最強になりたい奴が多すぎる

アゲインスト

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第十一話 話し合い

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「「――ま、全く分からないくらい絵が汚ぇ……!?」」
「ちょっと失礼でしょうが!!」
 
 彼女が紙の上に書き上げた絵図。それは筆舌にしがたい下手さであった。
 正直何が書かれているか全く理解ができない、何だこのへにょっとしたものは? こっちにあるのは人か?
 
「ちょっと、見れば分かるでしょうが!」
「分からねぇから言ってんだよ」
「右に同じく」
  
 憤慨するレイシアには失礼だがこれには流石の僕も友人に倣うばかり。というか見れば見るほど何か不安になってくるのはなんでだろう。特にこの人っぽいこれ、これについてる目のようなものから圧迫感を感じるのだがどうして?
 
「こんなときばっか同調するんじゃないわよ!」
「いや、なぁ……?」
「ああ、これはない。これで何を理解すればいいのか逆に聞きたい」
「だーからー! この私の素晴らしい作戦がここに描かれているでしょうが! どこに目をつけてんのよ!!」
 
 どこと言われても、体の正しい位置についてるから異常はないはずだ。
 
「誰もそんなこと言ってないわよ!」
「だが、これを作戦書というには無理がある」
「い・い・か・ら! これを頭にがっぷり入れ込んでおきなさい! じゃないとまた地面を転げることになるわよ」
「脅迫じゃないそれ?」

 この理不尽な難問に対して困惑する僕ら、それを放ってさっさと学食を頼みに行く彼女に周囲からの視線が刺さる。
 哀れみと畏怖。
 どちらがどっちだったかは言わずとも分かるだろう。
 それからしばらく、僕たちは人生で出会ったことのない種類の暴虐に苦しめられた。
 これといって取っ掛かりのないところから真意を読み取るのはさながら暗号でも解読しているようで。
 言ったからにはやる女だとこの短い付き合いで理解している僕たちはまたあんなことがまた起こってたまるかと必死になっている前で呑気に昼食を頬張ってる彼女。
 結局昼の間には解読できず、その日の昼食はほとんど胃に流し込むようにして食べるほかなかった。
 そして用があるという彼女は「明日また答え合わせするから」とだけ言い残し、風のように走り去っていくのだった。
 取り残された僕らはお互いの顔を合わせ、消化不良を起こしていそうな胃から来る苦しみとどうやっても理解不能な問題に直面した者同士、この理不尽な行いに言いたいことは色々あったが虚しさのせいか、ただ無言であった。
 
「……どうする?」
「……どうもこうも、ないだろうな。この女児が気紛れで生み出したかのようなよく分からないものから、彼女の真意を読み解くしかない」
 
 不幸中の幸いというべきか、訓練場の使用ができない午後の時間、彼女の用がいつ頃終わるかにもよるだろうがこの間にせめて取っ掛かりくらいは探さなければ。
 
「……できっかな、これ?」
「……やらなきゃ、死ぬだけだ」
「……図書館行くか」
 
 どうしてこんなところで覚悟を決めなければいけないのか――そんなことを胸に奥に仕舞い込んで 何か手掛かりがあるかもという友人の言葉に従い、行動を始めるのだった。
 

 
 オズワルド魔法学園の訓練場の反対に位置する図書館は文字通り館のような景観をもつ三階建ての建物である。
 脳筋が多く在籍するこの学園だがそれは教養がないことを意味するのではなく、寧ろその逆である。
 魔法士にとって『知は力なり』は格言を越えてもはや当たり前のことであり、体だけではなく頭の鍛練も欠かさないのがこの学園の伝統なのである。
 だからこそその知識の集大成とも言えるこの図書館は力を求める学生の強い味方であり、困難に立ち向かう時の頼もしい先生でもあるのだ。
 そしてそんな素晴らしい知識の宝庫に来た僕とユーリだったのだが……――
 
「――駄目だ、これってやつがねぇ……」
 
 ――早速暗礁に乗り上げていた。
 
「……図解から何か共通点を見つけられないかと思ったが、ここまでないとは思わなかったな」
 
 机に戦術書を積み上げたユーリの向かいで僕も同じように本を積み上げ、何冊目になるか分からない教本を目の前に広げていた。
 彼女から預かった作戦書もどきを睨みつけながら頭を悩ます。
 
