精霊捜査線・錬金術師達のマリオネット パラケルススの魔剣と天国にいる敵

Ann Noraaile

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第4章 精霊達

44: 助教授の捜査協力

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「今の警察にも、こんな便利なものがあるのね。」
 サリンジャーは言葉の内容とは裏腹に、あまり感心したようでもない口調で呟きながら、その小さなディスプレィを眺めていた。
 もう今の作業に疲れ切っているのだろう。

 車の後部座席では、鷲男がサリンジャーの見ているディスプレィをリモート末端で遠隔操作している。
 こんな形でサリンジャーを自分の隣の助手席に座らせ、鷲男と離したのは漆黒なりの配慮だった。
 鷲男は大丈夫だが、サリンジャーは鷲男の側にいると使い物にならない、漆黒はそう考えている。

 サリンジャーが知らないことがもう一つあった。
 彼らが乗り込んでいる車が、警察のものではなく張果の所有物だという事だ。
 いくら一般車仕様の警察の車を使っても、それでは「天国の傘の下」で張り込みをするには不向きと言えた。
 このヘブンの傘の下では、張果の所から借り出した高級車でさえも、くすんで見えるのだ。

 現に漆黒達は、彼らが目標とする建物が監視できる駐車場に車を置いているのだが、周囲の車で張果の車を購入価格で下回るものは見あたらない。
 それに、今の漆黒には、捜査用情報機器を満載したハイグレードな警察車を借り出す許可がおりそうにもなかった。
 それは警察高官の為のお飾り用に使われる。
 結果、張果が接待営業用として所持していた高級車を使わざるを得なかったのである。

「これゲームみたいね。飽きないわ、、。」
 ・・・飽きないだと?
 嫌みか。
 俺だって、こんな車の中で缶詰になっているより、病院に直接出向いて、奴らに揺さぶりをかけてやりたいさ。
 漆黒の口の中は、疲労の為に粘ついている。
 もう三時間は、この車の中で同じ姿勢をとっている事になる。
 それでも、捜査令状も取れない、いや逆に違法捜査を突かれて教団からダメージを与えられそうな漆黒達には、このアプローチしか残っていなかったのだ。
 決行するとなったら、迅速に間違いなく目標に辿り着く、それが最も重要だった。

「愛染総合病院の設計図をバーチャルで立体化してあるんだ。それにくわえて各種のリアルタイムデータがそこにレイヤーされている。あなたが見てるのは、ほぼもう一つの愛染総合病院と言って良い。あなたの記憶が鮮明なら、我々は、これで例の男が収容されている部屋へ進入する為の最も効率の良いルートが調べられる。」
 漆黒は、サリンジャーに、真田の逮捕を、監禁からの救出と言い換えて説明してある。
 警察として正式に動けないのは証拠固めが出来ないからだが、事実はサリンジャーが知っているし、事は緊急を要する・・・そんな言い方だった。

 逮捕と説明すれば、サリンジャーは、このような捜査方法をとる漆黒を疑い、到底、彼女の協力は取り付けられなかったはずだ。
 サリンジャーは特にロア教団の考え方に否定的というわけではないのだ。
 彼女はどちらかというとこの国の現体制に批判的だった。
 禁書である鬼子檸檬の”愚者の未来”を所持している事でもそれは判る。


「でも辿り着けないわ。どの入り口から入っても駄目みたい。」
 辿り着けないだけではない。
 彼女は戸惑っている。そしてこの作業に飽きかけている。
 『もしかしたら、何かの企みの為に、全然見当はずれの場所を、この刑事達は私に見せているのかも知れない。』
 そうも感じているはずだ。
 彼女が漆黒に、いや警察に協力しているのは、鷲男と可哀想な真田の為だった。

 しかし「愛染総合病院」を、真田が捕らわれている場所として直接名指しした当の本人である彼女が、自分の戸惑いを漆黒達に言い出せるはずがなかった。
 だが漆黒はそういった矛盾を、サリンジャーに当てこすって彼女を追求する事を避けた。
 彼女が真田の最終の目撃者である事実は動かないからだ。
 彼女には今回のチャンスを逃したとしても、今後も協力をしてもらわねばならない。

「先ほどから同じ事を、3回は繰り返している。」
 漆黒は非難の色が出ないように、出来るだけ優しい口調で言った。

「私が嘘をついていると言いたい訳?」
 苛立った口調で、サリンジャーは答えた。
 彼女は彼女なりに、瀕死の真田を見たという体験もあって、自分の行動に少なからずの責任を感じ始めていたのだ。

