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第五話 手合わせ
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「さあ、掛かってきなさいっ!!」
「降参します」
「駄目よ」
なんでさ。
いや何でかはそりゃ分かってるけども。
だからってこれはあんまりだ。
外の広い訓練場、その中央で僕とレイシアは向かい合っていた。
理由は先程ジェイド先生が提案してきたことに端を発している――つまりは今期の試験に向けてのチーム結成についてだった。
そもそも試験と銘打ってこそいるが、その実態は魔法士の実力向上のために行う実戦形式の試合のことをいうのである。生徒にとっては日頃授業などで培った知識、鍛練によって身に付けた技術を存分に発揮出来る機会であり、学園側も生徒がどの程度成長しているかを知ることができるとしてかなり熱の入る催しとなっている。
勿論試験なので結果に応じた成績がつけられる。
それによって学園が保有する上位の魔法について書かれた本、所謂魔法書の閲覧が可能になったりと生徒の学習意欲を刺激する特典もあったりする。
更に言えばここでの結果次第では本来の教育課程を無視し、卒業を待たずして『国家公認魔法士』となることもできるのだから一刻も早く前線で活躍し自分が最強であることを証明したい奴等にとって見逃すことのできない好機と言えるだろう。
ただこれはあくまで向上心に満ち溢れている大多数の連中の話だ。
「やめませんか、自分で言うにもなんですけど僕はあなたが思っているよりも弱いんですよ。他の人を探した方がいいと思います」
世の中にはそういったことに適さない少数派の人間もいる、それが僕だ。
師匠との鍛練こそこなしてきたわけだけども、それはあくまで自分を守ることが目的で身に付けたものだ。決して誰かを傷つけたりするようなものではない。
「それは戦ってから決めるわ」
しかしそれを理解しない人間もいる、それが彼女だ。
実力主義とは聞こえはいいが試される側の人間にとってそれは恐怖でしかないのでどうか平にご容赦していただきたい。
そもそも何故今回に限って『実は先生たちの間でいつもとは趣向を変えて三人一組のチーム戦で成績を出そうということになっていてね』なんてことになるんだ、別にいつも通り個人戦だけで十分だっただろうが。
「ネルス君安心して、もしもの時は私がどうにかするから」
「それ本当に安心していいんですか?」
「さぁーそれはどうかしらね。ふふふ」
「笑ってんじゃねぇ」
全く安心できないんですけど、大丈夫なのこれ?
一番の問題が僕がレイシアのチームとして数えられているってことなんだ、そうだね意味が分からないね。
「ネルス貴様ぁ! ジェイド先生のお考えに反旗を翻す気かっ!!」
「いや怖いよ、さっきからなんなのお前」
そして二番目の問題が僕以外の奴がヤル気満々なことである。
主役であるレイシアは兎も角殆ど何の関係もないはずのユーリまでもが打倒ガルドロフに燃えている、こっちはもっと意味が分からないよ。
「ふっ、ここにおわすジェイド先生はこの学園最強の風魔法使いにして全風魔法士の憧れ。このユーリ=ナハトが《貴き翠の会》の一員として敬愛するジェイド先生の御力になることに迷いがあると思うか?」
「とりあえずお前が気持ち悪い理由はわかったよ」
あとその同好会には絶対近づかない、絶対にだ。
友人の見たくもない一面を見せられて今後どう接していけばいいのか真剣に悩む僕だったが現実は何も待ってはくれない。
「今回はあくまで主演二人に白黒つけて貰うのが目的なの。君たち二人には彼以外の相手をお願いしただけ。私だって今回のことがなければ二人だけで存分にやりあって欲しかったけど一度そう決まった以上従うしかないわ」
――それにこれは君にとっても悪い話じゃないでしょう?