「この星でできた棒のようなもの、三つが一組になって向かい合うようになっているから辛うじてこれが人だということが分かる」
 
 だが分かるのはそれだけだ、それ以外については以前として解読が進んでいない。
 
「こっちのこの円はなんだ? 頭か?」
「いや、それにしちゃ体から離れすぎてるだろ」
「だったら何なんだ……」
「俺だって分かんねぇよ……」
 
 絵図は四つに分かれていて何となくだがこれが手順のようなものだというのは分かってきている。だがそれがどういう順番なのか、どういう流れでどこが終わりなのかを読み解くのが厳しい。
 
「うがー、これ今日中に分かるようになるか?」
「でもやらなきゃまたファイヤーダンスだ。それだけは避けなきゃならないだろう?」
「そうだけどさぁ……」
 
 流石に進展のない状況に嫌気が差したの机の上にかぐちゃっと上半身を横たえる。
 僕も長時間座りっぱなしで体が痛い、目もしょぼしょぼしてきた。
 ここまで取っ掛かりらしい取っ掛かりがないからか、ユーリはぼーっとした様子でとんでもないことを言い出した。

「なあ、レイシアのこと好きなの?」
「ブゥッ!?」
「うわっきったねぇ!!」
 
 な、何を言ってんだこの野郎……!?
 予想外の方向からの奇襲で思わず吹いてしまった。その唾が顔に掛かった友人はその迂闊な発言の代償をその身で受けて転げ落ち、それでどこか打ったのかのたうち回っている。
 突如騒ぎ出した僕らに司書からの忠告の視線が向いてくるがそれに平謝りしつつ友人を助けあげるため駆け寄った。
 
「だ、大丈夫か?」
「言ったこと後悔してるわ……」
「いや、だってあんなこと言われるとは思ってなくて」
「だからってお前、こっち向けてやることないだろ……」
 
 それからグチグチといいながらも席に座り直し、僕も元に戻ったところで奴は改めてさっきのことについて話を始める。
 
「で、どうなんだよ?」
「どうって言われてもな。そ、そりゃちょっとは惹かれてるところはあるけどさ」
「じゃあ好きじゃん」
「違うって!」

 また思わず叫んでしまい司書からの厳しい視線が飛んできて、三度目はないぞという警告の意が伝わってくる。
 追い出されてはたまらないので声を潜めてユーリと会話を続ける。
 
「そんなわけないだろ、どうやったらあの子のこと好きだなんて思うんだよ」
「いやだって、お前さっきから反応がおかしいからさぁ。顔だって赤かったしこれはなんかあるなと」
「……だから鎌かけてきたってか?」
「どんぴしゃりだとは思ってなかったけどな」
 
 違うというのにそんなことをいう友人はすっごくいい笑顔でニヤニヤしている。それがもの凄い腹立たしいものだった。
 声が出そうになったがここでそんなことしては出禁になるかもしれないと思いぐっと我慢した。
 
「……確かにちょっとは好意的な感情はあるさ。でも会って二三日の相手にそれ以上のことを思うわけないだろ?」
「さあどうかなぁ?」

 しつこい追求がニヤニヤ顔で迫ってくる。それが鬱陶しかった僕は下手に否定することを諦め開き直る。
 
「分かった分かった!
 ほんの少しだ、ほんの少しだ……好きかもしれない。
 だからといって結局何が言いたいんだお前」
「いや何、いい傾向だと思ってよ」
 
 しかしそうして言ってみれば返ってきたのはそんな言葉で。意表をつかれた僕は言葉に詰まる。
 その間にユーリは体を反らし、天井へと顔を向けて言う。
 
「お前が戦うことに前向きなのがさ、嬉しいんだよ俺。いつも弱い弱いっていってるけどよ、俺はお前が言うほど弱くなんてないって思うんだわ」
「ユーリ……」
「それなのによ、まあお前を見る目はよろしくねぇじゃん。それがさあ……俺ちょっといやだったからさぁ」
 
 顔の見えない彼の表情がどうなっているのかは分からない。ただ、そういってくれる存在に胸が熱くなる。
 
「今度の試験さ、頑張ろうぜ」
「ああ、頑張ろう」
 
 ここで出来た友人。
 ただそれだけの存在だと思っていたが初めて
 
「はぁー駄目だ、こういうの性に合わねぇや。さ、さっさと宿題を解き明かそうぜ」
 
 湿った雰囲気を嫌ったのかおどけたような声で促す友人に敢えて何も言わず、それに快く応じた。
 それから時間いっぱいまで図書館で粘り考えを巡らしていたがそれでも分からず、この前行った食堂で夕食を食べその日は解散することになった。
 明日のしごきが気になったが、頼もしい友人の存在を思えば耐えられそうだと、健やかな気持ちで眠ることができたのだった。
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