 彼女は、真田の悲惨な姿から、真田にはあまり時間が残されていないように考えていた。
 一度は、自分から切り離して忘れ去ろうとした人物だったし、ましてや自分には縁もゆかりもない人間だったが、こうやって救ってやれる機会が巡ってきた限りは、全力で救ってやりたい。
 であれば、一刻も早く自分が彼ら警官を真田のもとに導いてやる必要があるのだと、そう思っていた。

「そうは言っていない。だが、あなたが愛染総合病院に入院したのは随分昔の事だ。どこか他の病院と記憶が混同している可能性はないのか?俺が下調べをした範囲では、あなたが退院した後から愛染は大規模改修を一度行っている。」
「改修、、、、、!」

 サリンジャーは絶句した。
 本当の事を言えば、あの時、サリンジャーは車の中だけではなく、病院に入るまで目隠しをされていたのだ。
 目隠しは見覚えのある病棟に、つまり愛染総合病院の病棟内に入ってから神父の手によって外されたのだ。
 その愛染総合病院が、大改装している。
 幼心にも愛染総合病院は、随分古典的な建築様式で建てられたものである事が印象づけられていた。
 だからこそ、サリンジャーは目隠しを外された時に、その場所が愛染総合病院である事に思い当たったのだが、。

「いえ。大改修と言っても、愛染には旧館の一部をそのまま保存している場所もあるんです。そこの用途は医療ではなく待合室や簡単なギャラリー、まあいわば、記念館ですけれどね。」
 鷲男の声に救われたように、サリンジャーはディスプレィから顔を上げた。

「だったらなぜ、その場所が、こいつに表示されないんだ。」
 漆黒は横に身を乗り出すようにしてサリンジャーの膝元のディスプレィを、鷲男に指さした。
 後部座席にいる鷲男の目に、漆黒の傷ついた左耳が見えた。
 最近かなり、肉のボリュームが戻ってきているものの、皮膚の色が青黒い。
 真田信仁の過去を調べる為、本庁に出向いた時に受けた傷だと鷲男は知らされている。

「記念館ですからね。新しい記念館程度では詳しいデータを公に報告する義務はないんです。まあ在るところにはあるのでしょうが、意識してそれをこちらがそれを吸い上げないと、病院としてのデータだけではバーチャルには上がってきません。、、記念館の建物自体は、新しい病院の方が旧館の一部の壁面を残して包み込むように背中合わせの状態で繋がっているんです。」

「あれか、、。」
 漆黒は自分たちの車が置かれてある位置からギリギリ見える、愛染病院の西側を見た。
 漆黒は、始めそこにある建物を総合病院の横にある小さな教会だと思っていたのだ。
「あっ!?」
 同時にサリンジャーが小さな悲鳴を上げた。

「、、今まで気がつかなかったけど、あれは、昔、病院の裏口だった所よ。雰囲気がどことなしに、教会の裏庭みたいだったから、よく覚えているわ。」
「わかった。もう一度アクセスしなおして、バーチャル画像を作り直そう。」
「もう、完了しました。今度は記念館から、入ってみて下さい。」 
 サリンジャーが食い入るようにディスプレィを見つめる。
 その表情は期待に輝いていたが、すぐに曇った。

「少し雰囲気が変わっているけど、これは確かに昔の病院の二つめの待合室だわ、、。良く覚えている。でも、ここからは、どこにも行けそうにない。このバーチャルは本物と同じなんでしょ?」
 漆黒は、頭の中で素早く推理してみる。
 愛染は大規模改修の際に古い建物を残している。
 しかも、それは鷲男の言によるとヤドカリのような形でだ。
 もしこの改修行為が、なにかを隠匿しようとするものなら、このようなバーチャル解析を使った所で、その「隠し扉」が、簡単に判明するわけがない。
 実際に踏み込んで、秘匿された内部に入るしかないだろう。

 だが、現場で隠し扉を探すのに、手間取っていては、ロア側に対応策をとられてしまう。
 この逮捕は、奇襲だからこそ意味があるのだ。
 サリンジャーの証言に確実性があるなら、記念館の壁をぶち破って、真田が監禁されている場所に急襲をかけても構わない。
 張果の所から借り出したニードルガンは音も立てずに、1発で半径1メートルの穴を記念館の壁に穿つことが出来るはずだ。
 が万が一、サリンジャーの記憶が見当はずれなものなら、漆黒は捜査を続ける所か職を捨てるはめになるだろう。
 いや、何の関係もない一般の総合病院の壁を、ご禁制の重火器を使用して破壊したら懲戒免職では済まないだろう。

 漆黒が、その蛮勇を決意する為には、あとほんの少しばかりの証拠が必要だった。
 漆黒はジャケットの内ポケットから警察手帳を引き抜き、あるページを開きながら身体をねじるようにして、それを後部座席にいる鷲男に見せた。






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