したっぱの日常

きりたんぽ

文字の大きさ
15 / 20
第1章

宰相

しおりを挟む
「少年じゃねえよ! だから馴れ馴れしかったのか! 俺は『ヒトの少年』じゃなくて『ドワーフの長老』だ。頭が高え!」

「ハハーッ」

 あっ、咄嗟に土下座をしてしまった。「頭が高い」なんて言うから反射的にこの体勢になってしまったじゃないか。

 お辞儀じゃ最敬礼をしたとしても俺の方が頭が高いからね! あんまり下げると前屈になる。ふふ…笑っちゃダメだ。

「はぁ…お前、ドワーフを知らねえなんざ信じらんねえな。町に行けば必ず、山奥にすらひとりはいるってのに…どんな田舎から来たんだよ」

「あはは…」

 ジトッとした視線を向けられて咄嗟に笑って誤魔化したら余計に怪しまれた。
 しまった。さっきの質問が大丈夫だったから油断したな。これ以上変に誤魔化すよりも、ここはある程度正直に言ってしまった方がいいだろうか。

「俺、てっきりドワーフってもっと筋肉がムキムキでハンマーを担いでると思ってたんだよ。だから七尾…サンがドワーフだって気づかなかったんだ」

「そりゃドワーフじゃなくてドワーフ族だろ。あいつらはドワーフを名乗っちゃいるが俺らとは別モンだ。魔術と呪術くらい違うな」

「喩えがわからないよ…」

 ドワーフ?ドワーフ族?何が違うの…








 ところ変わって、ただいま自由人宰相さんの仕事部屋その2(正確には執務室というらしい)に向かい中。
 仕事部屋その1ってどこなんだろう。

 本来なら必要な煩雑な手続きなんかは、七尾サンがさっき呼ばれていったときについでにやってくれたらしい。ありがたや。
 帰ってくるのが遅かったのはそのせいだったんだとか。「必要以上に手間取った」と言っていたけれど、一国の宰相さんに会うならいろいろと面倒なことがあるんだろう。
 むしろ、この短時間に許可が出たことが驚きだ。エラい人ってもっと腰が重いと思ってたよ。


 七尾サンのことについてもいろいろと聞いてみた。

 子ども扱いするなとプンスカする姿はどうみても拗ねている小学生なのに、実際の年齢は人間でいうと700歳をとうに超えているらしい。「どういう計算なのか」とか「人間で700歳ってとっくに寿命迎えてるよね」とか、聞きたいことはたくさんあるけれど、とりあえずゼロふたつ多くない?

 あまりにプンスカするので出来心でお爺ちゃん扱いをしてみたらちょっと嬉しそうだった。どうやら普段からよく子ども扱いされているらしくて、年長者(年長さんじゃなかったんだね!)として接してもらえるならお爺ちゃん扱いでもいいらしい。
 あまりに不憫でこっそり目頭を押さえたのは七尾サンには内緒だ。



 閑話休題。


 とうとう俺を拾ったという宰相さんに会えるのかと思うとドキドキしてきた。マッチョかな?マッチョじゃないのかな?

「宰相さんってどんな人なのかなぁ。俺、拾ってもらったときは気絶してたみたいでさ、全然覚えてないんだ。マッチョだったりヒゲが生えてたりするのかな?」

 すごく気になったので隣を歩く七尾サンに声をかけてみたら、「ヴィー様はなぁ…」と、遠い目になった。
 哀愁漂ってるね。人のいない夕方の海辺を幻視するよ。

「見た目は筋肉質でもジジイでもなく普通なんだが性格がなぁ…。できれば関わらないのが一番なんだが…まあ、お前はもう無理だな。諦めろ」

「やめて! そんな憐れむような目でこっちをみないで! ものすごく不安になるから!」

へようこそ。先輩として歓迎するぜ」

「いやだ。絶対ロクなことじゃないだろう! なあ! 目を逸らさないで!」




「着いたぞ。ここだ」

 廊下でやいのやいのと言っているうちに目的地に到着していた。
 タイミングからみて話をぶった切られた気がするけど気のせいかな。気のせいだよな。

 ここまで来る間、誰一人として廊下ですれ違わなかった。誰もいないのか? 石壁だからか広いからか、人の気配が全く感じられない。まさかこの広い城に数人しかいないなんてことはないと思うんだけど。

 宰相さんの部屋のドアは俺のいた部屋のドアの比ではないくらい装飾が豪華だ。隣近所の部屋のドアとも違うから、いかにも「特別です」といった趣だ。迷路の奥で見た門みたい。