友人と並びまるで主従のような立ち振る舞いをし嘯く先生の顔にはゆるふわな中に隠しきれない愉悦が浮かんでいる。
その理由が簡単に予想できる僕にとっては邪神の使徒かと思うほどだが、何も間違ったことを言っていないところがまた憎たらしい。
僕は学生証に書かれていたある項目を諳じる。それはここに来てから幾度も苦しめた一文。
「……学則第十条」
「その通り――『特別な事情がない限り試験へ参加を表明しない生徒は魔法士になる意思がないと見なし、評価点に大幅な減点を課す』
それは通常の生徒にとっては死刑宣告に等しいわ。他のところはともかくここは生徒も教師も向上心の塊よ。たった一度と甘く見て後で泣きを見るということがないわけじゃないわ」
即ち今回の試験に不参加など選ぼうものなら安全な卒業が危ぶまれる事態となるということである。それが分かっていたからこそ今まで怖いのを我慢して試験に挑んできたんだ。
「ネルス君、つかぬことを訪ねるけど今回の試験に協力してくれる友人はいる?」
「……もしこのようなことになっていなければまずはそこにいる友人のような何かに頼んでいましたね」
「残念だが既に売却済みなの」
「いっそ殺せぇええ!!」
嫌だ!! こんな面倒なことに巻き込まれたくない!!
こんなことに参加するぐらいだったら師匠にボコボコにされていた方が遥かにましだ!!
「ああ何て可哀想なんでしょう……私は悲しみで胸が張り裂けそうだわ!! まさか後輩にここまで友達のいない子が存在しているなんてっ!!」
「全く容赦ないなあんたっ!?」
踞って慟哭を挙げる後輩に対し躊躇なく傷を抉ってくる教師に心の中で反論する。
だって仕方ないじゃないか、ここにいる連中は僕と方向性が違い過ぎていてほとんど話が合わず、できたところちょっとした変人扱いだ。『畑作り? いやそれわざわざここでする必要ある?』って言われて何も言い返せなかった僕の心の痛みがあんたに分かるか!!
「話は終わった? じゃあ――」
――声、地面を擦る音。
それが聞こえた瞬間僕はその場から飛び退いていた。
頭ではなく体が反応したからだ。
「っと」
「機敏ね、加点一」
距離を置いて着地、顔を上げればさっきまで居たところには地面を踏みつける格好のレイシア。先程の音は彼女が飛び掛かってきたときに出したものだと今更理解する。
「次よ」
「ちょま」
素早い接近――からの鋭い右拳。
まるで時間を与えないと言わんばかり、辛くもこれを避けるが左右の拳の乱舞が僕を襲う。
いきなり襲いかかってきた文句を引っ込めこれに対応する。
「くっ……!?」
「防御も固い、加点二」
両腕を前に全力の防御。
全身に打ち込まれる拳の威力は彼女の体型からは想像できないほどに強力。
一撃一撃が実に重い。
押し込まれる。
「ふっ」
「うおっ!?」
集中して狙われた左の防御が弾かれる。晒された隙に螺込むように放たれる右の一閃。
「くっ……!」
再びの反射、崩した体に紙一重で拳がかする。
そのまま地面を転げて距離を取る。
「反応もいい、加点三」
立ち上がると同時掌を開いた状態で体の前に構えを取る。意識はもう完全に警戒状態だ。
そして彼女はというと先程の一撃を回避されたにしてはそこそこ楽しげでもある。拳をにぎにぎしながら興味深そうに話しかけてきた。
「意外ね、自分で弱いっていうくらいだから捌けないと思ってたんだけど」
「師匠の方針でね、無手でも戦えるよう鍛練しているんですよ」
「そう、なら今度は――」
そういって彼女は動かしていた手を横に振るい、
「――《焔緋刃》」
眼前に三つの刃を作り出した。
魔力を燃料に名称を唱え存在を固定させる――《詠唱》による基礎的な魔法の発現方法。
その形状は細長い菱形、薄く鋭利な赤い星の欠片のようである。
だがそこに感じるのは美しさよりも更に強い危機の気配、思わず額に汗が浮く。
「……」
「いいわね、さっきまでの腑抜けた感じじゃなくなった。やっぱりあなた言うほど弱い奴じゃないわね」
