混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile

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第6章 魁けでの戦い

73: 接近戦

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 左舷に位置する観測員から「7時の方向、距離30、何かがこちらに向かって接近中!」という怒鳴り声が上がった。
 もちろん観測員が掴んだ情報は、電子データとして瞬時に全てのセクションに転送されている筈だが、この異変を見つけた男は、それを声にして誰かに叫びたかったのだろう。

 そして司令室の中にいる人間が全員凍り付いた。
 こんな事態は、誰も想定していなかったからだ。
 混沌王でさえ呆然としていた。
 混沌王の世界に空中戦は存在しないのだ。

 アレンはその声の主は、件の観測員ではないかと思った。
 が、こちらを振り向いているのは左舷の一番左の観測員席にいる男だった。
 左から二つめの観測員席に座っている夏燕 櫂は、彼目の前の計器にむかってなにかしきりと操作を行っている。
 この混乱の中で、いち早く自分を取り戻したのは、艦長を兼任しているネロ・サンダースだった。

「防御バリアを張れ!兎に角、全速で予定のコースを進んで、この森林地帯を抜けろ!ナビに森林地帯が切れた部分の平坦地を重点的に探査させろ!場合によっては、そこに着陸する!」
「大変です、艦長。ナビが反応しません!」
 ややあって操縦席の男がうろたえきったような声を上げた。
 ナビとは、この飛行の為に特別に培養育成したバイオロイド頭脳の事だ。

「反応しない!?どういう事だ?」
「、、脳波が停止しています。死んだんだと思います。」
「死んだ?」
 ネロの顔が歪んだ。

 アレンは、夏燕 櫂の方を見た。
 観測員の担当する器機は、操縦席のそれと匹敵するレベルで、ナビと深くリンクしている。
 しかも夏燕 櫂は、そっちの方面のスペシャリストだ。
 ナビに多大なデータ負荷を掛けて殺害する事など朝飯前ではないのか?

「それは、事故ではない。このタイミングでは異常だ。ネロ、第1級の戦闘態勢を!そして敵艦を完全に捕捉させろ。」
 今まで口を出さなかった混沌王が口を開いた。
 親衛隊長のカハナモクが、別のブースに待機させている部下の元に走り出した。

 現状では未確認飛行物体がこちらに接近しているだけだが、混沌王はこれを敵機の襲来と認識確定したようだ。
 もちろんネロはそれに従った。
 ただ防御バリアが完全に起動したら、混沌王機側からの砲撃はバリアの隙間からになり、限定的なものになる。
 この場面で有効打となり得るミサイル発射口は、自らのバリアで塞がれていた。

「姿がはっきり見えました!あれは、この機と同機種です!」
 同じく、左舷端の観測員が怒鳴った。
 ネロは観測員が送ってくる映像を手元のディスプレイに映し出し、その出現シーンを繰り替し巻き戻して見ている。
「なんだこいつは?光学迷彩を機体に施していやがったのか。それで視認が遅れたのか、」
 ネロがそう呟いた途端、混沌王機に続けざまに強い衝撃が起こった。

「左後方部分、被弾!ミサイルです。バリア出力低下!」
「そのまま行け!敵機の方角から見て、防御バリア内からの応戦は無理だ!」
 司令室にサイレンが鳴り渡って、消火剤の煙が充満し始めた。
 火災センサーが誤動作を起こして、ありもしない火災を消し止めようとしている。

「ネロ、着陸は可能か?」
 混沌王の大きな声が飛ぶ。
「何とか。」

「なら迎撃ミサイルを空に向かってスタンバイさせろ。着陸した瞬間に、バリアをといて上に撃つ。敵機は必ず追いかけて来るぞ!」
 そんなサイレンの中での大声のやりとりも、今のアレンは、上の空だった。
 充満する消火剤、激しく揺れ動き続ける司令室の中で、夏燕 櫂が席から立ち上がって、こちらに向けて歩き出したからだ。 

 止めなければ!こいつはやるつもりだ!
 だがどうやって、やる?相手は超人である混沌王だぞ?

 自爆だ!生体爆薬だ、あの時、俺が感じた黒いものは、生体爆弾だったんだ。
 アレンは周囲を見た。
 自分の隣にいるネロの軍用拳銃が目に入った。
 躊躇している時間はない。

 アレンはネロの腰から軍用拳銃を抜き取ると、夏燕 櫂の眉間に狙いを定めた。
 胴の方が狙いやすかったが、生体爆弾という言葉が、それを阻んだ。
 もちろん生体爆弾は、そんな単純なものではないのだろうが、アレンは自分がそれを誘爆させる事を畏れたのだ。

 次の瞬間、アレンは、簡単に引き金を引いていた。
 きっと自分は銃で人を殺すような場面になっても、最後の最後には引き金を引くのを躊躇するだろう、、そう思っていたのだが、気がついたら引き金を引いていた。
 強化されたアレンの目に、夏燕 櫂の眉間に、ボッツと黒い穴があくのが見えた。
 そして夏燕 櫂は、仰向けに倒れる前に、その身体全体をまばゆく発光させた。

    ・・・・・・・・・



「くそ!墜ちろ、墜ちろってんだ!この野郎!」
 ゲナダはミサイルの発射ボタンを連打している。
 本来、攻撃ブースにあるミサイル発射機能を、艦長席に回してあった。
 射手にあたる人員がいない為だ。

「おちついてよ。ミサイルは、もう撃ち尽くしてるわ。それに自爆の方も失敗したみたい。でもどうやら混沌王は飛び続けられなくて着陸するつもりらしいわ。こっちの奇襲は、半分成功してる、まだ勝ち目はある。次の手を考えて。退却は、ありえないわよ。」
 となりのレイチェルは冷静に今の状況を判断しているようだった。

「積んできた装備の中に、爆弾がある。そいつを真上からばらまいてやる!投下のタイミングは、お前らに任せる。ボタンをそっちに送るぞ。シャビエル!あいつに食らいつけ!」

「アイアイサー!楽しくなって来たねー、チクショー!」
 シャビエルは隣の甥っ子の肩を、どやしつける。
 レイチェルの目には、なぜか甥っ子のその肩が、シャビエルの拳から逃げるのではなく、自分から打ち付けに行っているように見えた。
 そしてそんな彼らから視線を移した曙号の窓に、森林地帯が途切れる地点を目指して降下していく混沌王号上部がしっかりと見えていた。




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