13 / 42
13、僕とジューと気がついてしまったこと
しおりを挟む
ほんの小さなきっかけで、物事はガラリと様子を変える。
それは良いことも、悪いことも。
◆◇◆
居心地の悪かった学校生活も、今では楽しい。
いまだに街が近づいてくれば、心臓がドキドキしてくるけど、前ほどではない。
「ジュー、キー、おはよ!」
「お、おはよ、コゥ」
「コゥ、口の横になんかついてる! またツルピカに、君の家には鏡はないのですか~って言われるぞ」
いつの間にかジューだけじゃなく、僕にもクラスメイトは挨拶をしてくれるようになった。
みんなの話はやっぱりわからないけど、聞いているだけでも楽しい。
たった一言挨拶されるだけで、自分の居場所がある気になれる。
「じゃあ、また後でね!」
教室に入れば、みんな自分の席に散っていく。
ジューから離れて座ることは心細いけど、僕の席は窓際で日当たりが良い。
座っているうちにポカポカと身体が温まり、森にいる時みたいな気持ちになる。
静かな森に一人でいる時は寂しくないのに、学校でみんなの中にいる時は寂しい時がある。賑やかなのに自分だけが遠い感覚は心をぎゅうっと押し潰す。勇気なんて出ない。1秒でも早く教室を出て、師匠の待つ家へ帰りたくなるけど、そんな衝動をジューが止めてくれる。
「キー、一緒にやろう」
「キー、こっちにおいで」
「キー、大丈夫?」
ジューの言葉で僕は元気を取り戻す。
みんなに人気者のジューのお陰で僕は安心できるけど、同時にどこか切ない気持ちにもなる。
森でふたり遊んだ時とは違うから。
他のクラスメイトと話すジューは忙しい。
僕が話しかける隙がない時がほとんどだ。
たった半年の間にジューは学校の人気者になったのだから仕方ない。
みんなの輪の中心にいるジューはカッコいい。
頼りになるし、面白い。
街のことを知らない僕をバカにする街の子達だって、ジューのことは一目置いている。それが僕は誇らしい。
だから、話せなくたってへっちゃら。
どうせ街への行き帰りは僕だけのジューだしね。
そう思っていたのに。
僕は気がついてしまった。
授業中に、ふとジューを見れば、ぼんやりと頬杖をついていた。
視線の先には綿飴みたいにふわふわの髪の毛をした女の子、クヤが笑っている。
それは一度だけではない。
気がつけば、ジューの視線はそちらを向いている。
理由はわからない。だけど、僕じゃない。ジューの視線の先にいるのはクヤだった。
心の中に黒い雲が湧いてくる。
どうして僕じゃないの?
クヤを見ているの?
他の子のこともそうやって見ているのかなと思ったけど、違う。
ジューはクヤだけをそうやって見つめている。
「キー、帰ろう」
「うん!」
ジューが誘いに来れば、あっという間に僕の心は晴れ渡る。
心配なことは何もない。
「キーは、もう木の実食べ終わった?」
「まだ! 食べすぎると鼻血が出るぞって師匠が言うから毎日少しずつ食べてる」
「いいなぁ、キーの家は師匠とふたりだもんな。うちはみんなに取られてあっという間に無くなっちゃったよ」
ジューは大家族だ。
おじいちゃんも、おばあちゃんも、ひいおばあちゃんもいる。
お兄ちゃん、お姉ちゃんもいっぱいいて、弟と妹もいる。8人兄弟姉妹の6番目、それがジューだった。
「じゃあ、今度拾いに行こうよ!」
「そうだな。次の休みは木の実拾いに行くか」
学校のない日もジューに会えると決まれば、僕は嬉しくてしょうがない。
どうか、宿題は出ませんように、晴れますように、いっぱい木の実がありますように、とお日様に願った。
「約束だよ!」
「師匠に行っておけよ。心配するんだから」
「きっといつもの持たされるんだろうなぁ」
少しだけ憂鬱になる。
獣たちに会わないようにと持たされる匂いの袋が好きじゃない。
ーーお前たちが旨いと思うものは、獣だって旨いと思うんだ。ついでに食べられないようにしなきゃならん。
いつだって口酸っぱく言われるけど、僕たちが行く場所は師匠が見回りをしてくれているから大丈夫だと知っている。それでも万が一があっては困ると師匠はうるさい。
「師匠はガミガミうるさい」
「それが大人だろ」
「僕たちも大人になったらガミガミするのかなぁ?」
「ガミ~ガミガミ!!」
「あっははっ! 何それ!」
動物の鳴き声みたいにガミガミ言うジューの顔がおかしくて、僕は笑いがとまらない。
「ガミ!」
「ガミガミ!!」
そこから僕たちはガミガミしか言わない大人ごっこをしながら歩いた。
お腹が痛くなるほど笑いながら。
やっぱりジューといれば楽しい。ジューは最高。
それは良いことも、悪いことも。
◆◇◆
居心地の悪かった学校生活も、今では楽しい。
いまだに街が近づいてくれば、心臓がドキドキしてくるけど、前ほどではない。
「ジュー、キー、おはよ!」
「お、おはよ、コゥ」
「コゥ、口の横になんかついてる! またツルピカに、君の家には鏡はないのですか~って言われるぞ」
いつの間にかジューだけじゃなく、僕にもクラスメイトは挨拶をしてくれるようになった。
みんなの話はやっぱりわからないけど、聞いているだけでも楽しい。
たった一言挨拶されるだけで、自分の居場所がある気になれる。
「じゃあ、また後でね!」
教室に入れば、みんな自分の席に散っていく。
ジューから離れて座ることは心細いけど、僕の席は窓際で日当たりが良い。
座っているうちにポカポカと身体が温まり、森にいる時みたいな気持ちになる。
静かな森に一人でいる時は寂しくないのに、学校でみんなの中にいる時は寂しい時がある。賑やかなのに自分だけが遠い感覚は心をぎゅうっと押し潰す。勇気なんて出ない。1秒でも早く教室を出て、師匠の待つ家へ帰りたくなるけど、そんな衝動をジューが止めてくれる。
「キー、一緒にやろう」
「キー、こっちにおいで」
