モータルボーイズラブ 悪魔に愛されたエクソシストと背徳の逃亡少年が問うファティマ極北

Ann Noraaile

文字の大きさ
4 / 77
第1章 新たな任務

03: 屍肉纏い

しおりを挟む
「今度はあんたの番ね。さぞかし私が聞いたらびっくりすようなネタを持ってるんでしょうね。」
 響は前を向いたまま、そう言った。
 普通の女性なら、隣に座っている吉住の男ぶりが気になって仕方がない所だろう。

「そうですね、どうせ隠していても鉄山さんなら突っ込んで来るでしょうから、先に、このネタ行っちゃいましょうか。さっき鉄山さんがやり合ってた人達の事ですよ。あの人達は、雨降野守門氏が所属する組織の事後処理専門チームです。戦闘的エクソシストが扱っているのは、大規模で厄介な超常現象ばかりですからね。彼らが活動した跡に残るのは、人目を引く怪異だらけだ。それを何事もなかったように、あの人達が始末する。勿論、彼らだけじゃなくて、我々警察も下っ端仕事で、駆り出されてますがね。あっ、いや、今のはちょっと説明不足かな。彼らは事後処理だけじゃなくて、色々な汚れ仕事もやっているらしい。例えば、自分たちの組織の秘密を、色々と嗅ぎ回る人間に警告を与えて、その行動を抑制するとか、、。」

 自分が相手をしていたのは「歌う鳥の会」、どうりで、と響は納得した。
 それに吉住は、どうやったのか、既にその「歌う鳥の会」の事後処理専門チームとやらと接触を持っているようだった。
 いずれにしても、彼らが彼女を追い詰めるのに、空からモノを落としてくるという芝居がかった事をする理由がわかった。
 ようするにマウンティングだ。
 しかしコードF発令以降は、その「歌う鳥の会」自体が、実質上、警察の上部組織になるのだが、、。
 鉄山にはそのあたりの事情が良く飲み込めなかった。

「私が、彼らの領域に踏み込み過ぎたって事?でも雨降野守門は将来、私達の上司になるかも知れない人物なのよ?私に対して彼の秘密を守るとか、そんなの意味ないように思うけど。」
「低能猿のマウンティングですよ。警察と、彼ら歌う鳥の会、どちらが上かって事を示しておきたいんでしょう。我々は、お前達の全てを掌握し、コントロール出来るが、お前達は我々の事を知らなくていいと言った類のね。つまらん事だ。たかが、秘密結社ごときが、有力者の寄り合い所帯に過ぎないのに。」
 最後の言葉に、吉住の本音が出た。
 「歌う鳥の会」の事後処理専門チームと独自の渡りをつける一方で、その「歌う鳥の会」自体に対抗意識を持っている、吉住はそういう男だった。

 「歌う鳥の会」の大目的は、現実世界のパラダイムを守るという絶対的な広義性にある。
 それ故に、国家自体が、全ての既存公的組織に対して「歌う鳥の会」の上位性を認めていたのだが、現実は吉住などの男の態度に見られるように複雑だった。

「でも、そういう組織だから、あんたは奴らを逃がしてやったんでしょう?奴らを回収していったステルスヘリ、あんなのを持ってるだけで、その組織の財力と権力の大きさが分かるわ。みんな、吉住が大好きそう。」
 響は少し嫌みを言ってやった。

「逃がしたわけじゃないですよ。あれはどう見ても僕が鉄山さんを救ったんだ。」
「救った?あなた、本気でそう考えてるの?」
「、、、。でも鉄筋や魚を空から降らす相手じゃ、さすがの鉄山さんでも切り抜けるのは難しかったんじゃないですか?」
「だから、あの廃屋に誘い込んだんじゃない。あそこの天井の高さは2メートル強、敵の能力が、もし空からじゃなくて、空間からモノを落下させる能力だったとしても、その威力は大幅に落ちる。私だって黙って物が落ちてくるのを待ってるワケじゃないしね。」
「でも彼らが銃を持っていたら?」
「銃を使う気なら、もっと早い段階で使っていたはず。」



 どこまでも食えない女だと吉住は思った。
 これなら最近までつき合っていたハードマッチョの髭男の方が余程かわいげがある。
 最初、初めて鉄山の顔を見た時は、上等な女性が常に身の回りにいるのが当たり前の自分が、その美貌に目が眩んだ。
 今は、この女に限っては、神が美の配分を間違ったのだと、思っている。
 自分がこのセクションのトップになったら、すぐにでも班の構成員を変えてやろうと思っていた。
 こんな女はいらない。

