リーズ・ナブルは此れにて御免 ~ 元軍人付与士は冒険者として成り上がる~

アゲインスト

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ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの人理《ひとり》立ち~

亡き母、ルチア=ラインホード

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「・・・私たちの母、父の妻であった『ルチア=ラインホード』は、もともと病弱でした。幼い私は母がベッドの上でいつも外を見ているの姿を、不思議に思っていたほどです」
 
 語りだした彼女の顔は、最初の明るいものから一転している。
 過去の出来事を話すことが、とても辛いようだ。
 
「念願の子供、父は勿論私の誕生を喜んでいたそうです。ですが、その岩のように動かない顔の内を唯一見抜ける御母様は、父が内心で思っていたことを、男の子を望んでいたことを、酷く気にされていたらしいのです」
 
 苦しそうにしながらも、それでも彼女は話を続けていく。
 
 
 
 
 
 
 
「家を継ぐに相応しい男子を産むこと。公爵家に嫁いだ以上、その役目を果たせない女は御荷物でしかない。病弱であることに負い目のあった母は、一度目の出産ですら死と隣合わせであったにも関わらず、それでもと、男子を産むことを望みました」
 
「父はそのただならぬ覚悟に、これで最後と決めて望みました。万全を考えて、医師団との綿密な調整のもと、はれて母は子を授かりました。それが私が五才の時です」
 
「徐々に大きくなっていく母のお腹。愛しそうに撫でながらいるのを傍でいつも見ていました。『あなたもこうして産まれたのよ』だなんんて、教えてくれたこともありました」 
 
「そして時が過ぎ、ついにその時がやってきました。しかしそれは予定よりも幾ばくか早く、事態は急を要することになりました」
 
「想定外は当然予想され、その対処もまた完璧に備えられており、出産事態は成功いたしました。子には何ら異常はなく元気そのもの。・・・だけど、その場にいた全員が息を飲んだ」
 
「産まれた子は、女の子。母が望んだ男の子ではありませんでした」
 
「その動揺を感じたのでしょう。泣き叫ぶ子の声が響く中、母はまず始めに父に謝りました。『役目を果たせず申し訳ない』ということを、何度も何度も」
 
「涙を流しながら、そんなことはないと否定する父は産まれた子を母の目の前に差し出していうのです。『何も謝ることはない! お前は母として立派に役目を果たしたのだ!』と」
 
「私もいいました。必死になって、何をいったのかわからないほどでしたが、それでも母が謝ることではないことを訴えていたはずです」
 
「二人の言葉に母は立ち直り、憔悴した体で妹を抱いて・・・それで」
 
「そこで終わっていれば、美談でしたのに」
 
「緊張の線が切れたのでしょう。母の体調が急変したのです、それも最悪なことに魔法であっても治せないようなほどに」
 
「あらゆる手を尽くし、出来ることはもうなく。潰えていく母の命の灯火をただ見ているしかない自分たちの力のなさを実感させられる。生きてほしいのに、運命は母をこの世に留めてはくれない」
 
「その場にいた全員が母が死にいくことを嘆くなか、しかしたった一人、母だけが違った」
 
「掠れる声で頼むのです。残して逝くことを謝りながら、それでも母は私たちに託しました。妹のことを、自分の分まで愛してくれと」
 
「自分が死んでしまうというのに、そんなことを頼むのです。私たちが今を悲しんでいるというのに、あの人は未来のことを語るのです」
 
「その姿は、今まで見てきた母のどんな姿よりも力強かった。最後を悟った母は、その命が尽ききる瞬間に、体の弱さによって隠されていた本当の、ルチア=ラインホードという人間の本当の強さを示したのです」
 
「私たちは誓いました。偉大なる母のその願いに、必ずや応えることを。母の変わりになって、妹を変わらぬ愛で育てていくことを」
 
「そのことを聞いた母は、満足したような表情で目を瞑り、そして永遠の眠りについたのです」
 
「葬儀の後、私は妹の母親代わりとしていろいろなことをやりました。妹の世話なら何でもやりました。おしめだって替えたことがあります」
 
「そうしていると、不思議なものですわ。涙が出てくるのです。ああ、自分もこうやってもらっていたのだな、なんて思うと、ついつい瞳が潤むのです」
 
「あの子の成長を、この目でみてきました。母の代わりだからではなく、心の底から、私は妹を愛しています」
 
「ですが、だからといってそれがきちんと伝わるというわけではないのですのね。いつの頃からか、母の死に自分が関係があることを知ってから、あの子が私を見る目が少し変わりました」
 
「いつしか私たちはすれ違っていきました。真実を受け止められるくらいになってからと考えていたのが悪かったのでしょう。そんなことをせずきちんとあの子に説明をするべきでした」
 
「あの子が騎士の道を選んだのも、私とは違うと示すため。父の愛情を確かめたいという、健気な勘違い。私たちが、父が、愛していないわけがないのに、それでもあの子は目に見える形でそれが欲しかった」
 
「ですが、皮肉なことにその騎士としての行動が、あなたという人と巡り会うことになり、妹を父の前へと立たせている」
 
 
 
 
「あの子は覚悟して帰ってきました。ならば、その覚悟に私たちは真実をもって応えるだけです。母ルチアの愛、家族の愛を証明するために」
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