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 序章

00: 魔女狩りの時代なら

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 中世で魔女狩りがやられていた時代だと、こんな感じの話になってたんじゃないのかな?

 ・・・地獄に堕ちた恋人を助け出そうとしていた青年を、「私がその手助けしてやろう」と誘いかけて、悪魔が騙しにかけた。
 それで悪魔は、青年が恋人を探して地獄を彷徨っている内に、自分が墜とした女の身体から皮を剥いで、それを男に被せ焼き付けてしまったんだ。

 つまりだ、青年の恋人は地獄に堕ちたんじゃなくて、この悪魔に見初められて、地獄に連れ込まれていたってわけだ。
 だが女は、悪魔の申し出を拒否して、地獄で自害していた。
 どうも、死なずに地獄に堕ちた人間は、もう一度本当に、死ぬらしいな。
 つまり完璧な「無」に、帰るらしい。

 そうなると、神も悪魔も手出しは出来ない。
 それで悪魔は悪魔で、青年と同じようにその女を忘れられなかったわけだ。
 女の皮ってのは、その死体から剥いだものだな。
 俺達から見ると、ウゲェーって話だが、なにせ相手は悪魔だ。
 人間の心の方なんて屁とも思っちゃいない。
 ほら良く言うだろ、「お前は人間の皮を被った悪魔だ」とかさ。
 まさに、あれの逆だよ。

 そして悪魔は、女の姿になった青年に『今日からおまえは、私のものになれ』と迫るるんだが、青年はもちろん「お前は私を、二重に騙した」と怒り狂い、悪魔との壮絶な喧嘩になった。
 普通なら人間と悪魔だ、喧嘩になるはずもないが、悪魔は青年の地獄巡りを約束した時、彼が地獄を自由に歩き回れるようにと彼に多少の悪魔の力を与えていたし、折角与えた女の姿を傷つけたくなかった。
 それで、二人の喧嘩は長引いた。
 そこに仲裁に現れたのが、これもある理由あって、同じ神様仲間から地獄に墜とされた神様だった。
 皮肉なことに、この神様と悪魔は友達だったから、悪魔はしぶしぶ、神様の仲裁案をきくことになったんだな。

 この神様の出した調停案は、こうだ。
 青年は地上に帰してやる事。ただし女の皮は元のままにしておき、普段は脱げるようにして、悪魔が女に会いたくなった時はその姿で、地上で会えるようにする事。
 しかしこんな条件では、騙されたままの青年の腹の虫が治まらないだろうから、今後、地上に出てきて人間を騙そうとする悪魔を退治する力を、神様は青年に与えてやった。

 何ともまあ、微妙な話だが、俺がヤツの見てきた世界を掻い摘んで物語風に説明するとそうなる。
 レン、お前のいう、ヤツの父親の事は、ヤツが心に蓋でもしてるんだろうな、そっちは見えなかった。

 ヤツは普通の人間じゃない。
 特に意識しなくても、ヤツが心の奥底に秘めている想いには、強い鍵がかかるのさ。
 俺の魔眼でも見えない。

 だから実際の経緯は、もっと複雑なんだろうが、俺の力ではここまでくらいの事しか見えない。
 それに、なんせ俺自身がゲス野郎だからな、こんな解釈しか出来ないのさ。

 それにさ、レン。
 お前の話を聞いてると、お前を助けてくれた雨降野守門ってヤツは、すげーイイ奴みたいだから、多分ホントの中身は、こんな話じゃないと思うんだよな。
 物事って、角度を変えると全然違うものに見えるからな。
 、、でも魔眼で覗き込んだ限りじゃ、この話、大筋としちゃそれ程間違っていないと思うぜ。
 まあ、地獄ってのが、本当にあるとしての話だがな。



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