鋭い眼光が僕を刺す。
見抜こうという目だ。
深く探り試そうとしている、隠されたものを暴こうとしている。
開けっ広げなその強烈な意思に物理的に圧倒されてしまいそうだった。
「――行けっ!!」
号令は短く、されど力強く。
合図と共に飛び出した彼女の魔法が瞬く間に迫り――
「降参します」
「駄目よ」
なんでさ。
いや何でかはそりゃ分かってるけども。
だからってこれはあんまりだ。
外の広い訓練場、その中央で僕とレイシアは向かい合っていた。
理由は先程ジェイド先生が提案してきたことに端を発している――つまりは今期の試験に向けてのチーム結成についてだった。
そもそも試験と銘打ってこそいるが、その実態は魔法士の実力向上のために行う実戦形式の試合のことをいうのである。生徒にとっては日頃授業などで培った知識、鍛練によって身に付けた技術を存分に発揮出来る機会であり、学園側も生徒がどの程度成長しているかを知ることができるとしてかなり熱の入る催しとなっている。
勿論試験なので結果に応じた成績がつけられる。
それによって学園が保有する上位の魔法について書かれた本、所謂魔法書の閲覧が可能になったりと生徒の学習意欲を刺激する特典もあったりする。
更に言えばここでの結果次第では本来の教育課程を無視し、卒業を待たずして『国家公認魔法士』となることもできるのだから一刻も早く前線で活躍し自分が最強であることを証明したい奴等にとって見逃すことのできない好機と言えるだろう。
ただこれはあくまで向上心に満ち溢れている大多数の連中の話だ。
「やめませんか、自分で言うにもなんですけど僕はあなたが思っているよりも弱いんですよ。他の人を探した方がいいと思います」
世の中にはそういったことに適さない少数派の人間もいる、それが僕だ。
師匠との鍛練こそこなしてきたわけだけども、それはあくまで自分を守ることが目的で身に付けたものだ。決して誰かを傷つけたりするようなものではない。
「それは戦ってから決めるわ」
しかしそれを理解しない人間もいる、それが彼女だ。
実力主義とは聞こえはいいが試される側の人間にとってそれは恐怖でしかないのでどうか平にご容赦していただきたい。
そもそも何故今回に限って『実は先生たちの間でいつもとは趣向を変えて三人一組のチーム戦で成績を出そうということになっていてね』なんてことになるんだ、別にいつも通り個人戦だけで十分だっただろうが。
「ネルス君安心して、もしもの時は私がどうにかするから」
「それ本当に安心していいんですか?」
「さぁーそれはどうかしらね。ふふふ」
「笑ってんじゃねぇ」
全く安心できないんですけど、大丈夫なのこれ?
一番の問題が僕がレイシアのチームとして数えられているってことなんだ、そうだね意味が分からないね。
「ネルス貴様ぁ! ジェイド先生のお考えに反旗を翻す気かっ!!」
「いや怖いよ、さっきからなんなのお前」
そして二番目の問題が僕以外の奴がヤル気満々なことである。
主役であるレイシアは兎も角殆ど何の関係もないはずのユーリまでもが打倒ガルドロフに燃えている、こっちはもっと意味が分からないよ。
「ふっ、ここにおわすジェイド先生はこの学園最強の風魔法使いにして全風魔法士の憧れ。このユーリ=ナハトが《貴き翠の会》の一員として敬愛するジェイド先生の御力になることに迷いがあると思うか?」
「とりあえずお前が気持ち悪い理由はわかったよ」
あとその同好会には絶対近づかない、絶対にだ。
友人の見たくもない一面を見せられて今後どう接していけばいいのか真剣に悩む僕だったが現実は何も待ってはくれない。
「今回はあくまで主演二人に白黒つけて貰うのが目的なの。君たち二人には彼以外の相手をお願いしただけ。私だって今回のことがなければ二人だけで存分にやりあって欲しかったけど一度そう決まった以上従うしかないわ」
――それにこれは君にとっても悪い話じゃないでしょう?
友人と並びまるで主従のような立ち振る舞いをし嘯く先生の顔にはゆるふわな中に隠しきれない愉悦が浮かんでいる。
その理由が簡単に予想できる僕にとっては邪神の使徒かと思うほどだが、何も間違ったことを言っていないところがまた憎たらしい。
僕は学生証に書かれていたある項目を諳じる。それはここに来てから幾度も苦しめた一文。
「……学則第十条」
「その通り――『特別な事情がない限り試験へ参加を表明しない生徒は魔法士になる意思がないと見なし、評価点に大幅な減点を課す』
それは通常の生徒にとっては死刑宣告に等しいわ。他のところはともかくここは生徒も教師も向上心の塊よ。たった一度と甘く見て後で泣きを見るということがないわけじゃないわ」
即ち今回の試験に不参加など選ぼうものなら安全な卒業が危ぶまれる事態となるということである。それが分かっていたからこそ今まで怖いのを我慢して試験に挑んできたんだ。
「ネルス君、つかぬことを訪ねるけど今回の試験に協力してくれる友人はいる?」
「……もしこのようなことになっていなければまずはそこにいる友人のような何かに頼んでいましたね」
「残念だが既に売却済みなの」
「いっそ殺せぇええ!!」
嫌だ!! こんな面倒なことに巻き込まれたくない!!
こんなことに参加するぐらいだったら師匠にボコボコにされていた方が遥かにましだ!!
「ああ何て可哀想なんでしょう……私は悲しみで胸が張り裂けそうだわ!! まさか後輩にここまで友達のいない子が存在しているなんてっ!!」
「全く容赦ないなあんたっ!?」
踞って慟哭を挙げる後輩に対し躊躇なく傷を抉ってくる教師に心の中で反論する。
だって仕方ないじゃないか、ここにいる連中は僕と方向性が違い過ぎていてほとんど話が合わず、できたところちょっとした変人扱いだ。『畑作り? いやそれわざわざここでする必要ある?』って言われて何も言い返せなかった僕の心の痛みがあんたに分かるか!!
「話は終わった? じゃあ――」
――声、地面を擦る音。
それが聞こえた瞬間僕はその場から飛び退いていた。
頭ではなく体が反応したからだ。
「っと」
「機敏ね、加点一」
距離を置いて着地、顔を上げればさっきまで居たところには地面を踏みつける格好のレイシア。先程の音は彼女が飛び掛かってきたときに出したものだと今更理解する。
「次よ」
「ちょま」
素早い接近――からの鋭い右拳。
まるで時間を与えないと言わんばかり、辛くもこれを避けるが左右の拳の乱舞が僕を襲う。
いきなり襲いかかってきた文句を引っ込めこれに対応する。
「くっ……!?」
「防御も固い、加点二」
両腕を前に全力の防御。
全身に打ち込まれる拳の威力は彼女の体型からは想像できないほどに強力。
一撃一撃が実に重い。
押し込まれる。
「ふっ」
「うおっ!?」
集中して狙われた左の防御が弾かれる。晒された隙に螺込むように放たれる右の一閃。
「くっ……!」
再びの反射、崩した体に紙一重で拳がかする。
そのまま地面を転げて距離を取る。
「反応もいい、加点三」
立ち上がると同時掌を開いた状態で体の前に構えを取る。意識はもう完全に警戒状態だ。
そして彼女はというと先程の一撃を回避されたにしてはそこそこ楽しげでもある。拳をにぎにぎしながら興味深そうに話しかけてきた。
「意外ね、自分で弱いっていうくらいだから捌けないと思ってたんだけど」
「師匠の方針でね、無手でも戦えるよう鍛練しているんですよ」
「そう、なら今度は――」
そういって彼女は動かしていた手を横に振るい、
「――《焔緋刃》」
眼前に三つの刃を作り出した。
魔力を燃料に名称を唱え存在を固定させる――《詠唱》による基礎的な魔法の発現方法。
その形状は細長い菱形、薄く鋭利な赤い星の欠片のようである。
だがそこに感じるのは美しさよりも更に強い危機の気配、思わず額に汗が浮く。
「……」
「いいわね、さっきまでの腑抜けた感じじゃなくなった。やっぱりあなた言うほど弱い奴じゃないわね」
鋭い眼光が僕を刺す。
見抜こうという目だ。
深く探り試そうとしている、隠されたものを暴こうとしている。
開けっ広げなその強烈な意思に物理的に圧倒されてしまいそうだった。
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