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ホリデーパーティで社交に励む俺
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外資系だからホリデーパーティと横文字にしてるだけで、単なる忘年会だろと思っていたら大間違い。会場は居酒屋じゃなくて、記者発表や株主総会が開かれる大規模イベントスペースだった。
ロビーにはインカムをつけた案内係、荷物を預かるクロークがあり、会場に足を踏み入れれば、セレブの結婚式ばりの豪華さだ。実際どんなか知らんけど。
寿司に中華、洋食とビュッフェ形式の料理が準備され、隣のドリンクカウンターでは蝶ネクタイをつけたバーテンダーが待ち構える。勧められるままに受け取ったグラスにはたっぷりのシャンパンが入っていた。
低音の効いたBGMに体を揺らしていると、ステージの上にDJがいた。両サイドには大きなスクリーンがあり、イケメンの横顔が大写しになる。
「これで無料?! ライブ会場かよ」
俺の呟きにモデルみたいな男が振り返った。誰かと思ったら加賀美だ。わざわざ昼間のスーツから着替えたらしく、一段と光沢のあるネイビーブルーのスリーピースできめている。どうせ俺のツーパンツスーツ(洗濯機洗い可)とは桁が違うお高いブランド品なんだろう。
氷の美貌が悠々と俺を見下ろす。
「高原さん、歌うらしいですね? やる気のない態度で恥をかかないように」
嫌味な言葉にカチンと来たが、おかげで思い出した。転職後すぐに開かれた歓迎会で、学生時代に音楽ををやっていた話をしたら「年末のパーティでちょっと歌ってよ」と言われたのだった。どうせ営業部内のカラオケだろと思って頷いた記憶がある。
DJのいるステージを観察すると照明担当と音響担当が控え、カメラマンが張り付いている。
ちょっと歌うというレベルじゃない。
加賀美が知り合いに声をかけられたタイミングで、さりげなく離れる。
カクテルドレスとタキシードを着た司会役の社員に声をかけると、プログラムにはバッチリ俺の名前が載っていた。社員による余興は雑多で、クラッシックピアノの演奏と、ポールダンスに挟まれて、俺がエントリーされている。
無茶だろ、と困惑するが辞退はしない。
「楽しみにしてるね~、がんばって♡」
恋に飢えすぎて、恋人でも、対象でもない女の子からのがんばって♡にも応えたくなる。
俺、がんばっちゃうぞ~♡
いつのまにか会場内には人があふれていた。
外資系IT企業らしく服装は自由だ。Tシャツにジーンズの人もいるが、燕尾服にシルクハットの人もいるし、全身スパンコールの人も、クリスマスらしいアグリーセーターの人もいる。俺が着ている量販型スーツなんてむしろレアかもしれない。
「よ、フード取った? まだなら一緒行こうぜ」
営業部内で一番仲の良い先輩の田川に声をかけられ、フードコーナーへ行くと、ずらりと列が伸びていた。
「げ、こんなに人来るの?」
「五、六〇〇人は来るんじゃねぇの? いや、もっとか?」
「はぁ?!」
新卒でこの会社に入ったという田川は、同い年で話しやすい。性格も服装も気取らないタイプで、今日もジーンズにネルシャツを着ている。タメ口OK、やる気のない俺をそんな日もあるよね~と受け入れてくれるいいヤツだが、数字に関してはどんぶり勘定なので、参加者数は参考にとどめておく。
ぞくぞくとやってくる社員の服装にあれこれ言っているだけで時間は過ぎる。
「そういえば高原はプラスワン呼んだの?」
「ぷらすわん?!」
必要以上にでかい声で聞き返してしまい、田川がのけ反った。
やっと順番が回ってきて、皿を片手によし食うぞと気合いが入ったところだったので出力を間違えた。
謝ると、わかる、俺も腹減ったと田川が笑う。
