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第6章 風と雲の色に聞け
46: アドンへの頼み事
しおりを挟む螺子たちがティムドガッドに進軍をしている頃、アンジェラはドナーが行方知れずになっている事に気付いて気をもんでいた。
気が合う人間ではなかったが、アンジェラにとってドナーは「特別な仲間」の一員である事に違いはなかったのだ。
アンジェラが最後に頼れる相手として選んだ人間は、アドン鹿島だった。
今や鹿島家の跡取りとして忙しく飛び回っているアドンだったが、彼はアンジェラの為に時間を捻出し、仕事の出先のカフェで彼女と会う時間を作ってやった。
アンジェラの前に現れたアドンの姿を見て彼女は息を呑んだ。
そのスタイルは、今流行の中世騎士風で、腰には長剣を吊っていた。
アドンは凛々しく同時に華やかだった。
グループにいた頃は、暮神剣録が太陽でアドンは月のような印象だったが、それは単なる比較だった事に、アンジェラは今更ながらに気付いた。
そして一方の剣録は、想い出の中でさえ昔とはまったく違う人間になっていて、しかも今は戦場にいる。
「何を驚いてる?ああ、この格好か?」
アドンは照れたように笑いながら長剣を腰から外し、鞘毎テーブルに立てかけ席についた。
「ある意味、この姿は君のせいだな。今じゃ、豪族の若い跡取りは、この格好が定番だ。いや豪族に限らないな。世間では意気地のある若者は、この格好をしなくちゃならない、するのが当たり前だ、みたいな事になってる。第一、こんな物騒なものを持ち歩いてても法令で禁止されてないのが笑えるな。」
アドンの言葉を裏付けるように、彼らの座っているテーブルに向かって歩いてくる二人組の若者の腰にはそれぞれ長剣がぶら下がっていた。
「ゴメンナサイ。」
「、、って冗談だよ。君のせいじゃないさ。たしかに、この流行のきっかけを作ったのは君だが、それをここまで押し広げたのは今の時代の空気だ。ティムドガッドへの出兵が本当に大きかったな。それをトキマが更に煽った。あれが決定的だった。自分や自分の大切にするものは自分の力で守るって雰囲気だ。でもそれがなぜか銃じゃなくて剣だ。極端な話だが、銃なら女子どもの非力な者でも自分を守れる。けど剣は強い者でしかそれを扱えない。、、それが、今の世の中の志向なのさ。強者への崇拝、、愚かだよな。でも俺も鹿島を背負ったからには、それに沿ってしか生きられないって事さ。自分の意志を貫く孤高の人では利益は上げられない。」
「、、その言葉で安心したわ。正直言って、アドン、その格好凄く似合ってる。素敵よ。けど、そういうのを好きでやってるアドンは、私の知ってるアドンじゃないもの。」
アンジェラがそう言った時、テーブル横を通過しようとした二人組の内、一人の長剣の鞘先がテーブルに立てかけてあったアドンの剣の鞘に当たった。
男はそれが判っている筈だったが、そしらぬ顔をして通過しようとしている。
いや次ぎに起こる何かを待って、それを利用しようとしているようだった。
しかし実際には、違う事が起こった。
アドンの剣が床に倒れようとする直前、アドンは立ち上がりながら剣の柄を握り、刃を抜きはなったのだ。
アンジェラには、アドンがそれをどうやったのかが判らなかった。
試合の時に、お互いが向き合って、腰から剣を抜き放つのは判るが、アドンがやってみせたのは、立ち上がりざま横に立ててあった剣を抜き、しかも次の瞬間にはその剣の刃先を相手のうなじ部分にピタリと当てたのだ。
アドンの空になった鞘が、床に倒れ落ちて乾いた音を立てた。
「拾えよ。お前がやったんだろう。」
「くっ、誰が!」
アドンは自分の剣に力を込めた。
首に当てた刃を引くのではなく、押した。
