恋の終わらせ方がわからない失恋続きの弟子としょうがないやつだなと見守る師匠

万年青二三歳

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41、その後の僕と師匠

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 あの日から、僕と師匠の関係は何一つ変わっていない。
 寝坊したら怒られるし、「飯は必ず食え。でも学校には遅れるな」と難しいことを言ってくる。

「キー!」

 迎えに来たジューに窓から手を振れば、僕の頭で髪紐が揺れる。
 どんなに寝坊した日でも、師匠に髪を結ってもらうのは省略しない。髪油を使うようになってから、髪が切れにくくなった気がするので、毎日続けて、早く元通りの長さにしたい。
 それを心得ている師匠は朝食メニューを、持ち歩きやすい薄パンでおかずを巻いたものにした。
 ホカホカの朝食を二人分持たされ、僕は家を飛び出していく。

「いってきます」
「気をつけて行けよ」

 離れて見ると、ジューは身体が大きくなった気がするが、隣に並んでも視線の高さはいつも通りだから、気のせいかもしれない。

「おはよ。今日も朝ご飯があるよ」
「やったぜ!」

 急ぎ足で学校に向かい、街の手前でジューとふたりで朝食を食べる。
 大きな口で頬張りながら話すのは学校のことが中心で、最近はジューがクヤについてぼやくことが多い。

「クヤが何を考えているか、ちっともわからない」

 昨日の帰り道にクヤが寄りたいと言ったお花屋さんにふたりで行ったらしい。ジューは興味がないので店の外で待つと言ったら、そのままクヤは口を聞いてくれなくなったそうだ。

「クヤと話し足りないんじゃないの?」

 僕は、かつて師匠とのことで悩んだ時にジューに言われた言葉を返す。

「そうかもなぁ」

 ため息をつくジューはきっと気がついていないだろう。

「そろそろ行かないと、クヤを待たせちゃうよ」
「あー! もう怒ってないといいな」
「それは会ってみるまでわからないね」
「ウソでもいいから、大丈夫、もう怒ってないだろって言えよ~」

 困った声を出しながらも、ジューはクヤに会える嬉しさを隠しきれない顔で立ち上がる。
 その姿を見ても、もう僕の胸は痛まない。

 帰り道は一人だから、僕はできるだけ急いで帰る。
 夕食を師匠と一緒に作りたいからだ。
 時間のかかる煮込み料理は無理でも、師匠がこねておいたパンを焼いたり、スープを作ったりするのはできる。
 たまに道具屋の女将さんのところに寄って行く。おすすめの料理の作り方を聞いて、師匠と一緒に試すのが最近の楽しみだ。すぐ作業を省略しようとする師匠と喧嘩になることもあるが、今のところ大失敗はない。
 
 学校に慣れたせいか、夕食を食べ終わってからも眠くならないので、部屋には戻らずソファで師匠と過ごす。
 お酒を飲まない師匠は静かで、たまに視線を感じて顔を上げると、びっくりするほど優しい顔をしている。

「なあに?」
「なんにも」
「最近の師匠は変な顔なことが多い」
「悪口かよ」
「赤かったり」
「ッ! ……忘れろ」
「やーだよ」

 魔術の質問をすれば答えてくれるけど、この時間はのんびり過ごしたいので、あまり聞かないことにしている。
 だから、お互い好きなことをしながら隣に座っているだけ。大した話はしない。

「早く寝ろ」
「もうちょっと」

 そう言われたくないからあくびを噛み殺したのに、バレてしまう。
 時間が許す限り師匠といたいから、まぶたが下がりだすまでは眠くないふりをする。

「お前、そんなに熱心に何読んでるの?」
「花言葉の本」

 学校の図書室から借りてきた本を見せる。

「似合わねぇ」
「仕方ないよ。相手は花が似合わないんだから」
「なんだそれ」
「でもプロポーズに花は必須でしょ」

 僕の言葉は完全に予想外だったらしく、師匠の開いた口が塞がらない。
 プロポーズ? こいつは頭がおかしくなったか? と顔にはっきり書いてある。

「正気だよ」
「何も言ってねぇ」
「師匠の考えることくらいわかるよ」
「気のせいだ」

 師匠の顔を横から覗き込みながら、僕は言う。

「僕のこと、好きでしょ?」

 師匠は一瞬目を見開いた後、ぎゅっと目をつぶった。
 今夜はどれくらいで答えが返って来るかな?
 僕の質問に「そのうち」と答えを誤魔化すことがなくなった代わりに、こうして少し時間をかけて師匠は話してくれるようになった。
 かかる時間はその時による。ゆっくり一呼吸分は最短で、淹れたてのお茶が飲み頃になるくらいが一番多い。時には、数日かかることもあったが、必ず師匠は答えてくれる。

 師匠の目が開き、僕の方をチラリと見た。
 困った顔をしているが、その口の形は師匠が嬉しい時だと僕はわかっているよ。
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