「外部の人を招待できるんだよ。家族とかパートナーを連れてくる人が多いんだけど、友達の人もいるし……」
彼氏、彼女じゃなくて、パートナーという言葉に外資系っぽさを感じる。
「ってことは、出会いのチャンスが二倍、三倍?!」
「いやぁ、既婚者もいるし一概には言えないけど、ハンティングに来てる人がいるのは確か。まぁ気をつけなね」
気をつけるどころか大歓迎だ。
腹が減っては戦はできぬと、寿司にローストビーフにエビチリにと皿をてんこ盛りにした。反対に田川の皿は玉子の握りばかり六貫並ぶ。偏食かと思ったら、妻が寿司好きなんだと照れたように笑う。
「じゃ、高原も楽しんで」
壁沿いの椅子に座っていたお腹の大きな女性の元へと戻っていった。
田川が既婚者で、もうすぐパパになるなんて知らなかった。
長らくゾンビ状態だったとはいえ、いくら何でも俺は同僚を知らな過ぎる。
つまり、俺は社内のかわい子ちゃんを見逃している。
そこから俺はひたすら社交に励んだ。
アクティビティとして企画されていた人間ビンゴ——数字の代わりに、金髪、左利きなどの要素が書いてある——に3ラウンド参加し、ピクチャーブースでシャッター係を申し出、占いコーナーで順番を待つ人の前で雑談相手になる。
そうそう、これこれ。
気のない相手を楽しませ、振り向かせる快感を思い出した。
俺は運動嫌いの標準体型でパッと見は無個性だが、それが武器になる。
カッコ良すぎて遠巻きにされる奴ら、すまんな。
近寄りやすい外見だけど、よく見れば凛々しい顔立ちに、口を開けばバカ話をするギャップで距離を縮め、二人きりになったら一気にリードする。
これが俺の勝ちパターンってわけ。
ところが、だ。
俺の準備は万端なのに、肝心のかわい子ちゃんがいない!
見つけても手を出す隙がないパートナー持ちばかり。
顔見知りは爆増し、会場を少し移動するだけで「ナオ!」と声がかかる。ありがたいが、こっそりナンパをするには向いていない。お仲間っぽい相手を見つけても、匂わせることすら難しい。
そうこうしているうちに、会場内に俺の名前がアナウンスされる。
正面の大スクリーンに俺の顔が映った。
いよいよ、出番だ。
ロビーにはインカムをつけた案内係、荷物を預かるクロークがあり、会場に足を踏み入れれば、セレブの結婚式ばりの豪華さだ。実際どんなか知らんけど。
寿司に中華、洋食とビュッフェ形式の料理が準備され、隣のドリンクカウンターでは蝶ネクタイをつけたバーテンダーが待ち構える。勧められるままに受け取ったグラスにはたっぷりのシャンパンが入っていた。
低音の効いたBGMに体を揺らしていると、ステージの上にDJがいた。両サイドには大きなスクリーンがあり、イケメンの横顔が大写しになる。
「これで無料?! ライブ会場かよ」
俺の呟きにモデルみたいな男が振り返った。誰かと思ったら加賀美だ。わざわざ昼間のスーツから着替えたらしく、一段と光沢のあるネイビーブルーのスリーピースできめている。どうせ俺のツーパンツスーツ(洗濯機洗い可)とは桁が違うお高いブランド品なんだろう。
氷の美貌が悠々と俺を見下ろす。
「高原さん、歌うらしいですね? やる気のない態度で恥をかかないように」
嫌味な言葉にカチンと来たが、おかげで思い出した。転職後すぐに開かれた歓迎会で、学生時代に音楽ををやっていた話をしたら「年末のパーティでちょっと歌ってよ」と言われたのだった。どうせ営業部内のカラオケだろと思って頷いた記憶がある。
DJのいるステージを観察すると照明担当と音響担当が控え、カメラマンが張り付いている。
ちょっと歌うというレベルじゃない。
加賀美が知り合いに声をかけられたタイミングで、さりげなく離れる。
カクテルドレスとタキシードを着た司会役の社員に声をかけると、プログラムにはバッチリ俺の名前が載っていた。社員による余興は雑多で、クラッシックピアノの演奏と、ポールダンスに挟まれて、俺がエントリーされている。
無茶だろ、と困惑するが辞退はしない。
「楽しみにしてるね~、がんばって♡」
恋に飢えすぎて、恋人でも、対象でもない女の子からのがんばって♡にも応えたくなる。
俺、がんばっちゃうぞ~♡
いつのまにか会場内には人があふれていた。
外資系IT企業らしく服装は自由だ。Tシャツにジーンズの人もいるが、燕尾服にシルクハットの人もいるし、全身スパンコールの人も、クリスマスらしいアグリーセーターの人もいる。俺が着ている量販型スーツなんてむしろレアかもしれない。
「よ、フード取った? まだなら一緒行こうぜ」
営業部内で一番仲の良い先輩の田川に声をかけられ、フードコーナーへ行くと、ずらりと列が伸びていた。
「げ、こんなに人来るの?」
「五、六〇〇人は来るんじゃねぇの? いや、もっとか?」
「はぁ?!」
新卒でこの会社に入ったという田川は、同い年で話しやすい。性格も服装も気取らないタイプで、今日もジーンズにネルシャツを着ている。タメ口OK、やる気のない俺をそんな日もあるよね~と受け入れてくれるいいヤツだが、数字に関してはどんぶり勘定なので、参加者数は参考にとどめておく。
ぞくぞくとやってくる社員の服装にあれこれ言っているだけで時間は過ぎる。
「そういえば高原はプラスワン呼んだの?」
「ぷらすわん?!」
必要以上にでかい声で聞き返してしまい、田川がのけ反った。
やっと順番が回ってきて、皿を片手によし食うぞと気合いが入ったところだったので出力を間違えた。
謝ると、わかる、俺も腹減ったと田川が笑う。
「外部の人を招待できるんだよ。家族とかパートナーを連れてくる人が多いんだけど、友達の人もいるし……」
彼氏、彼女じゃなくて、パートナーという言葉に外資系っぽさを感じる。
「ってことは、出会いのチャンスが二倍、三倍?!」
「いやぁ、既婚者もいるし一概には言えないけど、ハンティングに来てる人がいるのは確か。まぁ気をつけなね」
気をつけるどころか大歓迎だ。
腹が減っては戦はできぬと、寿司にローストビーフにエビチリにと皿をてんこ盛りにした。反対に田川の皿は玉子の握りばかり六貫並ぶ。偏食かと思ったら、妻が寿司好きなんだと照れたように笑う。
「じゃ、高原も楽しんで」
壁沿いの椅子に座っていたお腹の大きな女性の元へと戻っていった。
田川が既婚者で、もうすぐパパになるなんて知らなかった。
長らくゾンビ状態だったとはいえ、いくら何でも俺は同僚を知らな過ぎる。
つまり、俺は社内のかわい子ちゃんを見逃している。
そこから俺はひたすら社交に励んだ。
アクティビティとして企画されていた人間ビンゴ——数字の代わりに、金髪、左利きなどの要素が書いてある——に3ラウンド参加し、ピクチャーブースでシャッター係を申し出、占いコーナーで順番を待つ人の前で雑談相手になる。
そうそう、これこれ。
気のない相手を楽しませ、振り向かせる快感を思い出した。
俺は運動嫌いの標準体型でパッと見は無個性だが、それが武器になる。
カッコ良すぎて遠巻きにされる奴ら、すまんな。
近寄りやすい外見だけど、よく見れば凛々しい顔立ちに、口を開けばバカ話をするギャップで距離を縮め、二人きりになったら一気にリードする。
これが俺の勝ちパターンってわけ。
ところが、だ。
俺の準備は万端なのに、肝心のかわい子ちゃんがいない!
見つけても手を出す隙がないパートナー持ちばかり。
顔見知りは爆増し、会場を少し移動するだけで「ナオ!」と声がかかる。ありがたいが、こっそりナンパをするには向いていない。お仲間っぽい相手を見つけても、匂わせることすら難しい。
そうこうしているうちに、会場内に俺の名前がアナウンスされる。
正面の大スクリーンに俺の顔が映った。
いよいよ、出番だ。
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