押したから切れはしないが、金属の鋭い刃先は肉を傷つけるのには充分だった。
「このまま押し切って、お前の首を落としてやろうか?さあ、這い蹲って俺の剣の鞘を元通りにしろ。」
首に剣を当てられた男は当たり前だが、その側にいた仲間の男も、蒼白な顔色をしている。
助けるも何も、完全にアドンの冷たい迫力に飲み込まれているのだ。
それでも剣を首に当てられた男は、なけなしの意地を見せて踏ん張っていた。
アンジェラは、男の首筋から血が流れ出すのを見て、悲鳴を上げそうになった。
アドンが本気で言葉通りの事を実行しているからだ。
男の意地が折れた。
男が腰を折ったのを確認したアドンは剣を引いた。
心が折れた男は、あっけなく跪いて床に転がっていたアドンの鞘を拾うと元に戻した。
アドンは、直立して次の指示を待っているような二人の目の前で、鞘の中に静かに剣を戻した。
「何時まで、そこに突っ立ってる?お前らがいるから、俺の注文を取りに来たウェイターがここに来れないだろ。失せろよ。」
二人は慌てふためいて、店の外に出て行った。
「凄いのね、アドンって。」
「凄くないさ。奴らは、剣狩りをしようとしてたんだよ。今、街で流行ってる。つまり俺は、奴らに弱い奴と思われターゲットにされたって訳だ。そんな男だよ。」
「、、今日は、色々と吃驚させられるわ。さっきみたいなのを剣録がやっても驚かないけど。」
「俺は剣を練習した。一生懸命ね。さっきのは手首の回しを使ってやったんだ。曲芸に近い。あまりそこまで技を広げる奴はいないだろうな。俺は何かやり始めると、それにのめり込んでしまう。でもまあ、訓練のたまものだ。元から何でも出来る剣録とは違う。、、、こんな浮ついた格好をしてるんだ、その上、剣の腕がないなんて、恥ずかしすぎるからな。それに鹿島家は、やり始めた事は最後までやって極める、それが家訓なんだよ。だから逆に、やり始めるまでは、何に対しても慎重なんだよ。」
そういうとアドンは暫く沈黙した。
「なあアンジェラ、もう剣録の話をするのは止めよう。奴はもういないんだ。、、俺は剣録を忘れたい。今はそれが出来そうなんだ。さあ、用件を話してくれ。俺に何か頼み事があるんだろう?なんでもするさ、言ってくれ。」
「ゴメン、今日は謝ってばかりね。ドナーの事なの、彼の行方が判らない。」
「行方不明って、何が起こった?」
「それも判らない。ドナーは私の家に入り浸りだった。それが急に姿を見せなくなったの。色々調べたわ。ドナーの家にも連絡を入れてみたけど、、意味なかった。」
「ああ判るさ。ドナーは、家から放逐状態だったからな。」
「で思いついたの、ひょっとしてうちのスードが事情を知ってるんじゃないかって。」
「鵬香か?大いにありえるな。君には言いにくいけど、ドナーは鵬香に入れ込んでた。」
「問い詰めても何も言わないの、鵬香は父のスレイブだから私の言うことは聞かない。それに父にその話をする訳にも行かない。でも何かを知っているのは確かだったわ。だから次ぎに、チャイナを問い詰めたの。二人は同じ棟に住まわせてるし、スード同志仲が良いのは判っていたから。、、チャイナも応えなかった。でも苦しそうに、自分もドナーを心配していると言ったわ。意味判る?」
「ドナーの身に今、何かが起こっているんだな。ただの行方不明じゃない。そして鵬香もチャイナも、その事に手出しが出来ない。事情を知っている彼らにも行方が判らない、、、っ、厄介だな。」
「アドン、ドナーを探すの手伝ってくれる?」
「当然だ。ドナーは俺達の仲間だからな。」
アドン鹿島が笑顔で力強く言った。
アンジェラはその笑顔に、自分の知っているかっての暮神剣録や剣聖の姿を見たような気がした。
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