精霊捜査線・錬金術師達のマリオネット パラケルススの魔剣と天国にいる敵

Ann Noraaile

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第7章 ブラザーシスター

74: カミュ兄妹

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 漆黒がバー・カミュのドアを開けた時、カウンターの向こう側でグラスを磨いていたアベル・カミュの目と、まともに会った。
 瞬間、アベル・カミュの顔が喜びで破顔したが、直ぐに決まり悪げに元の仏頂面に戻った。
 漆黒の反応も、同じようなものだった。
 漆黒はわざとぶっきらぼうにカウンターに近づくと、端の席に腰を落ち着けた。

「久しぶりだな。今日は、例の鷲頭の連れは一緒じゃないのか?」
「ああワケアリでね。又今度、連れてくるさ」
 カミュはWUWでは情報通だが、さすがに外界の精霊プロジェクトの変遷や、一人一人の精霊の行く末まで判る筈もない。
 それに今夜は、そんな事を喋りに来たわけではない。
 ただ漆黒は、バー・カミュの空間にいて、そこで幼なじみの顔を見たかっただけだ。

「お前んとここそ変わりはないか?司馬の野郎はどうだ?」
「司馬か?お前にしめられてからさすがに、ここには来ないな。でもやってる事は相変わらずだ。」
「、、奴らしいな。そういや、キアラの顔を見ないな。今日は遅でか?」

「キアラは今、赤ちゃんに夢中なのさ。」
「赤ちゃん?誰かと契約したのか?」
「いや、人間の捨て子だよ。」
「捨て子?WUWに赤ん坊を捨てる馬鹿な親がいるのか?猛獣の檻に赤ん坊を餌代わりに投げ込むようなもんだぞ。」

「いや、そうとは言い切れないさ。いいクローンに当たれば、人間より大切に育てて貰える、そういう話が一部の人間達に広まっているらしい。向こうの施策は、酷いらしいからな。まだ自分の子供に未練がある人間は、こっちを選ぶらしい。そして俺達の中に、そういうのを商売にして窓口を作った馬鹿がいる。その窓口に捨てに来る親からは金は取らない、人間のでもなんのでも良いから、赤ちゃんが欲しいと思うクローンは、そこから金を出して買う。」
 今の政府が酷いのは分かっているが、福祉の面でもそこまで衰えているのかと漆黒は思った。
 地上の栄養分の大半は、ヘブンに吸い上げられていると言うことだった。
 その残りカスを地上の強い人間たちが奪い去り、力の弱いものには、雀に投げ与える程のパンくずしか残らないという仕掛けだ。

「子どもの出来ない俺らクローンには、良いとも悪いとも、、なんとも言えない話だな。だが一つだけ言えるのは、WUWで育った人間が、大きくなってどうするんだって事だ。そのままWUWに残るのか?人間界に戻るのか?誰が考えたって、難しい問題が待ってるのは明白だ。」
「それでもクローンは子どもが欲しい、、、だろ?」
 カミュが悩ましげに言った。

「、、そうだな。特にキアラならそうなるだろう。、、、ならいっその事、父親も作れば良いんだ。俺らの契約家族の条件は、その赤ちゃんがいる事で充分成立してる。」
「心配するな、キアラには心に決めた相手がいる。相手次第だ。」
「決めた相手?そりゃめでたいじゃないか。あのジャジャ馬がな。俺達三人でつるんで悪さをして回ってた頃を考えると、嘘みたいな話だ。」

「いやめでたいくはないな、、俺はそいつのせいで、キアラを心配してる。」
「どこのドイツだ、そいつは。下手な了見を持ってる奴なら俺がシメてやる。どうせ俺は、ここを出た人間だ。何をやったって、おまえらに迷惑はかからん。」
「だからさ、その決めた相手は、お前だって言ってるの。」

「、、馬鹿言うな。」
「そうか、俺を馬鹿だって思ってるのか?俺から言わせれば、お前はいつかここに戻ってくる。負けて戻ってくるのか、何かを掴んでここに来るかはわからんけどな。俺はそれまで、キアラの気持ちが切れないんなら、兄貴としてそれでもいいと思ってる。だが切れたら別だ。そんときにキアラが何をしでかすか、それが心配なんだよ。」
 漆黒は黙ってグラスを見つめた。
 何か得体の知れないものに追い詰められた気分になってカミュに来た漆黒だったが、ここではここで、又、別の因縁が漆黒を待っていた。
 だがその因縁は、漆黒を拒絶しようとするものではなく、受け入れようとしていた。

 自分が過去にしでかした事を、一つの視点だけで見る事はない。
 それは見る者によって様々な意味を持っているのだ。
 本人が後悔していても、それほど酷くはない事もたまにはあるものだ。

 バー・カミュに、他の客が入ってきた。
 漆黒はその客から軽く顔を避けたが、客はそれを目敏く見つけたようだ。
 案の定、客は漆黒の事を知っていた。
 暫く客は、大人しく飲んでいたが、数分も経たずに漆黒に絡んできた。
 しかたがないので漆黒はそれに適当な相手をしてやった。
 WUWの中には、漆黒の事を裏切り者と呼ぶ人間が一定数存在する。
 誰がそうで、誰がそうでないのかは、その時になってみないと判らない。

 漆黒が、そんな相手のネチネチとした絡みを聞き流している最中に、胸の内ポケットにあるストリングの着信音が鳴った。
 漆黒は客に背を向けてストリングを耳に当てた。

「私、メイム・クリアキンです。貴方に話したい事があるんです。今、かまいませんか?」
 昼間とは打って変わったメイム・クリアキンの声が流れてきた。
 少し離れた所で、スツールがガタンと倒れる音がした。
 話の途中で電話をとった漆黒の態度に、男は自分が舐められたと思ったのだろう。

 男が物凄い勢いで漆黒の肩を掴み、自分に振り向かせようとした。
 漆黒はストリングを耳に当てたまま男に正対すると、空いた手を男の額に突きだして、内側に丸めた指をはじき出した。
 親指で止まっていた漆黒の指が男の額に飛び出すと、次の瞬間、それに弾かれるように男の身体がのけぞって後ろに倒れた。

「やれやれ、又、やっちまったな。今度のはよわっちいんだ、少しは手加減してやれ。」
 アベルが呆れたように言う。
 漆黒は、手で拝みながら店を出ようとした。
 ストリングの送話口は、自分の胸に押し当てて音を塞いでいる。

「その電話、急用なんだろ。だったら店の奥でとりな。こっちは後始末しておいてやるよ。」
 急いでストリングを耳に当てた漆黒は、アベルの好意に甘える事にした。

「何かあったんですか?やっぱり今はお邪魔みたいですね。」
「いえ、大丈夫。是非、その話をお聞かせ下さい。連絡をくれと頼んだのは俺のほうなんだから。」
 漆黒は自分が倒した男の身体をまたぐと、アベルが言ってくれた店の奥へと向かった。
 混み入った話になりそうだった。
 外で立ち話は、出来そうにもなかった。
 又、電話の次のチャンスもなさそうだった。


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