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第4章 竜の卵と飛竜
27: 籠絡
しおりを挟む「しかし面白いな、あの娘は。」
少し離れた場所から目敏くも、この騒動を見つけた張がスプリガンに言った。
「動きますか?」
「ああ、あの見物人の人垣の奥にアーロン・バンクスが青い顔をして突っ立ってるだろう?私は今から彼に接触する。感触が良ければ合図するから、これから始まる決闘を止めてくれ。出来るか。」
「もちろんです。ですがアーロン・バンクスの反応が思わしくなければ、このままほっておくのですか?アンジェラの父親は、この騒動にまだ気付いていないようです。彼が気づいて止めに入るまでに、スードか半機械人間のどちらかが死にますよ。今なら両方に恩を売ると言うことができますが。」
「トレーシー家の方はもういい。特に父親の方はな。娘はこれから色々利用する方法がありそうだが、それは娘がもっと熟してからだ。今は自然に風が吹く方向を見定めるさ。」
「わかりました。」
そう言った瞬間に、スプリガンの姿は消えていた。
・・・・・・・・・
螺子は剣を抜いた。
剣で勝負を決める気でいた。
聖剣争奪戦の様な縛りはないが、こういうパーティでアンジェラの命令で戦うのなら、それなりに戦わなければならない。
これは闇ファイトのような戦いではない、豪族の名誉がかかっている、そう螺子は思った。
そして螺子はあの襲撃での戦い以来、自分の中に人を傷つける事への恐怖や抵抗がなくなっている事にも気付いていた。
協力者の対象である人間にもランクがあって、マスター以外の人間のランクはその時々によって変わる。
その事が良いのか、悪いのかさえも、判らない、ただそうなのだ。
レナードが剣を抜いて構えた。
剣で勝負をしようと言うのか。
螺子は、複雑な事を考えないで、真っ先に、レナードの剣を両断してやろうと渾身の力を込めて振った。
歯噛みの剣の切れ味によって、それを受けようとした剣は、鎬を削る前に裂かれる。
マシンマンの並外れた腕力とスードの力が剣を通じて激突すれば、当然そうなる筈だった。
だが結果は違った。
歯噛みの剣が弾き返されたのだ。
同じ鋼で造られているのか?
製法が又、違うのか?
むろん螺子は、レナードが手にしてるのが、あの聖剣だとは知らない。
どちらにしてもレナードは、この日の為に、色々な準備をして来ているのだ。
螺子の中世騎士の扮装を真似て登場したのもそれだ。
芝居がかった演出をして、この戦いを盛り上げ、そこで勝利する。
それが己が受けた恥辱を挽回する方法だと考えているのだ。
そしてそれ以降のレナードの戦い振りは、そんな彼の性格である執拗さと狡知さを見せつけるものだった。
あのトレーシー家での最初の戦いは、単に彼がスードという存在を侮っていたに過ぎなかったのだ。
誘い込まれては、派手に打ち返されるという事を何度も繰り返し、螺子は徐々に追い込まれていった。
ある時、螺子はレナードの太刀筋が、あの剣士に似ていることに気付いた。
「まさか?あの剣士を雇って剣の練習をしたのか?そこまでして。」
そう思ったとき、螺子は自分本来の戦いをしなければ、この場は生き残れないと悟った。
つまりそれはアンジェラに使える忠実なスードではなくなるという事だった。
・・・・・・・・・
「私には子どもがいませんので、よく判りませんが、子どもというものは厄介なものですな。」
いつの間にかアーロン・バンクスの隣に近寄っていた張が彼に語りかけていた。
「、、張さんか。酷いもんですよ。聖剣まで私に黙って持ち出している。これで全て台無しだ。相手がトレーシー家では、息子が勝っても負けても、これでバンクス家の将来は潰えたも同然だ。ただ私には、もうなす術がない。」
「でも引き分けに持ち込めたら?まだチャンスはあるのでしょう。それに貴方の選択肢はトレーシー家だけではないのでは?」
アーロン・バンクスは怪訝な表情を浮かべて隣にいる張の顔を見た。
「、、それはそうだが、、あの戦いはもう止められない。」
「なら、私がお手伝いをしても?」
「、、、、。」
張は次ぎに浮かんだアーロン・バンクスの表情を確認すると、螺子らの戦いの側にいて、こちらを見ているスプリガンに頷いて見せた。
スプリガンは、角を突き合わすようにして鎬を削り合う二人の戦いの中に飛び込んでいった。
二人は一瞬、わけが判らず後ろに引き、お互いの戦いの間合いを広げようとした。
本当に短い時間の出来事だった。
スプリガンはその瞬間を逃さず、二人の剣を持つ腕を同時に掴んだ。
すると二人はその場に硬直した。
何をやったのか、スプリガンは動かなくなった二人の手から、剣をそれぞれもぎ取ると、その剣を床に深々と突き刺した。
「それまで!この戦いは引き分けという事で、それでよろしいかな!お嬢様!」
張がアーロン・バンクスを従えて、観衆の人垣が作る円形ステージの中心に登場した。
アンジェラは、張とその後ろにいるアーロン・バンクスの顔を交互に見て複雑な表情を浮かべた。
かってまだレナードがアンジェラ達の仲間だった頃、アーロン・バンクスには、よくして貰った記憶があったからだ。
それに、前のトラブルの際にはアーロン・バンクスの方が大きく折れてくれたのを彼女は知っていた。
張だけが相手なら、強くでても良いが、アーロン・バンクスの憔悴しきった顔を直接見た後では心が揺れた。
「あなた。スードを使って、この二人に何をしたの?」
「ご覧の通りですよ。二人の若者の命を救った。しかも両方のメンツが立つようにね。引き分け、これがこの場の一番の解決策だ。レナード君も、充分に本来の彼の力を皆に判って貰えた筈だし、私の見立てでは、お嬢様の剣士の方がやや押されていた。しかし彼、いや彼女かな。彼女には、歯噛み、という奥の手がある。」
もちろん張は、聖剣同士の打ち合いにおいては、歯噛みの剣が有利にならないことを知っている。
遠回しに、『このままでは、お前のスードは観衆の面前で変態を起こす事になるぞ』と脅しをかけているのだ。
「それを考えると、勝敗の結果はなんとも言えない。しかし今、二人はご覧のとおり、相打ち状態だ。引き分けという所で、よろしいのではないかな?」
人垣の中から小さな拍手が生まれ、やがてそれは伝播して行き大きな賛同となった。
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