「キー、大丈夫?」
ジューの言葉で僕は元気を取り戻す。
みんなに人気者のジューのお陰で僕は安心できるけど、同時にどこか切ない気持ちにもなる。
森でふたり遊んだ時とは違うから。
他のクラスメイトと話すジューは忙しい。
僕が話しかける隙がない時がほとんどだ。
たった半年の間にジューは学校の人気者になったのだから仕方ない。
みんなの輪の中心にいるジューはカッコいい。
頼りになるし、面白い。
街のことを知らない僕をバカにする街の子達だって、ジューのことは一目置いている。それが僕は誇らしい。
だから、話せなくたってへっちゃら。
どうせ街への行き帰りは僕だけのジューだしね。
そう思っていたのに。
僕は気がついてしまった。
授業中に、ふとジューを見れば、ぼんやりと頬杖をついていた。
視線の先には綿飴みたいにふわふわの髪の毛をした女の子、クヤが笑っている。
それは一度だけではない。
気がつけば、ジューの視線はそちらを向いている。
理由はわからない。だけど、僕じゃない。ジューの視線の先にいるのはクヤだった。
心の中に黒い雲が湧いてくる。
どうして僕じゃないの?
クヤを見ているの?
他の子のこともそうやって見ているのかなと思ったけど、違う。
ジューはクヤだけをそうやって見つめている。
「キー、帰ろう」
「うん!」
ジューが誘いに来れば、あっという間に僕の心は晴れ渡る。
心配なことは何もない。
「キーは、もう木の実食べ終わった?」
「まだ! 食べすぎると鼻血が出るぞって師匠が言うから毎日少しずつ食べてる」
「いいなぁ、キーの家は師匠とふたりだもんな。うちはみんなに取られてあっという間に無くなっちゃったよ」
ジューは大家族だ。
おじいちゃんも、おばあちゃんも、ひいおばあちゃんもいる。
お兄ちゃん、お姉ちゃんもいっぱいいて、弟と妹もいる。8人兄弟姉妹の6番目、それがジューだった。
「じゃあ、今度拾いに行こうよ!」
「そうだな。次の休みは木の実拾いに行くか」
学校のない日もジューに会えると決まれば、僕は嬉しくてしょうがない。
どうか、宿題は出ませんように、晴れますように、いっぱい木の実がありますように、とお日様に願った。
「約束だよ!」
「師匠に行っておけよ。心配するんだから」
「きっといつもの持たされるんだろうなぁ」
少しだけ憂鬱になる。
獣たちに会わないようにと持たされる匂いの袋が好きじゃない。
ーーお前たちが旨いと思うものは、獣だって旨いと思うんだ。ついでに食べられないようにしなきゃならん。
いつだって口酸っぱく言われるけど、僕たちが行く場所は師匠が見回りをしてくれているから大丈夫だと知っている。それでも万が一があっては困ると師匠はうるさい。
「師匠はガミガミうるさい」
「それが大人だろ」
「僕たちも大人になったらガミガミするのかなぁ?」
「ガミ~ガミガミ!!」
「あっははっ! 何それ!」
動物の鳴き声みたいにガミガミ言うジューの顔がおかしくて、僕は笑いがとまらない。
「ガミ!」
「ガミガミ!!」
そこから僕たちはガミガミしか言わない大人ごっこをしながら歩いた。
お腹が痛くなるほど笑いながら。
やっぱりジューといれば楽しい。ジューは最高。
1
あなたにおすすめの小説
沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました
ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。
落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。
“番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、
やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。
喋れぬΩと、血を信じない宰相。
ただの契約だったはずの絆が、
互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。
だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、
彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。
沈黙が祈りに変わるとき、
血の支配が終わりを告げ、
“番”の意味が書き換えられる。
冷血宰相×沈黙のΩ、
偽りの契約から始まる救済と革命の物語。
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
魔王様に溺愛されています!
うんとこどっこいしょ
BL
「一目惚れをしたんだ、必ず俺に惚れさせてみせる」
異世界で目覚めた倉木春斗は、自分をじっと見つめる男──魔王・バロンと出会う。優しいバロンに、次第に惹かれていく春斗。けれど春斗には、知らぬ間に失った過去があった。ほのぼの、甘い、ラブコメファンタジー。
第一章
第二章
第三章 完結!
番外編追加
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
後宮に咲く美しき寵后
不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。
フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。
そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。
縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる