レヴァイアタン国興亡記 ゲーム・オブ・セイクリッドソーズ 奴隷の勇者か、勇者の奴隷か

Ann Noraaile

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第6章 風と雲の色に聞け

52: 十川の命令

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「スードが何処に消えたかは判った。それで?スードを鉄蘇鉄に変える魔法を手に入れられる見込みがあるのか?ドクターヒトラー。」
 暮神剣録の投げかけた「ヒトラー」の言葉に、ヴィルツの顔色が青ざめた。
 母星の古代史に精通しているヴィルツには暮神の毒舌の意味が理解できたのだ。
 剣録が何故、この単語を知っているのかはともかく、今、あえて「ヒトラー」の言葉を持ち出したのは、ヴィルツが犯したスード虐殺への当てこすりである事は間違いない。

 『この若造は儂の秘密を知って遠回しに脅しをかけてきよる。だが儂もお前の秘密をしっておるぞ。』
 ヴィルツは狡猾な老人だった。

「過去ですか、、。私も、ヒッカー時代の貴方のよからぬ噂を存じ上げている。」
 ヴィルツは、暮神を牽制しようとした。

「それが、どうしたね?凱旋将軍に弓を引く者は居ないと思うが?今の俺にはなんでも出来る。その女の命運も、お前の命運も俺の手の中だ。それを忘れるな。」
 暮神は腹をくくっている。
 今この場で、完全にヴィルツをおしひいでしまうのだ。
 チャンスは二度巡っては来ない。
 しかし同様に、「禍」は時と場所を選ばない。
 「禍」は、一度こっきりのチャンスを掴もうとする者にも遣ってくるのだ。
 暮神は、それも覚悟した。

「、、確かに。レヴィアタンの民は十川司令官ではなく、貴方を実質的な凱旋将軍とみなすでしょうな。実際、貴方にはそれだけの実績がある。、、それとこの進軍は初めからそういう仕掛けでしたしな。、、スードを鉄蘇鉄に変える魔法、それは儂一人では解けませぬ。ただし、先に申し上げた通り、コモンナンド女史の協力を得られれば可能です。儂もそれが知りたい。女史の安全の確約が貴方から得られるのであれば、この魔法の秘密は、貴方だけに差し上げる、、、という事にしても構いませぬ。もちろん、その後は、儂への良き処遇をお忘れにならぬよう願いたいものですな。この老体、きっと貴方様のお役に立つと思いますぞ。」

「、、俺だけにか。その言葉を忘れるなよ。判った、その魔女は殺しはせぬ。国に連れて帰る。その後は、お前が好きにしろ。」
「御意、承りました。」
 ヴィルツは頭を下げたが、コモンナンドの魔女は暮神を睨み付けたままだった。


    ・・・・・・・・・


 暮神は十川司令官の駐屯しているファッツ寺院に呼び戻されていた。
 名目上はファッツ寺院に、本部より格上の組織としての「本殿」が置かれている。
 軍備的にも、暮神が発見した母星の兵器類の多くが、こちらに配備されていたから、陣容としても正に「本部」なのだが、レブィアタン軍の兵士達もティムドガッドの人間達も、そうは感じていなかった。
 暮神剣録がいる場所が「本部」であり、彼自体がレブィアタン軍だったのだ。
 それでも軍規律上では、十川はレブィアタン軍の絶対者だった。
 
「暮神、スードの件はどうなっている?」
「ご報告させて戴いている通り、やはりこの国にはレブィアタンが思うようなスードはいない、、それが事実のようです。」
「ならどうする?」
 『それを考え、決断するのが、本来のお前の役目だろうが。』と剣録は思ったが、もちろん口にはしない。

「私には判断できません。閣下のご命令に従います。」
「ほう、今まで好き勝手にやって来て、今度は儂の命令に従うというのか?」
 十川は、明け透けに言った。
 遠征の最初の頃は、最高司令官の立場上、心で思っていてもけして口にしなかった言い草だった。
 それだけ十川が剣録に実力で追い込まれていたという現れでもある。

「なら、言おう。もうスードなどはいい。この戦、王の首を落として、終わりにしろ。」
「それでは軍が国に帰還した際に問題が残りませんか?大儀が問われます。それに、いくら政治を知らぬティムドガッドの民といえども、王の首を我々の軍に落とされたとあっては遺恨を残すでしょう。それでは後の統治に影響を与えます。」

「スード解放の件については、トキマにやらせばいい。軍は果敢に目的を果たそうとした。その程度の物語を作るのは、彼らには簡単だろう、そういう事だ。、、それと、お前の二つめの指摘は、あたらん。まずティムドガッド王の首を落とすのは、我々の軍ではない。 お前だ。暮神剣録、お前が落とすのだ。 ティムドガッド王は、レヴァイアタン軍に己のスードを解放されるぐらいならと、スードを皆殺しにした。それに怒ったお前が、衝動的にティムドガッド王の首をはねた。それでどうだ? 頭の良いお前の事だ、そんな筋書きでも、自分の損にならぬように立ち回れるだろう?それで、レブィアタン軍は傷付かず、今回の遠征は成功で終わる。」
「、、、御意のままに。」
 暮神は仮面のような顔でその命を受けた。

 城に帰った暮神は、幽閉してあったティムドガッド王を玉座の間に呼び出した。
 その場にはトキマの報道官がいたが、カメラは持っていない。
 彼らは記録をする為にいるのではなく、事後の事実改変の際に矛盾が起こらないように、事実を観察させているのだ。

「何の為に、私を今まで生かしておかれたのかな?これは極悪非道の侵略ではないと、そう我が民に見せたかったのではないのかな? ティムドガッドは、昔、レヴィアタンの属国であったと言いたかったのであろう?レヴィアタンは、ただスード達に慈悲を与えに来たのだと。 その事情に変化があったのですかな?」
 そうは言ったが、ティムドガッドの王は、命乞いをしたいわけではないようだった。
 敢えて言えば、これから暮神が行おうとする所行の愚かさを、あざ笑いたかったのだろう。

「人には、それぞれの役割がある。ただそれだけだ。 、、苦しまぬように、その首落としてやる。安心して差し出せ。そしてお前の役割を果たせ。」
 暮神の腹心の部下達が、簡易式の断首台を運んで来て、ティムドガッド王の首を首かせに入れた。
 ティムドガッド王は特に抵抗もせず、それに従った。

「王としての矜持か、、俺も見習いたいものだな。」
 剣録は腰に吊ってあった暮神家の聖剣を鞘から引き抜き、それを振り下ろした。

 王の首を切り落とす瞬間、聖剣は、王の苦痛と共に王の死をレヴィアタンに散った他の聖剣と共有し、それをグレーテルに伝えた。
 一つの情報が、他の聖剣と共有される事は珍しい事だったが、それ程、王の死と剣録の殺害行為の持つエネルギーは高かったのだ。





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