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第4章 精霊達
40: 鷲男の報告
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鷲男はラットマンから聞き出した大雑把な部分だけを漆黒に伝えた。
その他の些末な部分は、必要ないと思えたからだ。
ただし、それらはもっとも別の角度で洗い出せば、些末どころの情報ではなく、教団と政府関係者との癒着など大きな問題に発展するものばかりだった。
ブゥードーをずっと追いかけていたレオンが、もし今も元気だったら、次の獲物が見つかったと泣いて喜んだろう。
しかし鷲男が受けた命令は、鴻巣神父の情報収集だった。
もちろん鷲男には、ラットマンからどうやって情報を聞き出したかも、報告の些末な部分に入っていた。
ラットマンによると、鴻巣はナノマシンを利用した生体工学の若きエースと呼ばれた科学者だったが、彼はそれに留まらず様々な分野に手を伸ばし、挙げ句の果ては「人体改造」そのものの魅力に取り憑かれた人間だったそうで、彼は幾つか具体的な事例を挙げて、それを鷲男に説明していた。
その事例の中には、漆黒の原体である漆黒賢治の名前も関係者として挙がっていたのだが、鷲男はそれについては、先の理由で漆黒には報告していない。
やがて鴻巣は医学上の倫理規範から大きく逸脱した行為を繰り返し、その世界から放逐された。
その逸脱行為の中には、反社会的政治行動も含まれていたようだ。
この時点で漆黒徹宗は、要注意人物としてジッパーに目を付けられ、彼は一時行方をくらませていた。
徹宗が漏らした話では「辺境」で暫く彷徨っていたらしい。
だが徹宗は国に舞い戻る方策を考えつき、それを実行に移した。
つまりそれが自分の双子の弟である時宗との入れ替わりだったのだ。
それでも執拗なジッパーの監視の目は、入れ替わり先の時宗に注がれ、再び鴻巣はこの世界の表舞台から姿を消さざるを得なかったのだ。
だがこの時点では、ジッパーも大きなミスを犯した。
漆黒時宗が漆黒徹宗の成り代わりである証明に失敗したのである。
ジッパーは漆黒徹宗がクローン生成技術を応用した成り代わりをやったと考え、それを暴こうとしたのだが結果、漆黒時宗の身体は人間のものだった。
当時このことは、ちょっとしたニュースになった。
鴻巣徹宗の過去も、漆黒賢治と同様に、多くのものが歴史から消し去られていたが、鴻巣に行われたクローン判定だけは未だに人々の記憶に多く残っていた。
人間に対するクローン嫌疑や判定は、それほど衆目を集める行為なのだ。
この事により、ジッパーはそれ以上の漆黒時宗の追跡を断念する事となり、時宗とこ徹宗は表世界での行き場を失ってしまったのである。
鷲男は、漆黒徹宗がどうやって漆黒時宗に成り代わったのか、片耳を交換にラットマンを問い詰めたが、これはラットマンが知るところではなかった。
その後の鴻巣の空白期間の足取りは解っていないが、放逐後の彼の科学的到達点は、「ナノマシン技術と再生細胞技術の完全な融合」だったようだ。
そんな彼を救い上げたのが、新興教団として確固たる位置を築き始めていたブゥードー教団ロアだったのだ。
鴻巣を、教団の中でも経営上の裏事業の大きな推進役の柱として直接指名し、その後、彼のプランを強力に推し進めたのは、教主自身であったという。
その為教主は、ピュア主義に近いロアの教義と矛盾する鴻巣の生き方を精算させたものの、彼に神父の位置を与える為に、かなりの無理を教団内で押し通したとも言う。
鷲男は、ラットマンから聞き出したそれらの情報と、自分の記憶層に蓄えたラットマンから抽出した最新の鴻巣神父の顔写真を漆黒に報告し、彼の初めての単独任務を終えた。
「よくやってくれたな、フレース。俺の中で、張果の爺や、パーマー捜査官の言った事がようやく繋がってきた。多分、時宗をクローン照合をかける所まで追い詰めたのはパーマー捜査官だろう。いくら双子とはいえ、一人の人間が全く別の人間になり変われる筈がないからな。俺だってそう考える。トリックとしてはクローン体を使うしかない、、、。でもそれを鴻巣は違う方法でやった。それに相手は自分の弟だぜ。色々考え合わせると、鴻巣って奴は相当怖い野郎だ、、。」
総てを聞き終わった漆黒は、そうゆっくりと言った。
一方鷲男は、漆黒の「よくやってくれた」の言葉を、最大限に味わっていた。
「その調子でもう一つ頼む。これはフレース、お前にしか出来ないことだ。チエコ・サリンジャーだよ。どうやら彼女はお前の事を気に入っている。こちらに取り込めとは言わないが、彼女との日常的な接触を重ねて置いてくれ。彼女はきっと役に立つ。口実は聞き込みで充分だろ?その間、俺は行くところがある、頼めるか?」