 もとより広域捜査特殊犯罪班は、警察内では破格の部署なのだ。
 構成員は必ずしも現役警官でなければならないという枠を取り外す事も可能なはずだ。
 刑事としての能力が優れているという理由だけで、クセのあるこんな手に負えない警官を揃える必要は全くないのだ。
 そこまで吉住は考えていた。

 この辺りについては、吉住は他の反「歌う鳥の会」勢力の人間達より、遥かに柔軟性があった。
 目には目を、歌う鳥の会が、大きな顔が出来るのは、戦闘的エクソシストとやらを揃えているからだ。
 ならば警察も部外協力者という形で、そういった能力を持つものを揃えればいいだけの話だ。
 国会議員をやっている叔父が、既に心当たりが一人いると言っていた。
 何故かまだ、「歌う鳥の会」も戦闘スタッフとして、その人物を勧誘しておらず、しかも退魔に日本刀を操る純粋な日本人だという。

 そうなのだ。本来、この国は、優秀な人民で形作られているのだ。
 本当に人を必要とする時には、本物が現れる。
 それがそうならないのは、世の中の「運び」が、狂ってしまっているからだ。
 我々がそれを正す。
 時期は来ている。
 条件にピッタリではないか、その男、確か名前は斬馬仁と言った筈だ。
 俺が赤座と代わるときには、この小生意気な女の代わりに斬馬仁を据えよう。
 
 吉住は鉄山の隣の座席で、穏やかな顔をしながらそんな事を考えていた。

     ・・・・・・

 吉住琢磨が思い浮かべたその人物は、今、一体の「憑依」と戦っていた。
 元は、一人の少女をストーカーしていた男だったが、その執念が強すぎて、奴らに憑かれてしまった。
 男に憑いたのは、俗に言う「皮剥ぎ鬼」の因果らしい。
 自分が一方的に惚れておきながら、その相手が他の男と寝た姿を盗み見した時、その男は怒りの余りに変化へんげしてしまったのだ。
 その変化、「屍肉纏い」は学生服を着た少女の形をしていた。

 斬馬の構えた陰髭切りの刀身が、月光の下、異様に青光りしている。
 月明かりの反射だけではない。
 この刀の表面にある鬼の怨念が結露して鋼の表面に浮き出ているのだ。

 『臨兵闘者皆陣列在前』、斬馬が更に自分の念を込める。
 刀身がそれに呼応して血の脈動のように青い光の輝きを増す。
 その陰髭切りで、斬馬仁は蔵の中から誘き出した「屍肉纏い」を、袈裟懸けに切った。
 「屍肉纏い」の左肩から右の腋へかけて光は流れ、頸動脈・心臓・肺を切り裂き、陰髭切りは怪物の命を絶った。

 だが、陰髭切りが本当に断ったのは、「屍肉纏い」に変化する前の男の「因果」だった。
 「屍肉纏い」の切られた肌が爆ぜた後、肉も衣服とともに斜めにはだけ、その裏側に隠されていた青黒い肌の異形の姿を少し垣間見させていた。

「穢れを纏って、それを報復の愉悦と感じるか、、最後までお前らしい物言いだったのう。」
 その言葉に反応したかのように、緩み剥がれかけた少女の人面の中央で、眼球だけがギョロギョロと回転した。
 だが、「屍肉纏い」が生き返ったというわけではない。
 それは、人ではない者に変化した人間が、その末路に見せる浅ましい肉体反応に過ぎなかった。

 斬馬は、陰髭切りを夜の空気の中に潜む「闇の棚」に差し入れるように直し、その手を空けると、少女の形をした「屍肉纏い」に老人特有のしわがれた手を合わせた。
 勿論、「屍肉纏い」に「穢れ」と呼ばれ、「纏われて」しまった少女の為にだ。

『それにしても最近は因果が増えすぎている気がするが、はて、。』
 斬馬がようやく瞼を開けてそう呟いた。
 そして斬馬は、ふとある青年の事を思い出した。
 名前は雨降野守門。
 斬馬の後輩にあたる同業者だ。

『、、纏うと言えば,守門君も妙な因果を纏っていたな。・・こやつとは逆だ。そして彼は純粋すぎる。何時もそれを負い目に感じていたようだ。しかしあれは儂の陰髭切りと同様、退魔には有効な武器でもある、、困ったことよのう、、、』

 本気で愛した初恋の女性の危機を救えず、しかもその女性の「姿」を、向こうの世界の住人の手によって、自分の身体に焼き付けられた青年。
 彼は、まだこの空の下の何処かで、自分と同じように、向こうの世界に取り込まれた人間達との闘いを続けているのだろうか?
『絶望するな、守門、君は一人ではないぞ、。』
 斬馬はそう呼びかけると同時に、自分自身にも言い聞かせていた。
「この闇との戦いに、絶望するな」と。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

処理中です...