 口を開けたままぼんやりとデカいドアを眺めていたら、七尾サンに脇に押し退けられた。荒いなぁ。

コンコン
「入るぜ」

「ちょ、ちょっと、勝手に入っていいの? し、失礼しまーす…」

 七尾サンが返事を聞かずに入っていってしまった。恐る恐る着いていくと、部屋の中には宰相さんらしき人影はなく、その景色は廊下のものと全く違っていた。

 最奥にある窓以外の壁には天井まで達する本棚が設置されている。窓の上と下の壁にも本棚だ。本棚に開いている穴から窓が見えている状態なのか。絶対織田メイドじゃないか。
 全ての本棚は大小様々、統一感のない本で埋まっている。
 壁以外にも広い室内には本の詰まった本棚が背中合わせでたくさんあり、さながら図書館のような様相を呈していた。

「うわぁ…」

「相変わらず足の踏み場もねぇな」

 床にまで溢れかえっている本のせいで飴色の木の床がほとんど見えなくなっている。

 足場の確保のために本を四苦八苦しながら移動させている俺を尻目に、七尾サンが「よっと」と言いながら小さな足を活かして本と本の隙間をヒョコヒョコ歩いていく。

 急いでついていこうと焦ったところで本を崩してしまった。
 雪崩れる本で自然の脅威をダイナマイトに表すなんちゃってゲイジュツとして現場保存しちゃダメかな。駄目だよな。知ってた。

 わたわたと本を積みなおしている間に、七尾サンは窓の近くにある一際大きな本の山の向こうに行ってしまった。もしかしてあれは執務机という物なのか。

「やっぱり! またかあの野郎!」

 執務机(暫定)の裏から青筋をたてて出てくると、手に握ってぐしゃぐしゃになった紙を床、の上の本に叩きつけた。
 動きは激しいのに手紙が軽いからパサッと軽い音が出ただけだった。

「どうしたの? 宰相さんは?」

「あの野郎、脱走しやがった…! 机の上に置き手紙だけ残して本人はドロンだ! なにが『バルぽんへ☆』だ。仕事どうすんだ!」

 「うがー!」と叫びながら地団駄を踏んでいる姿はまるでおもちゃ屋の前の子どもだ。

 やっぱりあれは執務机だったのか。

「これがその手紙なの? あれ?」

 本の上に放置されている手紙の皺を伸ばしたら、見えていた封筒の後ろにもう1つ封筒があった。
 2通を見比べると表書きが違っていた。片方には「バルぽんへ☆」もう片方には「あっきーへ☆」と書かれている。なるほどこれを見たのか。

 バルぽんは七尾サンのことだろう。巴嬢達も「バルちゃん」と呼んでいたからな。
 愛称が「バル」なのは酒場と関係があったりするのかな。ドワーフだから酒好きだったりするのだろうか。それとも酒好きはドワーフ族なのか。聞いたら藪蛇になりそうだから放置しようそうしよう。

「こっちの『あっきー』ってのは誰だろう。七尾サンは知ってる?」

「はぁ、はぁ……ああん? 『あっきー』か…いや、知らねえな。少なくともこの城に常駐してるやつにゃいねえよ」

 息切れするほど叫んだおかげで、もうスッキリした様子の七尾サン。切り替え早いね。尊敬します。

「んなことより俺はすることがあるからな。…未処理の山が丸まま残ってんじゃねえか。いやなに、こんなんいつも通りだ。いつも通り……ははっ」

 諦めの境地だったようだ。
 独り言からの空笑いが広い部屋に虚しく響く。七尾サンの苦労人臭の原因が垣間見えた瞬間だった。

「じゃあこっちの手紙は宰相さんの机に戻しておこうか」

「ん? 手紙それぁお前の分じゃねえのか。ヴィー様あの野郎、よく適当なアダ名をつけやがるからまたぞろ勝手につけたんだろうよ。『あっきー』ならまだマシな方なんじゃねえか?」

 なんで「あっきー」なんだろう? パッとみたら愛称名前をもじった愛称っぽいよな。宰相さんは俺の名前を知らないはずだから、名前由来じゃないのは確かだけど…。
 バルぽん以外のアダ名ってどんなのなのかな。

「むむ。じゃあ、これは俺宛かな。開けて呼んじゃうよ?」

「勝手にしろ。ほら、行った行った」

「えっ、うわあっ。ちょっと、俺ひとりにされたら迷子になるんだけど! ねえ! ぐえっ、へぶっ」

 追い出されそうになって抵抗したものの、背中に跳び蹴りを食らってまろび出ましたまる。ほんと容赦ないよね。

「為せば成るさ」

「ならないよ! あああー…」

 無情にも目の前でドアが閉まった。

 閉まる直前に「断捨離だァ…」と言うゲス顔を見た気がするけど気のせいだよね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...