「、、、、、。」
鷲男は明確な返事をしなかったが、首を縦に振って見せた。
その他の些末な部分は、必要ないと思えたからだ。
ただし、それらはもっとも別の角度で洗い出せば、些末どころの情報ではなく、教団と政府関係者との癒着など大きな問題に発展するものばかりだった。
ブゥードーをずっと追いかけていたレオンが、もし今も元気だったら、次の獲物が見つかったと泣いて喜んだろう。
しかし鷲男が受けた命令は、鴻巣神父の情報収集だった。
もちろん鷲男には、ラットマンからどうやって情報を聞き出したかも、報告の些末な部分に入っていた。
ラットマンによると、鴻巣はナノマシンを利用した生体工学の若きエースと呼ばれた科学者だったが、彼はそれに留まらず様々な分野に手を伸ばし、挙げ句の果ては「人体改造」そのものの魅力に取り憑かれた人間だったそうで、彼は幾つか具体的な事例を挙げて、それを鷲男に説明していた。
その事例の中には、漆黒の原体である漆黒賢治の名前も関係者として挙がっていたのだが、鷲男はそれについては、先の理由で漆黒には報告していない。
やがて鴻巣は医学上の倫理規範から大きく逸脱した行為を繰り返し、その世界から放逐された。
その逸脱行為の中には、反社会的政治行動も含まれていたようだ。
この時点で漆黒徹宗は、要注意人物としてジッパーに目を付けられ、彼は一時行方をくらませていた。
徹宗が漏らした話では「辺境」で暫く彷徨っていたらしい。
だが徹宗は国に舞い戻る方策を考えつき、それを実行に移した。
つまりそれが自分の双子の弟である時宗との入れ替わりだったのだ。
それでも執拗なジッパーの監視の目は、入れ替わり先の時宗に注がれ、再び鴻巣はこの世界の表舞台から姿を消さざるを得なかったのだ。
だがこの時点では、ジッパーも大きなミスを犯した。
漆黒時宗が漆黒徹宗の成り代わりである証明に失敗したのである。
ジッパーは漆黒徹宗がクローン生成技術を応用した成り代わりをやったと考え、それを暴こうとしたのだが結果、漆黒時宗の身体は人間のものだった。
当時このことは、ちょっとしたニュースになった。
鴻巣徹宗の過去も、漆黒賢治と同様に、多くのものが歴史から消し去られていたが、鴻巣に行われたクローン判定だけは未だに人々の記憶に多く残っていた。
人間に対するクローン嫌疑や判定は、それほど衆目を集める行為なのだ。
この事により、ジッパーはそれ以上の漆黒時宗の追跡を断念する事となり、時宗とこ徹宗は表世界での行き場を失ってしまったのである。
鷲男は、漆黒徹宗がどうやって漆黒時宗に成り代わったのか、片耳を交換にラットマンを問い詰めたが、これはラットマンが知るところではなかった。
その後の鴻巣の空白期間の足取りは解っていないが、放逐後の彼の科学的到達点は、「ナノマシン技術と再生細胞技術の完全な融合」だったようだ。
そんな彼を救い上げたのが、新興教団として確固たる位置を築き始めていたブゥードー教団ロアだったのだ。
鴻巣を、教団の中でも経営上の裏事業の大きな推進役の柱として直接指名し、その後、彼のプランを強力に推し進めたのは、教主自身であったという。
その為教主は、ピュア主義に近いロアの教義と矛盾する鴻巣の生き方を精算させたものの、彼に神父の位置を与える為に、かなりの無理を教団内で押し通したとも言う。
鷲男は、ラットマンから聞き出したそれらの情報と、自分の記憶層に蓄えたラットマンから抽出した最新の鴻巣神父の顔写真を漆黒に報告し、彼の初めての単独任務を終えた。
「よくやってくれたな、フレース。俺の中で、張果の爺や、パーマー捜査官の言った事がようやく繋がってきた。多分、時宗をクローン照合をかける所まで追い詰めたのはパーマー捜査官だろう。いくら双子とはいえ、一人の人間が全く別の人間になり変われる筈がないからな。俺だってそう考える。トリックとしてはクローン体を使うしかない、、、。でもそれを鴻巣は違う方法でやった。それに相手は自分の弟だぜ。色々考え合わせると、鴻巣って奴は相当怖い野郎だ、、。」
総てを聞き終わった漆黒は、そうゆっくりと言った。
一方鷲男は、漆黒の「よくやってくれた」の言葉を、最大限に味わっていた。
「その調子でもう一つ頼む。これはフレース、お前にしか出来ないことだ。チエコ・サリンジャーだよ。どうやら彼女はお前の事を気に入っている。こちらに取り込めとは言わないが、彼女との日常的な接触を重ねて置いてくれ。彼女はきっと役に立つ。口実は聞き込みで充分だろ?その間、俺は行くところがある、頼めるか?」
「、、、、、。」
鷲男は明確な返事をしなかったが、首を縦に振って見せた。
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