは黙りこくった。

「混沌王の特命を帯びたネロ・サンダースが、外界のあちこちを飛び回っていたのは知ってるよな?」

「ええ、王の下克上の成功に寄与したサンダースに対して、混沌王が与えた功労賞みたいなものだって言われてるわね。その中身については、ただの休暇だという評価もあれば、次の征服先の下見だろうって憶測もあった、、。」

「でそのサンダースが、長い休暇を終えて、持ち帰ってきた外界のお土産ってのがロストワールドで作られた空飛ぶ地上母艦って訳だ。まあ馬鹿でかいホバークラフトみたいなもんだが短時間ながら空も飛べる。つまり最も早く外界を移動できる機体を見つけて来たって事だ。でそれをアストラル・コアの連中が寄ってたかって修理してしまった。なんと燃料をあのバルースに変えてだ。ただし今のところは一機しかない。その機体に冒険好きな我らが混沌王が乗り込もうって話なのさ。要は遠征の為の下見だな。」

「それには何人、搭乗できるの?」

「おっ、いよいよ、その気になってきたな。三十人くらいらしい。」

「三十人か、、、。それに様子を聞いてると、その機体って外に逃げられない密室みたいなものだから、潜り込めるんなら、暗殺は可能かも知れないわね。」

「それと外界の最深部でなら、戦闘も可能だ。相手はただ一機、軍を相手にする訳じゃない。」

「こちらに混沌王と同じ移動手段があるならね。」

「それがあるんだよ。その空飛ぶ地上母艦は一機じゃないんだ。それを先に見つけたのはアクアリュウムのサルベージマンだ。だが奴らには、それだけ大きな機体を引き上げる力はない。だから、いつでも引き上げられるように場所だけをマーキングしてたって訳だ。」

「よくそんな事まで調べたわね。」

「俺達の戦いは情報が命だ。それと金だ。主義主張は関係ない。」

「加えて、ひりひりするようなスリルね。でもそれは、あなたの戦いでしょ。情報収集以外は私達が、最も遠ざけなければならいものだわ。、、まあいい。それでお金がいるって言ったのね。でも直せるの?私達にはアストラル・コアみたいな部署はないわよ。」

「大丈夫だ。リストアの為のデータは全て揃ってる。混沌王はそれを量産させるつもりでいるらしいから、そのリストアデータに従ってやりゃ、そこそこの頭と技術力があれば仕上げられるって話だ。」

「あなた、その内通者って人に、凄い圧をかけたんでしょ。」

「、、、自殺するまでの追い込みはやってない、情報源がひとつ減るからな。」
 カーリ・ゲナダは暗い目で言った。

「、、、我々の方で、資金以外で用意するのは、その機体を組み上げる場所と人ね。幸い外界の開拓が始まってるから、アクアリュウムの外に、そんな場所が見つかるかも知れない。人も、、組織の伝手を辿ればなんとかなるかも、、。」

「人の方は多分、大丈夫だろ。『曙の荊冠』の支援者はインテリさんが多いからな。あんたがウィンクすれば5・60人は無償で集まる。」

「いい加減に、その言い方を止めないと、本気で粛正させるわよ。出来ないと思ってる?本気じゃないと思ってる?」
 レイチェル・奥田が物凄い目付きでカーリ・ゲナダを睨みつけた。

「、、いや、訂正するよ。問題は資金だけだ。後は俺が責任を持ってなんとかする。でも待ってはいられない。混沌王が出発してしまった後に機体が出来たって意味はないんだ。混沌王はああいうやりかたを好む人間だから、今後も自分が先頭に立って動くだろうが、2回目は機体の数が違う。軍の規模になってる筈だ。」

「チャンスは一回って事ね。判った。なんとかしてみるわ。」
 カーリ・ゲナダは、ホッとしたようにうなずいて見せた。
 自分の、提案が聞き入れられたからではない。
 レイチェル・奥田の怒りが収まったからだった。


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